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その1前章 姪っ子千香子の捜索事件簿

 案内所の女性は笑顔で

「岩屋山は対岸の向島にある102mくらいの比較的登りやすい山でこちらからだとフェリーが頻繁に出ておりますので移動を考えてレンタサイクルをしてから向かわれると良いと思います。自転車と一緒に乗れますから安心してください」

 と告げた。


 千香子と孝志は顔を見合わせた。

「「レンタサイクル」」


 未知の土地ではお勧め通りにするのが良いだろうと、駅前のレンタサイクルで自転車を借りて二人はフェリー乗り場へと向かった。


 そこから数十分毎に出ているフェリーに乗り、向島へ行くと自転車で岩屋山を目指した。


 太陽は燦々と輝き地上を照り付けている。

 岩屋山までは10分ほどで辿り着いた。

 本当に近かったのだ。


しかも。


 千香子は自転車を止めて鍵をすると

「…低い」

 と呟いた。


 孝志も頷いて

「まあ、ちょうど良いハイキングだな。サイクリング時間も入れて」

 と答えた。


 それでも山と言うだけあって木々は茂り、空気はひんやりとしていた。


 2人は土の道を歩き、ごつごつと所々にある巨石を見ながら天岩戸と言われる口のような形になっている岩の前へたどり着いた。


 孝志は笑顔で

「おおー、ここで雨宿りできそうな感じだな」

 と中の方へ少し入って見回し

「頂上まで歩いて後10分ほどだから行くだろ?」

 と告げた。


 千香子は頷いてのんびりと天岩戸を出ると頂上を目指した。

 登り切ると竜の頭のような岩があり2人はそれを見て漸く冷静になったのである。


 千香子は孝志を見ると

「竹林……なかったね」

 と告げた。


 孝志も冷静に

「ああ、叔父さんもいなかったな」

 と答えた。


 つまり、ここではなかったということである。

 二人は山を下りると自転車に乗ってフェリー乗り場へと戻った。


 時間は午後4時。

 まだ明るいが、宿を探さなければならない。


 千香子は再び観光案内所に戻ると

「あの、この周辺で宿屋はありませんか?」

 と聞いた。


 案内所の女性はパンフレットを見せると

「何軒かありますよ」

 と告げた。


 海側に建つ全室オーシャンビューのホテルに、坂の途中にある民宿のような宿を含めて6軒ほど勧められた。


 孝志はその一つを見て

「海の道って宿で良いんじゃないか? 駅にも近いし海にも近い。しかも夜はバイキング形式」

 と告げた。

「値段も1万」


 千香子は「そうね」と答えて海の道という少しこじんまりとしたホテルに電話をして予約を入れた。


 そして、観光案内の職員の女性が

「そうそう、先は向島ってお話だったので渡しそびれていたのですが、一泊されるのでしたらこれをどうぞ」

 と2人に大きな周辺地図付きの尾道観光案内チラシを渡した。


 孝志はそれを受け取り、案内所を出ると

「明日はお好み焼きを食べてから東京へ戻りたい」

 と呟いた。


 そのためには謎を解いて千香子の叔父と会わなければならないのだ。


 千香子は息を吐き出して

「徳と竹と巌……か」

 と呟いた。


 孝志はそれに

「石に書いているっていうのもヒントだろうな」

 と呟き、案内チラシの一角で手を止めると目を見開き

「俺、わかったかも」

 と告げた。


 千香子は目を見開くと

「へ?」

 とチラシを見た。

「猫の道? ポンポン岩? 何? なに?」


 孝志は「おいおい」と言うと

「もう適当に言ってるよな」

 と苦笑して

「俺の予測では2通目の手紙の中には『25』って数字が入っていると思う」

 とビシッと指で示した。


 千香子は2通目の手紙を手に

「え!? 25?? 益々わかんない!」

 と叫んだ。


 だが。

 明日、広島へ行って3人でお好み焼きを食べようと考えると2通目を開けるしかない。


 千香子はカッと目を見開くと

「じゃあ、開けるわ!」

 と言うと封を切ると中から手紙を出した。


『冨 田 下 谷 25』

確かに25と言う文字が書かれていたのである。


 千香子はひゃーと声をあげると

「あった! 確かに!!」

 と孝志を見た。


 孝志は笑むとチラシを見せて

「恐らくこれだ。文学のこみち……徳冨蘇峰、竹田・竹下・伯秀、そして、巌谷小波で25名の石碑がある」

 と告げた。

「千光寺から下へと続く道に25石碑があるって書いている。叔父さんこれを見て書いたんだ」


 千香子は息を吐き出すと

「それで石に書いたのね」

 と言い

「千光寺公園からの眺めが良いって書いてるわ。行く?」

 と聞いた。


 孝志は頷き

「もちろん」

 と答え、2人は千光寺ロープウェイを目指した。


 時刻は夕刻。

 空は茜に染まり2人が辿り着く頃が一番美しい情景となっていた。


 しかし。

 叔父である隼峰宰の姿は無かった。


 ただロープウェイの職員に千香子宛ての手紙がつい十数分前に託されていたのである。

ホンの『十数分前』だ。


『急な仕事が入ったのでまた手紙を送る。大学サボらずに頑張れ』

 少し前までいたのだ。

 それに手紙は暗号ではなく普通のモノで手早く書いたような感じであった。


 つまり本当に急な……イレギュラーな仕事が入ったのだろう。

 それが無ければ……自分を待ってくれるつもりはあったのだ。


 千香子は息を吐き出すと

「あぁ……岩屋山が失敗だった」

 とがっくりと呟いた。


 今回も手が届かなかったのだ。

 2通目を早くに開けていれば……とも思ったが、恐らく案内チラシを見なければ分からなかったかもしれない。


 孝志は落ち込む彼女の肩に軽く手を触れ

「次こそ掴まえればいいだろ。また手紙をくれるって言っているんだ」

 と言い、海の方を指さすと

「ほら、凄く綺麗だぜ。きっとこの景色を千香に見せたかったんだと俺は思う」

 と告げた。


 千香子は茜色に染まる山と海が織りなす叔父の宰が教えてくれた光景に目を見開いた。

確かに綺麗だった。

こんな綺麗な景色を教えてくれたのだ。


きっと。

きっと。


 ……叔父さんが家を出て行ったのは私たちが嫌いになったからじゃないよね? ……

 ……きっと、きっと、そうだよね……


 千香子はそう祈るように心で呟き

「叔父さん、綺麗だよ」

 と呟いた。


 翌日、2人は広島へ行くとお好み焼きを堪能して帰宅の途についた。


 千香子は東京へ帰る新幹線の中で流れる車窓の風景を見つめ

「次こそ、掴まえるからね。叔父さん」

 と心で呟くと、隣で眠りこけている孝志に小さく笑みを零して瞳を閉じた。


 前日の夜。

 彼女の叔父の隼峰宰は新大阪で新幹線を降りると千石村という大阪と和歌山の県境にある村を目指して在来線の列車に乗り込んでいたのである。


 そこで起きている事件を解決するために。


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