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小柄で寡黙な同級生はやけに懐いてくる  作者: 進道 拓真
第二章

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第三四話 諦めない執念


「…ちょちょ、ちょっと待ってちょうだい! …流石に冗談、よね? 咲…?」


 …咲の方からまさかの真実を暴露しに行くという、想定外だとしても予想外に過ぎる行動がとられた直後。

 この場にいた悠斗も当然その動きには心底驚かされたが…それ以上に反応が顕著なのは里紗である。


 彼女も咲と悠斗の間に何となく繋がりがある、というのは薄々察していたのだろう。

 だからこそ彼に詰め寄っていたのだろうし、ここまで誘導してきたのだから。


 ……だがしかし、ここまでの情報が出てくるのは流石に里紗の理解許容範囲を超越してしまっていた。


 驚愕で顔を染めながら大口を開き、呆然という言葉を体現したかのような反応をしている様は見ていて少し同情しそうになるほどである。

 ただ、いかに可哀そうな有様であっても…告げられた事実は変えられない。


『本当。私は悠斗の家でお世話になってる。その代わりとして、悠斗にご飯を作ってる』

「…はぁ!? あ、あぁ…あんた! 咲にご飯まで作ってもらってるって言うの!?」

「ぐえっ!? …そ、そうだよ。その通りだから手を離してくれ…絞まってるから…!」

「あ…ご、ごめん……じゃなくて! 一体どういうことなのよ!?」


 既に二人にとっては当たり前のものとなりつつある日常だったが、第三者からすれば異常極まりない。その事実を思い出させてくるかのような見事なリアクションだ。

 なおかつ、あまりにもショッキングな真実を伝えられれば人というのは突拍子もない行動をするものだということも同時に思い知らされる。


 …混乱で正常な判断が出来なくなっているというのは分かっているが、だからと言って悠斗の首を絞めるのは勘弁してほしい。


 両手に力が入りすぎているので危うく呼吸困難になりかけるところだった。

 何とかそうなる前に説得出来たから解放されたが、あのままだったら…どうなっていたことか。


「ま、まさかとは思うけど……放課後の後もずっと水上の家にいる、なんてことはないわよね…?」

「……?」


 …きっとそれは、里紗の願望も入り混じった確認だったのだろう。


 愕然続きだった事実の暴露によって情報の処理が追い付かなくなってきた頭の中であっても、最後の防衛線として二人の距離感もそこまで近いはずがない……そんな希望を持たせるために質問してきた。


 ──たとえそれが意味のない希望だったとしても、そう尋ねずにはいられなかったのだ。


 無論、現実はそういった里紗の願望など汲み取ってはくれない。

 既に起こった事実こそが全てであり……可愛らしく首を傾げる咲の姿こそがその答えを物語っている。


 …すなわち、その次に向けられた文言。


『最近はずっと()()()()()()()。夜遅くになったら帰るけれど、それまではお邪魔させてもらってる』

「……はぇ?」


(あ……ヤバそうだな、これ…)


