6 推論時間は何だったのか
承前 彼に採っては不能問題 5 均等分割法では解けない問題
一塊姉妹に眼を馳せる。坐っているし、ひしっと抱き合いからは、いくらか移行していて、姉側右妹側左に空気が殆ど挟まっていない辺りは変わらずとも、互いに互いが支えになると雖も、姿勢保持が辛くなる、両腕上げは解いていて、今は、両手での両手取りは、自然な感じで足の上へと下ろされている。いつの間に握り方を変えたのか、という疑問はさて措き、これなら、時間単位でも保つだろう。
「その、済みません、先程の話に戻しても宜しいでしょうか」
「言い難い、と。ま、良いよ。明歌入れない方が却って誤解しなさそうだし。さっきも言った――掛けたにしちゃったんだったか。実際のところ明歌はその傾向無い筈だしな。端的に言えば、子供を――我が子のことであっても、子供を入れても、誰よりも何よりも自分を一番に、同位一位無しで愛してくれるって愛情が欲しかったって訳、うちの奥さん――だった人は。こんだけの話」
じっくり吟味してから、タルトが一個程賞味される経過時間を措いてから、口を開いた。
「懸念は、奥津城さんが子供を――」
自分で自分の言葉に衝撃を受けている場合ではない。
「その、産んでくれたときにということでしょうか」
「いや? 言い掛けただろう? 其処の愛情は一緒くたにしないよ、お姉ちゃんだしな」
「というと?」
「普通聞くとしたら子供側だろう? 兄弟姉妹で親の愛情をどっちが多く受けてるかって。どっちかなんて答えられるかって俺の愛情、二人共受け入れてくれてるし」
「だって、そんなの」
おや。
「あれ、早かったね」
「だって、お父さんが」
「奏爾さんと苺独り占めしてるから」
「おい、莉音の方も誤解したか? 苺はともかくお父さんは喜んで奏爾君譲るぞ。遠慮全く無く」
つまり。お父さんもやはり苺を非常に好きと観る。
「お父さん酷い。奏爾さん、絶対譲れないのに」
「いや、だから、それは正しいって。その愛情は混ぜるな危険って話だからな。聞こえてんなら、正しく聞けって話だからな。明歌は奏爾君でケーキいっこ。莉音は奏爾君ナシだからケーキ二つってことで」
混ぜてませんか? しかし、失敗はこっちで、つい食べてしまったが、抑々は俺が、俺を数に入れてなかったのが等分割ができなくなった理由である。
「苺三粒でって――」
「ごめんね、莉音、三つタルト食べて」
「お父さんには?」
「混ぜるな混ぜるな」
「済みません、今からでも俺、買いに――」
「いやいやだから混ぜるな危険だなんだって、奏爾君迄乗るな」
「いや、俺が食べてしまったから三等分ができなくなったのですから」
「だから禁止。三ってのは、禁句にしよう。最低で二。基本は一。了解?」
つい。姉妹と揃って頸肯で返す。三粒苺が乗った残り三となったタルトを前に、という奇妙な絵柄ではある。お父さんの方は視界に、姉妹に足すことの俺という三人影を見据えてなのだから、妙な心地も増しているかもしれない。いや、だから、色々と混ぜるな危険だという話である。苺と等分に語られるぐらいは全く構わないが(いや、好き度合いでいえば、全く勝てる気がしない、訳でも無いのが全く以て過分に光栄というものだが)、父親視線に、子供二人に、俺という人間を単純人数計算をするのは全く以て間違っている。半ダースでなく一ダースにするのだったとの後悔も交えながら、続きを待つが、亦も何か逸れた感があるのだろう、お父さんの言葉が続かない。それとも、苺に未練があるのだろうか。此処でお父さんもタルトを亦も食べれば、今この時に限れば、きれいに家族で三、ではなく、いや、ともあれ、等分割にはなる。
「何の話してたんだった?」
「お父さんが独り占めしてる」
「いや、だからだな」
「お父さんの愛情だったら、だって、お母さんのこと、莉音は殆ど覚えてないし、だから、莉音が本当なら、お父さんからもっともっと愛情受けてて――」
