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93/210

93.困ってるよ!

 その日の夜も、私とヴァナディスは、異世界間を繋ぐ扉を通ってラヤの家にお邪魔した。

 勿論、夕飯を恵んでもらうためね。


 だって、ラヤが出してくれる食事は美味しいし、それに、ラヤとも、あと二週間足らずでお別れになるはずだから。

 今のうちに極力会っておきたいって思ったんだ。


「こんばんわ。お邪魔します」

「こんばんわ」


 出迎えてくれたのはラヤ。

 今では、私自身、彼女に対して元破壊神とは思えないくらいカワイイ少女って認識を持つようになっている。

 ラヤの方は、私のことを、どう思っているかは分からないけど。


「昨日はありがとう」

「いいえ。自称勇者達を成敗できて、私としても嬉しいです」

「そう言えば、ラヤ。ヒールスライムは?」

「私の部屋にいます。見てみます?」

「そうする」


 私とヴァナディスは、そのままラヤの部屋に通された。

 部屋に入ると、一匹のスライムがラヤのベッドの上にいた。

 見た目は、普通のスライムと変わらないけど、これがラヤの治癒魔法を学習しているスライムってことだ。

 多分、もの凄く希少価値が高いんだろうな。


「このスライムが病気とか怪我とかを治せるのよね?」

「そうです」

「でも、信じられないわ。このスライムが切断した手足をくっつけちゃうなんて」

「癌治療も出来ますよ」

「本当に?」


 なに、そのチート!

 ブルバレン世界で一匹欲しいわ。


「もし、このスライムが分裂したら、ブルバレン世界で欲しいわね」

「済みません。それは出来ないんです。女神様からは異世界への生物の持ち込みは禁止されていますから」

「そう言えば、そうだったわね。でも、ヒールスライムのことを二年前に知っていたら、こっちでもスライムを探して、ラヤに教育してもらったのにね」

「でも、アキさんだって治癒魔法が使えますでしょ?」



 取扱説明書:アキ-108号は、傷ついた男性を完全に癒す能力を有します(()()()())。相手が男性の場合は、異性愛者でも同性愛者でも治します。



 取扱説明書:女性でも同性愛者の場合は、癒しの能力が発動します。



 取扱説明書:しかし、アキ-108号は、女性同性愛者あるいは男性に懇願されない限り、一般女性には癒しの能力を()()()()()()()



 取扱説明書:例外的に性病の場合は女性でも治します。これは、飽くまでも男性に感染するのを防ぐためです。



 取扱説明書:ただし、精神性疾患は治せません。これは、精神的に病むことで様々な性癖が生み出される可能性があるためです。むしろ、アキ-108号は性癖の多様性を守ります。



「まあ、一応はね」

「それに、結果的に男性に懇願されれば女性も治せるわけですし」

「たしかに、そうなんだけど……。でも、何で知ってるの?」

「実は、二年前に、そっちの世界もヒールスライムを作る必要があるか、女神様に問い合わせたんです。そうしましたら、アキさんとマナミさん、あと、一応マリカさんも、発動条件はありますけど、治癒魔法が使えるって教えてもらいましたので」

「そうだったんだ」

「それに、アキさんが住む町には、スタチンさんって言う医師もいるって話ですし。なので、そっちの世界にヒールスライムを作る必要は無いって言われました」


 つまり、基本的に、このメンバーがいれば、ある程度は事足りるってことだ。

 さすがに切断された手足をくっつけることは出来ないけど、切断されていなければ、スタチンさんはともかく、私もマナミもマリカも、かなりの大怪我でも治せるはずだしね。

 私自身の前例で言えば、ショー・スーシーがティラノ君に半死半生にされたのを、瞬時に治しているし……。



 それに、人間であるスタチンさんは寿命があるけど、私もマナミもマリカも、破壊されない限り永遠に生き続けるから、基本的に代替わりする必要も無い。

 言い換えれば、私達三人は、永遠に癒しの能力を発揮しろってことだ。

 マリカはHな癒ししかヤらないと思うけど。



「でも、精神疾患は治せないのよね」

「それは、私も同じです」

「えっ? ラヤなら何でも治せるって思ってた」

「そこまで完璧じゃないんです。それと、EDも治せませんし。そっちは、フユミさんの薬で対応しています」

「そうなんだ。まあ、そっち系の薬だけなら、一応、私も出せるんだけどね」



 取扱説明書:アキ-108号は、Hに必要なモノなら何でも魔法で作り出せます。また、Hの道具を何でもそつなく使いこなすことが可能です。その道具に関する知識も豊富です。



