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91/210

91.多分、この世界で一番怖い仕置き人だよね?

 バカホン達三人組が、森を抜け出て草原に辿り着いた。

 その姿は、上空にいる私達からはモロ見えだったけど、彼等は私達の存在に気付いていないみたいだった。

 この時、彼等の目には、その遥か先に見える海岸線が映っていたようだ。


「なんで海が?」

「ここって、言っていた場所と違うんじゃないか?」

「たしかに、ラージェスト王国とハーレ王国の国境なら内陸だ。こんな近くに海が見えるはずが無い!」

「あの転移魔法使いのヤロウ!」



 取扱説明書:アキ-108号は、男性の声なら、どんな小声でも聞き逃すことはありません。



 この機能のお陰で、結構、距離的には離れていたけど、私には彼らの声がキチンと聞こえていた。

 ある意味、便利な機能だ。


 ようやく彼等は、ニコラスが予定とは別のところに転移していたことに気が付いた。

 実は、ここは当初の目的地ではなく、ちょっと大き目の島だったんだ。

 しかも、二年前のランゲルハンス島と同じ理由で人が近付きたがらない無人島でね。

 ここで、コイツ等には恐怖を味わってもらう。



「グギャア!」

 突然、草むらからラプトルに似た数頭の魔物が姿を現して三人に向かって突進してきた。

 今まで私達が魔物に出会わなかったのは、近くにミチルさんがいたから。

 さすがにレッドドラゴンが相手じゃ、大抵の魔物は、一定以上の距離を置く。

 なので、実はミチルさんのそばが一番安全なところだったりするんだ。


 バカホン達は、

「なんで魔物が?」

「逃げろ!」

 魔物とは反対方向に走り出した。


 そして、走ること数分。

 彼等は前方に小屋を見つけた。


「一旦、アソコに逃げ込もう!」

「おう」



 三人が小屋に入るのを見届けて、私達は小屋のすぐ近くに降り立った。

 そして、小屋の入り口とは反対側に隠れて、中の様子を覗き見することにした。

 面白いショーの始まりだ!

 この時、ミチルさんには、レッドドラゴンのオーラを最小値まで抑えてもらっていた。でないと、魔物達が小屋に近付けないからね。



 突然、私達の周りに結界が張られた。

 これで、私達が魔物に襲われることは無い。


 実は、この小屋の中にはラヤがスタンバっていたんだ。

 ラヤは結界魔法も使えるからね。

 それで、彼女の魔法で私と、ドラゴンオーラを抑えたミチルさんの周りに結界を張ってもらったんだ。



 命からがら小屋に逃げ込んだバカホン達だけど、そこで一人のカワイイ系美少女、ラヤに出迎えられた。


「どうかされました?」


 見た感じ、ラヤの姿を目にして、三人は、

『ラッキー!』

 みたいな顔をしていたよ。

 しかも、隙あらば襲いかかろうみたいな雰囲気さえあった。

 早速、エロ脳全開かよ!


「森の中でレッドドラゴンに遭遇して、ここまで逃げてきたら、今度は別の魔物に追いかけられてね。君は、こんなところに住んでいるの?」

「はい」

「一人?」

「そうです」

「魔物が怖くない?」

「この小屋にいれば安全ですから」

「そうなの? なんで?」

「魔物除けの結界が張ってあるんです」

「へー、そうなんだ。君の名前は?」

「ラヤ」

「ラヤ?」


 一瞬、バカホン達の表情が凍り付いた。

 さすがにラヤのことは超有名だからね。

 カリセン王国を数時間で降伏させ、ラージェスト王国とアデレー王国の連合軍を一瞬で壊滅させた最凶の破壊神ラヤ。

 普通は、そんな人間には絶対に近付きたくない。


 しかし、ラヤは四年以上前に死んだはず。

 なので、常識的に考えれば、ここにいるラヤは、単なる同名の別の女の子だろう。

 飽くまでも、一般常識的に考えればだ。



 恐らく、バカホン達は、ラヤが伝説の最凶破壊神とは別のカワイイ系美少女だと思ったんだろう。

 三人で顔を見合わせた直後、急にエロ丸出しの表情に変わったかと思うと、三人でラヤを取り囲んだ。


「ラヤちゃん。俺達とイイことしない?」

「イイことですか?」

「そう」

「それって、もしかして私の練習台ですか?」

「はっ?」


 突然、ラヤが三人に向けて電撃を放った。

 彼女は女神から護身用に電撃魔法を授けられていたんだ。

 随分、私と魔法の装備が違うなぁ。


「ギャー!」


 その場で倒れ込むバカホン達。

 スタンガンでやられたのと同じ状態だからね。

 さすがに、全身に力が入らないようだ。


 そんな三人を横目にラヤは、

「結界解除」

 と呟くと、扉を全開にした。

 この小屋には、さっきまで魔物が入れないようにラヤが結界を張っていたんだけど、それを、たった今、取り払った上に扉まで開けて、魔物達が出入り自由な状態にしたと言うことだ。



