82.日本酒!
特殊ゲートの設置から数日が過ぎた。
この日の朝、私の店にマナミが来た。
「ヤッホー!」
「おはよう、マナミ。こんな朝早くから、どうしたの?」
「昨日、カッシーナ村のゲートが完成してね。早速だけど、明日、開通式をやることになったんで、その報告に」
この場合の開通式は、島と村を繋ぐゲートが開通したお祝いね。
少なくとも、Hな意味の開通式じゃないよ!
「私は出る必要ある?」
「特に、今回は自由参加ってことで」
「じゃあ、今回は見送らせてもらうよ」
「了解。あと、スプマ町のゲートは、明日で正式に一時閉鎖するって。これで、ディスプロシ島からマリカ教支部への直行ルートは無くなったよ」
「でもさあ。大陸内でカッシーナ村に行くのって不便にならない?」
「便利とは言えないけど、カッシーナ村から馬車で二時間くらい東に行ったところに結構栄えている港町があるからね」
「そうなんだ」
「シリバスって町なんだけどね。まあ、シリバスには人が集まるし、そこから少し移動すればカッシーナに到着するから、宣伝は必要だけど、集客は可能だと思う」
まあ、マナミもケイコも賢いし、上手に事を進めてくれるだろう。
でも、問題はスプマ町の方だよね。
マリカ教支部が出て行くかどうか。
「それで、マリカ教スプマ町支部の方は?」
「なかなか難しいみたい。ラフレシアの部下からの情報では、マリカも自分の物質創製魔法のことに気付いたみたいでね」
「じゃあ、信者の分の食材は確保できるってことか」
「そうらしい。少なくとも、魔法でウインナーとかハム、棒状の野菜とか果物、ビンやペットボトルに入った飲料、さらにはカップラーメンまで出せるところまでは気付いているっぽい」
「そ……そうなんだ」
ただ、この時、私は、
『ハム?』
って思ったよ。
あんなに太いのを挿れる人がいるって前提だよね?
チャレンジャーだな……。
さすがに私も、ハムはノーチェックだったよ。
でも、私、ハム大好きだからね。
今度、出してみよう。
って普通に食べるのが好きなんだからね!
別の口で食べるのが好きってわけじゃないんだからね!
でも、考えてみればビール瓶とかワインの瓶とかを使う人もいるんだっけ。
だとすると、ハムを使う人がいても不思議じゃないかも知れないなぁ。
完全にチェック漏れだ。
「ただ、さすがに金貨が出せるってところまでは、まだ気付いていないみたい」
「まあ、普通に『金貨出ろ!』って言っても出ないからね」
「そうね。飽くまでも『性奴隷を買うお金』とか、お金の使用用途をH関連に限定しないとイケないからね。でも、Hな薬の方には気付いているらしいよ」
「勃たせる方? それとも持続させる方?」
「今のところは勃たせる方だけみたい。まあ、マリカとしては人数さえいれば、一人に長持ちさせる必要は無いからね」
「たしかにそうだね。それに、下手に持続しちゃうと、信者の順番待ちの時間が長くなるし……」
丁度この時だった。
私の背後から、
「ナニ話してるの?」
と、お母さんの声が。
早速、ゲートを通ってきたようだ。
一応、向こうの時刻とこっちの時刻は合わせてもらっているそうだ。
厳密には、私がいるブルバレン世界の方が、お母さんのいるシルリア世界よりも若干一日が短いんだけど、シルリア世界側のゲートを、朝六時ちょっと前から朝六時まで使えなくすることで、一日の帳尻を合わせているらしい。
「えっ? あれっ? 嘘っ!」
「マナミちゃん、おはよう」
「アキのお母さん?」
お母さんの姿を見て、マナミは驚いていたよ。
そう言えば、ゲートのことを、まだマナミには話していなかったからね。
「ラヤちゃんが、この宇宙の女神様からの依頼を達成したでしょ?」
「ええ、まあ」
「その報酬として、こっちの向こうを繋ぐゲートの設置を、ラヤちゃんが女神様にお願いしてくれてね。それで、こっちに来られるようになったのよ」
「そうだったんですか。それにしても、若返ってません?」
「分かる?」
「どうやったら若返りができるんですか? それもラヤの魔法か何かですか?」
「実は、あの後、私にも女神様から業務依頼が来てね。それを達成した報酬に永遠の二十歳を要求したのよ」
「それで、その要求が受理されたわけですね」
「そう言うこと! それで、ナニを話してたの?」
「島と大陸を繋ぐゲートの、大陸側のターミナル地点を変更できたって話です。ゲートを設置していた町が、変な宗教に毒されてしまいましたので」
「あの寂れた街ね」
この時、私は、ちょっと警戒していた。
お母さんは、マリカのことなんか覚えていない気がするけどさ。
でも、話の流れで、マナミの口からマリカの名前が出てこないだろうか?
マリカが、私やマナミと中学時代に同級生だったって話にならないだろうか?
さらには、マリカが、私やマナミと同じ仕様で、この世界に転生してHな宗教の教祖になっているって話にならないだろうか?