 なので、今更言うのもなんだけど、ED治療薬だけじゃなくて早漏治療の薬も出せるんだよね。

 ただ、元々、早漏治療薬は抗うつ薬として開発されていた薬だから、私の店では、飽くまでも抗うつ薬として販売しているんだけど……。

 もっとも、買う側は、夜のお勤めを長時間楽しむために買って行くけどね。


 それと、ED治療薬は、今でも一般には売っていない。

 ミチルさんにだけ、特別に売っているけどね。

 飽くまでもパラスとの性生活のために……。



「じゃあ、アキさん。そろそろ」

「そうだね」

「それで、アキさんは何が食べたいですか?」

「なんか、餃子とか春巻きとか?」

「イイですね」


 そんなわけで、私とラヤは、中華メインの夕食になった。

 ヴァナディスも、私に付きあって中華。


 お母さんは、マイペースでホッケにから揚げに卵焼きに……絶対居酒屋メニューだ。

 最後は多分、お茶漬けで締めだね。

 もしくは焼きおにぎりか。


 フルフラールとピレンはイタリアン。

 そう言えばピレンは、この前、私達が来た時は、スープスパゲッティだった気がする。

 イタリアンが好きなのかな?



 思い切り統一感のない食卓だけど、こんな贅沢が出来るのも、あと二週間くらいか。

 でも、これでラヤの転移先がブルバレン世界だったら笑っちゃうな。



「そうそう。今日ね。ユキが来たんだよ」

「ユキ……ですか?」

 こう聞いて来たのはラヤ。


「私の大学の時の同期なんだけど、私より少し早くブルバレン世界に転移していて」

「もしかして、働かない女ですか?」

「どうして知ってるの?」

「リニフローラ様に聞きましたので」

「そうなんだ」


 もしかして、リニフローラって女神のくせして口が軽くない?

 一応、話す相手は選んでいるんだろうとは思うけど。


「たしか、大天使セクロピアが召還したんですよね?」

「らしいわね」


 さすがラヤだ。

 キチンとセクロピアって言えているよ。

 私なら、絶対にセクロ……なんとかになっているはずだから。



「それで、その人はアキさんのところに何しに来たんです?」

「なんかね。働き口を探しているらしいのよ」

「えっ?」


 次の瞬間、ラヤがフォークを落とした。

 さすがにユキが働こうとするなんて、全然予期していなかったようだ。

 珍しくラヤが固まっていたよ。



「先を見据えて、キチンとお金を稼がないとイケナイって思うようになったらしいわよ」

「信じられませんけど……。でも、これって、なんか歴史的台風でも来そうな展開じゃないですか?」

「私もそう思ったよ。そうしたら、マジで豪雨になった。まあ、普通の(?)豪雨だったけどね」

「でも、普通の(?)豪雨で済んで良かったじゃないですか」

「まあね。本当に歴史的台風なんかが来たら、ビナタの町が壊滅的被害に遭うのは目に見えていたからね」

「でも、その豪雨に紛れて、ラフレシア様が何かしていないとイイんですけど」


 ラヤは、ラフレシアと関係が切れても『様付け』で呼ぶんだね。

 まあ、異世界に来るキッカケを作ってくれた相手だから、敬意を表しているんだろう。

 そのまま地球に居ても腐っていただけみたいだし。

 ラヤこそ、異世界に来てマジで良かったタイプだと思う。



 ただ、ラヤも珍しく、ユキに対しては毒のある言い方をしている気がした。

 仮にもユキは、大天使セクロピアの手によって召喚された人間だからね。何の特典能力も与えられていないはずが無い。

 むしろ、勇者級の何かを与えられているだろう。


 それなのに、ユキが何もしないで惰眠を貪っているのが、ラヤにとっては思い切り気に入らないことなのかも知れないね。

 ラヤは、異世界を転々としてダ女神共の使いっぱとして、色々と問題解決しているみたいだからさ。


 …

 …

 …


 数日後のことだ。

「来たよー!」

 早朝から、ユキが私の店に来た。


「もしかして、就職が決まったの?」

「一応、商業ギルドに運送業者を紹介してもらえて」

「じゃあ」

「うん。そこで働くことになったよー。長距離移動ができるから給料も高いし、週休三日だから結構楽だし」

「良かったじゃん」

「ありがとう。あと、セクロピアからの報告でね。先日の豪雨だけど、ラフレシアが絡んでいたみたいだよー」

「そうなんだ」

「ビナタ町を中心に半径五十キロの広範囲で凄い大雨だったらしいよー。それで、その時に、ここから西に二十キロくらい離れたところの町、アングリカに小松照代がラフレシアに召喚されて来たって」


