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小柄で寡黙な同級生はやけに懐いてくる  作者: 進道 拓真
第一章

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第二九話 ほんの少しの楽しみ


 学校の授業も一通り終わり、放課後となった。


 部活や何か用事がある生徒以外は帰れる時間となったため、悠斗はそのままいつものように帰路へと着く……()()()()()()

 彼の自宅に戻るまでの通り道に存在している…()()()()()を訪れていた。


 それは………。


「久しぶりに来たけど…相変わらずゲームセンターって音がでかいな。まぁそれがあるからこそ盛り上がりもあるんだろうけどさ」


 …帰り道の道端に存在している、比較的規模が大きめのアミューズメント施設。

 見渡す限りにこの店専用のコインを投入して遊べるゲームの筐体だったり、そこかしこに置かれているぬいぐるみやら菓子やらの商品が鎮座しているアームを携えた機械。


 一般的に()()()()()()()と呼ばれている場所へと悠斗は赴いていたのだった。


 どことなく店全体に誘惑の香りが漂っているかのようなこの地へと何故彼がこの時間に来ているのか。

 その理由自体は大したものではなく、そもそも今回の来店も今が初めてというわけではなく彼は時折時間が空いた時にはここを訪れているのだ。


 目的はその時々によって様々だが、主にやるのはコインゲームというよりも実際の商品を目当てにしたクレーンゲームが多い。

 何をやるにしても実際に物として成果が目に見えるところを狙った方がお得感もあるという考えゆえにはなるが、そこを抜きにしても悠斗はこの場の雰囲気というのが嫌いではなかった。


「何やるかな…前は菓子全般を集中してやってたし、たまには他のを狙っていくのもありっちゃありだが…いらない景品獲っても持って帰るのが面倒なだけなんだよな」


 周囲がやたらと耳に響いてくる喧騒満ち溢れる中で、悠斗は物色をするように店内を当てもなくぶらぶらと歩いていく。

 そんな彼が意図せずに漏らした言葉は、聞き方によっては景品を獲得するのが前提とも捉えられるものである。


 …だが、それは当然なのだ。

 というのも…実は悠斗はこうした娯楽施設における遊びを中々の得手としており、数少ない特技と称しても遜色がないレベルでこなせるくらいには熟達した腕前を持っている。


 幸いにも家事方面では如何なく発揮されてしまう不器用さもここでは適用外だったようで、いつになく細やかなプレイングが可能となるわけだ。

 …数少ない特技が、こんなゲームセンターの遊びなどというのは誇れるかどうか微妙なラインになるがそこは気にしない。気にしたら負けなのだから。


 いずれにしても自分が得意技としているゲームセンターならば悠斗も少なからず楽しめるし、やり過ぎては散財をしてしまうだけなので自重はするがこういうのは偶にやると適度なストレス発散にもなったりする。

 悠斗自身、ここに来るのは一種の趣味にも近かったりするのでふと思い出した時には寄ったりしているのだ。


 ちなみに、いくら得意だからと言って調子に乗って乱獲をするような真似はしない。

 やり過ぎた結果によって痛い目を見て来た過去には覚えがあるため、それを繰り返してはならないと彼も自分に言い聞かせているのだ。


「さーて。じゃあ今日やるのは…最初はこれにしてみるか。これなら簡単に獲れそうだし」


 と、それまで店内を歩き回っていた悠斗だったがようやくそれらしいターゲットは見つけられたので気分転換に一度プレイすることとした。

 彼が何となくで目を付けたのは彼自身もどこかで見かけたことがあるような有名キャラクターのぬいぐるみであり、サイズも小さいので比較的すぐに獲得できると思われる。


 全体的に白クマを模したようなフォルムであるためアームで狙う際のバランス調整も容易であるし、これならばそう創意工夫を凝らさずとも普通にいけると彼の直感は囁く。

 なのでその勘に従い百円を投入口へと入れ、ゲーム開始である。


(このサイズ感だったら…下手に転がすよりも持ち上げて跳ねさせた方が良さそうだな。そっちの方が早そうだ)


 パッと見たイメージからおおよその重量を予測し、それに対してアームがどの程度の重さまで持ち上げられるのかを彼は考えていく。

 ただ、そこまで難しく考える必要もない。


 これまでやってきた経験則から判断すればこの景品は軽く持ち上げてやればそれが落ちた際の反動で跳ねることが分かるので、その勢いさえ利用してしまえば良い。

 まだ一つもアームを動かしてもいないが、一目確認してしまえばそのくらいは分かるものだ。


 ゆえに今回もその考えに沿ってレバーを操作し、小さなぬいぐるみを挟み込むようにしてゆっくりと持ち上げていく。

 そうしてやればやはり上昇していく途中の段階でアームがぐらつき始め、そろそろ落ちるかと思ったタイミングで…想定通り落下していく。

 無論、それで終わりではない。その落下の衝撃が加わったぬいぐるみは勢いをそのままにして近くに設置されていた落下口へと吸い込まれるようにして落ちていき、無事に景品ゲットだ。