 明確な発言こそしていないものの、暗に放課後はずっと悠斗の家で過ごしていると断言してしまった咲の言葉を聞いた里紗は……いよいよキャパオーバーしてしまったのか。

 何とも間の抜けた声を漏らしながら目を点にしてしまい、それを見た悠斗は…この後に訪れるだろう事態を思って空を見上げるのだった。




「…いい、咲? 男子っていうのは皆狼なの。咲みたいに可愛い子がそんなに簡単にほいほいついて行ったりしたら駄目なの!」

『…悠斗はそんなことしない人だって分かってる。心配しなくても大丈夫』

「そういうことじゃない! 全く…水上! あんた、咲に妙なことなんてしてないでしょうね! 場合によっては…!」

「…一切合切そんな事実はないから安心してくれ。だから殺気を向けるな」


 咲から衝撃的な一言が告げられてからしばらくの間、里紗は思考停止してしまったように動きを止めていた。

 それはひとえに与えられた情報が彼女のキャパを優に上回っていたから。そして…もたらされた現実を前に親友の行動があまりにも想定外だったからだ。


 …里紗にとって、咲は溺愛していると言っても過言ではない親友である。

 まさに目に入れても痛くはなく、言動の一つ一つが彼女自身の雰囲気とも相まって非常に可愛らしいものとなっている少女。


 ゆえにこそ…自分さえも知らぬ間に、誰とも分からぬ男子と親友が距離を縮めていたのだと知らされて放心状態となった。

 しかし、いつまでも呆けてばかりいられない。


 里紗なりにこの状況は危ないと考えているのか、よりにもよって同級生の男子の家に入り浸っているなど軽々しく実行してはいけないことだと咲に説いている。

 ……正直、そこに関しては悠斗も同意見ではある。


 今となっては当たり前のように受け入れてしまっているから否定も出来ないが、最初は彼とて似たようなことを咲に忠告していた立場なのだから。

 だが…その言葉は残念なことに、今の彼女に届くような代物ではなかったらしい。


『…そもそも、悠斗の家で過ごすように頼んだのは()()()。悠斗はそれを認めてくれただけ』

「な…っ!? さ、咲の方からお願いしたって言うの!?」

『その通り。だから悠斗は悪くない』

「……私の親友が、いつの間にかそんな危険なことをしていたなんて…」


 …意気消沈とはこのことだろう。

 思わずそんなことを考えてしまいそうなほどに、今の里紗はガクッと全身を落ち込ませながら気分を盛り下げている。


 詰め寄られていた立場なので口には出来ないが…そんな姿を見せられてしまえば悠斗も少し同情してしまう。

 これまでの言葉を聞いていたので分かってくるが、どこまで言っても里紗は咲のことが第一なのだ。


 その事実はもはや疑うべくもない。

 でなければ、彼女の身を案じてこれほどまでに落ち込むことなど出来やしないだろうから。


「あー……高西。大丈夫か?」

「…大丈夫じゃないわよ。下手したら立ち直れなくなるくらいにはショックに決まってるでしょ」

「……だよな」

「そもそも…さっき聞いた話だけど、咲が家の鍵を無くしたって言うなら私の家に来れば良かったじゃない! そしたら全力で歓迎してあげたのに!」


 見るからに気分を鎮めてしまった里紗を心配して声を掛けてみたが、やはり彼女の中でかなりギリギリのラインに今は立っているらしい。


 無理もない。里紗にとっては爆弾情報の嵐だったのだろうから当然だ。

 それと会話の中でサラッと述べられていたが、咲と悠斗の間にあった事のあらましは大まかに里紗にも伝えてある。


 こうも状況が伝わってしまえば誤魔化しようなどあるはずもないし、下手な言い訳を重ねたところで向こうの疑念を強めてしまうだけ。

 ならばいっそのこと真実を話した方が良いと判断し、要点だけをかいつまんで説明はしておいた。


 …が、それでもだ。


 やたらと落ち込んだテンションと場の空気に紛れていたために一瞬聞き逃しそうになってしまったが、今の発言には少々気になる点があった。


「…ん? 高西の家って、本羽を招いても問題ないのか?」

「はぁ? 何言ってるのよ。そんなの問題ないに決まってるわ。私が咲が家に来ることを拒否するとでも思ってるの?」

「いや、思ってないからこそ引っ掛かったというか…本羽の話だと、確か周りで()()()()()()()()()って言ってたはずなんだよ」

「え…? …咲、どういうこと?」


 そう、何気なく放たれたがゆえに流しかけたが改めて考えてみれば少しおかしいのだ。

 見ての通り、里紗は咲を溺愛しており彼女が自宅にやってくることを拒否するなんて微塵も考えられない。


 …だとすれば、最初に悠斗と咲が会った時に話していた「頼れる相手はいない」という発言に矛盾が生じるように思える。

 本人にも確認したから間違いないが、里紗は咲が自宅に来ることを断るどころかむしろ歓迎するつもりが満々といった感じだった。


