94.黒いバケモノ!
ユキから照代のことを聞かされてから数日が過ぎた。
ビナタの町は、基本的に平和だ。
自然災害も少ないし、先日の豪雨の方が珍しい。
そう言えば、また、ユキのゴミ処理のことを聞くのを忘れた。
燃えないゴミをポイ捨てしていなければイイけど……。
この日、
「なんだ、あれ?」
「何かが来るぞ!」
西の空を見ながら、町の人々が何やら騒いでいた。
私も気になって店の外に出て西の空に目を向けると、そこには真っ黒で巨大な飛行物体の姿があった。
しかも、尋常ではないレベルの邪気を放っていた。
目と口があるし、一応、生物っぽいけど、非常に硬そうな装甲で全身が覆われていた。
これを見て私は、
「黒くて大きくて硬そう! こんな凄いの初めて見た!」
って言ったんだけど、周りにいた男性達は、何気に前屈みになっていたよ。
なんだか、別の意味に捉えたみたいだ。
その飛行物体が、口から膨大なエネルギー波を放って来た。
まるで、SFアニメとかで出て来る一撃必殺のナントカ砲のようだ。
そのナントカ砲もどきは、ビナタ町の中心部付近に撃ち込まれた。
一瞬にして町はメチャクチャ。
それに、こんな強烈なパワーに人間は耐えられない。
間違いなく死人が出ただろう。
いったい、コイツ何?
取扱説明書:アキ-108号は相手のステータス画面を覗き見することが出来ます。これは相手の性的嗜好を理解するためです。
私は、その黒い飛行物体のステータス画面を覗いた。
すると、そこには『小松照代』の文字が記されていた。
取扱説明書:アキ-108号は、どのレベルのプレイができるのかを予め把握するため、相手のエネルギー状態や気の流れを確認できます。
この飛行物体全体に、照代の気が流れている。
どうやら、この巨大な飛行物体全てが照代の身体のようだ。
照代が飛行物体に乗っているわけじゃない。
多分だけど、この邪悪な巨大生物に変身するスイッチをラフレシアに取り付けられていたんだろう。
そして、宇井武司に会ってマリカとの修羅場があって、その結果、そのスイッチが入ってしまったってとこか。
大体、想像がつく。
取扱説明書:アキ-108号は、見ただけで正確にサイズを測定することが出来ます。
これって、元々は男性のナニのサイズを図る能力みたいなんだけど……。
でも、この能力のお陰で、このバケモノのサイズがハッキリと分かる。
全長百メートル、両翼を広げた幅は百五十メートル。
一般に言う巨大生物のサイズを遥かに凌駕している。
この時、私は、
『こんなヤツでも、多分、ラヤを連れて来れば瞬時に倒せる!』
と思っていた。
あの首ちょんぱ魔法は何者でも抗いようが無いからね。
でも、ここはラヤの世界じゃなくて私達が生きる世界。
ラヤに頼らず自分達で何とかすべきだとも思っていた。
「超高速稼働!」
私は、超音速で助走(?)を開始。
そして、力いっぱいジャンプして、照代だった巨大生物の背中に飛び乗った。
毎度の如く、服は一瞬にして空気摩擦で燃え上がり、身に着けているのは、極めて布面積の少ない『戦闘服』と言う名の白いビキニだけになっちゃったんだけどね。
「機械音痴魔法!」
取扱説明書:機械音痴魔法を発動することで、アキ-108号は、触れた機械類の誤作動や機能停止を意図的に起こせます。これにより、アキ-108号は男性の前で機械音痴の女性を演じることが可能です。
まず、私は機械音痴魔法を放った。
この堅い装甲がメカニックモドキとして認められないか、ちょっと期待していたんだ。
でも、一応、生物だもんね。
機械音痴魔法は効かなかった。
だったら、次の手だ。
「性感マッサージ魔法!」
取扱説明書:アキ-108号は、高い性感マッサージ技術を持っています。また、リモート機能によりターゲットに触れずに性感マッサージを行うことが可能です。
取扱説明書:アキ-108号は、女性にも性感マッサージ魔法の施術が可能です。これは女性の感度が上がることで男性が喜ぶことを想定しています。アキ-108号の行為は、基本的に男性が喜べるかどうかが判断ポイントになります。
でも、性感マッサージ魔法も不発だった。
なんで?