「うん、腕は鈍って無さそうだ。これだったらもう少し大物を狙っても大丈夫だな」


 酷くあっさりとした様子で景品を取り出す悠斗は平然とした有様だが、彼の周辺では何の気なしに一発でゲームを成功させた彼の腕前に感嘆したかのように声を上げる者もいる。

 この光景に感心するのは当たり前だ。それだけ悠斗のテクニックが洗練されていたのだから目を惹かれるのも当然である。


 …ただし、この悠斗のゲームに対する技術も始めから備わっていたというわけではもちろんない。

 むしろ彼とて、始めたばかりの頃は失敗続きでゲーム自体が面白くないと思っていたくらいなのだから。


 では何故、悠斗がここまで腕を上達させることが出来たのか。

 その疑問を解消する根本は…彼の()()にこそある。


 まだ悠斗が幼い頃。家によく両親がいた時の話になる。

 あの頃は休日なんかは家族で過ごす時間が多かったため、必然的に悠斗も家族揃って出かける機会に恵まれていた。


 外出先はその時によってまちまちだが…よく行ったのはショッピングモール、遊園地、レストラン等々。

 そして、その外出先候補の一つに数えられていたのがゲームセンターだ。


 どうしてそこによく出かけていたのかは知らない。両親に問いただしたこともないので真相は闇の中である。

 …だが、そんな曖昧な記憶であっても悠斗の両親が少し()()()()()()にこれらのゲームを得意としていたのは強く印象づいている。


 台の種類問わず、あらゆる景品をほんのわずかな手数で掻っ攫っていく様は見ていた爽快ですらあった。

 特に母親なんかはやっている途中でテンションが上がりすぎたのか、手心を加えずに乱獲していくものだから最終的に店の方から注意までされる始末。

 …父親の方は腕を磨き上げていてもその辺りの配慮を忘れないため騒ぎにはしていなかったので、もう少しあの人には父のそういった部分を見習ってほしいと思わずにはいられない。


 話が逸れてしまった。

 まぁそういうわけなので、そんな両親の姿を間近で見せられてきた悠斗は…特に細かい教えを受けずとも二人の技術を見て盗んできたという次第である。


 結果、今となってはその時の記憶があってか変にゲームが得意になってしまった。

 別にあったから困るわけでも無いので構わないのだが…ここで技術を伸ばせるのならもう少し別の方面でも器用さが欲しかったと思わないでもない。

 …言ったところで無駄というのは理解している。言ってみただけだ。


 ともかく、彼がここに来る理由と得意とする経緯はそんなもの。

 深い理由があるわけでもないため、今日とて程々に楽しんだたらすぐに帰るつもりである。


 そんなことを考えながら…彼はまだ見ぬ景品を探索しに行くため、さらに奥深くの通路へと足を進めていくのだった。




 ──三十分後。


 ある程度店全体も回り終えたため、そろそろ帰ろうかという方向に思考がシフトし始める頃合いだが…正直、()()()()()になる前にそう考えるべきだったと若干後悔していた。


「……マズい、調子に乗って獲りすぎた」


 もう悠斗が店前でぽつりとこぼした一言が全てを物語っているが、今現在の悠斗は手荷物がえらいことになっている。

 元々抱えていた学校の鞄はまだ良いとしても、その傍らにある……割とサイズを大きくした袋の中にパンパンに詰め込まれた景品の山は、どう見ても先ほどまで乱獲をしてきた者の姿である。


 …あれだけ獲得のしすぎには注意と言い聞かせていたというのに、決意したすぐにこれだ。

 かつての母親の再演をしているような気分になってしまい、反省の念に駆られるが…こればかりはどうしようもない。


 仕方ないのだ。

 何せ久方ぶりにやってきたということもあってゲームセンター特有の空気感が気分を盛り上げてしまい、これで最後という思考が幾度となく繰り返されてしまったのだから。


 ……意思が弱いとは言わないで欲しい。割と後悔はしてるのだ。


 獲得した景品の内訳は六割が消耗できる菓子類であり、これはまだ良い。

 大量にあるとはいえど、適当に消費していけばいつかはなくなる物ゆえにどれだけあろうと大して困りはしない。


 今悠斗の頭を悩ませているのは…残りの四割の方。

 そちらには先ほど獲得したばかりのぬいぐるみだったり人形だったり、サイズはまちまちだが幅広い好みが取り揃えられている。


 …だが、そのどれもが可愛らしいフォルムをしているためどう見ても女子が好むグッズのオンパレードなのだ。

 間違っても悠斗のような冴えない男子の家に置かれるような品々ではない。


 物色している間についテンションが上がってしまい、後先のことなど考えずにとったはいいものの…実際に獲得してしまえば取り扱いに困るというのは最早あるあるだろう。

 しかしどうしたものか。

 これだけ溢れてしまった景品。悠斗の手には持て余し、行く末をどうするものかと考えてもせっかく獲ったものなのだから処分するというのは忍びない。


 では、他にどこか良い受け渡し先でもあったかと思考が深みにはまりかけたところで…彼の頭に妙案が思いつく。


「あ、せっかくだし本羽にでもやるか。こういうのが好きかどうかは知らんが…まぁ断られたらその時にでも考えればいいし、そうしよう」


 大量のぬいぐるみの数々。悠斗の家に置くには微妙なもの。

 しかし、それも現在彼の家にて過ごしている女子の咲であればこれらを持っていても何ら違和感がない。


 それどころか彼女がもふもふとしたぬいぐるみに囲まれている絵面はこれ以上ないくらいに様になるはずなので、送り先としては完璧だ。

 そうと決まれば話も早い。とっとと家に帰って渡すとしよう。


 悠斗も考えが固まりどうしようもなくなった現状の打開策が浮かんだため、そのままやけに重くなった荷物を抱えながら一度逸れた帰路を進んでいく。

 なお、その道中で溢れかえりそうな景品を持っていたことから道行く人の視線を集めていたのはご愛敬である。


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