表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/198

9.個人の自由だよね?

「絶対に、うちの亭主には手を出さないでよね!」

 相変わらずの台詞だけど、それでもテラさんの奥さんの口調は、これまでに比べると随分冗談めかした感じに変わっていた。


 基本的に口にしている内容は以前と変わらないんだけど、一応、毒のある雰囲気が無くなっていた。

 恐らく、私への感謝の気持ちが彼女の中にあるからなんだろうね。内緒で性病を治してくれたって言う。



 彼女が私の店を出ようとした丁度その時だった。

 随分と派手な装飾が施された馬車が私の店の前に止まった。


 そして、窓から中年男性が顔を出し、

「アキと言う者はいるか?」

 と横柄な口調で言ってきた。


 多分、貴族かなんかだろう。

 なんだか、下々の者達を見下した雰囲気がアリアリと感じられてムカつく。



 まあ、こう言う世界だしさぁ。

 一応、貴族に呼ばれたら挨拶くらいはしてあげないといけないね。


「私がアキですが、何の御用でしょうか?」

「ワシはクローマ子爵。王の使いで来……」


 途中で言葉が詰まったよ、こいつ。

 って言うかクローマ子爵とやらは、私の顔を見た途端、目付きがイヤラシくなって唾を飲み込んだんだ。

 それで、言葉が途中で止まっただけみたいだね。


「うーむ、これは陛下や殿下に渡すのは勿体無い! 是非ともワシの……」

 いきなり何が言いたいんだ?


 もう、この男は、いったい何を考えているのやら?

 当然、ナニを考えているんだろうけどさ。


 すると、馬車の中からワザとらしい大きな咳払いが聞こえてきた。

 どうやら、奥方様が同乗しているらしい。


 さすがに奥方様の前で女性を口説こうとしちゃマズイよね。

 子爵は、何事もなかったかのように表情を取り繕った。



「この手紙を国王陛下から預かってきた。受け取ってくれ」

 そして、私に手紙を渡すと、子爵は急いで馬車を出発させた。


 手紙の受け渡しの時に、ドサクサ紛れに手を握られたりしないかと思ったけど、珍しくそうならなかった。

 多分、それだけ奥方様が怖いんだろうな。



 手紙には、三日後にお城に来るようにと書かれていた。

 どうやら私が一人でティラノ君を退治したことになっていて、それで力を貸して欲しいとのことだ。


 魔物退治でもやらされるのだろうか?

 少なくともH方面の依頼じゃなさそうだね。



 三日後、私は連続転移魔法を使って、お城の前に到着した。

 一回の転移で2キロしか移動できないけど、私の場合は50回連続で転移魔法が使えるからね。指定された時刻の直前に出ても一応間に合うんだよね。


 日本よりも小さな国だしね。

 意外と王都まで近いんだ。


 そして、門番に王様からいただいた手紙を見せて城内に入れてもらうと、そのまま私は謁見室に通された。



 王族はゾウサンガパ家。

 つまり、ゾウサンガパ王ってことだ。ムチャクチャふざけたファミリーネームだな。


 国王陛下のファーストネームはビスカスで、殿下……つまり第一王子のファーストネームはアスタトスだそうだ。



 陛下とか殿下を前に、一応、私だって緊張している。

 そんな偉い人に会うのって生まれて初めてだもんね。


 偉い人じゃなくてエロい人にはよく会うけどさ。

 でもまあ、先ずは練習したとおりの当たり障りの無い挨拶からすればイイか。


「この度は、謁見の機会をお与えいただき、感謝申し上げます」

「そなたがアキか?」

「はい」

「まさか、こんな普通の女性が巨大魔獣を倒したと言うのか?」


 どうやら国王陛下は、ティラノ君を屈服させたってことで、筋肉隆々のマッチョな女性を勝手にイメージしていたっぽい。



 そう言えば、私を見てHな方に話が反れないなんて珍しいな。

 ただ、国王陛下の隣に座る御后様の視線が、なんか変なんですけど。

 いつもなら女性からはキツイ目で敵視されるけど、そんな感じじゃない。むしろ、御后様から放たれる空気の方がイヤラシイんですけど!?


 何となくオチが見えた気がするんだけど……。

 まあ、気になるので、一応、透視してみますか。



 取扱説明書:アキ-108号は、集中すると見ただけで相手の性癖を把握できます。



 納得……。

 国王陛下も御后様も、どっちも同性愛者だよ。それで、よく殿下が誕生したよね?

 まあ、そこは義務感から作ったってとこかな?


 それから、両陛下の隣で立っているのが殿下だね?

 彼はノーマルっぽいね。まあ、透視するまでもなく、私を見る目がイヤラシイから一瞬で分かったけどね。


「一応、私が、あの暴君魔獣を屈服させたのは本当です」

「信じられんが……。それで、そなたを呼んだのは他でも無い。七首のレッドドラゴンを倒して欲しいからでな」


 それって、聖書に出ていた七つの首を持つ赤い龍ってことかな?

 つまり、サタンを倒せと?

 まさかね?


「実は、アスタトスが隣国のラージェスト王国の第一皇女、メリル姫の婚約者候補に挙がっているのだが、他にも何人かの候補がいる……」


 アスタトスは、そこにいる殿下のことね。


 それで、ラージェスト王国だけど、この世界で最も大きな国らしい。

 名前のとおりだね!

