恋
「ゾーイ、どこ行くの?土曜日に一人でどこに行くの?いつも家にいるのに、一人で外出なんて珍しい。しかもいつもよりおしゃれなんて。私も行ってもいい?」
「サラが行っても面白くないわ。手芸クラブに行くのよ。」
「そんなこと聞いたことないけど。」
サラが不思議そうに見る。私は慌てて映画館まで行った。イーサンはすでにそこにいた。
「お待たせ。待った?」
「5分くらい待ったよ。気にしてないよ。もうチケット持ってるから、入ろう。」
見ていたのはよくある恋愛映画だった。全く関係ない男女が運命的な出会いをするお話だ。映画館は真っ暗で、機械の中に入ったかのような感覚だった。映画で抱き合うシーンがあった。その時、私とイーサンの手が暗闇の中で触れ合う。二人しか分からないボディーランゲージだった。ゆっくりと彼の手をくすぐる。激しく抱き合うシーンになると、彼は手の平を激しくこすった。どんどんあつくなる。映画が終わると何もなかったかのように外に出た。近くの飲食店で外食をした。
「さっきは手が激しく触れ合ったけど、何だったの?」
彼が私に聞く。
「本能的なものよ。嫌ならすぐに映画館出てるわ。」
「俺も本能的に手を動かしたよ。」
「本当はあんなことしたのはイーサンのこと好きだからよ。ずっと気になってたの。」
「分かったよ。君と付き合うよ。」
私達はすぐに友達から恋仲に変わった。映画の前まで行って、私の唇は彼の唇に軽く触れた。お互い正式に付き合った。
家に帰ると警察がたくさん来ていた。
「うちに何のようですか?」
「君のお父さんにようがあるんだよ。今すぐ、変わってくれないか。」
「父なら今、会社で家にいませんが。」
「嘘ついても無駄だ。」
「嘘じゃありません。それなら今どこにいるか言いましょうか?」
会社の所在地を知りたいみたいなので、彼らに教えた。サラと暮らしてるのが警察にバレたらとんでもないことになる。こっそりと家に出ないようにとサラにメールした。ちょうどハーパーも家に戻った。
警察達はすぐにいなくなった。
その日の夜、お母さんが慌てて家に入った。
「ヤバイ、サラ今すぐクローゼットに隠れて。」
「また?今日は忙しいね。」
急いで母に会うと、すごい真っ青だった。
「落ち着いて聞いて。お父さんが逮捕されたの。」
「何で?」
「未成年の女の子2人くらいと関係を持ったみたいなの。そのうちの一人はこの前亡くなったクラスメートのミラちゃんよ。」
「嘘でしょ。嘘だと言ってよ。何でそんなこと言うの。」
私は声を荒げた。
「全て本当のことよ。そんな馬鹿げた嘘を大事な娘の前で言うわけないでしょ。」
「大切だと思うなら、そんなこと言わないでバレないように隠し通してよ。知らないで人生を過ごしていた方が幸せだった。どんなに私を愛していなくても、ただ一人しかいない父親には変わりなかったから。」
私は涙が止まらなかった。何で私ばかりこんな目に合わなきゃいけないのかと思った。
「お父さんには本当に絶望して言い返すのを諦めてたけど、少しはいつか前のように私の絵を見てくれるお父さんに戻ることを望んでいた。」
私は自分の部屋から1枚の絵を持って来た。
「どうしたのよ。」
「こんなものもういらない。」
私は泣きながら、家族全員が描かれている絵を破った。
「何をしてるの?やめなさい。」
「嫌だよ。もう必要ないんだよ。」
「絵を破るなんてゾーイらしくないわよ。」
母は私を必死で抑える。
「この絵をどうするかは私が決めるのよ。もう子供じゃないの。」
「分かってる。もう一人で考えられる歳だって分かってる。でも歳をとってもあなたは私の大切な娘なのよ。」
「嫌だ。もう誰にも私は止められないの。」
「今、ゾーイがどれだけ苦しいかはお母さんが一番分かってる。でもこれだけは覚えておきなさい。嘘をつくのは自由だけど、いつか絶対に明かされる。嘘をつくのは、偽りの自分でずっと居続けることなの。ハニー、そうならないようにそれをちゃんと覚えていなさい。」
お母さんの方がお父さんに裏切られて、本当は私以上に辛いはずなのに、どうして私のことがそんなに心配なんだろうか。とにかく涙が止まらない。
「私はいつまでもゾーイの幸せを願ってるからね。」
「うん。」
