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85.マリカの参謀?

 丁度、アキの店にユキが来ている頃のことだった。

 地球の……アキやマナミが育った街では、一人の社会人女性が交通事故で人生の幕を閉じようとしていた。

 横断歩道を歩行中に、信号無視して突っ込んで来た暴走車に撥ねられたのだ。

 頭蓋骨陥没で脳波はメチャクチャ。

 一応、まだ心臓は動いていたが、大脳が正常に機能するとは思えない。

 事実上、死を迎えていたに等しいだろう。



 彼女の名は今井麻衣。

 上から読んでも下から読んでも『いまいまい』だ。

 生前、アキ達と同じ街に暮らしていたが、特段、彼女達と接点があったわけではない。



 それから数時間後、麻衣の心停止が確認された。

 大脳に続いて身体も死を迎えたと言って良いだろう。


 麻衣は、大卒で社会人二年生。

 容姿には今一つ恵まれなかったが、頭の回転が速く、会社では期待されていた。

 そして、彼女が担当していたプロジェクトが、いよいよ開始される前日に、彼女は帰らぬ人となった。


「ここは?」


 ふと、彼女が目を覚ますと、そこは、一面が灰白色で覆われた空間だった。

 少なくとも、神々しさなど一欠片も感じられない。

 殺されて『最悪!』と思っているところに、このドンヨリとした雰囲気だ。

 精神的にも、かなり滅入って来る。


「今井麻衣だな?」

 力強い男の声が聞こえてきた。


「誰?」

「我が名はラフレシア。かつて、この世界で天使長を務めていた者だ。今は、堕天使と呼ばれているがな」

「じゃあ、サタン?」

「お前の世界では、そう言った呼び名もあるようだな」

「サタンがいるってことは、ここは地獄?」

「いや、天国でも地獄でもない。ここは、お前が転生する異世界の前室とも言える空間だ。ここでは、前世でヤリ手と謳われたお前を、是非とも我が配下として迎えたい」

「イヤです。そんな、悪魔の手先だなんて!」

「別にタダとは言わない。お前には、強力な攻撃魔法と、ちょっとした物質創製魔法、不老かつ病気にかからない身体、さらなる知恵、そして、お前が理想とする優れた容姿を与えよう」

「容姿を?」

「そうだ。しかも不老なので、その美を永遠に保持することになる。勿論、殺されでもしない限り死ぬこともない。老化が無いのだからな」

「たしかに!」

「もっとも、永遠とも言える時間の中で、毎日、入れ代わり立ち代わり色々な男性からアプローチを受け続けて嫌気がさすかも知れんが……」


 生前、麻衣は才女と呼ばれていた。

 学生時代は勉強ができる方で、男女問わず、多くの級友達に頼られる存在だった。

 社会に出てからも、その優秀さ故に、やはり男女問わず同僚達から一目置かれていた。

 なので、男性と一切会話をしたことが無いほど悲惨な喪女人生ではなかった……と生前は思っていた。


 しかし、いざ人生を振り返ってみると、どうだろう?

 私的に男性と会話をしたことはあっただろうか?

 勉強や仕事のこと以外で、男性と何か接点はあっただろうか?