そんな風に話が展開しないか、不安だったんだ。
「さすがに、島とあの町が繋がっているのは宜しくありませんので、別の場所にターミナルを移したんです」
「それは賢明ね。じゃあ、そろそろ私も仕事があるから戻るけど、実は、アキにお願いがあってね」
「なに?」
「実は、ラヤちゃんは物質創製魔法で、食べ物は完成形で出せるんだけど、お酒だけは出せないのよね」
「そうなの?」
「地球時代に飲んだことが無いらしくてイメージできないんだって。それで、アキの魔法で出してもらえないかなって思って」
「シャンパンでイイ?」
「十分。じゃあ、また夜に取りに来るから。それじゃ、仕事に行ってくるね」
そう言うと、お母さんはゲートがある二階へと戻って行った。
一先ず、マリカと私達との関係性まで話が飛ばなくてホッとしたよ。
ただ、マナミには釘を刺しておかなければいけないよね?
せっかくだし、ここで話をしておこう。
「ねえ、マナミ。実はお願いがあって」
「なに?」
「マリカが私達の同級生だったってこととか、マリカが私達と同じ魔導士に造られて、同じ仕様になっているってことは、お母さんには言わないでおいて欲しいのよ」
「まあ、さすがに、アキがマリカみたいにならないか心配するだろうからね。言わないようにするよ」
「ケイコにも口止めをお願い」
「心得た。まあ、まだケイコはアキのお母さんと面識はないけどね」
「まあ、今後、会わせることもあるだろうし、念のため」
「了解」
他に、マリカのことを知っているのは、ヴァナディス、ミチルさん、パラス、ニオベ、それくらいかな?
一応、その辺にも念のため口止めをしておこう。
でも、いずれは誰かから情報って洩れるからね。
そうなった時、どうお母さんに説明するかは、一応、考えておこう。
絶対に、お母さんにだけは誤解されたくないからね。
「それでね。実は私からもアキに一つお願いがあって」
「私にできることなら」
「アキの店と似たようなコンセプトの店を、カッシーナ村に出したいのよ」
「それって、私の店の支店を出すってこと?」
「それが一番有り難いけど、アキの手間が増えて大変ってことなら、別に支店じゃなくてもイイよ。私の方で商品を出すから。まあ、アキの店をパクった別系列の店ってことでも構わないかな?」
「まあ、別にイイけど? でも何で?」
「理由は三つあってね……」
マナミが言うには、一つ目の理由として、村人達への食材の安定供給があるそうだ。
ターミナルゲートが設置された村で、人々の栄養状態が悪いようではイメージダウンに繋がり得るからね。
なので、当座、村人達には無償で食料を提供して、十分な栄養を取ってもらうつもりらしい。
二つ目の理由は、シリバス町からカッシーナ村に人を呼び寄せるため。
安くて新鮮な野菜や果物が手に入るし、それから美味しいお酒が手に入るってことでね。
もっとも、これがどの程度の集客になるかは分からないけど。
そして、三つ目の理由なんだけど……。
ディスプロシ島行きのゲートに馬車は乗り入れできないから、観光客達は、馬車をカッシーナ村に止めておくことになる。
すると、その際の馬達への食の供給が重要になる。
それで、大量の野菜が必要になるってことだ。
人参とかね。
「基本的には商品の供給は私の方で対応するよ。ただ、私が忙しい時には商品を出すのをアキに代わってもらうことはあると思うのよ。それは大丈夫かなって」
「それくらいなら構わないよ。でも、ピンチヒッターが必要な時には、誰かに連絡に来てもらわないとイケないけど?」
「それなんだけど、最近、レナがゲート魔法に目覚めてね」
「ゲート魔法? 島と大陸を繋いでいるゲートを出す魔法?」
「それもあるけど、彼女の場合、瞬発力が高くてね。三十分程度であれば、カッシーナ村とビナタ町を直接繋ぐことが十分可能なのよ」
「うわっ! 凄い!」
「だから、彼女に連絡係りになってもらうつもり」
それは便利な魔法だ。
私のところにも、是非一人雇いたいくらいの人材だよ!
遠方にも野菜の配達ができるようになるもんね。
「店のスタッフは?」
「ナヴィアとアイカとレナにお願いする」
あの三人ね。
全員が看板娘として十分客寄せになりそうな気がする。
美人だし、性格も……まあ悪くないし、人選としてはイイんじゃないかって思うよ。
ヴァナディスほどじゃないけど!
