同居
「ハーパーちょっと来て。」
「何ですか?お嬢様。」
「私、呼んだ覚えないよ。どうして彼女がここにいるの?」
私はすごい疑問に思った。どうして彼女が私の家が分かったかもよく分からなかった。
「ちょっとどうしてここにいるの?」
「悪いかしら?名前も名乗らないなんて失礼ね。私はサラよ。分かってるとは思うけど、君がこの前見てみぬふりしたホームレスの女の子よ。昨日ちょうど17歳になったわ。」
なんとサラは私と同い年だった。彼女はそのままバスルームに入ってしまった。
「ちょっと待ってよ。何で勝手にシャワー借りてるの?」
「私が許可しました。」
「招待してもないのに、勝手なことしないで。ここは私の家なのよ。」
まさか家に知らない間にあがって来たことに私は混乱している。
「久しぶりのお風呂でさっぱりしたわ。」
「あっ、それ私の服よ!何で着てるの?」
「この服、可愛いわね。いい趣味してるじゃん。」
キャラクターもののTシャツにジャケットを羽織っていた。
「安心して、私が前着てた服は全部外に捨てたわ。」
彼女は何事も無かったかのように、ドライヤーを使った。
「ちょっと、ここはあなたのお家じゃないの。」
「分かってるよ。でも私家ないんだよ。」
「だからって、そんなのメチャクチャだよ。」
ハーパーの所に行って、事情を確認した。
「彼女いつになったら帰るの?」
私は家族以外の誰かが家にいるのにかなり動揺していた。今までずっと一人だったから。
ハーパーは作業を中断して話した。
「サラお嬢様は今日からここに同居することになりました。」
「同居?」
「そうですよ。メイドとしての仕事をしただけです。お嬢様のお友達を助けるのも私の役目ですから。」
「それはメイドの仕事と関係ないと思うけど。」
「ずっと一人はお嬢様には良くないですわ。」
「もういいわ。」
部屋に入るとサラがいた。
「サラ、何で私の家知ってるの?」
「実はあとをつけてたの。何だか寂しそうな感じがしたから同居をお願いしたの。」
「そうなんだ。私、いきなりの同居で混乱してるの。」
「大丈夫よ。ハーパーが私用の部屋は別に用意してくれたから。」
「そうじゃなくて。家族以外とどう接していいのか分からないの。」
「考えすぎじゃない?人生には色々あるのよ。そんなことで悩んでたらやっていけないわ。」
「そう言えば、まだ名前言ってなかったよね。私はゾーイよ。この前は見てみぬふりしてごめんね。私、怖かったの。ただでさえ弱い私に何が出来るんだって思ったの。」
「もう過ぎたことはいいわ。」
レディオヘッドのアルバムを彼女は手にとっていた。
「ゾーイ、UKロック聞くの?」
「うん。中学くらいから目覚めたのよ。」
「昔の音楽ね。90年代のよね?」
「そうよ。古く臭い?」
「いや、良いセンスよ。音楽の趣味悪くないわ。表面的な音楽聞いてる連中とは違うわね。」
部屋中大音量で流して聞いて、熱唱した。誰にも怒られなかった。
彼女は私のカバンの方に近づく。私は急いで隠した。
「何で隠すの?」
「何でもないの。」
「何かあるわ。」
「本当に何でもないの。」
「私を絵画だと思って話して。そうすれば怖くないでしょ。」
「とにかくサラに関係ないの。ここは私の部屋なの。あまりしつこいと出て行ってもらうよ。」
私はサラを無理矢理部屋から追い出して、ベッドでひたすら泣いていた。鍵が閉まって、サラは入れなかった。
「ゾーイ。開けて。悪かったよ。あなたと話したかっただけなの。分かってくれる?お願い。」
私は彼女の言葉に答えられなかった。涙が余計止まらない。
「開けてよ。」
彼女は何度もノックしたが、しばらくするとノックをしなくなった。疲れていなくなったのだろう。気がついたら一時間眠っていた。部屋を出るとドアの横にサラが座っていた。
「こんな所で何してたの?」
「ずっと待っていたの。それよりさ、ゾーイ学校で何かあったんでしょ?」
「うん。カバンを友達になれそうだと思った人に燃やされちゃったの。あれは新しく買ったばかりなのに。」
「どうせ誰も話聞いてくれないんだから、私に全部話したら?多分それだけじゃないんでしょ?」
