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CODE:I  作者: 一木 川臣
第1章〜First contact〜
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三年前の春

 ──この国は強い権威に纏われた、皇女によってまもられている。


 かつての人々はそう語る。


 この国は皇室によって護られているのだと信じられていた。大きな力によりこの国はけない。絶対に折れることはないと……

 相手が超大国スーパーパワーであろうと、圧倒的な軍事力を持つ組織であろうと、決して敗北することはない。何故ならこの国の皇帝様が護ってくれるから。それほど大きな力を、この国の皇帝は持っていた。


 今となっては全く根拠のないものと嘲笑あざわらう人がいるだろう。だが、以前はそれが正解ただしかった。


 この日本という国は過去より外国との幾多いくたの戦争を挟みつつ、一時的な平穏が訪れる…… そんな歴史を永遠と繰り返していた。


 ずっと長い間、おわりの見えない戦いを続けてきた。

 少ない資源の中、外来の脅威にもがき、苦しみ、それでもなんとか耐えしのいでいた。


 だから、人々は希望が欲しかったのだ。いつまで苦しい生活ひびが続くのだろうと…… 何かつかめる希望を探し、見出したものが『皇帝の加護』。


 加護があるからこの国は滅亡ほろびない。決して折れることはないと……



 その祈願いのりが届いたのか、二〇年程前にようやく諸外国との戦争が終結を迎えることになる。

 人々に平和が…… 悠久の平和が訪れるのかと思われた矢先であった。間髪かんぱつを入れずして国内で内乱が勃発してしまう。



 一五年程継続(つづ)いた『権威戦争』。



 内乱の原因が既存きぞんの皇室を維持させるか、あるいが新たなみかどを立てて国を運営していくかの食い違いが発生したことが主な要因の…… いわゆる政治的そして宗教的な意味合いもあった内紛である。


 当然、争いの原因はそれだけではなかった。しかしながら結果として同じ国が西と東に二分して争う歴史が新たに始まってしまうことになる。


 昨今さくこんの教科書においては東側を既存皇室を守り続けようと主張する『保守派』、西側を対なす『革新派』とレッテル貼りして区別されているがこれも結果の一つであった。実際にはもう少し複雑であるが大まかに分ければそうなるだろう。


 しかしながらこの内乱が泥沼化し、莫大ばくだいな犠牲を払うことになる。

 同じ国の人間同士が十年以上に渡り争い続けた果てに残されたのは、疲弊、困窮、貧困、そして満身の傷痍しょういであった。


 そんな国民の姿に胸を打たれ、平和への一歩を踏み出した若き人物がいた。



 第一二三代目皇帝 ひかり



 『皇女様』と慕われたこの人物の献身とも言える働きにより西側との「停戦協定」の締結へ至った。王の首とも言える皇女が自ら西側に歩み寄り、交渉を成立させたことが平和へと近づく大きな一歩となる。


 それだけではなかった。停戦状態ながらも、分裂前の国状態に戻す…… すなわち戦争前の一つの国へと彼女の力により元に戻すことに成功したのだ。


 命を賭けた彼女の力によってついに、今日のように平穏な生活を全うすることができるようになった。


 その偉大な尽力じんりきぶりは人々から大いに支持され『平和の象徴』とまで呼ばれるようになる。そして彼女の貢献はこの先もずっと永遠に語り継がれる伝説となるはず…………であった。


