姉に想いを馳せて2
三年前、家族が離れ離れになってから、結局連絡が取れるようになったのは零佳のみであった。零佳以外の身元は全く音沙汰無く、極端に言えば「今も生きているかどうか分からない」といった状態である。
夏希は当然連絡は取れないものとして、他の皆は一体どうしているのだろうか?
願わくばどこかで無事に生活をしていればそれでいいのだが、このまま一生会えないのでは無いかと思ってしまう。
桜はそっと目を閉じ、共に過ごした家族の安寧を祈った。
夏希……今年の夏で二五歳になる。例の事件で言わずもがな。現在は死刑囚として監獄されており、以前は皇室の騎士として名誉ある地位に就くほどの剣術、武術、学術…… 全てにおいて優秀な人物だった。
零佳……今年の冬で二四歳になるはずだ。連絡が取れる唯一の姉である。今現在福島にある温泉宿に勤めている。家では家事ばかりこなしていた為他姉妹のように剣術は長けていないのだろう。だが、それでも秘めた強さを持っている。
弥生……零佳姉さんの双子の妹だ。双子と言っても驚く程似ていない。背が高く姉妹の中で一番スタイルが良かったが、事件前は定職につかずふらふらしていた。とにかく活発で辛い時に慰めてくれた思い出もある。消息は不明だが、やたらとタフなイメージがあるので、どこかでうまいことやっている筈だ。
涼楓……今年で二二歳になる。かなり頭が良く、かつ運動神経も抜群であったことから、何もなければ彼女も皇軍騎士候補になれたのではないかと感じていた。
雫…… 今年で二〇歳。中学校を卒業したと同時に軍に入隊し、寮生活となったため会うことは少なくなったが、それでもここまで音信が途絶えるようなことはなかった。とにかく負けず嫌いな印象がある。
姉達のことは一時たりとも忘却れたことは無かった。両親は桜の幼い頃に行方を眩ませてしまった為、姉達は桜や絆にとって親…… いや、それ以上の関係を築き上げてきた。
だから…… 突然会えなくなるというのは本当に辛かった。
けれど……
「姉さん達のことだから心配いらないよ。生きていればきっと会えるさ」
売木家は代々剣術を受け継いできた家系であった。桜も夏希から剣術をずっと教わっていたように、売木家の一員として産まれれば、一度は剣に触れさせられる。
そして他の姉達は例に漏れずとても強い。ちょっとやそっとじゃ折れない強靭さを持っていることは、長く一緒に生活していた二人が一番分かっていた。
「そうだよね」
絆が嬉しそうに返す。絶対無事だと確信を得たからだ。
どこにいるのかも、何をしているかも分からない。それでも、強かった姉達が心の中で不安を払拭してくれる。
自分達より遥かに逞しい姉達のことを心配するなんて、仮に姉達が今この場にいたら「大きくなったな」と揶揄われているに違いない。
散り散りになったとしてもどこかで生きている筈だ、零佳のように……
目を合わせると絆も軽く頷いた。
「絶対無事だよね。だって皆、凄く強いもんね」
姉達のことを心配するのであれば自分のことを心配しろ。そんな声まで聞こえてきそうである。
そうだ、自分達の出来る限りを尽くしていればきっと会える。生きていれば何かが起こる。
そう信じて今はやれることをやっていこう。
桜はもう一度目を閉じ、生気を与えてくれた姉達へ心の中でそっと感謝の意を述べた。