 …であれば、別に悠斗でなくとも里紗を頼っていればあの時の問題は解決出来ていたのではないかと思い、ふと当事者である咲へと目を向ける。

 するとそこには…何故か気まずそうに目を背けながら、詳しい理由を伝える咲の姿がある。


『……別に、嘘は言ってない。あの時、里紗の家には…あんまり()()()()()()()()と思ってただけ』

「…げふっ!?」

「ちょっ、高西!?」


 …捉え方によっては中々に辛辣な言葉であるし、友人間ともなれば不和を生み出しかねない咲の言葉。

 真意は分からないが、里紗の家には赴きたくないなんてことを伝えられて…今度こそ彼女には明確なとどめとなったらしい。


 血反吐でも吐くかのような勢いで地に膝をつき、ショックのあまり限界を迎えた里紗の反応は…今にも絶命しそうな声をこぼしていた。

 …相当に今の咲の言葉が胸に来たらしい。


「…本羽。いくら何でもそれは酷いだろ…何でそんなこと言って──」

『…ちゃんと理由はある。里紗の家はまず…()()()()から』

「……広すぎる?」


 ギリギリのところで踏ん張りをきかせ、危うく倒れそうなところを何とか耐えることに成功した里紗の様子を見守りながら悠斗は咲に言葉を投げかける。

 発言からして何らかの理由はあるのだろうが、だとしても今の言葉は里紗にとって痛恨の一撃となり得るものだった。


 出来ることならもう少しオブラートに包むべきだっただろうと忠告しようとして…向こうの弁明に彼の方が疑問符を上げることとなる。


『里紗はこう見えてもかなり広いお家に住んでる。分かりやすく言うならお嬢様』

「……え、マジでか?」

『間違いない事実。私も何回か遊びに行かせてもらったことがあるけど…あそこに一か月もいるのは絶対落ち着かない。だから頼りたくはなかった』


 …何と、意外すぎることに里紗の実家はかなり裕福なところだったらしい。

 咲曰く自宅もそれによってかなり広い敷地を誇るらしく、彼女の言い分を信じるなら半端なものではないとのこと。


 …ゆえに、一般的な生活に慣れてみる身だと場違いな空気を強く実感してしまい…遊びに行くくらいな構わないが、一月も滞在するのは嫌だったという。


『…それと、里紗の家族と会ったら確実に()()()()()。何でかは分からないけど、遊びに行くと毎回着せ替え人形にされる……それもちょっと疲れるから、やだ』

「あぁ………そういうことか」


 そしてこれもおそらくは理由に噛んでいるのだろうが、里紗の身内と咲が出くわすと必要以上に構われるせいで全く気が休まらないのだとか。

 …心底疲れたような顔を見せる咲の言葉を聞けば過去にも相当な回数構われてきたのだろうし、きっと里紗を頼っていれば今頃そんな生活が待っていたのだろう。


 しかし同時に、悠斗は里紗の家族であればそんなことがあってもおかしくはないと確信していた。

 何せただでさえ里紗だけでも咲を以上に可愛がろうとしているのだ。

 …であれば、彼女と血がつながった身内もまた咲を猫かわいがりしていても全く不思議ではない。


 遺伝子の強さをこんなところで実感させられるとは思っていなかったが、相手が相手なだけに何故かスムーズに受け入れられてしまうのが複雑なところである。


 ただ…そういうことであればあの時の言葉にも納得はいった。


「…要は、高西の愛が強すぎて落ち着かないから頼れなかったと。…そりゃ選べるわけもないわな」

「ぐぅ…っ!」

『だからあの時悠斗が声を掛けてくれて、嬉しかった。本当に感謝してる』

「まぁ…手助けになったのなら良かったけどさ」

「……人が黙っていれば、目の前でイチャイチャしてくれるわね…! …決めたわ!」

「…おぉ、高西が復活した」


 聞いてみればみるほどに里紗が自爆しただけとしか思えない一連の流れ。

 もう少し感情の振れ幅を抑えられればこんなことにもならなかったのではと思わなくもないが、それが出来ないからこそ今こういった状況になっているのだろう。


 …ある意味、そのおかげで悠斗と咲の縁は繋がっているので一概に責めてばかりもいられないが。


 だがそれでも…本人の前でそんなことを語っていればいつの間にか里紗も復活したようにガバッと立ち上がってきた。

 その瞳にはどうしてか闘志を宿すかのように火が灯っており、端的に言って…あまり良い予感はしなかった。


 しかし、そんな悠斗の内心に構わず里紗は言葉を続ける。

 勢いのままに行動を続ける里紗の動向。そしてどことなく決意を感じるような力強さが滲み出た声色。


 どん底から這い上がってきた彼女が次に放った言葉は…こんなものだった。


「…今から、二人が過ごしてる家に私もついていく! そこで生活風景を見させてもらうわ!」

「……えぇ」


 …どうやら、まだまだ里紗の執念から解放される時は来ないようだ。


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