 記憶にない。


 男性達が近付いて来るのは勉強や仕事絡みの場合のみ。

 全然、男性達からは、一人の女性として見てもらえていなかったのだ。



 もし、ここで首を縦に振れば理想の容姿を手に入れられる。

 それこそ、前世で体験できなかった喜びや快楽の全てを余裕で手に入れることが出来るだろう。

 しかも、さらなる知恵と攻撃魔法、物質創製魔法も手に入る。

 麻衣にとって、これ以上の好条件は無い。


「でも、それって本当なのですか?」

「嘘は言わない。勿論、条件はあるがな」

「それで、その条件とは?」

「ある宗教団体の幹部となって教祖を支えてやって欲しい」

「宗教ですか?」

「教祖は永遠の命を授かった不老の女性でな。男性信者ばかりの宗教なんだが……」

「はぁ……」


 勿論、これが真っ当な宗教ではないことくらい麻衣には、すぐに理解できた。

 堕天使が後押しする宗教なのだ。

 基本的にロクなモノでは無い。


 しかし、仮に悪魔崇拝だったとしても、末端信者ではなく幹部なら旨味もあるだろう。

 信者は男性ばかりだし……。

 そこに、自分が美女として生まれ変われば、前世では経験できなかったことがソッコーで、しかも色々とできそうな気がする。


「言語能力は?」

「転生先の言葉を全て理解できるようにしておく。それと、転生後、すぐに動いてもらいたいのでな。不自然だが、二十歳の姿で転生していただくとする。もっとも、零歳で生まれ変わって不老では、永遠に赤ん坊になってしまうので、最初から成人になってもらわないと困るのだが」

