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小柄で寡黙な同級生はやけに懐いてくる  作者: 進道 拓真
第一章

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第一一話 予想外の訪問者


(…んんっ。…もう朝か……いつ寝たのか記憶が無いな…)


 咲との妙な関わりが一段落し、無事に元の生活へと戻ってくることが出来た悠斗。

 そんな彼は…一仕事を終えたことでドッと湧き出てきた疲れを癒すかのようにベッドに寝転んだと同時に深く寝入ってしまい、気が付けば日の光が差し込む朝となっていた。


 …だが昨日の咲のことに関しては記憶もばっちりと残っているし、夢だったんじゃないかと疑うこともない。

 あれは間違いなく現実に起こっていた出来事で…既に終わったこと。


 一件落着さえしてしまえばもう無理に関わり合いになる必要性も消えてなくなるため、こうしてまた悠斗のみで過ごす生活が再開されたというわけだ。

 両親は相変わらず仕事で家にはいないため、文字通り一人きりだが…これについてもとっくに慣れたもの。


 確かに自宅で一人の時間を過ごし始めた頃は色々と困ることも多かったが、時間が経てば人というのは案外その環境に適応していくものだ。

 苦手な料理も渡された生活費を使って適当に惣菜でも買ってくればいいし、掃除や洗濯も……出来る範囲でやっていけば生活できないということは無い。


 …その結果として出来上がっていったのがこのおぞましい現状であるが、そこに目を向けてはいけない。

 流石の悠斗もここまで悪化させるつもりは無かったのだ。気が付けばそうなっていたというだけで。


(…今日は休みなんだけどなぁ。まだ無理に起きる必要もないけど…こうして布団の上で惰性に浸るのももったいない気がする)


 しかしそういった現実から一度目を逸らし、視線を動かして壁に掛けている時計を確認してみれば時刻は七時過ぎ。

 いつもなら学校があるからととっくに起床している時間帯ではあるが、幸いなことに今日は休日である。


 いくら寝ていようと注意されるようなことはなく…というか注意をしてくる人間自体がこの場にはいないのでどのように過ごそうと悠斗の自由なのだが、いつまでも横になりっぱなしというのも微妙だ。

 せっかくの休日。できることは山ほどあるのだから、何かしてみようかと考えたところで…己の部屋の状態が目についた。


「…するか? ()()…」


 それまでは当たり前の光景だと思っていたがゆえにおかしいとも感じなかったが、先日の出来事を経てこの汚らしい惨状をどうにかすべきではないかと思えてきていた。

 一度目にしてしまえばどこに視線を送ろうとも私物や脱ぎ捨てられた服が落ちているので、客観的に判断してもゴミ屋敷の一歩手前といった感じだ。


 …今までは両親がいないために咎める者もなく、気楽に過ごし続けてきたがここらで一回生活習慣というものを見直した方が良いのかもしれない。

 先日のことがイレギュラーなものだったとしても、突然この家に来客がやってくる可能性はゼロではないのだからその度にこの部屋を見られると考えれば片付けておいて損はない。


