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CODE:I  作者: 一木 川臣
第2章 〜疑念の天候〜
31/66

3年ぶりの再会

 前回までのあらすじ


 長野の僻地、北城村ほくじょうむらにて未知の化物に襲われたさくらきずな。後寸前というところまで追い込まれるも、突如として現れたキャンピングカーに乗り込みなんとか逃げることに成功する。

 滅多に車なんて通らない北城村での奇跡的な出来事であるが、中に乗っていた人物を見るにどうやらただの『奇跡』では無さそうであった。


 ────────




 無機質なロードノイズだけが沈黙の車内を木霊していた。

 所々音に合わせサスペンションを通し車体が小刻みにね、車内に置かれた小箱が振動それに伴い一人勝手に微震しながら左右に動き回っていた。


 厳寒であった外とは異なり、空調が効いているのか車内は暖かな空気に包まれていた。若干ではあるがそれが緊張感がほぐす要因となり桜の目覚めた交感神経を徐々に落ち着かせていく……

 


 夢中で乗り込んだ為、今でも息は荒れており状況を整理するのに数秒ほどの時間を要したが、理解のシグナルとして桜はまぶたを強く閉じ胸に溜まった不安を出し切るかのように大きく息を吐き出した。


 ──私は…… 助かったのか……?

 

 少なくとも先の危機的な状況は脱却できたことは判断がつく。この車が何処へ向かおうと、ひとまず絆と共に何とか生き延びることが出来たことだけは事実と認識はしていた。


 絆の方へ視線を移せば、桜と同じく息を整えながら俯いており、桜と同じ気持ちなのだろうか…… 所々に促音そくおんが混じる吐息の音を聞けば少しづつ彼女も落ち着きを取り戻しているように伺えた。


 長野県北部、北城村の道の殆どは舗装されていなかったため、強めの振動がキャンピングカーを通し桜の脚へ伝わってしまい左腿の傷がうずく原因となっていた。振動の速さからしてかなりのスピードを出しているように思えたが、ちらと車窓から見える景色は黒一色であった為憶測でしか計れない。ただ、このスピードであれば既に村から出ているものと思われた。


 少し大きめの小石をいてしまったのであろう…… 突然に車体がガタリと音を鳴らしながら大きく一つ揺れた。その跳ねたタイミングで意識が戻るかのように桜が顔を上げて虚空を見つめながら目をじっと細めていった。


 内装は一般の車両と異なっていた。横に広がる座席や簡易キッチンなどが備え付けてあるキャンピングカーなのか、今まで乗ることの無かった桜や絆は少しばかり新鮮味を感じてしまうことに。


 何か声を発しようとしたが、どもってしまった。先の緊張感により産まれてしまったのか、喉元にしこりがあるように感じ桜は右手で声帯を押さえた。


 その様子を伺う正面の男が一人、顔元まで軽く手をあげながら声をかける。



「久しぶりだな…… 桜」

 

 優しく、落ち着きのある声だ。 だが桜の中ではその落ち着きのある低い声が逆に既知とのズレを生じさせてしまった。


遥疾はると…… なのか……?」

 

 ぼんやりと薄暗い車体の中で明瞭めいりょうには確認できないものの、桜の記憶の中に存在する一人の男性と過半は一致した。ただ残された部分は桜の揣摩しまでしか捉えることが出来なかった。


 ただ黙って頷く仕草から桜の憶測は的中しているものと思惟する。


 数体の化物に囲まれた中、突然キャンピングカーと共に現れた男…… 名を神庭かんば 遥疾はるとといい、桜が引っ越す前の学校でクラスメイトだった男だ。

 黒を基調としたジャンバーに青色のジーンズを履いており、3年前に比べて背も高くなり体つきも逞しくなっていることからかなり様になっている。


 3年前との変わりように流石の桜も驚きを隠せなかった。


 平易な言葉を用いれば「男らしくなってきた」に尽きるであろう。記憶の中の遥疾は桜と同じぐらいの体格だったからだ。

 声も低くなっていたことから初めて耳にした時は一瞬誰だか分からなかったが、まさか遥疾が来てくれるだなんて誰が予想しただろうか。



 懐かしい面々はそれだけではなかった……



「よう、桜! 元気だったか!?」

 


