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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

えぇ、壁になりたいとは言いました!

作者: 音乃 響

 皆さんは同人誌即売会ってモノをご存じだろうか。

 コミケでしょ?知ってるわ、ニュースで見たことあるもの。

 ちっちっちっ。甘いね。

 コミケはコミックマーケットの呼び方で、数ある同人誌即売会の一つでしかないの。まぁ代表格ではあるんだけどさ。


 ……いきなり独り芝居を始めてごめんなさい。

 そして自己紹介をさせてください。

 私の名前は古味啓子(こみけいこ)ぎりアラサーを名乗れる三十代。彼氏いない歴十年以上。高校生の頃つきあってた彼氏と大学進学の前にお別れして以来無しよ無し。いや私としては今の年齢ではとっくに結婚して子供も産まれてるかな?位の人生設計だったけど、仕方ないわ、出会ってしまったの同人活動と言うものに。

 最初は高校で知り合った親友の優美。彼女に手先の器用さを見込まれて同人誌作りの手伝いをさせられたこと。それまで漫画読むもので自分で作るなんて思いもしなかったし、そして二次創作という存在があるとは思ってもみなかった。

 初めて彼女の原稿で男同士のアレやソレを見た時には一瞬息が止まるかと思ったわ。

 そりゃ世の中同性愛者は居るのは知っていたし、体と心の性別が逆って人も居るって知ってて、周囲には居ないけど、もし出会っても差別はしないでおこうって、思っては居た。好きな男の子が男の子が好きってなったら太刀打ちできないから嫌だけど。

 

 そしたらね、周囲のクラスメイトの数人の仲良さに、なんだかこう、もやもや?どきどき?しちゃうようになって。優美に話をしたら「あんた素質あるよ!」と肩叩かれて喜ばれたけど、なんじゃそれと思った。その内彼と彼の親友のやりとりに一々心の中で突っ込むようになって。仲良すぎよあんたたち!もしかして秘められた恋心あるんじゃないのーと絶叫しそうになって。

「変わったな……啓子。何だか好きになった啓子じゃなくなった気がする。お前遠くへ行った感じだよ」

 何て言われて別れた二年生の晩秋。これからクリスマスイベント待っているのに!プレゼント交換したかったのにと泣きそうになった私に優美は年末に向けてこれから原稿佳境だ、手伝いよろしく~なんて言って笑ってた。売り上げから1月にバイト代と結構な金額を貰って嬉しかったけど、失恋のショックに弱っている私を慰めもしなかった優美! 一生恨んでやる! って思ったものよ。


 それからは自分でも描いて見たくなって。小学生の頃には公園の絵と動物園の絵で金賞を二回取っている私、ちょちょいと練習すれば出来る!とか甘く考えたけどそれはチョコレートフォンデュに大福突っ込んで食べる位に甘かった。

 優美の同人仲間で別の高校に通う照美がレクチャーしてくれてペン入れをアナログでするよりもういっそデジタルでやるようにすれば良いんじゃない?と指導してくれた。

 初期費用は今まで貯めたお年玉ほぼ空になる位突っ込んだ。スキャナーなんて人生初で使ったよ。


 イラストから始まって、漫画にも挑戦するようになって。優美や照美の作る本へのゲストから二人誌、合同誌を得て個人誌と。イベント参加も彼女たちのスペースに1冊置いて貰うことから自分でスペース取るまでになって。実は大学へのランクも一つ下がってしまったけれど無事大学生になれて学生時代はどっぷりと同人活動が私の生活の中心だった。

 社会人になって最初の数年は同人活動どころじゃなくなって、読み手でしか無かったけれど、落ち着いたらもう発散しないとやってられない位同人活動へ戻りたくて。


 それなりに同人即売会にも出た。コミケだって出たし、ほかの全国展開している企業開催の即売会も出たし、プチオンリーを開催もしたしオンリーも出た。人気もそこそこあったのよ。午前中で完売も経験したし、即売会スタッフが列整理してくれたこともあった。


 そうなると壁が見えてきた。

 壁。壁サークル。

 もうもう超人気で、お客が途切れず他のサークルの邪魔になっちゃいけないから広いスペースでお客を待機できるように列の途中じゃなくて壁に配置される。壁サークル。憧れるよね。

 自己認識だけじゃなくて他からも「あそこ大人気サークルよね」って見て貰えてるってことだもんね。同人活動して本出すってことは自分の萌えを他の人に言いたい布教したい一緒に盛り上がりたい訳でそして承認欲求だってある訳で。