…
…
…
その頃、マリカは、オキシラン共和国のネトリ村にあるマリカ教本部所属の信者達を全員足腰絶たなくなるまで昇天させ、ウハウハ顔で連続転移に入っていた。
転移先は、ウンカ公国エレクタ町に設置した第二支部である。
第二支部は開設後、まだ間もないため、信者数は少なかった。
それもあって、エレクタ町では、スプマ町と比べればマリカ教の排除運動が余り目立っていなかった。
しかし、マリカは、その辺のところを少々勘違いしていた。
信者数が少ないから苦情が少ないだけなのを、この地では比較的受け入れられているモノと勝手に思い込んでいた。
短絡的で、自分の都合の良い方にしか物事を解釈できないため、そのような思考になってしまっていたようだ。
彼女は、第二支部に到着すると、急いで信者達を一室に集め、全裸で演説を始めた。
勿論、全裸なのは、演説後、すぐにHをスタートするからである。
「諸君らにお願いがある。オルキス王国にも諸君らの同胞がいるのだが、迫害され、その地を追われようとしている。そこで、ここエレクタ町に彼等を移住させたい。施設増設など、諸君らには色々と面倒をかけるが、その分、今日はいつもの三倍以上修行してもらうことで、私の依頼を受けていただきたい」
勿論、彼女の言う修業とは、マリカ対男性多数によるHバトルである。
素晴らしい修行もあったものだ。
食の方は、限定的ではあるものの、一応、マリカが物質創製魔法で供給可能である。基本的にアキと同じ仕様なので、アキと同じ食材を出せるはずである。
つまり、信者達は、懸命に働かなくても、それなりに食には有り付けると言うことだ。
もっとも、マリカは、
『料理は作るモノではなく食べるモノ』
を主張するタイプの人間で、一切料理は出来ないが、別に教祖自らがムリに料理をする必要は無い。
料理ができる男性をマリカ教に入信させれば解決する話だ。
働かずに、日々、Hしまくるだけなのに飢えもしない。
スプマ町で入信者が続出したのも分からないでもないだろう。
マリカは、
「出ろ!」
物質創製魔法でED治療薬を出すと、信者達に配って行った。
そして、この日は稀に見る大バトルへと発展して行くのであった。
…
…
…
その日の夜。
ブルバレン‐シルリア間ゲートが開くと、
「アキ! お願いしていたお酒は?」
と言いながら、私……アキの家にお母さんが入ってきた。
「そこの箱の中にシャンパンを十本用意してあるけど、それでイイ?」
「十本も?」
そして、お母さんは、箱を開けて、そのシャンパンを見るなり、
「これって、高いヤツじゃない?」
と言いながら目を輝かせていた。
やっぱり、このお酒にも興味があったんだね。
「そうだけど?」
「ありがとう。あと、日本酒って出せる?」
「まあ、一応……」
取扱説明書:アキ-108号は、Hに必要なモノなら何でも魔法で作り出せます。
ワカメ何とかに使うって理由で、私は日本酒を出すことも出来る。
私自身は、まだ、そう言うことをやったことは無いけど……。
でも、そのうち、ヴァナディスとやるかも知れない。
ただ、私に注いでもワカメが不成立だけどね。
別にワカメは要らないけど。
私は、
「出ろ!」
取り敢えず、特級酒を一升瓶で一本だけ出してあげた。
銘柄は、お母さんが好きだったヤツ。
家に置いてあったのを毎日見ていたからね。覚えていたよ。
一応、ちょっとだけ家で飲んだことが有るし。
逆に、これ以外の銘柄を私は知らないんだけどね。
地球時代に、私は、ほとんど日本酒を飲まなかったから。
「これでイイ?」
「覚えていてくれたんだ。ありがとう。それで、夕食だけど、こっちで食べない?」
「ヴァナディスが作ってくれたから、また今度にする」
「分かった。じゃあ、明日の夜にでも」
「了解!」
お母さんは、先ず、シャンパン十本を箱ごと持って、お母さんとラヤがいる世界……シルリア世界へと運び入れた。
その後、私が出した一升瓶を抱えて、
「じゃあ、また明日ね」
と言うと、あっちの世界から異世界間を繋ぐ扉を閉めた。
日本酒が手に入って、余程嬉しかったんだろうな。
あれだけ喜んだ顔をしたお母さんは珍しい気がする。
シルリア世界でも、一応、お酒類を手に入れることは可能だと思う。
でも、日本酒を手に入れることだけは、少なくとも不可能だろうからね。そもそも存在しないと思うから。
なので、今まで大好きな日本酒を、ずっと我慢していたってことだろう。
それはそうと、お母さんのところでは、ラヤが魔法で料理を出るんだよね?
しかも、基本的にラヤが知っているモノなら完成形で何でも出せるみたいだし……。
明日は、絶対に食べに行こう。
ケイコとマナミのお陰で、海の家では焼きトウモロコシとか焼きそばが食べられるようになったし、そのうち、お好み焼きとか綿あめも食べられるようになるっぽい。
温泉の休憩室に行けば、カレーやラーメン、ピザなんかも食べられる。
でも、天丼、カツ丼、うな丼って言った丼モノが、この世界では、まだ食べられないんだよね。
天丼とカツ丼は、私自身が作ればイイって話もあるけど……、実は料理苦手だし……。
うな丼に至っては、この世界では鰻が入手できないから作りようが無いんだ。
やっぱり、さっきの誘いを断らないで、今すぐに行けば良かったかも?
別にヴァナディスの料理が嫌いなわけじゃないんだけどね。むしろ好きだし!
まあ、明日の夕飯を楽しみにしよう。




