第22話 朔夜は消されたい!!
4時限目が終わったのと同時頃。
トントン!ガラッ!
教室のドアがノックされると、すぐにドアが開いた。
そこに姿を現わしたのは・・・
すらっとした体型で、ストレートの髪がよく似合う美人だった。
・・・あ、あれは!!
鬼の風紀委員長と噂の一ノ瀬雪乃先輩じゃないか!!
・・・まあ鬼というよりは、どちらかというと厳格と言う方が合うのかもしれないが。
これまで風紀を乱した数え切れない程の生徒が犠牲となり、消されたとか消されなかったとか・・・
そんな噂が後を絶たないのだ・・・
そんな彼女が、このクラスに何をしに来たのだろうか?
このクラスに風紀を乱す奴なんていたか?
・・・・・
ああ・・・
沢山いたわ・・・
うじゃうじゃいたわ・・・
うちのクラスの男子共ほぼ全員だ!
やつらは本当に救いようのない程、どいひーだからな!
と思っていると・・・
「失礼致しますね・・・このクラスに何人もの女性を侍らせて、風紀を乱している者がいると耳にしたのですが」
・・・・・
そ、それって・・・
た、達也の事だよね?
うんうん、達也しかいないよね?
・・・・・
って、んなわけあるかあああ!!
達也はモテるかもしれないが、女性を侍らさせたりはしていねえ!
従って・・・
間違いなく俺の事じゃねえかあああああああ!!
い、いや、俺も女性を侍らせてはいねえ!(俺の中では・・・)
だから、そんな事をしている奴が他にも・・・
・・・いるわけねえじゃん!!
だって・・・
このクラスの男子共はモテねえんだった!!
い、いや俺がモテると言ってるわけじゃないんだよ??
し、しかし、どう考えても俺以外に・・・
当てはまる奴が見当たらねえ・・・
ってことは・・・
や、やはり間違いなく俺しかいねえ・・・
・・・くっ!
俺を粛正しに来たのか!?
俺を亡き者にするために来たのか!?
ちくしょお!!
俺は冤罪だっての!!
罰ゲームが失敗するという罠に嵌められたんだっての!
俺は悪くねえ!!
犯人はあいつらです!(責任転嫁)
俺が消される謂れはねえ!!
・・・・・
いや、でも・・・
それもいいのかもしれない・・・
俺の精神の安寧のために・・・
この精神崩壊しかけている、今の俺の状況のままでいるよりはずっと・・・
・・・・・
くくくっ!
そうか、そうだよな!
そうすればいいのか!!
俺の心の安寧を保つ為には、俺が消されればいいのだ!
すなわち!!
更に風紀を乱す言動を取ればいいじゃないか!!
それは何か?
そう、彼女に嘘告すればいいのだ!!
女性を侍らせていると思われている俺が彼女に嘘告する!
更に言えば、こんな大勢の前で風紀を乱す発言をするという愚行・・・
そんな俺が許されるわけがない!
故に、俺は彼女からごめんなさいを貰えるのは最初から・・・
いや、前世から決まっている事じゃないか!!
それどころか、ごめんなさいでは済まされないだろう・・・
風紀を乱す俺は彼女の逆鱗に触れ、冗談抜きに消されるに違いない!!
間違いない!!
なんだ、簡単な事だったんじゃないか!!
何も考えずに、最初から彼女にアタックすればよかったのだ!!
そうすれば、俺の罰ゲームはとっくに終っていたんじゃないか!!
くくくっ!
そうとなれば早速やるしかない!
そう考えた俺は、手を上げて立ち上がり・・・
「はい!それはきっと、俺の事だと思います!!」
と言いながら、テクテクと彼女に近づいて行く。
「貴方、ですか・・・では貴方が星空朔夜さんで間違いないですね?」
「はい!そうです!」
名前までばれているようだが・・・
むしろ今は好都合!
最悪な印象を更に与えて、俺はごめんなさいを貰うのだ!!
「一体どういうつもりなのでしょうか?」
「それはですね・・・」
そこで俺は一呼吸溜めて・・・
「先輩の事が好きです!付き合って下さい!」
ふははははっ!
どうよ!
この脈絡の無さと節操の無さは!
「えっ?・・・あっ・・・」
ほら、狼狽えてるぞ!
これでごめんなさいが出ることは間違いない!
更に言えば、今までは頭を下げて相手を見ないようにしていた。
頭を下げた事で、誠意があると思われてしまっていたのかもしれない・・・
だから!
この反省を活かして、今回は頭を下げない!
不誠実だと思わせる為だ!
そして、相手の目を見てごめんなさいを寄こせと訴えかけるのだ!
くくくっ!
もう、これ完璧!