 壁サークルになったらそれがすべて叶えられるってもんよ。


「顔色悪いよ?大丈夫?」

 現行制作佳境の頃陣中見舞いに来てくれた優美が、差し入れのプリンをくれながら小首を傾げる。

「明日入稿したら寝る。暫く睡眠時間3時間が続いててさ」

「うわー、あんた会社の事務所ビル移転で残業もえぐいんでしょ?無理しちゃだめよ」

「うん、まぁ頑張る。あんたも子供夜泣きはまだまだあるんでしょ?早く落ち着いて同人復活出来ると良いね」

「そうね、まぁ私は遠征行くのは数年単位で無理だから、ネットで細々と萌の発露に努めますよ」

 ……数年前に結婚をした優美は主婦業が大変になっていて、一緒に遠征に行くこともめっきり減り、妊娠が判明してからはお茶をする程度でがっつり夕飯や泊りで遊ぶ事は出来なくなっていた。

 照美は仕事の都合で本州から出て温泉天国の地で働いている。私だって部下も出来て仕事も増えて本を一冊作るのにかかる日数が大幅に増えてしまった。徹夜だって出来なくなったし。


 それでも壁サークル目指してもっともっと認知されたいって私の気持ちは消える事は無かった。

「壁ってそれほど良いものでもないと思うけどな。私はお客さんと少し雑談も出来るし隣になった初めての作家さんとお喋りできたりする交流楽しいけどなぁ」

 壁への意欲を口にするたび優美は苦笑を零す。優美はそれが楽しいんだろうけど、私はいつか壁!ってのがモチベだからね。人それぞれの楽しみ方ってもんでしょうと結局はそこに話は落ち着く。


 実際壁サークルはコミケ以外であれば三回配置されたことがある。その時の旬ジャンルで、旬カップルで、今まで別ジャンルでの売り上げ動向を鑑みオンリーが初開催位の次期だと様子見でか、壁に配置されたのだと冷静に判断できる。二度連続で配置は未だ無い。

 あぁ壁常連になりたい。

 私の作品を認めて欲しい。


 入稿も終わって、会場へ配達もお願いしているしと安心していたら見本誌が出来上がって驚愕。左右逆になっているページを発見した。うわー!山場じゃん、攻めの決め顔が右ページにどん、きゅん!ときたどきどき受けの可愛い顔が左ページに来なくっちゃ!いやーっありえない!

 急いでその2ページをプリンタ出力して部数分構えて、これ朝会場で挟み込んで売らなくちゃ!一々説明は無理かもだからお詫びのメッセージカードも作らなくちゃ!

 イベント前日貫徹で迎えた。好きな作家さんへの差し入れお菓子とお釣りの小銭は絶対忘れちゃいけない。化粧もしなくちゃ、クマが酷い。何もしなくても構わなかった十代は遠い日々ね。朝食取る暇なんか無い。眠気覚ましにブラックコーヒーの缶を冷蔵庫から取り出し飲み干して出発。


 ……その後の記憶が無い。

 今、私は壁になっている。


 多分このイベントはコミケだと思う。規模から言って。

 私は壁。

 えぇ壁サークルではなくて壁です。


 私の目の前にはサークル主の背中。背中の前に在庫が入った段ボールがあるけど。

 その段ボールから覗くのは肌色多めのくっころ女騎士。

 えぇ目の前のサークル主は男性。男性向け十八禁作品販売しているサークル。そ、それもよりにもよって昔ながらのオタク男性として描写される典型的な様子。チェックのネルシャツの前をあけてTシャツ見せてボトムの上にお腹の乗った奴と、伸びっぱなしの肩口までのロングヘアでメガネのやせっぽち。

 麗しくない~~、泣きそう。泣いたって涙で無いけど。壁だし。

 どうせなら同じジャンルの女性向けだったら、垣間見える同人誌の表紙で脳内妄想捗るのに!


 多分私は死んだんだ。で、壁に転生したんだ。

 もしかして神様、サークルになりたいって言う私の望みを叶えてくれたの? 端折っちゃって悪いけどかっこの中が大事なポイントなんですよ、神様。

 あぁ何てこと。私の危ない同人誌の在庫の数々、出来れば優美が処分してくれると良いんだけど。お母さん見たら卒倒する。まさかこんな作品描いてるなんてきっと思っても居ない。

 あ!私の最後の新刊どうなったんだろう。売り子頼んでいたミィちゃん対応してくれたんだろうか。そして対応してくれたとして、山場の攻めのページは逆のまま!

 ひどい。こんな最後なんてあんまりです、神様。

 私そんなにひどい事していないと思うんですけど、神様。


 こうなったら仕方ない。目の前のオタク男性二人でどっちが攻めか受けか妄想頑張ってみるしかないかも。

 壁サークルになりたかった。壁だけど壁になりたかった訳じゃないんです、神様!


転生で無機物になってしまったので。人によっては残酷な描写になるかな?と思ってチェックしましたが、期待外れだよって人居たらごめんなさい。

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