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小柄で寡黙な同級生はやけに懐いてくる  作者: 進道 拓真
第四章

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第九九話 積極的な距離感


 ──どこか晴れやかな空気に満ちた午後のひと時。


 緩やかなムードで満たされていた元旦の三が日も気が付けば終わってしまい、正月もあっという間に過ぎ去ってしまった。

 そんな中にあって、彼の家では…どこか和やかにすら思える日常が展開されている。


「咲、これってここにしまっておいたら良いんだよな?」

『そう。悠斗、お片付け手伝ってくれてありがと。私じゃ手が届かないから、助けてくれて嬉しい』

「…っ! …まぁこの程度なら誰でも出来ることだしな。そんな大層なことでもないし、礼を言われるほどの事でも無いって」


 既に終わってしまった正月を何となく惜しくは思いつつも、自らの家で作業に没頭している少年の姿は他ならぬ悠斗だ。

 彼が今何をしているのかというと、朝早くからここを訪れた少女。


 …悠斗が明確な好意を自覚し、想い人にもなってしまった咲から少しキッチンの片付けを手伝ってほしいと頼まれたのでそこで手を貸しているわけだ。

 しかしやることとしてはそれほど大したことでもなく、どうやら背丈の関係で咲にも物理的に手が届かない箇所があったためにそこを担当してほしかったということらしかった。


 そういう事なら断る理由もない。

 普段から彼女に世話になりっぱなしの身である上に、咲直々の頼み事ともなれば最初から悠斗は受け入れる選択肢しか頭にない。


 それに何より…曲がりなりにも()()()()()から頼られるというのは、存外嬉しいことでもあるのだ。

 実際、今も彼女から手伝ってくれたことに対して感謝を述べられたが…そこで向けられた笑み一つで彼の内心は強く掻き乱される。


 …我ながら単純に過ぎるとも思うが、彼女の言葉一つで動いてしまう感情ばかりは自分でもどうしようもない。

 咲への好意を自覚し、変化した内心に伴った思いの丈は…どうあっても強くなっていく一方なのだから。




「…よし、こんなもんか。他にやり残した場所とか無いよな?」

『大丈夫なはず。綺麗に出来た』

「なら良かった。それじゃ、後はゆっくり休むとしよう」

「………!」


 着手していた整理整頓も一区切りを迎え、彼女にも確認をすれば作業はここで終わりとのこと。

 であればちょうどいい。


 頼まれていた仕事が済んでしまえば特にこれといってやることも無いため、残る時間は各々の好きなようにするだけだ。

 なので悠斗も屈めていた姿勢から腰を上げると、休む云々の言葉に賛同するようにコクコクと頷き返してくれた咲と共にソファへと戻って行く。


 休む場所と言えばここだという共通認識すら生まれてきた腰掛けの位置だが、やはり腰を据えると落ち着くものである。

 そのようなことを考えながら携帯を手に取り、何気なく咲に話題を振ろうとして………。


「…そういえばもう少しで冬休みも終わりだな。色々あったから忘れかけてたけど、なんか時間が過ぎるのが早いような──…? …どうした、咲。そんなところに立ち尽くして…何かあったか?」

「…………」


 …ふと視線を上げたところで、何かを()()ような仕草をしながらも一向にこちらに来ようとしない咲が立ち尽くしているのを見て、思わず声を掛けてしまった。

 けれども彼が呼びかけたところで分かりやすい反応は見られず、一応悠斗の方を見てはいるのだが自分の思考に集中しきっているといった感じだ。


 一体何をそこまで考えているのか。


 心なしかうんうんと唸るような気配すら見えてきそうなほどに悩みぬいていた咲であったが…そんな様子もある時を境に終わりを迎える。


 どこか良いアイデアを思いついたように、はたまた…何故だかようやく覚悟を決め終えたかのように。

 ほんの少し赤く染まったように見える頬を覗かせながらも、もじもじとした何ともこちらの嗜好をくすぐってくる素振りを醸し出しながら…()()()()()()()を告げてくる。


『悠斗…少し近くに行ってもいい?』

「え? まぁ、そりゃいいけど…わざわざ許可取るようなことか?」


 恐る恐るといった様子で申し出されたのは、その状態に反して何とも拍子抜けしてしまいそうなほどにあっさりとしたもの。

 単にその程度のことであればこちらの許しを貰う程のことでもないと思うが…まぁそこは律儀な面もある咲のことだ。


 迂闊に近寄ってしまえば悠斗に迷惑をかけてしまうだろうと考えてこう言ってくれたのだろうし、大して迷うほどのことではないと彼は結論付けた。

 ……直後にその選択を後悔することになるのだが、そんな未来が待ち受けているとは今の彼には知る由もない。


『じゃあ…遠慮なく、そうさせてもらう』

「あ、あぁ…にしても何でそんな硬くなって───ぶっ!?」


 いまいち彼女の意図が掴み切れず、頭に疑問符を浮かべていた悠斗は深く考えることなく近づくことを許容する。

 そうすれば、咲はより力強く決意をしたような表情になりながら宣言通り悠斗と距離を詰めてきた。


 …そう、まさに彼の()()()()()()()()などという想定外すぎる行動さえなければ。


「な、何やってんだ咲!? いきなりどうした!?」

「…………」


 あまりにも予想外に過ぎる彼女の突拍子もない動向に、さしもの悠斗もどのように対処したら良いか分からない。

 正直な話、悠斗としては近くに行っても良いかと問われててっきり己の隣にでも座るのだろうと思っていたので…よもやこのような位置取りになるなど夢にも思っていなかったのだ。