「それもそうですね」

「それから、飽くまでも教祖を支える参謀役であることを忘れてはならない。当然、教祖を出し抜いてはならない。それが条件になるが、どうだ、依頼を受けてくれるか?」

「是非、やらせていただきます」

「では、よろしく頼む。教祖には、既に私の方から話をつけてある。では、早速、ブルバレンと呼ばれる世界に転生してもらう。行き先はウンカ公国の……」

「ウンコ?」

「いや、ウンカ公国だ。そこのエレクタ村のマリカ教第二支部。そこでお前は賢者マイと名乗るが良い」

「分かりました」

「あと、一応、HP抵抗性も持たせておこう」

「HP?」


 マリカの側近になる以上、マリカの最大HPにイチイチ反応されても困る。

 それでラフレシアは、マイにHP抵抗性を持たせることにした。

 つまり、超高HPに曝されても何も感じないようにすると言うことだ。

 しかし、マイにはHP抵抗性の意味が分からない。

 当然、

「(なんだろう、それ?)」

 とマイは思っていた。


 一方のラフレシアは、そんなマイを余所に、

「くれぐれも参謀役であることを忘れずにな。あと、念のため避妊魔法を与えておく」

 と言うと、ソッコーでマイをブルバレン世界に転移させた。



 突然、マイの目の前が真っ暗になった。

 意識も途絶えた。

 まるで、一瞬で深い眠りについたような感覚だった。


 そして、気が付くとマイは、マリカ教第二支部の門の前で倒れていた。

 ご丁寧にラフレシアは、マイの肉体を目的地のすぐ目の前まで運んでおいてくれたのだ。


「たしか、マリカ教第二支部って言っていたわよね、あの堕天使。つまり、行き先はここね。ホント、移動の手間が省けたわ。ただ、容姿の方はどうなっているのかしら?」


 マイにとって、今、一番気になるのは自分の容姿。

 取り急ぎマイは、

「出ろ!」

 物質創製魔法で姿見を出した。


 ラフレシアは、『ちょっとした物質創製魔法』と言っていたので、大それたモノを出せるとは思っていなかったが、これくらいなら何とか許容範囲だった。

 そして、マイは姿見に自身の姿を映し出した。


 先ず顔。

 まさに自分が憧れていた女優に瓜二つ。


 スタイルも凄い。

 豊満な胸にくびれたウエスト、長い脚。

 女性の自分から見ても、非常に魅惑的な身体である。

 しかも小顔。

 たしかに要求通り……いや、それ以上だ。



 世の中には、もっと綺麗な女性もいるだろう。

 しかし、これなら千人に一人とか一万人に一人とか言っても過言ではないレベルだ。

 マイ的には、もはやパーフェクトと言っても良い。

 少なくとも、前世であれば、自分の生活圏内には絶対にいて欲しくないタイプだ。


「キレイ……。さすが堕天使。気に入ったわ、この顔も身体も。じゃあ、早速、教祖様に会いに行くとしましょうか!」


 早速、マイはマリカ教第二支部の門を叩いた。

 しかし、誰も出てこない。


 仕方が無いのでマイは、

「堕天使が『話はつけてある』って言っていたから大丈夫よね?」

 そう言いながら勝手に中に入って行った。



 奥の方の部屋から明かりが漏れていた。

 その部屋の扉が半開きになっていたのだ。


 なんだか物音がするし、多分、そこに誰かいるはずだ。

 そして、マイは、その部屋を覗き込んだ。

 ただ、その部屋の中で展開されていたのは、マリカ教特有の修行(?)に他ならなかった。


「ナニこれ?」


 驚きの余り、マイは声を上げてその場に尻もちをついた。

 すると、

「誰だ?」

 扉の近くにいたマリカ教信者の男性が扉を全開にした。


 勿論、その男性は全裸であった。

 教祖のマリカを相手に修行(?)していたのだから当然であろう。

 すると、部屋の中から女性の声が聞こえてきた。


「アナタがマイね。私は教祖のマリカ。参謀が来るってラフレシアから聞いているわ。入ってらっしゃい」

「えっ?」

「怖がらずに。男、興味あるでしょ?」

「それは……でも……」

「バリヤーが高いのは最初だけよ。すぐにバリヤーフリーになるから。それに、ラフレシアからは避妊魔法も使えるって聞いているわよ。だったら安全じゃない?」

「……」


 前世で経験の無いことだ。

 正直、抵抗がある。

 しかし、興味もある。


 少し時間はかかったが、マイは、多くの男性信者達が修行に精を出す……まさしく大人の男性達がみんなで遺伝情報の入った精を出す場に自らの意思で入って行った。

 結果的に、恐怖心よりも好奇心の方が上回ったようだ。



 ここは、恐らく普通の女性なら、マリカが放出する二百万ものHPを受けて嫌悪感のみに心が支配される空間であろう。

 当然、マリカから距離を置こうとして部屋の中には入れないはずである。


 しかし、マイにはHP抵抗性がある。

 それ故に、マリカの尋常ではないレベルの超高HPに曝されても、臆することなく修行の場(ベッドの上)へと自らの足で進んで行くことが出来たようだ。


 …

 …

 …


 小一時間が過ぎた。

 既に事後。

 マイは、前世で一度も経験したことが無い快楽を手に入れていた。


 マリカ教の修行……すなわち一対多の行為を実体験し、その世界にマイは完全に嵌まってしまったようだ。