「それなら、お姉ちゃん、お婆ちゃんが殆どやってくれたっていっても、あたしのお母さん代わりみたいだったじゃない。だから、お父さんに愛してもらうっていったら、お姉ちゃんの方が多くないと」
「もしかして、俺、嫌われてる?」
そんな顔で言っても。
「嫌いじゃないけど」
と二人して。
「お姉ちゃんの方が」
「莉音の方が」
「もっと好き」
あ、崩れた。それを、にこにこっと二人して。好きですね、これは。お父さん崩れている場合じゃないですよ。それとも解っているから安心して崩れているのか。
「お姉ちゃん、タルト、二つ貰うね」
「三つじゃなくて良いの?」
「二つで。あたしだって、お義兄さんになる人、嫌いな人じゃ嫌だし、好い人これから捕まえるんだから、ダイエットしないと」
いくらでも抱き合っていて下さい。それから、ダイエットの必要は無いと思います。
「莉音さん」
言って、慌てて皿を差し出した。間に合った。済みません。心裡で、深く、深く頭を下げた。何気無くタルトを手に取った――と観えたが、そのときから既に平静では無かったのかもしれない。それは確実ではないものの、俺の一声で、手に取ったタルトを取り零す程に動揺させてしまったことは確かだ。奥津城さんを一度しっかりと見遣ってから、莉音さんの前へと皿を置く。
「俺は莉音さんを嫌いにはなれません。積極的に好きと言ってもいいかもしれません。お父さんのことも」
「混ぜるな混ぜるな」
「いや済みません。混ざってしまうんです。如何したって、奥津城さんの、大事な家族ですから。俺自身のことを少し語らせてもらいますが、俺は自分のことを、懼らく、人間関係に淡泊な質だと捉えています。薄情でしょう。それが、奥津城さんに会ってから、人の見方が変わりました。会社で出会いましたから、まずは、同僚ですが、何と言う可きか……色が着いたというか、立体、多面的になったというか、済みません、巧いこと言えないんですが、」
「次元がいちにこ上がった感じ?」
「解ります?」
「なんとなーく? 俺は明歌が生まれてきてくれたときかな? なんかねー、世界がいっこ増えたって。で、莉音で、もういっこどころじゃなく増えた。広いよなぁ、なんかね、俺、今迄すっごい狭い世界に住んでたんじゃないって、思った」
うんうん顔に、はいはい返し。
「全く同じじゃないとは思いますが、でも、奥津城さんのお陰でってことは間違いが無いんです。もしも、仮に、仮令、」
一転の暗転で、でも、息を吸って吐いての一息で声を出す力を得る。
「俺の世界から奥津城さんがいなくなったとしも、俺の、俺が見る、見え方、外界の捉え方から奥津城さんの存在が消え去ることは絶対無い。そう思えるんです。お二人のことは殊に、奥津城さんを、こんなにも素晴らしい人を育んでいらした方と、会う前から、勝手ながら、好きになっていました。会いたいと思っていました。会えて非常に嬉しく思っています。今も無論、会って、こうして言葉を交わすことができる有難さを噛みしめています。有難うございます。今、お二人と会えたことに感謝します。そして、亦、有り難うございます。私に、世界に、お双方のような素晴らしい方がいるのだと教えてくれたのは、奥津城さんです。その素晴らしい奥津城さんがいるのは、きっと、いえ、間違い無く、貴方方がいるからでしょう。これ程に、いえ、何事かとは全く比べようもなく有難く、済みません、私の言葉では表せ尽くせない方に会わせてくれたことに、感謝致します」
何に当たれば良いのか解らないからといって、疎かにしていたことを後悔する。如何にももどかしく、全く以て感謝の辞と成らないではないか。これでは、自分が有難さを表せることの有難さしか得られず、奈何なる有難さであるかすらお二人に伝えられないではないか。
「酷いよ、お姉ちゃん」
とは、あの、お父さん?
「……ごめんね」
とは、奥津城さん。しかし、びたっとくっついた莉音さんの頭を撫でながら。いや、撫でるというか、いや、合っているのか?
