クラス
休日、サラと一緒に博物館に行った。椅子に座りサラは携帯を操作していた。
「サラ、何やってんの?」
「出会い系アプリよ。」
「私達、まだ未成年よ。そんなことしちゃ駄目よ。知らない男に会って、暴行受けたり、殺される危険性だってあるの。私の従兄の学校でもそれで殺された女の子がいたの。」
「会うわけではないし、写真も載せてない。チャットがしたいだけなの。ハーパーとかにはこのこと言わないで、全力で止めそうだから。」
確かにサラは私のいない時間は退屈そのものだろう。
「出会い系に全力注いでるわけじゃないから。動画とか見るのも楽しいし。」
「趣味がいっぱいあるのね。休憩はおしまい。まだまだ続きあるから見ようよ。」
「分かったよ。」
たくさんの陶器が展示されていた。フランスや中国の青磁のものまでたくさんだった。一通り見終わると博物館を出て、一緒に小さなレストランで食事をした。
「ゾーイ何か学校であった?」
「実は私をいじめてた主犯格のクラスメートが自宅で自殺したの。突然だったから驚いてるの。」
「でも心のどこかでいじめっ子が一人減って、安心してるでしょ。」
「こんなこと考えちゃいけないけど、正直安心してる。」
「人間そんなキレイなもんじゃないわ。反省しない人間が死に際に助けを求められようが、何もしない人間が多いと思うよ。そんな聖人な人間なんて中々いないよ。世の中には聖人のように見せかけている人が多いわ。もう私にはそんな心はないわ。それより私、新しく朝方で配達のバイトはじめたの。」
「大変だね。」
「大したことないわ。この家もゾーイの親にバレたら、追い出されるだろうし。」
朝方はサラのいない日があった。そんな時はサラのイラストを描いたり、サラの人形を見つめていた。向こうはどう思ってるか分からないけど、サラが来てから家にいる時は明るくなった。
学校に通学中、バスには主犯格のクラスメートはいなかった。最近、車で通学してるみたいだからその時ばかりは安心だ。学校に着くとまたルーシーとミラとその取り巻き達に捕まった。
「あんたまだ学校来てるの?アダムに振られたのに、まだいじめが足りないわね。どんどん泣かせてやる。」
「前から気になっていたけど、これ何?」
ミラはサラの人形を触って引っ張る。
「自作の人形だよ。とても大切なものなの。返してくれない?」
「何趣味の悪い人形。」
ミラはひたすら人形を引っ張っていた。
「触らないで。返してよ。」
「こいつ、必死すぎる。何、本気になってるの?」
「本当にダサくてありえない。」
ルーシーと他の取り巻きの女子達は一緒に笑っていた。
「もう良いでしょ。」
「返すわけないでしょ。」
ミラは思いきり人形を引っ張り、人形の顔は取れてしまった。
「私の人形が。」
ミラはルーシーに人形の顔をパスした。私は必死になってルーシーから取り返そうとした。しかしルーシーも他の女子にパスした。
「これを返して欲しければここまで来な。ジョセリン。」
どんどん色んな人の手に回る。今度はミラが胴体を誰かに投げる。私は涙が止まらなかった。途中でアダムも来て、サラの人形の顔と胴体の投げ合いっこに参加した。どんどんエスカレートしていく。
「返してよ。」
「走ってる走ってる。」
皆で私のことを笑う。終いにはミラが人形の顔と胴体を遠くに投げ捨てた。
「私の人形!!」
私が走ろうとすると、ミラとアダムが私の足を引っかける。顔をあげると、二人は抱き合っていた。
「ねえ、あんたがアダムと付き合える確率なんてゼロだから。アダムは美しい女の子しか興味ないの。分かったら、アダムに手を出すのやめて。不愉快だから。」
「私は何もしてない。」
「こんな女と付き合うなんて、地獄の時間そのものだな。」
「勘違いもうんざり。あんたと付き合う男なんて一人もいないんだから。」
「それ言えてる。もうこんなやつおいて行こう。」
