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エンディング ~スタッフロール~

ドルチェ・ビート


 早口のニュースが、木陰の丸テーブルに置かれた防水のラジオから流れていた。まず魔王城の陥落、それから代わりにそこに入った新しい君主の名が伝えられる。続いて今回の企画に関わった、膨大な人の名前が発表された。

 椅子に座ったまま、ぱちん、と骨ばって大きい男の手がそれを止める。うっとうしいくらい長い髪は頭のてっぺんでひとつにまとめられて、ポニーテールのようにしてあった。着ているのはちょっと変わったデザインの、半袖の軽いシャツである。そのとなりには子供のような娘が、水着の上に白いパーカーをはおって座っていた。

「やっぱバグだったみたいだぞ。セラフィムに言ってやってくれよ」

 金色の髪をした、こちらも若い男がやってきた。思ったよりもスタイルのいいフーシャの水着姿を見て、口笛を吹く。どかっとあいている席に座ると、やってきたウェイトレスに飲み物を注文した。

「調査は終わったんですの」

 フーシャが口をはさむ。バッチリよ、とサーキュラーは彼女に向かってVサインをした。金髪をしたいとこのフーシャに対する視線があまりに遠慮がないので、魔王は椅子の下で彼の足を蹴ってやった。

「で、セラのやつはどうしたんだよ」

 おろしたての白いズボンの汚れを払いながら、サーキュラーは堅物の、ただし何をおっぱじめるか分からない、紺色の髪を持ついとこに問いかけた。

 セラフィムはあのシナリオを隅から隅までしらみつぶしに見て、あの一項を発見した。同時に入念に設計されたこの世界に、意外にも大きな隙間が開いていることも見つけ出した。キャラクターの自律性、この条項は勝利者への景品でしかないフーシャにも、見事に適用されていた。

「腰が痛いとか言って家にこもっている。無茶をするからだ」

 それを聞いてサーキュラーが笑いこけた。フーシャはびっくりして魔王に聞いた。

「えっ……看病してあげなくていいのですか?」

 今度は魔王ですらおかしそうに笑った。

「姫。神々をどうやって看病するおつもりだ。それにセラフィムの家には今入れぬ」

 フーシャ姫は勝利者のしるしだ。ただし、フーシャを手に入れることと物語の勝利者になることはイコールではない。この部分は関連づけて構築されていないのだ。ゆえにストーリー上で敗者となっても、フーシャさえいれば消去はまぬがれる。

 おそらくプログラム上のミスであろう。セラフィムが見つけ出したのはここだった。自走するフーシャの感情に賭けたのは魔王である。そしてその大博打に彼は勝った。

「ついアツくなってやりすぎたと言ってたな。俺が拾いに行ったときは本体のまんま、床にでっかくのびてた」

 サーキュラーが笑いながら言う。彼は適当に最終戦を切り上げ、白髪の従者を助けにいった。レベルアップしたジーク達には手応えのない戦いだっただろう。

「もうちょっと真面目にやれ。おかげで私が大変だったのだからな」

 魔王の本性は黒いドラゴンだ。戦闘後、力尽きて倒れた巨大な竜に、フーシャは泣きながらとりすがった。

「魔王様! 起きてくださいまし!」

 そこへ大変な苦労をしてサーキュラーがセラフィムを引きずってきた。人のままではとうてい無理だったから、巨大な金色の蜘蛛のすがたで現れた。フーシャが肝をつぶしたのはいうまでもない。

「俺だ、俺」

 金蜘蛛が言ったが彼女には分からなかった。ジークが泣いているフーシャのところにやってきて、その手を取る。強引に腕を引っ張り、竜から引き離そうとした。

「いやですわ」

 彼女はその手を振り払った。こっちへ来い、と彼はさらに強い力でフーシャの腕をつかむ。

「あなたなんかだいっきらい!」

 彼女は大声で叫んだ。それが進行上の合図になった。


「ここはどこなんだろうな」

 海からの風に吹かれて、デッキチェアに寝転がったサーキュラーが聞く。同じようにデッキチェアに転がった魔王が、さあな、と答える。フーシャは砂浜を走って泳ぎに行ってしまった。のんびりとした、それでいてテンポのいい音楽がどこかから聞こえてくる。

「どっかの南の島だろう。隠しファイルかもしれん」

「ワンシーン、丸ごとか」

「そんなこともあるかもしれんな」

 白い髪と赤いマントの従者が、くつろいでいる彼らの前に突然、出現した。いやー参りました、と相変わらずのんびりとした口調で、魔王とサーキュラーの前にやってくる。

「もういいのか」

 なにごともないように魔王が聞いた。彼は

「ああいうのはしばらくやりたくありませんねえ。わたくしももう年ですし」

と、いつものように返事した。

「なんで神サマ、辞めちまったんだ」

 そう聞くサーキュラーに、セラフィムは笑って答えた。

「みんなの願いを聞くのは大変なのですよ。魔王様ぐらいでしたら楽なものなんですが」

 魔王がおや、という顔をする。

「この島はお気に召しましたか」

彼は自分の主人に、紅茶のいれぐあいを聞くのと同じような調子でたずねた。

最後までお読みいただきありがとうございました。


続編はアラウンド・ザ・シークレット2になります。

そちらもぜひ読んでいただければと思います。

毎週土曜日更新予定です。

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