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小柄で寡黙な同級生はやけに懐いてくる  作者: 進道 拓真
第二章

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第三一話 呼び出しは突然に


 ──辺りに人の気配が一切感じられない、学校の敷地内の一角。


 季節的にも肌寒さが感じられる上に、今は時間帯が昼頃ということもあってほんの少しはマシになっているが…屋外はまだまだ冷たい風が吹いている。

 だが、そんな冷気が満ちた屋外にこそ一人の男子生徒……悠斗の姿はあった。


 何故こんな場所に彼がいるのか。

 その理由は他でもない。彼がとある人物から()()()()()()からだ。

 加えて言えば、その相手は既に目の前におり…十人が見れば十人が美人だと答えるくらいには見た目も整っている。


 活発的な雰囲気を併せ持った容姿に、はっきりとした目鼻を伴う顔立ちは否応にも周囲の目を一点に吸い寄せる。

 なおかつ濃い目の茶髪でまとめられたセミロングの髪型は彼女の印象にもよく似合っており…果てにはスタイルまで抜群ときた。

 高校生とは思えないほどに、引っ込むところは引っ込んで出るところは出ているという、まさに男子にとっての理想を具現化したと言えるほどの美少女。


 そんな彼女は今、ここにやってきた悠斗と異様なまでに距離を近づけている。

 有り体に言ってしまえば、彼の方が壁ドンをされて追い込まれているような立ち位置だ。


 …彼我の距離は異常なまでに近づき、周囲には彼ら以外の人影が何一つとしていない状況下。

 俯瞰的にこれらの要素だけを切り取れば、傍からはそれこそ…何かの告白のワンシーンと思われてもおかしくはないだろう。


 だが、今の悠斗が置かれている状況は…そんな微笑ましいものでは()()()()()

 何故ならば、今現在も彼の眼前に佇む女子生徒が放つオーラ………()()と言い換えても遜色がない威圧感からは、そのような平和的な選択肢など浮かびようもないからだ。


「……さて、もう一度だけ聞くわね? 正直に答えなさい」

「………」


 そんな末恐ろしい雰囲気を体現するかのように、()()の口から放たれる凛とした声色と共に向けられた鋭すぎる眼光を前にしてしまえば誰であろうと萎縮するはずだ。

 無論、悠斗とて安易に断れるような場面ではないことは重々承知しているため、大人しくここは首を縦に振り………。


「あんた…最近うちの()と随分仲良くしてるみたいじゃない。…一体どういうことなのか、キリキリ吐いてもらうわよ」


 …溢れんばかりの不機嫌さを醸し出す彼女の言葉に、内心では彼も抑えきれない溜め息をこぼしてしまいそうだった。


(何でこんなことに……いやそもそも、どうして()()()にバレてるんだよ…)


 逃げ場はこれだけの至近距離であるがゆえに塞がれており、万が一それらしい動向を見せようものなら確実に追撃を食らう。

 …具体的な状況を顧みるまでもなく、明らかに悠斗の側が追い込まれておりそんな状況をもたらした少女は…変わらず疑念の目を彼に向ける。


 そんな彼女の名は、高西(たかにし)里紗(りさ)

