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小柄で寡黙な同級生はやけに懐いてくる  作者: 進道 拓真
第二章

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第三二話 漏洩


「場所は…確かこの辺のはず、だよな…?」


 …悠斗が宛先不明の人物からこれまた目的さえも不明瞭なメッセージを受け取った直後。

 あれから彼は心情的には行きたくないと思いつつも向かわなければ何が起こるか分からなかったため、嫌々ながら歩みを進めた。


 指定されていた場所は校内でも人気が無いことで知られている体育館裏。

 普段から整備が行き届いていないがゆえに草木が荒れ果てており、たとえ教師陣であっても用事が無い限りは赴かない場だ。


 必然、誰かが寄り付くこともないということは…その分秘密性の高い話をするのにも向いているということ。

 あるいは、よからぬ目的であったとしても発覚することはほぼないということであり…呼び出された身だからこそ嫌な想像が膨らんでいってしまう。


 流石にそこまで酷い目に遭うことはないと思いたいが、まだ相手の正体も把握できていないのでそこさえも断言できないのが怖いところだ。


(…でも、誰もいないよな? まさか単なる悪戯目的だったとか…いや、むしろそっちの方が助かるけどさ)


 しかし、帰り支度を済ませた荷物を片手に悠斗が(くだん)の体育館裏へとやってきても…そこに人の姿は確認できない。

 もしや場所を間違えたのかとも思ったが、あの紙には確かにここが指定されていたのでその可能性も無い。


 だったらあのメッセージはどこぞの迷惑な生徒による悪戯だったのかと、一瞬肩透かしを食らったような気分になって───。


「…あら、ちゃんと来てくれたのね。感心感心」

「……えっ?」


 ──唐突に背後から響いてきたその声に、不意打ちの驚きを強いられることとなった。


「……高西? もしかして…お前が呼び出したのか?」

「…えぇ、そうよ。あんたに親しいみたいにされるのは腹が立つけれど…そこは間違ってないわ。あの手紙は私が仕込んだものよ」


 そう言いながら透き通る声を響かせ現れたのは、悠斗ともクラスメイトであり…校内でもかなりの知名度を誇る生徒の一人。

 同じく人気度という意味では圧倒的なものを持つ咲とはまた異なり、美人さという意味合いならば校内でもトップクラスとも言い切れる高西里紗が…そこには立っていた。


 …だが、そんな彼女はどこか……腹立たしそうな態度を露わにしている。


「…だったら何の用事だよ。悪いがこっちも用があるんだ。そんなに長い時間は申し訳ないけど取れな───」

「…ふぅん? その用っていうのは、もしかして()に関係しているのかしら?」


「………はっ?」


 ──その言葉を聞いた瞬間。


 一瞬、ほんの一瞬だけ……悠斗の思考は空白に染められた。


 里紗が悠斗を呼び出したことではない。彼女がここにやってきたことでもない。

 …用事を明らかにせず、早いところ帰宅するためにそれらしい言い分を持ち出した彼に対し……彼女が出てくるはずもない発想を口にしたからだ。


 この状況。間違っても悠斗が言葉にしていた用と咲のことを混合して話しかけてくるなんてことはありえない。

 何せ、悠斗の自宅で過ごした時間というのならばともかく…学校での彼らは明確な関わりなど皆無と言い切れるほどに接点などないのだから。


 それはひとえに、二人の間に妙な噂を立たせないための保険に近い。

 今更言うまでも無きことだが、とある事情から期限付きの共同生活をしている悠斗と咲の関係は外部に漏らせば大きな騒ぎとなることが確定しているほどの爆弾情報。


 何しろ二人の校内での立ち位置は片方が校内でもトップクラスの人気者である咲に対して、片やクラス内でもパッとすることがない位置に収まっている悠斗という繋がり。

 どう考えても交わることのない彼らが帰宅すれば夜遅くまで一つ屋根の下で過ごしているなど知られれば、余計な憶測が飛び交うのは想像に難くない。


 だからこそ、今まで外には情報を漏らさないようにと細心の注意を払っていたしそれらしい言動を見せないように徹底していたというのに………。

 そんな悠斗の隠蔽など嘲笑うかのように、目の前の里紗は堂々と彼女との関連性をぶつけてきた。


「その反応……やっぱり間違いないみたいね。この…卑怯者が…!」

「…待て、何の話だ? どうして俺が本羽と用事があるなんて発想に…」

「とぼけなくても結構よ! …もう、あんたが咲と裏でコソコソしてるってのは知っていることだもの」


(……嘘だろ!? どこでバレたって言うんだ…!?)