私は、
「性的透視!」
照代の性的状態をチェックした。
取扱説明書:アキ-108号は、その気になれば他人の性的背景を全て把握することが可能です。
納得した。
全身が堅い装甲で覆われたと同時に、性感帯が無くなっていたんだ。
完全なる不感症だ。
だったら、カナコの時みたいに不感症を解消してやればイイ!
「性的大ドンデン魔法!」
私は、究極奥義を発動した。
これで、この装甲の全てを性感帯に変えてやる!
取扱説明書:性的大ドンデン魔法は、性的に悩みのある方やプレイに変化が欲しい人のための魔法です。
取扱説明書:性的大ドンデン魔法を受けると、SとMが逆転したり、不感症の人の感度が良くなったりと、今までとは正反対の状態を楽しむことが出来るようになります。この変化を十分堪能してください。
ところが、これも不発。
そもそも堅い殻を性感帯に変えるなんてのはムリがあったか。
でも、どうする?
他に私に、何ができるんだろう?
そう思っていた時だ。
東の方角から赤い飛行物体がこっちに向かって飛んで来た。
それは、七つの首を持つ赤い龍……ミチルさんの真の姿だ。
この危機を察知して、文字通り飛んできてくれたんだ。
私は、照代だった黒いバケモノの背から飛び降りた。
ここからは化け物同士の戦いだ。
そんなモノに巻き込まれたら、私なんか瞬時に破壊されそうだよ。
ミチルさん……レッドドラゴンは、黒いバケモノの後方に回ると、衝撃波を連射した。
その力で、ビナタ町上空から追い出そうって考えだろう。
一先ず、レッドドラゴンの思惑通り、黒いバケモノは私の店の裏の空き地上空まで追いやられた。
これで、町への被害は減ると思う。
でも、私の店のすぐ近くだからね。
もっと遠くに追いやって欲しいなぁ。
さらにレッドドラゴンは、黒いバケモノに向けて巨大な火炎球を撃ち放った。
しかも、あのラヤを葬り去った時よりも強烈だ。
でも、まともにその直撃を受けても、黒いバケモノは平然としていた。
全然、何事も無いようにすら見える。
今度は、黒いバケモノがレッドドラゴンに向けてナントカ砲みたいなのを放って来た。
さっき、ビナタの町中央に撃ち放って来たヤツと同じヤツだ。
これは、かなりの威力がある攻撃だよ。
だけど、レッドドラゴンも負けていはいない。
シールドを張って、その攻撃を防御した。
上空では、レッドドラゴンと黒いバケモノの一進一退の戦いが繰り広げられている。
そんな中、
「アキ」
誰かが私に背後から話しかけてきた。
私が振り返ると、そこにはマリカの姿があった。
一先ず、彼女は無事だったようだ。
「大丈夫だったみたいね」
「私は、なんとか。五体バラバラにされたけど、修復魔法で身体を繋いだよ……」
取扱説明書:マリカ-1919号は大人の玩具なら何でも修復魔法で直せます。
取扱説明書:マリカ-1919号自身も例外ではありません。
「……でも、マイも信者達の大半も、結果的に、あのバケモノに殺された。マイは、建物が崩れて来て私が下敷きになるを庇って、それで……」
「マイが?」
「ああ。『危ない』って言って私を突き飛ばしてくれてね。でも、それで私の代わりにマイが下敷きになったんだ。即死だったよ」
「そうだったんだ」
「せっかく、この世界で楽しくヤっていたのに……。あと、地球から来た信者で宇井って男がいたけど、そいつも死んだよ」
マリカは私と同じ仕様だから、完全に焼却されるとか粉々にされるとかしない限り、自分で自分に修復魔法をかけて、何とか元に戻ることが出来る。
でも、マイも宇井も、他の信者達も人間だからね。
不死身ってわけには行かない。