さあ、ほら!
早く!早く!
早くごめんなさいを寄こすのだぁ!!
そう、視線で訴えかけていると・・・
「・・・は、はい・・・私でよければ」
・・・・・
え?
・・・い、今なんと??
お、俺は最近、難聴気味なの。
だから、よく聞き取れないの・・・
いや、もしかして先輩は何も言ってないのかもしれない。
そうだ、そうに違いない!!
むしろ、そうであってくれええええ!!
「はい、私でよければ、と言いましたよ」
・・・・・
ぬおおおおおおおお!!
やっぱり、ちゃんと聞こえてたよ!!
難聴じゃなかったよ!!
難聴系主人公にはなれていなかったよ!!
しかも先輩まで俺の思考を読めるようになりやがった!!
・・・てか、おかしいだろ!!
風紀を最大に乱している(と思われているはずの)俺に、何でOKするんだよ!?
そう思いながら先輩を見ると、真っ赤にした顔に手を当て照れたような仕草をしていた。
いやいや、なんで!?
どうしてこうなった!?
今の流れで受け入れられる意味がわからない!
「ちょ、ちょっと!風紀委員長ったら、冗談が過ぎますよ!?」
「え?冗談?・・・私は冗談なんて言えませんけど?」
マジかよ・・・
色んな意味でマジかよ・・・
「ちょ、ちょ、じゃ、じゃあ、何で・・・?」
「そうですねぇ・・・私は今まで告白された事がないわけではないですが、こんな大勢の前で堂々と告白されるのは初めてなので、心打たれてしまったのです」
マ、マジでぇ!?
むしろ風紀を乱してる奴が、こんな所で告白する方がどうかしてるだろう!!
「更に言えば告白された時の、その熱く真剣な眼差し・・・どれほど本気なのかが伝わりました」
・・・・・
のおおおおおおおお!!
違う!!違うんだよ!!
俺はごめんなさいをくれと訴えていたんだよ!!
手厚く振ってくれとアピールしてんたんだよ!!
なのに・・・
逆効果じゃねえかよ!!
完全に裏目に出てんじゃねえかよ!俺!!
・・・くそっ!
こうなったら・・・
最終手段だ!
俺が良くて、奴がダメなわけがない!
こんな時こそ、奴の出番だ!
「さあ!今こそイケメンモテ男、達也の出番だ!!行けっ!!」
「おう!」
俺の言葉に達也は何の疑問も口にせず、ノリで応える。
「好きです!付き合って下さい!」
「ごめんなさい!!」
・・・・・な、なんだとおおおおおお!!
即答だとぉ!?
達也、てめえええええ!!
俺の役目を奪ってんじゃねえええ!!
お前が罰ゲーム成功させてんじゃねえよ!
お前が告白を成功させないでどうすんだよ!!
つーか百戦錬磨じゃなかったのかよ!!(誇張)
って・・・
「おおう・・・さ、朔夜は良くて、な、なぜ俺はダメなんだ・・・」
と、達也がショックのあまり床に埋もれていく。
あ、なんかごめん・・・
「え?それは当たり前じゃないですか。今、朔夜さんとお付き合いすると決めたばかりなのに、他の方とお付き合いするなんて、ありえませんよね?」
・・・・・うぉい!
なんで、そこは無駄に常識人なんだよ!!
その常識を、俺の告白の時に出せや!!
「くそぅ・・・な、何で俺は・・・朔夜のノリに乗っかって告白してしまったんだ・・・」
・・・
何か本当にごめん、達也・・・
って、達也の事は置いといてだな!
どう考えても、俺の方がアウトだろが!!
俺が複数人と付き合うのはいいのかよ!?
どう考えてもダメに決まってるだろが!!
まずは俺を断れや!!
「なぜですか?」
なぜって・・・
だから、複数人の女性と付き合うなんて、普通はアウトなの!アウト!!
むしろ何で疑問に思うんだよ・・・
そして、なんで俺が風紀委員長に説明しなきゃなんねえんだよ・・・
そもそも、女性を侍らせているというのを耳にして来たんじゃないのかよ・・・
「まあ、そうですね。確かにそういう苦情を寄せられてはいましたが・・・」
じゃあ、俺を粛正しなきゃならんだろうが!
つーか、もう・・・
俺の思考と話をするのは当たり前になってやがる・・・
「ですが、それは全て妬みを含んだ男子からで、女子からの苦情はありませんでしたからね。そんな状況にも関わらず、女性からの苦情がない貴方がどんな方なのか風紀委員長として知る必要があったのです」
いや、意味わからんし・・・
女性からの苦情がないのも意味わからんし、そんな俺を粛正しに来たわけじゃ無くて知る必要があるとか・・・
知る必要なくね??