 もはや、程度の低い言い訳では容易に誤魔化すことなど出来やしない。

 そう思わされるくらいに今の里紗は、こちらの関係性に確信を持っているような態度だった。


 ただ…腑に落ちない。

 この反応。何かの疑惑を持っていて鎌を掛けているとかそういうわけでもなく、本当に悠斗と咲の繋がりには確信を持っているのだろう。

 だからこそ、どうして彼女がそんなことを知っているのかというのが分からないのだ。


「もちろん、私も最初は何も疑っていなかったわ。…けれどね、最近の咲は少し()だったのよ」

「妙…? 何があったって言うんだよ」

「えぇ、それまではずっと帰りは私と一緒に居てくれたのに…ついこの間! 咲から『一緒には帰れない』って言われたのよ!」

「………うん?」


 …だがしかし、そんな混乱の最中にある悠斗に向けて放たれた言葉には…流石のこちらも疑問符で返してしまう。

 何故だろうか……今までは衝撃の連続だったのと里紗から告げられた内容が致命的なものだったために困惑していたが、それも今の一言で…真面目な空気が少し緩んでしまったような気がする。


「…それ、別に普通のことじゃないのか? 本羽だって一人で帰りたい時くらいあるだろ」

「……そうね、それに関してはその通りだわ。流石の私もそれくらいのことで騒ぎ立てはしないわ」


 …さっきまで随分と騒いでいたように見えた、というツッコミは今すべきではないというのはさしもの悠斗でも察した。

 ただそれと同時に、彼女と咲の関係性を考えてみれば里紗がここまで悠斗のことを怪しむのも無理はないのかもしれないとも思えてきてしまう。


 というのも、今眼前にいる里紗は…話題にも挙げられている少女、咲の()()なのだ。

 常日頃から彼女の傍に居ながら過ごす姿はよく見かけるし、彼女が咲と非常に仲が良いというのは校内でも有名な話だ。


 あるいは里紗であれば…こちらの繋がりを感じ取るのも不可能ではないとも思わせるくらいには。


「でも、そこで無闇に追及なんてしたりしたら咲にも鬱陶しがられかねない。…咲に嫌われたりしたら、なんて考えるだけでも恐ろしいわ…」

「……な、なるほど。高西は本羽のことが好きなんだな」

「それはそうよ! だからこそ、不審には思っても深追いはしなかったのだけど…ある日、見ちゃったのよ」

「……というと?」


 会話の中で何となく彼女たちの関係性も見えてきたが、どうやら里紗は随分と咲のことを可愛がっているらしい。

 いや、この感情の揺らぎ方を見るに溺愛していると言ってもいいかもしれない。


 言葉の節々から伝わってくる感情には心の底から咲という少女を好んでおり、彼女のことを大切に思っていることがよく分かる。

 本人もそのことは隠そうともしていないし、余程仲が良いのだろう。


 …だが、それならば自分が絡まれる理由はやはりないのではないかと思って……次の言葉によって、そんな思考は一気に傾くこととなる。


「…本当に偶然のことだったわ。ついこの間、咲が携帯を触っている時に画面が少し見えてしまったの。そしたらそこに…()()()()()()()()()()()()()()メッセージ画面があったのよ」

「っ! …そ、それは…!」

「言い訳は無用。…心底驚かされたわ。咲は普段男子となんて連絡先を交換しないし、女子でもあの子と連絡をできるのは私だけ。それなのに…まさか咲に近づいてた男子がいたなんてね」


 …その言葉で大体の流れは理解出来てしまった、

 今回の一件。何故里紗がこちらの繋がりを悟れたのかという疑問もおおよそは察することが出来てしまったからだ。


 あえて言うならば…タイミングが悪かったのだろう。

 咲は別に悪くない。こればかりは避けようもない事故のようなものだ。


 彼女自身から吹聴したわけでもなく、本当に偶然携帯を覗き込まれた際に第三者の視界に彼らのやり取りが入ってしまったというだけなのだから。

 …無論、そのやり取りを見た者がここまで詰め寄ってくるなんてことは想定外だったが。


「先に言っておくわ。もしも不埒な目的であの子に近づこうものなら、私は容赦しない。咲は優しいから誤魔化されたんでしょうけど…私はそうじゃない。……いいこと? 正直に答えなさい」

「……っ!」


 もうそこまで語ってしまえば、里紗も内心では確信しているのだろう。

 彼女の認識下では悠斗は親友に何らかの手段を用いて距離を縮めた男子生徒であり、何か疚しいことを企んでいるに違いない、と。


 端正な顔を怒りに染めながら詰め寄ってくる里紗に気圧されて、思わず足を後ろに進めてしまう悠斗だったが…それもいつかは限界が来る。

 彼の背中が体育館の外壁にぶつかるのと同時に、里紗から勢いのある壁ドンをされ…さらに言葉を続けられた。


「──あんた、咲に何をしているの?」


 そうして…話は現在へと戻る。


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