 それと、軍隊の強さもハンパじゃないらしい。


 アデレー王国は小国でしかないからね。

 ラージェスト王国の隣に位置するってことは、それだけで常に恐怖に晒されているってことなんだろうな。


「わが国としては、是非ともメリル姫をアスタトスの妃に迎えたいのだが、ラージェスト王国がメリル姫を嫁がせる条件として出してきたのが、七首のレッドドラゴンの額に光る巨大なエメラルドなのだ。それを持ってきた国の者に嫁がせると。それで……」


 やっぱり、ラージェスト側は自分達の国力を知っているだろうからね。

 そうやって無理難題を出して楽しんでいるのかも?



 ただ、ここでアスタトス王子が国王陛下の話を遮った。

「ちょっと待ってください!」

「なんだ、アスタトス?」

「俺はメリル姫のことなど、もうどうでも良くなりました。それより、アキの方が気に入ったのですが」

「しかし、国防のため、メリル姫をなんとしてでもアデレー王国に妃として迎え入れなければならん。そうでもしない限り、ラージェスト王国の勢力に、我が国には脅かされ続けることになるぞ!」

「勢力も何も、俺はメリル姫なんかよりもアキに精力を注ぎたい!」

「ならば妾にすれば良いだろう?」

「それもそうか!」


 おいおい。勝手に話を進めるなよ!

 私の意思は入っていないじゃないか!


 それに、勢力から精力って。

 完全に頭の中がドピンクになっていないか、この王子?


 でもまあ、万が一の時には女王様モードで王子を屈服させればイイか。とにかく、私の身体をこいつらの好きにはさせないよ!



 それにしても、こいつら、私がレッドドラゴンと戦う前提で勝手に話をしているけどさ、それ以前に私には自分のお店があるんだよね。

 私がレッドドラゴンと戦うと言うことは、その間、期限不明でお店を臨時休業せざるを得ない。

 固定客も随分増えてきたとこなんだけど……。

 そこんとこ、分かってんのかな?


「もし私がレッドドラゴンのところに赴くと致しましょう。でも、その間、私は店を休業することになりますが、その間の売り上げの保証はしてもらわないと困りますが……」

「分かった。そこは何とかしよう」


 一応、保証してくれるってことなら、やりますか。

 最悪の場合は能力で金貨を出すからイイけどさ。



 あと、本質的な問題がある。

 本当に私の力で、赤い龍を倒せるんだろうか?

 それはそれで大きな問題だよね!


「で、そのレッドドラゴンは何処にいるのでしょうか?」

「一年ちょっと前からラージェスト王国の中央に聳えるアルミナム山に生息しているとのことだ。森林限界を超えた辺りの岩場にな」

「あと、レッドドラゴンはオスですか、メスですか?」


 これって私にとっては最重要だもんね。

 オスなら何とかなると思うけど、メスだと正直きついかも。

 女王様モードになれば、ラプ子の時のようにメスでも屈服させることはできるかもしれないけど、保障はできないからね。

 M要素が無ければアウトだからね。


「性別は分からんな」

 ってことは、オスである確率を50%とすると、勝率50%ちょっとってとこか。

 最悪の場合は逃げようっと。

 勿論、アルミナム山から直接、国外逃亡だね!


「それと、戦闘パーティのメンバーとかは、どうなるのでしょうか?」

「希望はあるか?」


 うーん。

 一般男性だとHなことしか考えないし、別の意味のパーティになりそうだな。乱れて交わる方のパーティね。

 一般女性だと私を敵視するしなぁ。

 女性同性愛者も雰囲気が怪しいし……。

 なら、一択しかないよね?


「男性同性愛者で!」

「なら、ワシの部下を数名貸そう」


 つまり、国王陛下は、部下とはそう言う関係ってことだね、きっと。

 あんまり想像したくないけど……。

 まあ、私の身が安全なら、それでイイや!


「それで、その部下達は、どのような魔法が使えるのでしょうか?」

「三人考えておって、一人目は炎の魔法と転移魔法を使う剣士。二人目は重力魔法と空中浮遊の魔法を使う剣士。三人目はシールド魔法と治癒魔法を使う者だ」

「有難うございます。お心遣いに感謝致します」

 一応、その三人には期待しちゃうよ!



 パーティは、明後日にアデレー国の王都を出発することになった。

 それで私は連続転移を使って、一旦、店に戻ると、店の扉にデカデカと『臨時休業』の張り紙を張った。

 ご贔屓にしてくれていたお客さんには申し訳ないけどね。



 そして、出発の日となった。

 私は、指定された場所……お城の前で待っていると、屈強な男三人組が私の方に近付いてきた。

 多分、こいつらだ。


「アキさんですか?」

「はい」

「ボクはフロギス。炎の魔法と転移魔法を使う剣士」


 ボクって顔かい!

 まあ、別にイイけどさ。


「それからボクの隣にいるのがグラビィ。重力魔法と空中浮遊の魔法を使う剣士です。そして、もう一人がプロタック。シールド魔法と治癒魔法を使う者です」


 フロギスにグラビィにプロタックね。

 でも、自分でリクエストしておいて言うのも何だけど、三人とも同性愛者って言うのは想像し難いな。

 まあ、その辺に付いては触れないようにしておこう。恋愛は個人の自由と言うことで!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