生きてさえいれば、宇井は男性だし、マイは信者からの懇願があるだろうし、マリカの治癒魔法で治せたはずなんだけど。
残念だよ……。
取扱説明書:マリカ-1919号は、アキ-108号と同様に、傷ついた男性を完全に癒す能力を有します(心身共に)。相手が男性の場合は、異性愛者でも同性愛者でも治します。
取扱説明書:女性でも同性愛者の場合は、癒しの能力が発動します。
取扱説明書:しかし、女性同性愛者あるいは男性に懇願されない限り、一般女性には癒しの能力を発動できません。
「実はね。本人にもマリカにも言っていなかったけど、その宇井って人、私の元彼の友人だった人でね」
「知り合い?」
「一応。でも、アッチはコッチの姿を見ても何も分からないだろうから、結局、何も話さなかったんだけどね」
「そうだったんだ」
「それと、大天使セクロ……なんとかに召喚された地球人から聞いているけど、あのバケモノって宇井って人の婚約者だったんでしょ?」
「そうらしいね。それで、武司を返せって言って来たんだけど、私だって武司を手放したくなかったし、武司も私から離れたくないって言ってね」
その展開は、何となく分かるよ。
マリカの場合は、単に自分の性奴隷を減らしたくないって気持ちが強く出て、それで宇井を手放したくないって言っていたんだろうと思うけど。
でも、宇井の場合は、ちょっと違う気がする。
宇井にとって、マリカは恩人だろうからさ。
ただ、それを照子に伝えたところで、照子は到底納得できないだろうけどね。
「それにしても、まさか、あのバケモノがアキの町に来ていたとはね。東に飛んで行くのを見て、修復後に、バケモノを探しながら連続転移して来たんだけど」
「ホント、迷惑な話よね」
「それで、アキ。あのバケモノを倒せるか?」
「考え中」
「ただ、私はラフレシア一派だからね。あのバケモノに攻撃できないんだ。あのバケモノは私に攻撃してきたから、本当は仕返ししたいって気持ちはあるんだけど、今、ラフレシアがあのバケモノを使って世界を破壊しようと考えているらしくてね。私は、あのバケモノを一発殴ることすら許してもらえないんだよ」
つまり、マリカが、あのバケモノに攻撃することは、ラフレシアの計画を邪魔することに繋がるってことだ。
このことは、当然、マナミやケイコも降りかかってくる。
なので、あの二人も、このバケモノには手が出せないってことになる。
つまり、私達で何とかしろと……。
上空では、レッドドラゴンとバケモノの戦いが続いているけど、一進一退。
違う。
僅かだけど、レッドドラゴンが押されている。
取扱説明書:アキ-108号は、精神を集中すると、見ただけで相手のHの履歴を霊視できます。いつ頃に何人とやっているかを全て見抜きます。
取扱説明書:どんなプレイをしたかも分かります。
レッドドラゴンの状態を確認したけど、これって昨日もパラスとヤリ過ぎたからだよ。
もう、肝心な時に体力をムダに使っているんだから!
じゃあ、私達はギブアップってことで、最終兵器ラヤを呼んで来る?
いくら何でも、首を刎ねれば、あのバケモノでも絶命するだろう。
……って思っていたんだけど、このタイミングで、マリカから、
「あと、ラフレシアが言うには、あのバケモノは脳みそが身体の真ん中に移動しているらしくて、頭は見る、聞く、嗅ぐだけの部分になっているらしいし、切り落としても、また生えて来るって」
と言われたよ。
つまり、ラヤを呼んできても無意味ってことだ。
もしかして、これってヤバくない?
夜のお勤めで体力をムダに削った状態のレッドドラゴンに、全てを委ねるしか無いってこと?