「ほらな、莉音、だから、こっち来いって――」
「ずるい。そんなの、後出しじゃんけんみたいじゃない」
「いや、違くて、俺も抱き付く先欲しい」
「ごめんねごめんね、わたし、ちょっと慣れてきたから、でも、ごめん、わたしも莉音欲しい。あげられない。一人で頑張って、お父さん」
「酷いよ、お姉ちゃん」
「酷いよね」
「ごめんねごめんね」
俺に非があることは解っている。非難の的が俺であることも無論。奥津城さんが非難されているのは、俺を彼等二人の前に曝してしまったことに対してだ。
「済みません、お二人に会えて嬉しいばかり、私ばかり、この素晴らしい、掛替えのない――」
すくっと立ち上がったお父さんのお陰という可きか、言葉を切れた。思えばいつもこの辺りを思い出しては反省するのだが、全く反省になっていなかったことの反省会となってしまう。
「ほらな、莉音、後悔するって」
さて、と、頸を捻る前に、お父さん、ダッシュ。
「あ――」
「ずるい」
「するい、お姉ちゃん、放して」
「お願い、いてよ」
「酷いよ、お姉ちゃん、慣れたって」
「慣れる訳無い。それに、今日は莉音にお父さんだって褒めているんだもの、いつもよりもっと――」
「それでも慣れてんでしょ。あたしだって、逃げたい。あたし無理。耐えるの無理。彼女に成りたいなんて絶対言わないから、お姉ちゃん一人で、頑張って、彼女でしょ」
「莉音は家族でしょ」
「義理の妹には過剰だって。彼女限定でしょ、これ絶対。放してよ」
「お願いお願い。お姉ちゃん、何だってするから」
「奏爾さん、譲ってくれる」
「ごめん、それも嫌」
「なら、一人で頑張ってよ。絶対絶対、これ彼女限定版。ってゆうか、これ、曝すな、莫迦ぁ。お父さんも莫迦ぁ。一人で逃げるなんて、ずっるいずっるい如何してくれるのよ」
「うんうん、それは、そう。お父さんずるいよね」
「うんうん、ずるいずるい、何で一人で逃げるの」
いや、その、訳が皆目解らなくとも、俺が全面的に悪いのであって、父親を責めるのは、と、逃げる言いながらも奥津城さんに莉音さんも抱き付いているのを見ながら、如何口を挟む可きか考える他の術がみつからず。取り敢えず、あの速さに加えて、続いた足音から判断すれば、姉妹の非難声の可聴範囲からは外れている、のは良いことなのだろうか。
「それにいつもだって、慣れたっていったって、慣れたってのは、いつもだって、だってへたりこんじゃったら却って拙いことになるって――あ、違うの」
と此方に向き直ってくれた、が、それが隙となる。
「あ、莉音」
「頑張れ、お姉ちゃん」
奥津城さんで(一応)解っていたとはいえ、成程、俊敏性の高さは父親譲りと観る。
「酷い」
お父さんが開け放ち、妹さんが閉めた、リビングの扉に向かって、情感たっぷりに言葉を投げる奥津城さんに、自分は頭を下げた。
「済みません」
「あ、違うの」
「あ、いえ、まず先に。その、本来は俺が立ち去る可きなのでしょうが」
一人他家族のリビングを占拠してしまう申し訳無さが生じるとはいえ、それだけのことである。
「奥津城さんも、逃げたい、ということであれば――」
「違うの違うの。全然違くて、その、いつももね、言っているでしょ」
尻窄みに消えていく声を拾い上げるが、きっと最後迄は聞き取れなかっただろう。
「済みません。いつもいつも――」
「恥ずかしいんだってっ」
瞬時に勢いよく上がった頭が即下がる。
確かに、いつもいつも耳にしていることである。そして、確かに、聞けば成程、人前で恋人を褒めるということは、あまり宜しくないということは理解した。理解はしたが、一体に、自分の言葉が褒め言葉となっているかは疑問である。もっと素晴らしい、奥津城さんに似つかわしい適した褒め言葉があるだろうにといつもいつも後悔するのである。
そして今だ。人前というか、御家族の前であり、いつにも況して、自分の語彙の無さを痛感しているのだが。