九曜くようまで……!?」

 

 前の席から「よいしょ」とこちらへ身を移してくる男…… 深緑色のジャージを羽織り、下は黒色のズボンと全体的に動きやすそうな格好だが、少し長めの茶がかった髪を見れば先の好青年より少し遊びを足した印象が強い。


 紋章あやき 九曜くようもまた桜が通っていた前の学校のクラスメイトであった。容姿は遥疾かれ程変わってはいなかったものの、あの時のやんちゃさは流石に落ちついてきたようだ。彼も桜にとってかけがえの無い親友の一人であった。


 決して言動や格好が社会的に沿っていると言えないが、根は優しく思いやりのある男だと古くから知る桜と絆は知っていた。

 


 そして、最後に桜の隣に座る女性と目を合わせる。

 

瑞理みずり、 来てくれたのか……」


「うん、久しぶり、桜。そして絆ちゃん」


 灰色のパーカーと下は白を基調としたスラックスの女性が桜の横に座し手を握る。幼馴染である雲雀岡ひばりおか瑞理みずりが桜を見つめながら優しく微笑んだ。

 

 以前はスカートばかり、女性らしい服装が多かった印象でパンツを履いているのがなんとも新鮮である。特にお洒落好きだった彼女にしては随分と地味な配色で落ち着いていると感じていた。ただ、それでも都会の流行をある程度抑えているのか、肩にかかるセピア色の内巻きヘアーから今は一時的に動きやすい格好であることが把握できた。

 大きなアーモンド型が特徴的だった可愛らしい目は今も健在であるものの、顔つきも大人の女性に近づいたのか少しばかり幼さが消えている。だが、それでも3年前(あの頃)から面影は失わず親しかった幼馴染に変わりは無かった。

 

 遥疾…… 九曜…… 瑞理…… 忘れもしない、あの時(・・・)、桜のことを最後まで味方をしてくれた3人だ。


 事件により桜に白い目を向けられるようになった時、周りの皆が棘のある言葉を放ち始めた時、この3人は最後まで自分をかばってくれた。最後の最後まで桜を守り続けてくれた…… 過言な表現でもなく「命の恩人」と言い切ることができるであろう。

 


 そして、何より前に住んでいた北城村の家も瑞理の家族からの伝手つてより借りることができた借家いえであった。生きる道標みちしるべを切り開いてくれたのは誰でもない瑞理達だったのだ。

 

 そんな彼らが遥々(はるばる)やって来てくれたのだ。


 ──信じることができない。


 彼らが居住する東京から長野の北城村ここまで車で来るのにどれ程時間がかかるのか。どんなに 早くても6時間以上はかかるのだ。桜はそれを分かっていたからこそ目の前の光景を疑わざるを得なかった。

 ここにいる皆が本当に本物の瑞理達なのか。夢ではないのか…… 桜にとってそれすら疑いたくなるレベルの嬉しくもあり、衝撃的な出来事であった。


 けれど、せっかく来てくれた皆に疑いの目を向けても仕方のないことであろう。



 3年ぶりの再会だ。話したいことは山ほどあったが、今日来ることなんて予定していない突然の出来事であった為、何を話すにも言葉が詰まってしまう。


 ただ格好を見れば皆動き易い服装だ。ここから読み取るのに少なくとも遊びで北城村まで来ているわけでは無さそうであった。

 だから先程の件も、訪れた時に偶然で窮地を救ったものではないと察する。あらかじめ桜達をたすけることを予期してここまでやってきたことすら勘繰ってしまう。


 この機に至ってもなお、桜をたすけてくれたのだ。


 3年経って疎遠と感じていたが、そう勝手に思っていたのはこの中で桜と絆だけであったようだ。


 3年経とうとも変わらないものがここにもある。そう思えば桜は感極まり下を向いてしまった。

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