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小柄で寡黙な同級生はやけに懐いてくる  作者: 進道 拓真
第一章

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第一四話 慣れない耐性


(これは…シャツだから後でまとめて洗濯するとして、こっちは…あぁ。昔買った雑誌だな。もう読まないし処分でいいか)


 咲と部屋を分けて作業することにしてから幾ばくかの時間が経ち、それなりに集中力も増してきたので概ねは順調に進められていると言える。

 実際に悠斗のいる部屋を見てみても早朝と比較すれば格段に床へと散らばっていた物は減っており、視認できる床面積が増えてきている。


 …掃除の進行具合を確認する指標として部屋の床面積を持ち出してくる時点で情けなくも思えてくるが、そこはもう今更なので気にしない。


 考えようによっては作業の成果が目に見える形で確認できるため、モチベーションの維持にも直結しているとすら言い切れるだろう。

 物は言いようである。


「…さて、大分まとまってきたな。ここにあるものはあと半分もないし、一回で運べる量でも無いからここいらでリビングに持っていくか」


 それまでは黙々と自分一人の作業に集中していたが、気が付けばいつの間にやらまとめていた物もそれなりの山となっていた。

 ここまで積み上げられるとは思ってもいなかったが、あるのは大抵が昔に購入していた雑誌だったり脱ぎ捨てた服である。


 更に幸いというか悠斗にも最低限の安全面は考慮する余地があったのか、地面に刃物類までは捨てられていなかったのでそこら辺は安心した。

 …誇れるほどのことでもないというのは強く理解しているが、それでも不安だったのだ。


 自分でも自宅の床を足を進めるたびに傷が増えていくような危険地帯にするつもりは毛頭ないのでそんなことはしていないと断言したいところなのだが…何せ経緯が経緯だ。

 悠斗のものぐさ加減を考慮すれば放り出しておいたと言い切れないのが悲しいところである。


 話を戻そう。

 積み上げられた物の大半は本や衣服類がほとんどではあるものの、その量は半端なものではない。

 今見ただけでも雑誌の束を紐で縛られた山が三つはあり、服の山はまさしくこんもりといった様子で佇んでいる。


 これでもまだ掃除が完全に終了したわけではないというのだから、一体どれだけのゴミを家に溜め込んでいたのかが分かるというものだ。

 しかしこれ以上積み上げていっても今度は悠斗が運べなくなってしまうので、ここらで一度リビングに持っていくべきだろう。


「よっこいせ…っと! 重っ…!?」


 見た目からして相当な重量を感じさせてくる雑誌の束を両腕でそれぞれ一つずつ持ち、予想に反することも無くかなりの重さがあった荷物をよろめきかけながらも運んでいく。

 なるべく束の数を増やさないようにと出来る限り圧縮してまとめていたのが仇となったのか、かなり重くなってしまっていたが…何とか気合いでリビングまで持っていくことに成功した。