「き、聞くのね、全然嫌じゃないの。嬉しくて、すっごく嬉しい。すっごく好きなの。あたしを……じゃなくたって、奏爾さんが話してくれるの、ほんとに好きで…… 唯、唯……」
「はい。いつもいつも聞いてくれて有難うございます。俺も奥津城さんに話してもらえるのがすごく嬉しいです。自分が話して、奥津城さんが聞いてくれることの有難さをいつもいつも得難いことだと――」
「唯、ね、は、恥ずかしいの。嬉しいんだけど、嬉し過ぎて恥ずかしいのっ。嬉し過ぎて恥ずかし過ぎて、もっともっと聞きたいもっともっとちゃんと聞きたいって堪らなくなっちゃって、逃げたくなっちゃうの」
「済みません、論旨が今ひとつ」
「解らないでっ恥ずかし過ぎるからっ」
「はい」
論理追求を即座に却下する。
「……それにね」
「はい」
「さっきは見栄張ったの」
「見栄、ですか」
一瞬の頭上げを抜かせば、縮まった儘でいるので姿からの判断は無理だが、いくらかは声の様子が変わったので、此方は追求可と判断を下す。
「莉音にね、あたしが奏爾さんの……こ、恋人なんだからって」
「見栄ではないと言ってくれたらと願うのは――」
「違うの、違うの。見栄ってのはね、慣れたって言ったことで。あたし……最初の、デ、デートで……」
「は、はい」
「その、ね、倒れちゃったでしょう」
「申し訳――」
「謝らないで。ひどいのこっちだから。嬉し過ぎて恥ずかし過ぎて、き、気絶しそうになっちゃって……」
「申し訳ありません、不用意に触れて良いとは――」
「解ってる解ってるって。悪いの全部こっちだから、うぅぅ、ほんと恥ずかしいんだって。ふっと思ったらもっと恥ずかしいことになってるのに、もっとって聞いてるのがもっともっと断然恥ずかしくて、でももっとって無限ループ陥っちゃって――あぁぁ、も、恥ずかしいんだって。聞き入って浸り込んじゃったら、またあの無限ループ味わっちゃいたいから、は、絶対絶対拙いからって、いつもいつも聞き惚れないように注意してるの。言葉ってか声だけだって拙いってのに、近いってか、近くなくたって顔だけだって拙いってか近いってか、見てるってかみつめてるってか、も、あああってのに、ほんとほんとに、絶対全然嫌ってことは無いからっ」
え、と……
拍車が掛かったのか、中途でアクセル踏んで急拍子で畳み掛けられたことの論旨は、済みません、全く以て解らないものの、解読に努める為に、奥津城さんの言葉と併せて語られた時点を思い起こす。
奥津城さんとの附き合いでもって、今もって反省点が次点である事象だが(一位は不動の告白時)、奥津城さんが焦点を当てているのは、倒れ――掛けたときのことと観て間違い無い。悪いのは此方で間違いが無く、亦、過ぎるというのも此方で間違いが無く、嬉しい余りに、奥津城さんと一緒の時間を持てることの有難さを出会いしなに、表明――し続けてしまったのだ。不用意に触れて良い人ではないのだが、地面に倒れるよりは良いだろうとの判断――なぞ無く咄嗟に手を伸ばしてしまったのだが、あれは、あのときは、支え手を離す迄に、一体にどれ程時間が経過していたのだろうか。反省の為にもとの名目すらなく幾度も思い返してしまっているのだが、今以て解らないものの、結構な時間が掛かっていたと思う。幸いという可きか、躊躇無しに手を伸ばした利は確かにあり、少しばかり力を込めただけで直立姿勢に戻せたものの、その後の、ほんの少しばかり立ち姿が傾いているぐらいの角度で居続けたのは、背に俺の手の補助があったとて、辛かったに違い無く。
教訓は一応得て、奥津城さんを褒めることは、姿勢保持が楽なときに限ると決めているのだが。しかし仮令坐っていると雖も、長時間に渉れば苦しくはなる、ということも自身に言い聞かせているのだが。唯でさえ、聞き苦しいだろうに、との思いすら、奥津城さんを表せることの有難さに、いや、反省だ、反省しなければ。今日は、今し方は、奥津城さんだけでなく、御家族にさえ迷惑を掛けてしまった。
