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小柄で寡黙な同級生はやけに懐いてくる  作者: 進道 拓真
第二章

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第四三話 消えた記念日


『…それで? この私にわざわざ連絡をしてきたっていうことは相応の用件があるんでしょうね?』

「そんな物々しい話じゃないだが…まぁ少し聞きたいことがあったんだよ。悪いけど少し時間を貸してくれ」

『ふん。…どうせこうやって私に電話をしてきたってことは咲関連なんでしょう? いいわよ、それなら力を貸してあげる。で、何を聞きたいって言うの?』


 自宅を後にし、今の彼がいるのは玄関を出てすぐの廊下付近。

 その壁にもたれかかりながら悠斗は…ついこの間関わり始め、そしてそのどさくさで連絡先も交換していた()()に電話をかけていた。


 彼女へと電話をかけている理由は至極単純。

 先ほど彼の自宅内にて今現在も夕食の準備を進めてくれている咲が手にしていたスケジュール帳を見たことから生まれた疑問、今週の土曜日にメモされていた謎のマークの正体を探るためである。


 残念なことに咲本人に尋ねることは叶わなかったが…そこで悠斗が思いついた手が彼女の親友である里紗に聞くことだった。

 当人に聞くことは出来ずとも、自他ともに認めている咲の親友という立場にある彼女ならば何かしらの事情を知っていてもおかしくはない。


 そう思って電話をしたわけだが、返ってきた第一声はどういうわけか…敵対心満載な意思を感じさせる言葉である。

 まぁその後にきちんと話を聞く態度を見せてくれたので別に構わないし気にもしていないものの、どうしてあんな態度を取られなければならないのか。


 …もしや、以前に里紗が言っていた好敵手云々という件が関わっているとでも言うのだろうか。

 無いとは思いたいが…彼女の場合、その可能性が一番ありえそうなのが怖いところである。


 …そこは一旦隅に置いておくとしよう。

 今考えたところでどうこうなるわけでも無いため、対応するとしても後に回しておいた方が賢明だと判断したためである。

 そんなことよりも今は先ほど抱えた疑問について聞く方が先決なのだから、そこの優先順位を後回しにしないようにまずは概要だけ里紗に説明してしまおう。




「……で、里紗なら何か知ってるんじゃないかと思ってさ」

『……ふむ、そうね…』


 ついさっき生まれたばかりの疑問を一通り里紗へと説明し終え、再度質問をした悠斗であったがそこに返される声色は何とも悩ましいもの。

 どうにかして心当たりがないかと探ってくれているのは伝わってくるが、やはり里紗であっても思い当たるようなことはないのか………。


 …そう思った時、それまで悩ましげに唸っていた携帯の向こう側から何かを思い出したような声が響いてくる。


『…あぁ! そういえば()()があったわ!』

「え、本当に何かあったのか!?」


 唸り声から一転して何らかの事実を掘り起こしたらしい里紗の声は活気を取り戻し、あれと言われている事柄の中身こそ不明だがどこか当てはまるようなものが実際にあったらしい。

 正直、あのマークには何の意味も無くてただ単に咲が何気なく書いただけのものだという可能性も残っていたため…こんな反応をされるのもある意味想定外と言えた。


『まだ確証ではないけれどね。多分これで合ってる…というかこれじゃなかったら私にはもう分からないわよ』

「それで良いから教えてくれ。…一体何があるって言うんだよ」


 里紗としては思い浮かんだ可能性に今一つ自信が無い…というよりも、声から感じ取れる雰囲気からしてどことなく自らの予想が()()()()()()()()と思っているようにも悠斗は捉えられた。