 バカホン達を追いかけてきた魔物達は、小屋の中にエサが入って行ったのをハッキリと見ていたようだ。

 それで、エサが出てこないかと、この近くを徘徊していた。


 そこに、突然、結界が消えて、しかも扉が開いたわけだからね。

 当然、その魔物達は、エサを求めて小屋の中に入って行った。



 しかし、次の瞬間、

「死ね!」

 ラヤの最凶魔法が放たれた。

 次々と首を刈られて絶命する魔物達。


 そして、ラヤはバカホン達の方を振り返ると、

「生き返ったのよね、私。アキに復讐するため」

 と言いながら薄気味悪い笑みを浮かべていた。


 ただ、これは演技だからね!

 私を殺そうなんて、ラヤは思っていないからね!

 多分…………。

 ちょっと自信がないな。



 既に、バカホン達は全身が痺れて声も出せないでいた。

 床に倒れ込んだ彼等を狂気に満ちた目で見下しながら、ラヤが言葉を続けた。


「四年前、私はアキに倒された。あの女こそ、私を倒すために女神リニフローラが用意した最終兵器。しかし、今度こそ私はアキを殺す。そのために、君達は練習台になってくれるよね?」


 そして、ラヤは再び薄気味悪い笑みを浮かべた。

 本当にヤバイ殺人鬼を演じているよ!

 これがラヤの本性じゃないよね?

 大丈夫だよね?



 さすがに、バカホン達は、このラヤが本物であることを悟ったようだ。

 魔物達を首ちょんぱで一蹴したんだ。

 こんなことが出来るのは、伝説の超破壊神ラヤ以外の何者でもない。


 たださあ。このラヤの台詞を聞いたら、私も超ヤバい何かに聞こえないかなぁ?

 最凶のラヤを倒しただなんて……。

 倒したのはミチルさんなんだけど!


 絶対にバカホン達をビビらせて楽しんでいるな、ラヤのヤツ。

 今のバカホン達の心境は、

『レッドドラゴンが出て来なかったら、あの場でアキに殺されていた』

 ってとこかも知れない。



 取扱説明書:アキは集中すると、エロ男性が心の中で発した妄想の声を聞き取ることが出来ます。



 久々に新能力が出てきたけど……。

 と言うわけで、私は、集中してバカホン達の心の声に耳を傾けた。

 コイツ等はエロ男子だから、多分、考えていることが聞こえてくると思う。


 すると、

『だったら、アキに腹上死させてもらいたかった……』

 だってさ。

 とことん、頭の中はドピンクだったよ。



 ただ、丁度この時、何故か唐突にラヤの雰囲気が今まで以上に怖くなった。

 良く分からないけど、怒っている感じなんですけど?

 そして、ラヤからバカホン達に再び恐怖の言葉が放たれた。


「でも、練習台は魔物達でもイイか。じゃあ、君達には三つの選択肢をあげるね。首を刈られるのがイイ? 魔物達に生きたまま食われるのがイイ? それとも、レッドドラゴンの供物になるのがイイ?」


 今のラヤは、最上級に怖い。

 さすがに、バカホン達の目からは涙が流れ出した。

 目の前にいるのは、絶対に抗うことのできない悪魔。



 その直後、余りの恐怖からか、

「ジョ──!」

「シャ──!」

「ブリブリブリ!」

 三人共、体内から何か出しやがったよ。


 マジで汚いなぁ、もう……。

 そうなる気持ちも分からなくはないけどさ。



 ラヤがバカホン達に掌を向け、再び電撃を放った。

 しかも、さっきよりも強烈だ。


 クソみたいな……それを漏らしたヤツもいるか……エロ男子達を一蹴。

 これを受けて三人は白目をむいた。

 完全に気を失ったようだ。



「アキさん、ミチルさん。終わりました」

 こう言うと、ラヤは私達に張った結界を解除した。



 取り急ぎ、私とミチルさんは小屋の中に入ったけど、ラヤからは、何故か不機嫌そうな雰囲気が思い切り漂っていた。

 やっぱりマジで怒っているような感じだ。

 でも、何故いきなり、こうなったんだろう?