 異性からの愛を知らなかった女性が、いきなり不特定多数の男性達に愛し合う行為を求められたのである。

 最初は恐かったが、一旦、それを受け入れてしまうと、今度は多くの男性達が自分を欲してくれることに喜びを感じてしまったのだ。


 勿論、そこには、

『自分が美人!』

 と言う自負も加わったことで、その淫猥なる世界に加速度的に落ちて行ってしまった部分もあるのかも知れないが……。


「少し休憩」

「突かれた……じゃなくて疲れたかしら?」

「Wの意味でYesです。でも、教祖様は、全然疲れた感じが見えませんが?」

「私は普通の人間じゃないからね」


 マイは、この時、マリカが性なる魔玩具であるとは、さすがに思っていなかった。

 そこまで考えを飛躍させることが出来なかったのだ。

 しかし、堕天使ラフレシアが後押しする宗教の教祖である。

 少なくとも人間以外の悪しき存在が、人間に化けているだろうとは想像していた。


「ラフレシア様からは、教祖様を支えるようにって言われておりますが」

「実は、安心してみんなで修業ができる場所が欲しいのよ」

「修行ですか?」

「さっきまで、貴女もヤッていたじゃない。修行」

「あれが修行なんですか?」

「当然! もっとも、女性は常に私一人だけだったんだけどね。マイだったわね」

「はい」

「ラフレシアからの紹介だからね。アナタだけは特別よ。この宗教は、女性の入信は本来不可だから」

「それは光栄です」


 本来、マリカ教は、マリカvs男性陣だけの宗教だったが、宗教を運営して行く上では対外的な要素も含めて頭脳労働も必要となる。

 故に頭脳労働が苦手なマリカとしては、ヤリ手の幹部が欲しいと思っていた。


 マリカとしても、最初は同姓の参謀は受け入れたくなかった。

 マリカ教の信者は自分だけの下僕であって欲しく、当然、自分以外の女性を自分のテリトリーには侵入させたくなかったのだ。


 しかし、HP二百万に曝された男性では、頭の中がドピンクになっていて、参謀役は全然務まりそうになかった。

 それで、マリカは、自分を絶対に出し抜かない忠実な参謀となる女性を要求した。


 そして、ラフレシアから条件に合う者としてマリカに紹介されたのがマイだった。

 マリカもマイを参謀役として受け入れることとし……、現在に至る。



「ただ、第一支部のあるスプマ町では、マリカ教の追い出し運動が始まっていて、それで、ここエレクタ村への移住を考えたんだけど、そうしたら、ここでも追い出し運動が始まっちゃって」

「ええと、スプマ町の方が第一支部で、ここは第二支部ですよね?」

「ええ」

「本山は何処なんですか?」

「オキシラン共和国のネトリ村なんだけど」

「そっちは大丈夫なんですか?」

「周囲の街からは完全に出禁状態ね。なので、第一支部の信者を全員、ネトリ村に収容するのは、さすがに難しいかな」

「なるほど」


 マイは、先ず自分がやるべきことがマリカ教信者達の安住の地の確保であると理解した。

 マリカ教の追い出し運動が始まったのも、その実態が乱交宗教だからであると、容易にかつ即座に想像ついた。


 ただ、その宗教の特性上、何処に移住しても近隣住民との摩擦は免れない。

 男性は喜んで入信するかも知れないが、女性からはアンチ・ヘイトが厳しいだろう。

 だとすると、人里離れたところに信者全員を収容できることが望ましいだろう。


 しかし、完全に誰も来られないところに設置するわけにも行かない。

 それでは、新たに信者を増やすことができないからだ。



 たしかに、マリカが相手をする人数には限りがある。

 そのため信者数には上限が必要だ。


 しかし、人間はいつか死ぬ。

 これに対し、マリカもマイも不老の身体。

 基本的に殺されでもしない限り死ぬことは無い。


 なので、男性信者の補充は必要だ。

 勿論、数十年単位での長期的視野で見た場合の話だが、補充しなければ、いずれ男性信者は全員死んでいなくなる。


 それに、できればマイ直属の部下になる男性も欲しい。

 よって人の出入りは、一応可能にしておかなければならない。


 マイは、

「出ろ!」

 物質創製魔法で、ウンカ公国及び近隣諸国の地図を出した。

 そして、ウンカ公国とオキシラン共和国の国境の南方に、少し大きな島があるのを確認した。


「教祖様。この島って?」

「無人島だけど、魔物の宝庫って言われるところね。とても人が安心して暮らせる場所じゃないわよ」

「でも、魔物を全部退治すれば問題ないですよね?」

「まあ、そうだけど。出来るの?」

「善処してみます。私が欲した攻撃魔法は、ラフレシア様から全て与えられておりますので」

「そうなんだ。私も前の身体の時は、凄い攻撃魔法が使えたんだけどね。今は、使えなくなっちゃって」

「では、転移魔法が使える信者と、あと十人くらい、修行のために信者を借りても宜しいでしょうか?」

「それくらいならイイわよ」

「では、早速、行動に入りますので」

「期待してるわ」


 それから数分後、マイは下僕達を連れて魔物の住む島に向けて旅立った。

 まさか、マリカ教で、こんな動きがあるとは、この時、アキは知る由もなかった。

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