私は母親に抱きついて、すごい泣いた。涙が床にたくさん落ちた。
「お母さんは辛くないの?」
「あなたが無事なのが何よりなの。」
本当は辛いのは分かってる。でも今まで生きていて一番母親の愛を感じた。
一方私の父は半年前からミラともう一人の女の子と関係を持っていた。もちろん接触し合う関係も。二人には物品を与えたり、お金を渡したりをしていた。私より知らない女の子とミラの方が大切だったと思うと、胸が苦しくなる。私は愛されてなかったと自分に再確認した。もちろん父を部下として信頼していたミラのお父さんは物凄い怒っていた。もうあの人には逃げ場などない。
部屋に戻ってサラを解放した。お互いとっさに抱きついた。
「サラ、もしかして聞いてたの?」
「聞こえてないけど、顔見ればゾーイの心なんてお見通しよ。」
「お父さんが逮捕されたの。」
「そう言うことだと思ったよ。愛されてなかったんでしょ。」
「うん。」
「期待したくなる気持ちは誰にでもある。だけどね、前にも言ったけど人を期待すれば裏切れた時に大きな傷を負うことになる。ならば最初からそうしなければ良い。」
「サラは誰にも期待してないの。」
「そう言うわけじゃないわ。70%くらいは期待してる人なら一人いるわ。程々に期待してるの。」
「私はサラみたいに出来ない。私、昔から人のこと期待したり、信じたりしやすいの。世間の言う凄い騙されやすいタイプかもね。」
「ゾーイのそう言う所嫌いじゃないわ。」
サラは私の背中をさすった。よく考えると、サラの昔のことはホームレスだと言うことしか知らない。
「サラは幼い時、どんな子だったの?」
「幼い時の頃の記憶なんてどこかに捨てたよ。」
私はこれ以上何も聞かずに、ベッドでくつろいだ。気がつくとサラはうたた寝した。
あれから1週間後、家に帰ると母が珍しく家にいた。
「おかえりなさいませ、お嬢様。」
「ゾーイ、おかえり。」
「ただいま。お母さん、今日は珍しく家にいるね。」
「今日はゾーイに話したいことあるの。」
「もしかして、成績とかの話?」
「そんなんじゃないわ。」
リビングに行くと、父くらいの歳の男の人がいた。
「今日からこの人がお父さんなの。」
彼の名前はスティーブ。
「ゾーイちゃん、絵が描けるんだよね?良かったら今度見せて欲しいな。」
「私で良ければ。」
新しいお父さんは父と違い凄い笑顔だった。デザイナーの仕事をしている人で、私と同じように絵が大好きで、よく美術館に行く人だ。
その日の夜、3人で食事をした。
「ゾーイ学校はどうなの?」
「前は一緒に話す人いなかったけど、最近は仲の良い友達が出来たの。」
「どんな子なの?」
「サラという子よ。私と同じくらいの身長で、頭が良くて、どこか不思議な魅力のある子なの。その子がいるだけで楽しいよ。」
「良かったね。最近明るいから、良いことあったのかなと思ったよ。」
新しいお父さんは私達を見て、微笑んでいた。その様子を見て、とても嬉しかった。
部屋に戻るとサラがスマホを触っていた。
「駄目よ。クローゼットにいなきゃ。」
「別に良いでしょ。ここまで入ってくるわけないし。そう言えば、あんたのお母さん再婚したんだね。」
「うん。凄い優しいお父さんだよ。」
「良かったね。私もゾーイと姉妹だったら良いな。」
「私も時々そう思う。」
アルファベットのパズルが床に転がっていた。そのうちの一つを拾う。
「そう言えば、もう妄想殺人やめようと思うの。」
「どうして急に?またゾーイに危害を加える人間なんてまた現れるんだよ。」
「よく考えたら、妄想殺人してから周りで奇妙なことがたくさん起きてるの。クラスメートが死んだり、両親が離婚したりしてるの。今までじゃそんなことが立て続けに起こらなかった。」
「そんなのただの偶然よ。私は超常現象とか信じないの。」
「でもおかしいよ。これ以上続けたら、また誰かに不幸がふりかかるかもしれないよ。」
「ゾーイは優しいね。でも奴らがいなくなって、心の奥底では同時に安心してるの私は分かってる。人間そんなに都合良く出来てないから。」
「しばらくはこんなことしないから。」
「ゾーイがそんなに頑なに言うなら、仕方ないわ。」
そのままサラは自分の部屋にこもってしまった。




