81.異世界間を繋ぐ?
魔女の島からゲートをくぐって、次に着いたのは小さな島だった。
ここは、一応、観光しても良いことになっているけど、海水浴ができるわけでもないし、果物が豊富に実っているわけでもない。
でも、たくさんの魚が島の近くを泳いでいるみたいでね。
それで、集客のためにも釣り場を設けようって計画が立っているそうだ。
一瞬、一陣の強い風が吹いた。
丁度この時だった。
私とお母さんの頭の中に、ダ女神リニフローラの声が響き渡った。
「ラヤの目的は達成されました。これからラヤには、女神ラメラータの要望により、地球が位置する宇宙の星に立ち寄っていただき、その後、この世界に戻ってきます」
もう、敵を倒したってことだね。
さすが最凶のラヤだよ。
でも、続けて彼女が行く場所は、飽くまでも地球が位置する『宇宙』であって、『地球』じゃないってことか。
そこで、また何かやらされるってことなんだろうな。
それにしても、ラヤって、もしかしてダ女神共の『使いっぱ』してない?
なんか、そんな気がしてきたよ。
そう言う意味では、私の方が、数段平和な異世界人生を送らせてもらっているってことかも知れないね。
結果的に、対ラフレシア用の戦闘員だけは、ずっとやらされているけど……。
そこから私達は、いくつものゲートを通り抜けてオルキス王国のスプマ町に到着した。
ここは海岸沿いの小さな港町なんだけど……。
今では全然活気が無い。
お母さんからの第一声は、
「なんか寂れたところね」
だった。
「ここは、以前は、もっと活気があったんだけど、変な宗教の支部ができちゃってね」
「宗教?」
「それが、教祖の女性と信者の男性達が、ひたすらHする宗教なんだけど……」
「ナニそれ?」
この時、お母さんが見せた目は、とても冷ややかだった。
実は、不貞なことに関しては、結構厳しい人なんだよね。
かつて、ここスプマ町を拠点に、シルヴィア……地球名は黒沼団十郎ね……が宗教を立ち上げたわけだけど、その拠点をマリカ教が奪ってからと言うもの、この町は完全にマリカ教に毒されてしまった。
旦那がマリカ教に入信しちゃって離婚する夫婦が後を絶たないらしい。
今では、オルキス王国のみならず、ここブルバレン世界で最も離婚率が高いところだそうだ。
働き手となる男共が、毎日何人もマリカ教信者に転身している有様。
しかも、入信した男共は、ろくに仕事もせずに、ただマリカとのHの順番待ちをしているだけ。
当然、以前のような活気は失われてしまった。
被害は、それだけじゃない。
スプマ町に観光で来た男性達の中にも、マリカ教に入信する輩がチラホラ出てきているみたいだし、既にディスプロシ島にも、それからスプマ町とディスプロシ島を繋ぐ中継地点となる島々にも、それなりに被害(入信者発生)が出ているみたいでね。
それで、ゲートの終着点を、スプマ町から東方に少し離れた別の場所に切り替えようって話になっている。
要は、これ以上ディスプロシ島から入信者が出ても困るし、ディスプロシ島に観光に来たら、マリカ教に嵌まって入信しましたなんて人が、今後、大量に発生しても困るってことだ。
ディスプロシ島のイメージダウンに繋がるからね。
なので、そうなる前に手を打とうってことらしい。
今、ゲート切り替えに向けて作業中だって。
近々、完了予定だって聞いている。
新ゲートの場所は、同じオルキス王国内だけど、カッシーナって村らしい。
「じゃあ、お母さん」
「そうね。なんだか雰囲気も今一つ良く無さそうだし、島まで戻ろうか」
「うん」
「転移!」
私達は、ここから一気にディスプロシ島まで、お母さんの転移魔法で移動した。
ゲートで戻ってもイイんだけど、転移魔法の方が早いからね。
ちなみに、元々、マリカ教は、オキシラン王国のネトリ村が本拠地ね。
今では、スプマ町だけじゃなくて、ウンコ……じゃなかった、ウンカ公国のエレクタ町に第二支部を作ったって噂だ。
別に興味は無いからどうでもイイけどね。
それから、マリカは私の中学時代の同級生だけど、多分、お母さんはマリカのことを忘れているんじゃないかって思う。
アホな娘だったし。
なので、敢えてマリカのことは言わなかった。
万が一、話の流れから私がマリカと同じ仕様だって知られたら、私もHな教祖になるんじゃないかって、お母さんが心配するかも知れないって思ったんだ。
ディスプロシ島に到着。
ヴァナディスとは、一先ず昼に温泉の前で待ち合わせることにしていた。
私達が温泉の前に着いた時、既にヴァナディスは入り口前のベンチに座っていた。
ちょっと待たせちゃったみたいで悪かったかな。
「ヴァナディス、お待たせ」
「私も今来たところだから」
「じゃあ、入ろうか?」