 …いや、だとしても同級生の女子からこのようなことをされるなど想定しろという方が酷な話でもあるだろう。


 幸いにも咲の身の丈がミニマムであったために、彼の視界からも膝を抱きかかえながら自らの膝に収まっている咲の姿はしっかりと確認出来ているが…それはそれで問題でもある。

 というのも、当たり前だが悠斗も今日に至るまでにここまで彼女と距離を近づけたことなどない。


 あったところでせいぜいが頭を撫でたり頬に触れたりと、軽めの物理的な接触が限度といったところだったのだ。

 …そんな中にあっていきなり、これほどまでに密着した体勢になってしまった。


 先ほどから意識しないようにと心がけてはいるものの、どうしても近づいてしまったことで彼女の体温やら甘い香りやらをしっかりと感じ取ってしまい…想い人のそのようなものを認識してしまえば否応にも体温は高まるし、心臓もうるさく鼓動を鳴らし始める。


『…だ、だって。悠斗は近づいて良いって言ってた。ちゃんと許可は貰ってる』

「それは…! てっきり俺の隣にでも座るのかと思ってたからであって、少なくともこんなことを許したわけではないっての! というかお前も分かってやってるだろ!?」

「………………」

「…おい、こっちを見て返事をしろ。そんなことしてても誤魔化されんぞ。全く…この前からどうした? なんかお前、様子がおかしくないか?」


 すると咲の方からこの現状に対する弁明らしき言葉が飛んでくるが…どう考えても、そんな言い分だけではこの状況に納得など出来ない。

 向こうの言い訳としてはしっかりと許可は貰っているのだから、問題ないとの発言。


 …その許可自体が半ば詐欺紛いのものだったことは棚に上げられているものの、そこを突かれると弱いというのは自覚しているようで彼の方から指摘すれば顔を逸らされてしまう。


 しかし…悠斗が言ったように、この行動を抜きにしてもここ数日の彼女は少し挙動がおかしい。


 原因はよく分からないのだが、おそらく時期的に考えて咲の過去が絡んだあの一件を経てからどうも距離感がおかしなことになっているのだ。

 具体的な例を挙げていけば、いつもなら好きに過ごしているはずの時間にやたらと向こうから話しかけてきたり、気が付いた時には互いの身体が触れてしまいそうなほど近い距離に座っていたり………。


 …とにかく、悠斗であっても異常なくらい距離をグイグイと近づけてこようとしてくるのだ。


 もちろん、それを嬉しいか嬉しくないかで問われれば…嬉しいことに変わりはないが。

 まぁそれはそうだろう。


 悠斗とて健全な男子高校生。

 多少の違和感があろうと好きな相手にこれだけ接触されていれば嫌でも意識は高まっていくし、その度に理性がガリガリと削られていく。


 無理な距離感の詰めすぎはしないという決心が無ければとっくに陥落していただろうほどに、彼女が実行してくる謎の攻めの姿勢は魅力的なものすぎたのだ。

 だが…流石にこれは限度を越してしまっている。いくら何でも注意はしておかなければ。


 冷静さを取り戻すためにも一度呼吸を整えなおし、そのわずかな時間で微かにクールダウンしてきた思考からそのような結論を導く。

 なので咲にも、流石にこんなことを当たり前のようにしてくるのは駄目だということを言い聞かせようとして………。


『悠斗は…私にこうやってされるの、やだ? 悠斗が嫌だって言うなら止めるけど…私は、出来ることならもう少しこうしてたい』

「うぐ…っ! …け、けど…こんな体勢でいるのは咲だってきついだろ? ほら、男と密着してるなんて──…」

『…他の人なら、駄目。でも悠斗だけなら…こうしてるのは、嬉しい。…このままじゃ駄目?』

「…………分かったよ」

「……!」


 …懇願するように、必死のお願いをするように。


 上目遣いと潤んだ瞳という必殺級の威力が込められたダブルパンチに加え、何よりも…()()()()()()()()()()()()()()()という言葉が、彼の理性を大きく揺さぶった。


 …それは反則である。

 そのようなことを言われてしまえば悠斗のちっぽけな理性など無いに等しく、気が付いた時にはこの姿勢でいることに許可まで出してしまった。


 すると咲は無事に許しを貰えたことに瞳を強く輝かせ、そして…やはり彼女にも大なり小なり羞恥心はあったのか、ほんの少しだけ頬を赤くしつつも満足げに彼の膝上にて感触を堪能しているようだった。



 ──何とも距離感をおかしくしつつも、理由は不明なまま積極性を増してきた咲とそれに困惑させられつつある悠斗の日常。


 二人だけの世界で生み出されつつある甘さで満たされた…彼らだけの空間だった。


二人の甘さが加速する第四章!


ここから始まりますので、是非とも温かい目で見守ってあげてください!

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