 正直言って気は進まないのだが…そんなことを言ってもここまで放置してきたのは悠斗の責任なのだから文句を口にする資格はないのである。


「…まぁその辺はゆっくり考えるか。どうせ時間は有り余ってるんだし、とりあえず着替えだけでもして───ん?」


 しかしながら、ここで迷ってばかりいても話は一向に進まないためひとまず気合いを入れて起き上がる。

 まだまだ悩めるだけの時間は残されているし、これから何をするかは一旦様相を整えてからでも遅くは無いだろうという判断ゆえにそのように動くと決めた。


 なのでそのためにまずは着替えを済ませようとして……不意に自宅内に鳴り響いた()()()()()()に悠斗の意識は引っ張られる。


「こんな朝早くに……誰だ一体?」


 繰り返しになるが、現在時刻は朝の七時過ぎ。

 こんな時間に我が家を訪ねてくる者の予定など入れていた記憶はないし、宅配便か何かだとしても訪れる時間が早すぎる。


 もしや隣の家の誰かが何かしらの用件でもあって来たのだろうかと一瞬疑問にも思ったが、そうこうしている間にもう一度インターホンが鳴らされる。

 …悠斗の家を訪ねてきた相手は余程急ぎの用事でもあるというのだろうか。


 どちらにしてもこの短い時間で二度もインターホンが繰り返されているので居留守は通用しそうにないし、こうなったら真正面から対応した方が早そうだ。


「はいはーい。…勧誘か何かだったら間に合ってるんだがな」


 未だパジャマ姿のままではあるものの、休日なのだし知り合いに見られるというわけでもないのだから構わないだろう。

 今から悠長に着替えをする時間もないし、そんな長々と時間を浪費していれば玄関先にいるだろう相手を刺激しかねない。


 そんなことになればどうなるか分かったものではないので気乗りはしないが、素直に玄関へと向かいつつ扉を開ければ……そこには、予想だにしていない人物が立っていた。


「…………え?」

『…悠斗、久しぶり。今日はお掃除をしに来た』


 …扉を開けた瞬間、悠斗はそこにいた()()との身長差ゆえに誰もいないのかと錯覚してしまった。

 だがあちらは自らの存在をアピールするかのように所持品でもある携帯に見慣れた文面を打ち込み、両手でぴょこぴょこと掲げている。


 画面に表示された文字の意図はよく分からないが…しかしそれ以上に、悠斗にとっては彼女がどうしてここに来ているのかという点が一番の疑問でもあった。

 同い年とは思えないほどに小さな背丈をしており、やけに幼く見える言動を見せてくる彼女。

 …昨日の時点で縁も切れたはずの()その人が、ここにやってきていたのだった。



    ◆



 まさか来るわけもないと思っていただけに驚かされたが、やはりいくら考えても訳が分からない。


「…おい本羽。どうしてここにいるんだよ」

『どうしてと言われても、さっき言った通り。悠斗のお部屋をお掃除しに来た』

「いやそうじゃなくて…その掃除云々も気になるけど、俺が言いたいのは何で今ここにいるのかってことだ」


 あまりにも咲が自然な様子でここにやってくるものだから危うく受け入れそうになってしまいそうだったが、冷静になってみてもこの状況は異常である。

 既に咲の自宅近辺に関連した問題は解決したはずであり、解決した以上は近くに住んでいるとはいっても悠斗と関わり合いになる理由がないのだから。


 だがそんな疑問の答えは咲も想定していたのか…何てことも無さげに打ち込まれた文字で返事をされる。


『もちろん、昨日のお礼。恩は返すって言ったはず』

「…やっぱりそれか。あのな、別にわざわざこんなことなんてしなくていいんだよ。昨日のあれは俺が勝手に首を突っ込んだだけなんだから礼なんていらないっての」


 やはりと言うべきか、咲がここに来た理由の大半は先日の恩返しを目的としたものだったようだ。

 無論、彼女の心情を考えればそのような行動に出るのも納得なので理解はできるのだが…悠斗としてはそんなものはいらないのだ。


 最初から礼目的で近づいたわけでも無いし、ただ単に公園でポツンと佇む咲の様子が気になったから声を掛けただけのこと。

 それからの流れだって見捨てるのが何となく忍びないからというだけだったことで、大層なことをした自覚もないのだからあの件はあそこで終わっているはずなのだ。


『それでも、私は助けられたからお礼がしたい。だから悠斗のお部屋を掃除させてもらう』

「はぁ……本羽がそこまでする必要はないっての。それに手を煩わせたとでも思ってるなら俺はそんなこと一切思ってないし、そっちが礼にこだわる必要もないよ」

『…別に、全部がお礼をしたいっていう気持ちだけじゃない。これは()()()()でもある』

「……どういうことだ?」


 意外にも頑固な姿勢を見せつけてくる咲の言動に呆れながらも、何とか諦めて帰ってもらおうとするが…その兆候は見られず。

 そんな水掛け論にも近い会話を重ねていったが、そんな中で彼女が放った一言に少し引っ掛かるものを感じた。


 …そしてその次に掛けられる言葉は、かなり容赦なく悠斗の心を削ってくるものでもあった。


『…昨日見せてもらって思った。悠斗の家は()()()()。あんなの人が暮らす場所じゃない』

「うぐ…っ!?」

『同じマンションに住んでる同級生があんな所に住んでるなんて知ったら、気になって仕方がない。だから私のためにも、ちゃんと掃除をしておきたい。…駄目?』

「ぐっ……け、けど…!」


 ズバズバと放たれてきた言葉は明確に悠斗の胸を貫いていくダメージを有しており、反論の余地もないため甘んじて受け入れるしかない言葉の数々は想定以上に傷が深い。

 …本当にその通りでしかないため言い返そうとすることすら出来ず、若干ジト目になった咲の視線すら今は居心地が悪く感じられる。


 しかしそれを受け入れてしまえばそれこそ咲の口にしていた頼み事が実現してしまうことになるため、何とか言葉を捻りだそうとして───。


『…もちろん、悠斗がちゃんと自分一人で掃除できるのなら私は何も手を出さない。…悠斗だけでお掃除、出来る?』

「………出来ない、な」

『じゃあやっぱり私も手伝うべき。…いい?』

「……分かったよ。俺の負けだ」

「………!」


 ──捻りだす前に振りかざされてきた言葉によって一切の否定材料を潰された悠斗は、あえなく撃沈するのであった。


 …これはもう仕方ないだろう。

 まさかあれだけの惨状を見られた後で、なおかつ咲の目の前でたとえ嘘だったとしても『掃除ができる』なんて言葉が言えるはずもなく…悔しいが悠斗一人では掃除をこなせるビジョンさえ見えない。


 どこから手を着けたら良いのか。どうやってあの量の荷物をまとめたらよいのか。

 考えても考えても物で溢れかえった部屋で途方に暮れるのが目に見えているので、そこは正直に認めるしかなかったのだ。


 結局最終的には咲の提案を申し訳なく思いつつも飲むこととして…悠斗の返答を聞いた彼女は何よりも嬉しそうな歓喜の感情を浮かべていた。


(……どうしてこうなったんだか。本当に…)


 そしてそんな歓喜に満ちた情を露わにする咲の一方で、悠斗は朝から異様な展開に包まれた我が身の運命を疑い始めていた。

 つい数日前までは縁も何もなく、ただのクラスメイトという関係性でしかなかったはずの二人。


 それがどうだろうか。

 数奇な出来事を経たことで途切れると思っていたはずの関係は何故か再び絡まっていき、解けることなく継続している。


 …だが悠斗が曲がりなりにも受け入れてしまった以上、できることは一つ。

 ひとまずは彼の自宅を掃除するため、咲を部屋へと招くことからだ。


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