皆、人形を拾うことなく立ち去る。フランクがいなくなっても私の立場は変わらなかった。クラスの頂点がいなくなると、また新たな頂点が生まれる。高校はそんなものかもしれない。
「あそこだわ。」
人形の胴体と顔を拾おうとしたら、誰が拾ってくれた。
「サラ。今日はバイトお休みだったの?」
「うん。それよりこれ大事なもんだろ。すごい無惨な姿だけど、渡すね。」
「ありがとう。」
サラを追いかけようとしたら、もういなかった。
「学校にいるといつも消えるのが速いのね。」
サラはこの後何するつもりなのか。
家に帰ると、ハーパーが待ちかまえていた。
「おかりなさいませ。お嬢様。サラお嬢様が部屋で話があるみたいで部屋で待っております。」
「分かったわ。」
部屋を開けるとサラが待っていた。サラはスマートフォンで何かを見ていた。
「何見てるの?また動画?」
「動画じゃないよ。ライブ配信よ。最近流行ってるでしょ。特におしてるライバーとかいないけど何となく見てるよ。」
「よく分からないけど、そうなのね。サラもライブとかするの?」
「私は別にしないよ。ライバーは所詮、欲深い奴らの集まりよ。」
「そんな人達ばかりではないと思うけど。それなのに、配信見てるの?」
「流す感じで見てる。それにそんなに没頭もしてないし、課金してギフトを投げるなんてしないわ。それならストリートパフォーマンスに投げ銭する価値あるわ。」
サラは携帯を投げ飛ばした。
「それでハーパーから聞いたけど話って何?」
「次のターゲットは決まったの?あの二人を倒してもまだまだ心が晴れなそうな感じがするけど。」
「まだ決まってない。」
「ここでやめるのはもったいないわ。ゾーイが嫌な人間なんて本当はいくらでもいるの知ってるんだから。」
「嫌というか、いない方が良いと言うか。いない方が安心するの。」
思わず口に出てしまった。
「ついに言っちゃったね。」
私は人形の壊れたパーツを縫いながらサラに話しかけた。
「それより今日はありがとうね。」
「何?急にどうしたの?」
「学校で人形壊された時、拾うの手伝ってくれたんじゃん。」
「私、今日一度も学校行ってないよ。」
「確かにサラだったのに。この前も荷物拾うの手伝ってくれたよ。」
「私は学校の中に一度も入ったことないわ。他の誰かと私を混同してるんじゃないの?」
不思議だった。あの姿はサラそのものだったのに。
「それよりその人形がどうしたの?」
詳しくサラに事情を話す。
「誰だがよく分からないけど、その女が次のターゲットね。」
「分かったよ。サラに付き合うわ。でも今日は宿題とかやんないとなの。今度ね。」
「ゾーイは勤勉ね。」
人形を縫い終わると、自然と笑顔が戻った。気がついたら、教科書の片隅にもサラの絵を描いていた。
3日後、学校に行くと学校の生徒達が騒いでいた。何かとんでもないことが起きたような雰囲気だった。
「皆、授業は始まってるのよ。先生が話すから教室に入りなさい。」
皆は先生言われ教室に入るが話すのをやめない。
「皆、静かに。今朝、ニュースでも見た人もいるかもしれないですが、クラスメートのルーシー・コリンズさんが見知らぬ女性に刺し殺されました。女性はまだ逃亡中で、詳しい身元も分かっていません。残念ながらルーシーはもうこの教室に戻れないの。何か心当たりがある人は先生まで報告ください。」
「犯人の女、捕まってないんだって?何で殺されたのかも分からないじゃん。」
「そんなのあんまりよ。」
クラスメートはそれぞれ思うことがあるようだ。私は心のどこかで安心感を感じた。駄目だと分かってる。でも一人いじめっ子がいなくなると、やっぱり解放された気持ちになる。
「皆さん、女性はまだ逃走中です。いつあなた達も刺されるのか分からないんです。くれぐれも夜の外出は控えるように。」
その日はすでに二人もクラスメートが亡くなった為、クラスはどんよりだった。今日も天気が悪い。