 …どうしてそんな風に捉えられたのかは分からないし、その感覚が事実だとして何故里紗がそんなことを思ったのかも不明だ。


 しかし、ここで聞き逃してしまえばいよいよ悠斗には打つ手がなくなってしまうことも事実。

 なのでその点を追及しておきたい心境は一度グッとこらえることとして、とにかく防寒の姿勢に徹する。


『…ま、そっちが聞きたいって言うんならこっちも言わせてもらうけど。その日って確か…咲の親の()()()()()だったはずなのよ』

「…結婚記念日?」

『そっ、ちょうどこの日の十何年か前に結婚したっていうあれね。私も聞いただけだけど、咲の家族は毎年その日になると全員でどこかに外食に行ったりしてたらしいわ』

「へぇ…それで印をつけてたってわけか」


 聞いたところによれば、土曜日に被っている日付の正体は咲の両親の結婚記念日だったということ。

 彼女の両親……前に話だけは聞いたことがあるが、その仲も良好なようで毎年区切りとも言えるこの日になれば咲も含めた家族で外出していたようだ。


 そう聞けばあのマークにも納得である。

 微笑ましき家族の一幕であり、わざわざ部外者に過ぎないこちら側が首を突っ込んでまで話題を広げるようなことでも無かった。



 ……()()()()、だというのであれば。


「だったら変に騒ぎ立てることも無かったな。向こうにも悪いことした……ん? …ちょっと待ってくれ。里紗、その日ってあいつは家族全員で出かけてたんだよな?」

『……やっと気が付いたの? えぇ、そうよ』


 話を聞いていけばいくほどに出てくるのは仲睦まじい家族の話題だけなため、外野がいつまでも引っ張っていたところで不毛なだけだ。

 だから今回の事はもう忘れることにしようとして…ふと、悠斗は違和感を覚えた。


 里紗から提供された情報をまとめれば、咲はその日を家族で過ごしていた。

 ……では、今はどうだろうか?


 現在の咲は悠斗の家で時間の大半を過ごしており、自宅に帰るのも夜遅くになってからなのでほとんどは彼といる計算になる。

 それはひとえに…彼女の両親が出張で()()()()()()からだ。

 当然、記念日とされている土曜日にも帰ってくることなんてほぼありえず……例年行われていた家族での外出も今年は無くなるのだろう。


『…あの子ったら、こういう事は私にも相談していいって言ってるのに…一人で抱え込んじゃうんだから』

「……まぁ、そういうことだよな」


 ここまで要素が出揃ってしまえば、嫌でも彼女の考えは理解出来てしまう。


 赤印でマークだけがされていた日付。なのに他に記されていた文字なんかは一切書かれていなかった予定の欄。

 きっとあれは、今年は家族と過ごす時間が減ってしまうことを理解はしていながらも…忘れ切ることは出来なかった咲の寂しさの表れだったのだろう。


 本人からの証言でも無ければ断定はできないが、こればかりは間違っているとも思えない。


『……悠斗。こうなったらあんたに任せるしかないわ』

「…と、いうと?」

『分かってるでしょう? 咲がメモをしていた土曜日…その日はあの子にとっても大切な記念日なの。だから、()()()()()()()()()()()()()()()

「……だよな」


 そうなれば、里紗からこう言われることも分かっていたことだ。

 咲にとって本来は楽しみな日となるはずだった日は偶然の重なりとはいえ取り上げられ、こうして誰にも言えずに一人寂しいままに終わろうとしている。


 そんな結末を、里紗は見過ごせない。

 何より、悠斗自身も彼女がそんな境遇にあるというのなら…どうにかしてやりたいと思ってしまっているのも事実なのだから。


『私も出来ることなら何かしてあげたかったけど…その日は家の用事が重なってるから離れられないのよ。…いいえ、無理を言えば抜け出すこともいけなくは───』

「いや、そこは流石に家の方を大事にしてくれ。…こっちのことはこっちで何とかするから」

『…悔しいけど、今回ばかりは悠斗に一任するわ。方法は何でもいい。何かをプレゼントするなり、一緒に出掛けたりするでも良いわ。とにかく咲を…悲しませることだけはしないことね』

「…分かったよ」


 今回里紗は家の用事があるという事で残念なことに土曜日は不参加だ。

 となれば当然、動ける人間は悠斗一人。


 …彼一人で何が出来るかなんて分からないし、もしかしたらこれは余計なお節介というやつなのかもしれない。

 だが……それでも。

 あの予定帳を目にし、詳しい事情を聞いた今となっては見て見ぬ振りをする方が不可能という話である。


(さて……どうしたものかな)


 その後は里紗との電話のやり取りも手短に終え、自宅へと戻る悠斗はこの状況をどう打破するべきかと思考を回し続ける。

 …とりあえず最初は、咲にそれとなく話を振るところから始めてみようか。


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