「どうかしたの?」

「なんでですか?」

「ちょっと、いつもより怖いから」

「ああ、ゴメンなさい。コイツ等、あんな窮地に立たされているのに、心の中では『アキさんとHしたい!』みたいなことを考えていたようでしたので……。何を考えているんだと思いまして、つい」


 これは驚いた。

 私には『エロ男性の妄想の声を聞く能力』があるから分かったけど、そんな能力は、普通は持っていないよね?

 もしかして、ラヤも私と同じ能力を持っているってこと?


「どうして分かったの?」

「何となくですけど……。実は、バージェス世界で私の周りにいた男性達のほとんどがナツミ狙いでして」

「ナツミって、私にそっくりな人よね?」

「はい。それで、その男性達は、みんなナツミの姿を見て変な妄想をしていまして」

「アレ専用に造られた私と同じ容姿だからね。何となく想像はつくよ」

「そう言えば、生きた性欲処理具でしたっけ?」

「ちょっと、その言い方は勘弁して」

「ゴ……ゴメンなさい」

「飽くまでも私は、自立型の等身大美少女フィギュアだから!」

「そうでしたね。それでですね、ソイツ等からのエロ思念波を年がら年中受けていましたから、たまになんですけど、男性達がどんなエロ妄想しているかを魔力探知できるようになっちゃったみたいなんです」


 それって、索敵魔法ならぬ索エロ魔法ってこと?

 理由はともかく、これはラヤのオリジナル魔法に違いない。

 でも、情事発動……じゃなかった、常時発動ってわけじゃないんだね。

 たまにって言っているから。



「取り敢えず、ここまでは予定通りですので、さっさと計画を完了しましょう」

「そうね。じゃあ、ニコラスを呼んで来る」


 私は、ソープマットを出すと連続転移でニコラスが待っている大陸へと移動した。

 島から大陸への移動だからね。どうしても、海に浮かぶための何かが必要になるんだ。


 その手のアイテムで、私が出せるモノが、たまたまソープマットだったってことだけで、別に、ここでエロイことを展開しようなんて1ミリも思っていないからね!



 大陸側でニコラスと合流。

 その後、私とニコラスは、ニコラスの長距離転移で、一気に島へと戻って来た。


「じゃあ、ニコラス。早速だけど、お願い」

「了解です」


 そして、ニコラスは、こことは別の島……エロノベル島に、私とミチルさん、ラヤ、それから気絶したままのバカホン達を連れて転移した。

 エロノベル島は、さっきの島とは違って魔物がいない無人島だ。

 大陸からは二百キロほど離れた孤島で、この世界の技術では、海上を移動して上陸するのは結構大変なところだと思う。



 エロノベル島に到着。

 転移先には、さっきまでいた小屋と全く同じ小屋を予め用意しておいた。


 私達は、その小屋の中にバカホン達を放置すると、再びニコラスの転移魔法でビナタの町へと帰還した。



 数時間すれば、バカホン達は目を覚ますだろう。

 その時、彼等は何を思うだろうか?


 魔物がいない別の島に移動しているけど、彼等は、それを知らない。

 敢えて、魔物の島にあった小屋と同じ小屋にしてあるから、多分、彼等は、今までいた魔物の島だと勘違いすることと思う。



 数日すれば、そこには魔物がいないことに気付くと思うし、その島で暮らす方法を模索し始めるだろう。

 同時に、何とかして島から脱出しようと考え出すに違いない。

 でも、多分、その島から彼等は脱出できない。


 実は、この島の周りには凶暴なサメがムチャクチャ多くて、大型船ならともかく、小型船やイカダで近くの海を移動すること自体、大変リスキーなところなんだ。

 なので、バカホン達のように、この島に置き去りにされた人間が、自力で脱出するのは相当困難と言える。

 転移魔法での出入りなら、何ら問題は無いんだけどね。


 ちょっと可哀相かも知れないけど、気が向いたら救出に行ってあげるからさ。

 しばらく……当分かな?……その島で三人仲良く暮らしてくれ。

 その方が、世の女性達にとって安心だ。

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