「うん」
私達は、先日と同様に三人で温泉へと入って行った。
そして、中に入ると、これも毎度のパターンで恐縮だけど、マナミが既に浴槽に浸かっていたよ。
「やっぱりいたぁ」
「お先してまーす!」
「そうそう。ラヤは一仕事終えたみたいだけど?」
「そうなんだ」
ラヤはラフレシアの配下じゃなくなったからね。
やっぱり、マナミの方には、特段、ラヤに関する連絡は入っていないみたいだった。
「それで、ゲートの移設の作業って、どんな状況?」
「ローレンス島からカッシーナ方面にルートを伸ばすつもりなんだけどさ」
「たしか、その島ってスプマ町のゲートの二つ前のゲートが置かれているとこよね?」
「そう。でも、そうしたら、ラザフォード島の方から苦情が来てね」
「スプマ町とローレンス島の間の島?」
「そう。なので、ローレンス島には、ラザフォード島行きのゲートを残したまま、カッシーナ方面のゲートを設置する方針になったよ」
「そうなんだ」
「ただ、スプマ町からは、今はゲートを閉ざされても仕方が無いけど、いずれマリカ教の支部を町から追い出すから、ゲートは復活できるように場所だけは残しといて欲しいって懇願されてね」
「気持ちは分かるけど、出て行くかなぁ」
「どうだろう? でも、マリカ教を追い出した後、スプマ町は、健全な港町兼宿場町にしたいみたいよ。ゲートのターミナル地点として恥じないようにって」
たしかに、スプマ町としても集客したいだろうからね。
マリカ教なんかに負けていられないってところだろう。
ただ、マリカ教の支部を町から追い出すことに性交……じゃなくて成功したとしても、マリカ教そのものが無くなるわけじゃない。
多分、支部の移転場所で、同じことが繰り返されるだけな気がする。
勝手な言い方だけど、私が暮らすビナタの町周辺にだけは来ないで欲しいな。
私のテリトリーが廃れた街にされても困るもんね。
「ところで、カッシーナ村の方だけど、後になってスプマ町のターミナルゲートを復活させることになっても大丈夫なの?」
「その辺は問題ないと思う。カッシーナ村は、一応海岸線に位置しているんだけど、岩場だらけで港町にもリゾート地にもなっていないから、人が来てくれるようになるだけでラッキーって感じ」
つまり、カッシーナ側としては、本当にターミナルゲートを置いてもらえるだけで御の字って感じってことか。
これをきっかけに、人が来るようになれば、それだけでマジで有り難いと……。
…
…
…
しばらく温泉を堪能した後、私達は施設内の休憩室へと移動した。
最近、休憩室を拡張して、そこで色々と食事ができるようになったんだ。
メニューは、ケイコとマナミが仕切っているからだと思うんだけど、日本のファミレス風で、この世界でも結構人気があるらしい。
隣の部屋には、マッサージチェアがズラリと並んでいた。
これらは魔力で動く、言わば『魔道具』として作られていて、電力とかを必要としない優れモノなんだって。
私もマナミも人間じゃないから不要だけど、お母さんは興味津々だった。
当然、
「ちょっと使ってみるわね」
そこで、お母さんは小一時間トラップされたよ。
食事&休憩後、私達は温泉施設を出た。
すると、出てすぐのベンチにはラヤがポツンと一人で座っていた。
雰囲気的には、さっきまで疲れて寝ていたって感じだ。
「あら、ラヤちゃん。この島に来ていたの?」
こう、ラヤに声をかけたのはお母さん。
「はい。ちょっと前に、ここに送り込まれました」
「もう女神様からの依頼は終わったのね?」
「意外と早く決着がつきましたので」
「だったら、折角ここまで来たんだし、一緒に入れば良かったのに」
「でも、私が前世で男だってことを知っている人もいるでしょうし、嫌がられないかと思いまして」
「えっ? そんなこと言ってたっけ? 初めて聞いた気がするけど?」
そのことは、私もマナミも知っていたけど、お母さんには言っていなかった。
ラヤのプライバシーに関わることでもあるけど、既にラヤは女性に転生して何年も経つし、今更、元男子って言う必要は無いって思っていたんだ。
それこそ、前世が男性で今世が女性だって人は、ラヤ以外にもいるだろうし……。
当人に、その記憶がないだけでね……。
でも、ラヤの場合は記憶があるし、気にしているってことか。
「ラヤって、もう女性になって何年?」
こう聞いたのは私。
「八年半くらいでしょうか?」
「そんなに経つんだね。でも、もう前世で男って考える必要も無いんじゃない?」
つまり、私が言いたいのは、ラヤは完全に女性に生まれ変わったんだよってこと。
TS転移した身体だって、ミチルさんの火炎球で亡き者にされているわけだし、本当に生まれ変わった身体なんだろうからさ。