「というのは建前で、本音は・・・私には持っていないものを持っている貴方に、最初から興味があったのです」
・・・・・はっ?
どゆこと?
「私は堅苦しい性格だと自覚しています。なので、入学当初から何かしらやらかして、その都度風紀委員会に名前を寄せられる貴方に対して、自由奔放に楽しく過ごしているのを羨ましく感じていました。そして、どのような方なのだろうかと思いを馳せていたのです」
・・・・・
つーか、入学当初から風紀委員に俺の名前が上がってたのかよ!!
過去の俺、どれだけの事をしてきたんだよ!!
てか、そんなことはどうでもいい・・・
・・・
最悪、自由奔放に憧れるのはいい・・・
でもだからといって、クソ人間の俺に興味を持っちゃダメでしょうが!
むしろこんな奴になりたくないと、反面教師にするべきでしょうが!!
「そう自分を卑下しないでください」
いや、だから!!
なんで俺に近づく女性は、みんな俺の思考をクリアに読めるようになるんだよ!!
前に千里に言われたように、いくら俺が部分的に声に出してるといっても、絶対そこまで言ってないでしょ!!
「まあ、そんな事はどうでもいいとして」
なんでみんな俺の思考を読めることをどうでもいいと・・・
「それよりも・・・こんな事になるかもと思ってお弁当を持参してきました。なので早速、お昼にしましょう」
用意がいいな、おい!!
てか、こんな事になるかもって・・・
どう想定したらこんな状況になることが予想出来んだよ!!
俺は出来ねえよ!!
予想外すぎんだろが!!
「まあまあ、そんなことは置いておきましょう?それよりも、すでに皆さん揃っていますよ?」
・・・・・
置いておける問題じゃなくね・・・?
てか、みんな早すぎだろが・・・
しかもいつの間にか唯や琴音まで来ていて、すでにスタンバってやがるし・・・
それよりも、なんで誰もこの状況に動じないんだよ・・・
ねえ、本当どういう事なのさ・・・
そんな事を思いながら項垂れていると・・・
「ちょ、ちょっと先輩!?手!手ぇ放してぇ!!」
「ふふふっ、あまり皆さんを待たせるのも悪いですからね」
俺は一ノ瀬先輩に手を取られ、強制的にみんなの元へと連れ去られていく。
もう、逃げられないのね・・・?
それよりも・・・
先輩の手、柔らかくてすべすべして気持ちいいです・・・
って、だあああああああ!
堪能してんじゃねえ!
最近の俺、変態が過ぎんだろが!!
てか、先輩に手を取られた瞬間の男子共の殺気がやばい・・・
「くそっ!なんで朔夜ばかり・・・」
「豆腐の角に頭をぶつけて死ねばいいのに・・・」
「・・・夜道には気をつけろよ」
闇討ちする気満々じゃん!
いやむしろ、だったら今!
今すぐ俺を闇に葬ってくれよ!!
今すぐに俺を楽にしてくれ!!
そんな男子共の視線を受けながら、みんなの元へと着くと・・・
「もう先輩!?何人増やせば気が済むんですかぁ!?」
と、速攻で唯から非難の声を浴びせかけられる。
いや、増やしたくて増やしたんじゃないんですけど・・・
むしろ減らす気満々だったんですけど・・・
「ふふっ、朔夜ちゃんらしいですよね」
ちょっと鳴海ちゃん?
俺らしいってどういう事だよ!?
「まあ、朔夜くんだから仕方ないよね~」
おい、瑞穂!
俺だから仕方ないってどういう事だよ!
「朔ちゃんは、自分をわかってなさすぎだよねぇ」
いや、みなもよ・・・
俺の事は俺以外に誰がわかってるというんだ・・・?
「それは朔夜くん以外の私達全員ね」
・・・・・おい千里!
どういう事じゃい!!
俺の事は俺が一番わかってるに決まってるだろが!!
「ちっちっ!朔たんが一番朔たんの事をわかってないんだなぁ」
くそっ!
美鈴の知ったかされた顔がイラっとするな!
俺より美鈴の方が、俺の事をわかってるというんか!?ああん?
「朔くん朔くん、君はもう少し自分の事を知るべきだと思うなぁ♪」
・・・・・ぐすっ。
琴音にまで言われるとは・・・
俺は俺の事を誰よりもわかってなかったというのか・・・
「朔夜さんは色んな意味で鈍いですからね」
って、うおい!
何、先輩まで混じってんだよ!!
先輩はさっき知り合ったばかりでしょうが!!
俺の何を知っとっとぉ!?