 小松照代って、なんか、勝手に困っているみたいな名前だな(こまつてるよ)。

 絶対に、親の悪意を感じるよ。



「それで、日本のどの辺りから来たの、その小松照代って?」

「私達の大学の同期でいたでしょ?」

「えっ?」

「覚えていないの? ええと、宇井武司っていたでしょ? アキの元彼の友人で」

「いたねぇ、そんなの」


 地球時代には、一応、私にも彼がいたけど、フラれたんだよね。

 槍田一朗やりたいちろうってヤツで、美少女フィギュアオタクだった。

 今の私なら、絶対アイツに重宝されるだろう。

 ちなみにアイツは、Hなことを変にやりたがる輩でもなかったし、遅漏でもなかったけどね(やりたいちろう)。



 たしかに宇井武司はアイツの友人の一人だった。

 アイツは大抵、伊勢天馬、楠田賢治、唐桑俊樹、江夏雅也、丸茂(まりも)京志郎、宇井武司、甲斐誠治とつるんでいてね。


 それで周りからは、

鎗田伊勢(やりたいせ)……楠田唐桑(くすだからくわ)江夏丸茂宇井(えなつまりもうい)……甲斐(かい)

 とか言われていたっけ。



 それは置いといて。

 宇井は、今では、マリカ教にどっぷり嵌まっている……と言うか、完全にマリカの性奴隷になっている。

 でも、これは仕方が無いと思う。


 宇井は、偶然、時空の狭間に入ってしまって、この世界に飛ばされて来たらしい。

 誰かの手によって召喚されたわけではなかったから、召喚者の特典である魔法も、転移先の言語を自動的に理解する力も与えられていなかったんだよ。

 だから、宇井は転移直後、かなり苦労したと思う。


 でも、そんな彼の目の前にマリカが現れた。

 日本語を理解できるマリカは、まさに宇井にとっては救世主だったんだろうと思う。

 マリカによってマジで救われたんだよ、宇井は。

 だから、宇井がマリカ教信者になるのは、当然の流れじゃないかって気がするんだ。



「それで、小松照代だけど、宇井武治と婚約してたんだって」

「そうだったんだ!」


 でも、もし照代が宇井と結婚して宇井の姓を名乗ったとすると、浮いている人みたいな名前になるんじゃない?(ういてるよ)。

 これって、絶対に最低な選択だと思うんだけど……。

 まあ、そこは人それぞれだから、私がトヤカク言うことでも無いんだろうけどね。



「でも、宇井が日本から失踪して結構経つでしょ? その照代って人、なんで今更」

「それなんだけど、照代は宇井が失踪した半年後の世界から、時空を超えてここに来たらしいよー」

「そうなんだ。でも、絶対に、一波乱起こるよね?」

「だよねー」

「あと、照代はラフレシアが召還したわけだから、魔法も装備されているよね?」

「勿論だよー。攻撃魔法一通りと転移魔法が与えられたみたい。それで、早速、ランゲルハンス島に向かって転移したみたい」

「でも、その人、ランゲルハンス島がどんな島か知っているのかな?」

「さあ」

「あそこは、マリカのためだけに造られた楽園だからねぇ」

「知ったら、血の雨が降るよねー」


 そう言いながらも、ユキからは、なんとなくだけど楽しんでいるような雰囲気が感じられた。

 絶対に他人の不幸を喜んでいるだろ!

 もっとも、それが普通の反応なんだろうけど。



 でも、私からすれば、私のテリトリーが平和なら、他はどうでもイイよ。

 ここビナタとディスプロシ島、それからディスプロシ島開発に関係するところに火の粉が降りかからなければね。



 あと、ふと思ったんだけど、伊勢天馬と甲斐誠治が未だに転移して来ないのは何でだろ?

 この世界のオヤジギャグ的要素を考えたら、それこそが然るべきことのように思うんだけどなぁ……。

 何故って、伊勢と甲斐で『いせかい』だからだよ!

 それから、天馬と誠治で文字を入れ替えると『天誠馬治(てんせいまじ→転生マジ)』になるからね。


 でも、こんなアホらしいことを思いつくなんてね。

 私も、この世界独特の、つまらないギャグセンスに相当毒されたみたいだな。

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