こう言われてラヤも、
「そう言って頂けると有難いです」
と言いながら、少しホッとした表情を見せていた。
やっぱり、
『もうラヤは完全に女性だよ!』
って言ってあげないと、いつまでも元男性ってことに囚われてしまうのかも知れないね。
ただ、この時、私は、私とラヤの時間軸のズレに気付いていなかった。
私がこの世界に転生して六年ちょっと。
ラヤが、この世界に転移して来てからは、まだ五年弱なんだよね。
つまり、ラヤは異世界間を飛んでいるだけじゃなくて、時間軸も飛んでいるってことなんだ。
「それはそうと、フユミさん」
こう言ったのはラヤ。
「はい?」
「これからどうします?」
「どうするって?」
「この世界に残るかシルリアの世界に戻るかです」
「それだったら、シルリアに戻るわ。やることあるし」
「イイんですか?」
「アキのことで遠慮しているんでしょうけど、アキにはヴァナディスちゃんがいるし、マナミちゃんもいるから。それに、ビナタの町の人達からも愛されているみたいだし」
「分かりました」
「それで、帰るのって何時頃になるの?」
「私にも分かりません。それこそ……」
この時だった。
突然、ラヤとお母さんの姿が私達の目の前から消えた。
しかも、これは、このブルバレン世界の中を行き来する転移魔法とは雰囲気が違う。
言うまでもない。
強制的に元の世界に戻されたんだろう。
こんなことが出来るのはダ女神しかいないはず。
まだ、キチンとした別れの挨拶も出来ていなかったのに。
本当に、ダ女神のヤツは人の心が分かっていないんだから!
さすがに私もマナミも、その場でしばらく呆然としていたよ。
その後、私とヴァナディスは、ニコラスの転移魔法で、無事、ビナタの家まで送り届けてもらった。
ただ、私は、完全に意気消沈していた。
せっかく奇跡の再会を果たせたのに、突然、強制終了と言わんばかりな感じで、お母さんの姿が消えちゃって。
もうお母さんに会えないんだなって思うと、結構ショックは大きかったよ。
もう、この日は惰性で動いている感じで、お母さんと別れた後は、マジで何も覚えていなかった。
次の日の夜のことだった。
私達は、二階の部屋で、そろそろ寝ようと思っていた。
この場合の寝るは、Hじゃなくてマジで睡眠ね。
ただ、丁度その時、良く分からないけど、今まで壁だったところに突然、扉が現れた。
完全に意味不明だ。
そして、その扉が開くと、そこにはラヤとお母さんの姿があった。
「えっ? 何で?」
「これが女神様達からの報酬です」
こう答えたのはラヤ。
どうやら、ラヤは、ダ女神……いや、こんなプレゼントを貰えたんだから女神様って呼ばなきゃいけないか……女神様から受けた依頼の報酬に、ラヤの家と私の家を繋ぐ特殊な扉の設置を要求していたようだ。
完全に人知を超えた扉だよ。
「また会えて嬉しいよ、お母さん」
「私もよ」
「あと、ありがとう、ラヤ」
「いえいえ。ただ、扉を開けられるのは、私とアキとフユミさんだけに限られます。誰でも使えるとなると収拾がつかなくなる可能性がありますからね」
「たしかにね。でも、病原体とかは行き交ったりしない?」
「その点は大丈夫だそうです。この扉を通り抜ける際に、一般的に致命的な病原体になり得る菌とかウイルスは排除されることになっているらしいので。具体的な仕組みは分かりませんけど」
「でも、その言い方だと、一般的じゃない致命的な病原体は行き来可能ってこと?」
「普通の人には無害でも、免疫機能に問題のある人にとっては、有害になるケースはありますので。それで完全無害ってわけには行かないってことのようです」
「そう言うことね」
「でも、基本的には、私とフユミさん、アキさん、ヴァナディスさん、あとマナミさんがコンタクトを取り合うだけに絞って、あと相手側の世界の密な場所にさえ行かなければ問題はないとのことですよ」
この特殊扉の設置は、本当に嬉しい。
それと、今のラヤは殺人鬼なんかじゃなくて、お母さんが言っていた通り、優しい娘なんだってことが良く分かった。
ただ、私は一つ気になることがあった。
転生したお母さんは、昨日の段階では二十代半ばから後半くらいに見えていたけど、今の姿は、もうちょっと若い。
マジで二十歳くらいに見えるんだけど?
「ねえ、お母さん。何気に若返っていない?」
「バレた? 実はね、あの後、私も別の異世界での仕事を依頼されてね。それを成し遂げた報酬ってことで、女神様にお願いして、永遠に二十歳の身体にしてもらったのよ」
ナニ、その超展開?
お母さんも永遠の若さが欲しかったってことだ。
科学者でも、そう言う願望があったんだね。
やっぱり、科学者だろうが何だろうが、女性は女性ってことだ。