「私、学校で一人も友達いなくて、いじめられてるの。私の顔や地味な感じで皆いじめてくるの。私を見ては無視したり、挨拶の代わりにぶつかってきたり、学校に行くのがしんどいの。入学してから私はずっとターゲットとして高校生活送っていたの。両親の前では平気なフリしてるの。お父さんは私のことは関心なんてないけど。」
「やり返したりはしたの?」
「してないよ。そうすることに意味を感じられないの。」
「皆がいじめてるの?」
「もちろん、見てるだけの人達もいる。どう思ってるかも分からないけど。」
「いじめっ子とか取り巻きのこと、殺したいと思ったことある?」
私は思わず固まってしまった。
「答えないということは殺したいのかな?」
「サラ、何言ってるの?」
思わず、手に持ってる携帯を落としてしまった。
「別に難しいことを聞いてるわけじゃないわ。」
「もちろん。殺したいまでは思わないわ。」
「そう口では言ってるけど、本心は違うと思うわ。本当はあんな連中を抹殺して、安心感を求めるてるんじゃない?」
「サラ、適当なことを言わないでよ。私は殺意なんて人生で一度も芽生えたことないの。」
「気がついてないだけで、積もった恨みは突然殺意へと変わるのよ。心の奥底では本当は憎たらしい連中を殺したくて仕方ないはず。」
サラは私が否定しても、私のことを決めつけてくる。
「今、きっと決めつけて欲しくないって思ってるはずよ。そうでしょ?」
「そうよ。私は人を殺さないし、恨んでもない。ただ学校に行きたくないだけなの。」
「口では言うのは簡単だわ。たとえいじめてる連中に殺されそうになっても同じこと言えるかしら?今日だって、カバン燃やされて死にそうになったんでしょ?まあ今の自分をどう受け止めるかはゾーイ次第ね。」
「その時にならないとそれは分からないわ。」
「そう言うと思ったわ。今はこの世界は法律という傘の下で犯罪を犯したり、人が殺せなくなってるの。自分は善良な人間だと言い張っている人も、明日法律も何もない無秩序の世界になったら本当に人を殺さなかったり、罪を犯したりしないのかしら?大体の人間は口だけだわ。」
確かにそれはサラの言う通りかもしれない。周りの大人とか見ても同じような感じだ。自分の本質を分かりきらず、都合の良い仮面を被った大人を確かに何人か見た。私の父も、私の通知表の成績とかを見て、昔の自分の成績を見せたり、優秀さをアピールしたりして、もっと私に努力するように言う。さらにちゃんと勉強しないとまともな大人になれないと言う。でも口でそう言っていても、私の外見を心の奥底で見下したり、成績以外私に無関心でいじめられていることすら知らないのが正しい大人の姿なのか疑問に思うことはあった。
「ねえ、一つ聞きたいことがあるの。」
「何?」
「何で人を殺しちゃいけないか説明できる?」
「それは痛いからだよ。望んでいない痛さで人生があっという間に終って台無しになるからだよ。それに残された遺族に深い悲しみを与えるからよ。」
「それもそうね。倫理的にはそうかもしれいけど、根本的な部分を説明するなら、損するからよ。一度人を殺したら、犯罪者として誰にも愛されず生きていかなきゃいけないし、人の恨みを買って、殺されるリスクだって誰よりも高くなるわ。頭が良かったら、そんなことなんて出来ないでしょ。」
喉が乾いたので、キッチンからジュースを持って行って、サラと一緒に飲んだ。
「行きたくない学校を乗り越える方法教えてあげる。妄想の中でいじめっ子や取り巻きの連中を殺すのよ。痛みも損することもないし、ゲームみたいで楽しいでしょ?」
「そんなことしても気持ちが晴れないよ。」
「何ごともやってみないと分からないわ。さっき私の質問に対して、その時になってみないと分からないって言ったでしょ。妄想殺人もやってみないと分からないわ。」
私は妄想殺人にあまり乗り気じゃなかったし、私の理想像のサラとはかけ離れていた。しかしそれでさらにサラと親密になって、もっと深く知れるなら、やってみても悪くないと考えた。
「今日は一緒に寝て良い?」
「良いよ。」
私は同じベッドでサラと一緒に寝た。ランプが消える。