 悠斗とは一応クラスメイトという関係性ではあるが、お互いに込み入って会話を重ねた経験があるわけではないので本当に同じクラスなだけの間柄である。


 …そしてある意味、これが何よりも重要な要素であり現状を説明する鍵となる。


 何故ならば、彼女は自他ともに認める…()()()()でもあるのだから。


 偶然の出会いから奇妙な縁を持つこととなり、それに端を発して関わることとなった少女…咲の知人。

 見るからに機嫌を損ねている里紗を前に、悠斗は空白になりそうになる思考を必死の思いで回転させ続けているのだった。



 ──ついこの間から咲と悠斗による共同生活が始まり、ようやくそんな日常にも慣れてきたかと思った矢先に里紗に絡まれることとなった経緯。

 どうしてこのような状況になってしまったのか。


 それを語るためには、少し時間を遡る必要がある。



    ◆



「……うん? 何だ、これ…」


 放課後。授業も終わった悠斗はいつも通り帰路へと着くために昇降口へと歩みを進めていた。

 今日は咲から帰りに夕飯の食材を買ってくるように連絡を介して言われていたため、それをこなしてから帰宅することになるだろう。


 そうなれば余計な道草はしていられない。

 なのでそれなりの数の生徒でごった返した玄関付近を通り抜け、早々に校舎を後にしようと思ったところで……ふと、悠斗の下駄箱の中に()()があるのを発見した。


 …それは、一枚の折り畳まれた紙。

 特別な装飾も色合いもなく、無機質にすら思える白い紙が彼の靴の上に置かれていたのだ。


 もちろん悠斗の記憶にこんなものを置いた覚えはない。

 朝登校してきたタイミングでは下駄箱の中には何も無かったし、自身でも置いた記憶が無いという事は必然的に彼以外の何者かによる仕業ということだ。


「………」


 …正直、良い予感はしない。


 これが情景だけを見るなら下駄箱に入っていた手紙(らしき物)ということで、見方によってはそれこそ…誰かからの恋文なんて可能性も考えられた。

 日頃からクラスメイトと積極的に関わることが少ない悠斗にそのような類の物品が贈られるなど明らかにありえないケースだろうが、可能性自体はゼロではないのだからなくはない。


 ……だが、この時の悠斗はこれがそんな甘酸っぱさを伴った代物だとはとても考えられなかった。


 根拠はない。何となくの直感でそう思っただけである。

 がしかし、こういう時の悠斗の勘というのは案外当たってしまうのだ。


 感じ取ったのが嫌な予感というのであれば、尚更。


「…見るか」


 気は進まないし、出来ることなら中身を読みたいとも思えないが…ここで確認しておかなければ後々より厄介なことになりそうな気もする。

 どっちもどっちな二択ではあるものの、その選択肢から選ぶとするならば…まだ、ここで見ておいた方がマシなように思えた。


 結局どちらを選ぼうとも面倒な事態に変わりはないのだが、あくまでその方が()()()マシというだけだ。

 その辺りは念頭に置いておこう。


 頭の中でそのようなことを考えつつ、本音を言えば見ないことにしておきたかったがこの紙を視界に捉えてしまった時点でその択は選べない。

 加えて言えば、これ以上時間をかけてしまうとさらにこんがらがった状態になりかねないとも思ったためあまり長時間放置するのも良くないと判断した。


 ゆえにここは中身を拝見することとして───。


「………なるほど。時間がかかりそうだな」


 ──紙を開いた箇所に記されていた、『放課後、体育館裏に来てください』という一文のみが書かれた短いメッセージを見てさらに溜め息をこぼすのであった。


 意図も目的も分からず、ただただ指定の場所だけに来て欲しいという内容しか分からない文章では向こうの考えを察することは出来ない。

 できればここで具体的な呼び出しの目的を把握しておければいいとも思っていたのだが、そう上手くは運ばせてくれないらしい。


 ともかく今の悠斗に出来るのは記された通りに体育館裏に向かうことのみ。

 …ただ、念のために時間もかかりそうなので咲に連絡をしておくことも忘れない。


 彼女には……そうだな。

 ひとまず『少し呼び出しをされたから帰るのが少し遅れる。先に家に入ってくれてていい』とでも言っておけば問題も無いだろう。


「はぁー……こんなの置いたのは一体誰なんだか…早く終わることを祈っておこう」


 …内心、無理な願いだというのは分かり切っていても祈らずにはいられない。

 どう考えても長丁場になることが予想される呼び出しを前にしてしまえば、そう思うのも無理はないが……いずれにしても彼に取れる行動など一つなのだから赴くしかない。


 時間が経つにつれて膨れ上がっていく胸騒ぎがどうか的外れであるように、なんて意味もない思いを胸に抱えながら…彼は昇降口付近を後にするのであった。


ここから第二章が開始となります!


何やら不穏な気配が漂う悠斗の周囲、彼の運命やいかに。


どうぞ期待してお楽しみあれ!

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