 3年前のあの事件が起きるまでは。




 『皇女暗殺事件』




 それは今でも記憶に新しい、国中を……いや、世界までも震撼しんかんさせた事件の一つである。


 時は三年前、三月の某日のことである。春の訪れを待つように、つぼみが膨らみ始めたころ…… あろうことか『平和の象徴』が殺された。


 皆が笑顔で過ごせるよう、己の命をして成し遂げた平和。そのようやく辿り着いた平和の最中、突然に暗殺されたのだ。


 そのあまりにも衝撃的すぎる出来事はまたたく間に国中を駆け巡る。


 この国において知らぬ者は居ない偉大な人物の暗殺…… 人々は大きく嘆き、悲しみ、そして平和が崩壊くずれてしまうのではないかと負の感情におとしいれられた。


 国中に悲愴感ひそうかんが広がる中、桜にとってあまりにも信じられない情報が喉元を突きつけた。


 その皇女を殺害したのは、売木 桜の「」である売木 夏希なつきであったのだ。


 桜は事の詳細はよく分からない。ただそれは現行犯であったという揺るぎない事実であった。姉の手によって『平和の象徴』を抹殺したのだ。


 姉は当時、皇女直属の軍…… 通称皇軍と称される大軍の軍人として家を離れていた。

 更に姉は優秀な軍人として抜粋され、皇女の騎士ナイトとして仕えていた。


 騎士ナイトとは、皇家に仕える皇軍の中で最も強いと総合的に判断され、抜粋ばっすいされる5人の通称名のことを言う。直接皇家と接することが許され、皇家の盾として、時には剣として命を捧げることを誓う五人である。


 正式名称は他にあるも、騎士ナイトというキャッチーな俗称が、とても分かりやすくメディアでもよく使用されている。


 皇女にその命を捧げても守ろうとする騎士の職務は、人々にとても強い印象をもたらしていた。


 だから、この国の子供達は皆一度は騎士ナイトに憧れを抱く…… 桜の姉はそんな存在であった。



 数ある軍人の中でも最高峰の名誉とされる騎士に任命されたときは、それこそ本当に売木家の誇りだった。桜にとっても憧れであったそんな姉が『平和の象徴』を手にかけるという事実。聞いた当初は何かの間違いではないかと耳を疑っていた。


 皇女を守るはずである立場の騎士が、あろうことか皇女を殺す。当然のようにこの事件は話題性をはらみ事件当時から三年経った現在に至るまで、今もなお報道特集が絶えないのは言うまでもないだろう。


 本事件及び皇女の崩御を受け当然ながら、国の情勢は一気に緊迫状態を迎えることになる。


 結果、『皇女を裏切る極めて残虐な行為』『人の愚かな錯乱による国家反逆行為』であるとして姉は法廷で死刑判決を受けた。


 そして事件を皮切りに桜達にも火の粉が降りかかることとなる。身内であった桜達は国中の人々から白い目を受ける対象となった。


 夏希が疑いをかけられた日から、街中の人間から強い非難を受ける生活が始まってしまった。絆と桜は通っていた学校の生徒、および教諭より「国家反逆者」のレッテルを貼られ通常の生活がままならなくなってしまう程までに陥ることになる。


 本当に可笑おかしな話であるが、世も平定していないことが原因か、人々の不安が遂に具現化され関係の無い桜達にきばが向けられることとなった。



 お前の姉は人殺しだ。お前も危険人物だろう

 お前の姉がこの国を不安におとしめた

 お前の姉がいなければ、皇女様は死ぬことはなかった

 お前の姉が皇女を殺し、またも戦乱の時代を導こうとしている


 上げればキリがない……


 電話は、一晩中鳴り止むことはなく、大量の脅迫状。そして、全国区に居住地を知られ正義を語る群衆による私刑を受ける事もあった。

 とらわれの夏希に対して鬱憤うっぷんを晴らすことすら出来ない…… そうとなれば親族が的となる。

 ……桜も理解は出来ないが、気持ちは察することができた。


 ──自分の大事な人が他殺された時、どの様な心情となるか……「坊主が憎けりゃ袈裟まで憎い」とは言い得て妙である。


 そして、それを守ってくれる人はほとんど存在しなかった。治安を維持する国家公務員ですら目をつむり、それどころか加勢していた程であった。


 国を裏切るということに、法もない。国の敵なのだから受けて当然だと……



 ──本人は既に極刑を命じられているのにも関わらずだ……



 その様な事案を踏まえ売木家は大きな形で崩れることになる。夏希はもちろんだが、他の姉達も家に戻って来なくなり、絆と桜が二人きりで石を投げつけられる家の中で過ごすことが多くなった。


 こうした出来事が重なり精神的にも耐えかねる頃、桜は友人の力を借りて都心から遠く離れた山奥…… 北城村へ居を移ることを決意したのだ……



 誰もいない北城村へ…… 逃げるという選択をした。

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