「………!」

「あ、あぁ本羽…向こうでまとめてたもの持ってきたから、一旦ここに置かせてもらうぞ」

『…大丈夫? とても重そう』

「…確かに滅茶苦茶重かったよ。まぁそこら辺は気合いで持ってきたから……って、本羽。お前、もうこんなに片付けてたのか…! 早すぎるだろ…」


 廊下を抜けて正面の扉を潜れば、すぐそこにリビングはある。

 そして…そこには先ほどまでと変わらぬ様子で掃除を続けてくれていた咲の姿もあった。


 彼女は何とも礼儀正しいといった言葉が似合う佇まいで正座をしながら作業を継続しており、何と驚くべきことにこの広いリビングは既に粗方片付けられていたのだ。

 床を見れば散らかった物は一つとしてなく、あるのはせいぜいが部屋の隅にある本の山と衣服のみ。


 その衣服も見てみればきちんと畳まれて置かれており、咲がそれをしてくれていたというのは想像に難くない。

 …しかし悠斗が一つの部屋を半分まで片付けている間に、咲はこのリビングを大まかにとはいえ掃除し終えているのだから驚愕である。


 本人からの申告があったとはいえ、今更ながら彼女の家事が出来るという言葉が嘘ではないという事実を思い知らされた気分になった。


『これくらいは当然。家でもお掃除はよくやってたし、慣れてる』

「だとしても凄いな……すまん。正直見くびってた」

『分かればよろしい』


 本人は掃除に慣れてるからこれくらいは出来て当然なんて言うが、それでもあの物量をこの短時間で捌けるのは並大抵の能力ではないだろう。

 明らかに一日二日で身につけられたものではないだろうし、年単位での積み重ねがあったことは確実だ。


 …これは咲の言葉を疑ってしまったことを謝罪しなければあるまい。

 最初こそ疑念を持ってかかってしまったが、ここまでの腕を披露されてしまえばその発言も撤回せざるを得ない。


 そう考えて素直に謝れば、気前のいいことに彼女も心なしかドヤ顔を浮かべながら許してくれた。

 …どうやら、悠斗に己の手際を認めてもらえたことが嬉しかったらしい。


「でも服を畳むのは後でも良かったんじゃないか? どうせ最後にまとめて洗濯するんだし」

『…そういう後回しは駄目。こういうのは放置するとすぐに皺がつくから、お洗濯の前でもちゃんと畳むべき』

「そ、そうなのか…」


 しかし荷物を無事に運び終えた悠斗が疑問に思った点だが、異様なまでに片付けられた部屋の中に鎮座している衣服の数々はどれも丁寧に畳み込まれている。

 だが、それらは全てこの後洗濯機にまとめて放り込んでしまうもののため…今綺麗に積み上げても意味がないのではと思ったが、そこは家事に一家言ある咲というべきか。


 そうした慢心も積み上げられていけば衣服へのダメージが蓄積してしまうということで、お小言を頂いてしまう始末であった。


「…でも本羽も、無理はしないでいいんだからな? 男の着てた服なんていちいち触りたいものでもないだろうし」

『…確かにそれは間違ってない。でも、悠斗のは平気だから大丈夫。むしろ楽しい』

「楽しいっていうのもどうかと思うが…ほんと、嫌だったら正直に言ってくれ。こっちも本羽が嫌がることを無理には強要したくないからな」


 …と、そこまで語っていて思ったが今に至るまで咲に悠斗の衣服整理を任せたのは失敗だったかもしれないという考えも浮かんできた。

 既に大掃除が始まってからかなりの時間が経っているため手遅れと言われればそれまでだが、そもそもの話女子の立場からして男子の身に着けた服なんて触りたいと思う者の方が稀だろう。


 一応普段から汚れや匂いにも気を付けている方ではあるが、それでも全ての要素を隠しきれるわけではないし…ものによっては彼の汗が付着したシャツだって混ざっているはずだ。

 そんなものに触れさせていると考えれば内心では嫌がっていてもおかしくはなく、むしろそう思うのが自然。


 …自然、のはずなのだが、しかして咲から返ってくるのはそうした予想に反して微笑むかのような笑みである。

 打ち込まれた文字からも衣服の整理が楽しいという発言が嘘ではないことは伝わってくるため、そう言われてしまえば悠斗にしてもあれこれと口を出す権利はない。


 咲自身がそれで納得しているというのであれば、申し訳なさこそ残るものの衣服の整理はまだ任せておいてもいいだろう。


『その時はちゃんと言う。だけど、ここまでやったから最後まで───』

「…ん?」


 ……が、そこでまた妙なことが起こる。


 それまではこともなげにテキパキと悠斗のシャツやらを畳み続けていた咲が、唐突に文字を打ち込むことを中断して固まってしまったのだ。

 本当に、ピシッという効果音でもついていそうな勢いで。


「………!?」


 どうしていきなりそのようなリアクションになったのか。

 その答えは今まさに彼女が手に持っている物品……そのものの正体にあった。


 というのも、先ほどまでの落ち着いた雰囲気から一転して一気に顔を赤く染めていきながらアワアワとした様子を見せる咲が手にしているのは……悠斗の所持衣類の一つ。

 端的に言ってしまえば()()()。下着類に属する品であったからだ。


「あ、あぁー……本羽。それは俺が畳んどくから、こっちに渡してくれ」

『………お願い』


 …数秒前までの冷静な姿はどこへやらといった様子で混乱を見せる咲の姿は正直可愛らしくもある。

 どうやら悠斗のシャツやズボンを畳むのは問題がなくとも、肌着や下着といった類に関してまでは流石に耐性が出来ていなかったらしい。


 それはプルプルと小刻みに震えながら羞恥心に襲われ、若干涙目にもなっている彼女を見てしまえば一目瞭然だし…いくら何でもそこまでやらせるつもりもないため、悠斗が足早に回収させてもらった。


(……何というか、周りのやつが可愛いって言う理由が少し分かった気がする。こういうことか…)


 そんな中で、不謹慎であるが一連の流れを見守っていた悠斗は…咲から己の下着を受け取りながらこのようなことを考えていた。

 咲は周囲のクラスメイトからよく可愛い可愛いと叫ばれているが、確かにこんな姿を見てしまえばその意見にも賛同せざるを得なくなる。


 背丈とも相まって小動物的とでも言おうか、小柄な体躯ゆえに一つ一つの挙動が幼くも愛らしく見えてしまう咲の言動は…周囲のハートを掴んで離さない魅力に溢れているのだろう。

 未だに羞恥心が収まらないのか悠斗の方を一向に見ようとしない咲を横目にして、彼はそんなことを思っていたのだった。


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