「あたしね」
「はい」
あああ、というのなら、これだ、今だ。顔を上げてくれたのが嬉しくて、きっと、相好を崩してしまったに違い無い、視線が合ったと思えた瞬間に、奥津城さんが亦頭を下げてしまった。でも、それでも、話し続けてくれる。
「あたしが、奏爾さんに話すのも好き。すっごく真剣に、聞いてくれるから」
「はい」
「相槌いっこでも、等閑にしてなんかじゃないって、ちゃんと解るし。でもね、もっともっと、奏爾さんが話してくれるの聞くの好き。一緒に、あたしが話して奏爾が話してって、それだって好きだけど、奏爾さん破壊力あるから、こっちの言葉が引込んじゃうっていうか――全然全然嫌じゃないから、ついつい、ぅぁあってなっちゃうだけだから、こっちがあああってなってるのを見取って気遣ってくれるのも好きっていうか、あああ地獄入っちゃうっていうか、だからってか、だから、ほんと絶対全然嫌じゃないから」
「はい、有難うございます」
流石にこの遣り取りは幾度も繰り返していることであり。
「うん」
気を付けるが、やはり、顔面崩壊してしまうだろう、と、それこそ慣れた遣り取りではあるので、顔が上がってくる前にと表情筋に活を入れる。が、やはりにやけてしまったものか活入れ余りに睨む形相となってしまったものか、奥津城さんは、いつものように、さっと視線を逃した後、ゆっくりと確かめるようにも恐る恐るといった風情にも採れる仕草で此方へと顔を向けてきた。
「え、と、ね、だから、お父さんも莉音も、全然全然、嫌じゃないの。嬉しくて恥ずかしくて、それで逃げちゃっただけだから」
「解りませんが了解しました」
此処は真相究明不可だったので、ニュアンス理解で頸肯する。
「それに、二人共戻ってきていますよ。如何します? 呼びますか?」
閉じられたドア裏に陣取って、言い合っていた。閉めたといっても、きっちり閉めていった訳ではなかったと、其方を注視しないよう努めながら、奥津城さんを促す。今は鎮まった言い合い内容は告げる可きだろうか? 流石の仲良し一家で、奥津城さん一人じゃ可哀想だ、と父娘。言い合いになったのはその後で、娘の父親には辛過ぎる、姉の恋人を諦める妹には辛過ぎる、と、どちらが奥津城さんに付きそうかで揉めていたからだ。しかし奥津城さんの言葉とはいえ、本当に、俺は退座しなくて良いのだろうか。
「その、奏爾君、時間貰えるか?」
ドアを半ば開け、お父さん。下には妹さんも顔を覗かせた。
「慣れるのに、な、ほら、時間掛けて徐々に、と、さ。性急なのは、ほら、良いことじゃないだろう?」
「そうですね。お二方に繰り返しこれから幾度もお会いできるとなれば、愉しみで仕方ありません」
あ。音を立て、今度こそ、ドアはきっちり閉められた。妹さんの頸引込めタイミングもばっちりで。
さて。歓迎されているのかされていないのか。判断に悩んで、奥津城さんを見遣る、と、ちょっと、とっても可愛らしい顔をしていた。いや、あまり良い表情ではないのだから。しかし、少しく唇を尖らせたところは、初めて見る表情なだけに、魅入られてしまう程に愛らしい。
「ずるい」
ぽつんと独り言のように紡いでから、此方の同意を得るようにか、もう一度言って、ね、と付け足した。
済みません、趣旨は全く。けれども、とても、とてつもなく愛惜しい気持ちが沸き上がる余りに、はい、と応えるのが精一杯です。
最後迄お読みくださり誠に誠に有難うございます。
全編読んでくださっても束の間時間でしょうが、あなたの貴重なお時間の、暇潰しネタにでも成れていたなら幸いです。
宜しければ、評価等していただけたら嬉しゅうございます。
さくっとな( ・_・)ノ⌒●~*
駄目?