「朔夜さんの事なら、出会ってすぐにわかります」
・・・・・
何、その無駄な超能力・・・
いや、先輩にその能力が本当にあるかないかは置いといて・・・
みんなおかしいでしょ!
なんで、俺以上に俺の事わかってんの!?
「そう嘆くな、朔夜」
・・・・・
いつの間に!?
いつの間に俺の横を陣取って飯食ってんの!?真白ちゃん!!
さっきまでいなかったでしょうが!
「そんな事よりも、朔夜の事は私たちが分かっていればそれでいいんだ」
・・・いや、真白ちゃんよ。
なんかいい感じにまとめようとしてるけど・・・
真白ちゃんは、この中で唯一 (罰ゲームの)関係が終わってるよね?
「な、なんでだぁあああああ!」
「いや、なんでも何も、俺何回も断ってますよね?」
「くっ!わ、私は試合終了まで諦めないと言っただろがぁ!!」
「いやいや、もうとっくに試合は終了してますが?」
「な、なんだとぉおおおお!・・・い、いや・・・嫌よ嫌よも好きの内、本当は私の事が好きなんだろう!?」
「・・・そりゃあ真白先生の事は、好きか嫌いかで言えば好きですよ?」
「くはっ・・・い、いきなり、な、な、何を言って・・・」
「でも、それとこれとは別の話。真白先生との(罰ゲームの)関係は終わったのです」
「くっ、わ、私は都合のいい女だったというのかあああああ!朔夜のばかああああああ!!」
「あっ!ちょ、ちょっと!」
おいいいい!!真白ちゃん!!
人聞きの悪いことを大声で叫びながら逃げ出すんじゃねえ!!
俺の評判が悪くなるだろうが!!
ただでさえ落ちている俺の評判を、これ以上地に落とさないでくれよ!
俺、何も悪いことしてないのに・・・
くすん・・・
「ふふっ、何だかんだで楽しそうですね」
「いや、俺は困ってるんですけど・・・」
真白ちゃんを含め、俺とみんなのやり取りを見ながら先輩は微笑みながら呟く。
「まあ、それよりも・・・そろそろお昼を食べましょう?」
・・・そうだな。
いつまでもこんな事をしてたら、昼を食い損ねてしまうな。
そう考え、俺も自分の弁当に箸をつけようとすると・・・
「はい、あ~んしてください」
・・・・・
やめて!
教室でなんて、マジでやめて!!
恥ずかしいどころか、男子共の殺気が更にひどくなってんだけど!!
「他の皆さんとは、すでにしてるんですよね?私だけ食べてくれないというのですか・・・?」
・・・いや、今まで俺がされてきたこと知ってんのかよ!?
そんな事を考えるも、先輩のウルウルした目を見たら何も言えん・・・
というか、逆らうことすら許されん・・・
従って、俺は先輩からのあ~んを受け入れざるを得ないのである・・・
「なんだかんだで、朔夜さんは優しいですよね」
いや、優しくねえし!
俺は極悪人だし!?
もう、ほんとに皆して俺を褒めるのはやめてくれよ!
と、俺が嘆いていると・・・
「さ~く~や~く~ん・・・はい、あ~ん」
「ほら、俺からも・・・あ~ん」
「ほら、ちゃんと食えよ!?あ~ん」
ちょっと待てや!
男子共まで、あ~んしてくんじゃねえ!!
しかも、お前らのそれ・・・
イモリとサソリとタガメの姿焼きじゃねえか!!
全部ゲテモノじゃねえかよ!!
どっから持ってきたんだよ!!
完全に嫌がらせじゃねえかああああ!!
そんな俺と男子のやり取りすらも、彼女たちは楽しそうに温かい目で見守っているのであった。
・・・・・
いや、助けてくれよおおおおお!!
お読みいただきありがとうございます。
遅くなりすぎて本当に申し訳ございません。
3月が忙しいのはわかっていたのですが、若干舐めてました。
忙しすぎて、脳死どころか完全に死んでましたww
さて、予告通り今回でネタは全て終了です。
今話を分けてもう少し書こうかとも思いましたが、余裕がなさそうなので1話に収めました。
そのせいで、少し長めになっています。
本当は、イベントなどを交えながら段階を踏んで、前話と今話を書きたい所でしたが、それをやると今の状況ではここまで辿り着ける気がしなかったので、最後に元々考えていたネタを入れました。
どうしても書きたいネタだったので・・・
そして、次話はエンディングです。
サイドストーリーは、本編エンディングを書いてからじっくりと考えて書こうと思います。
ここまで楽しみに待って頂き読んでくださった方、本当にありがとうございました。
温かい皆様のおかげで、忙しい中でも折れずに頑張れました。
残り1話ですが、最後までお付き合いよろしくお願い致します。




