74.先ず味方から?
「死ね!」
今度は、ミチルさんが私に向けて反重力魔法を放って来た。
しかも、威力が拡散しないように魔力を一点に集中しているよ。
今まで私を避けていたラフレシアが、急に私にちょっかいを出して来たのは、ミチルさんを味方に取り込める自信があったからかも知れない。
さすがに、ミチルさんが敵では私もヤバい。
私は、この反重力魔法を辛うじて避けたけど、さらに、
「炎の弾丸、連射!」
小さな火の玉をマシンガンのように何百発も一斉に撃ち込んで来た。
こんなのを見るのは初めてなんですけど!
しかも、私のいる位置だけではなく、私とリサの間にも撃ち込んでいたよ。
これは、私が避けながらリサに近付いたら私に当たるようにする、つまり、ドサクサ紛れに私がリサに近付いて攻撃を仕掛けるのを事前に防ごうってことだ。
已む無く私は、リサとは反対側に避けたけど……、放たれてくる炎の弾丸の数が半端なくてね。
さすがに、これは避け切れずに被弾したよ。
全弾ってわけじゃないけど、十数発は直撃を食らってしまった。
でも、ミチルさんの血を被って防御力が強化された私にとっては、これくらいだったら全然問題無し。
防御力を上げておいてもらって良かったぁ。
多分、これが私じゃなくてマナミとかマリカだったら完全に焼失しているだろうからね。
でも、これでミチルさんの攻撃が終わったわけじゃない。
「風魔法!」
今度は、その強大な魔力で私を宙に飛ばすと、
「連弾!」
直径三十センチ程度の火炎球を私に向けて連射してきた。
私は、ただ風に煽られて宙を飛ばされているだけ。
自分の意志で移動できない。
避けようにも避けられない状態だった。
なので、今度は全弾直撃したよ。
それでも、強化魔法のお陰で焼かれずに済んでいるけどさ。
風魔法が解除され、私は落下して床に全身を打ち付けた。
そこを目掛けて、
「爆裂魔法!」
ミチルさんが魔力を放ってきた。
私は辛うじて避けたけど、そうしたら、私の後方で、
「ドカン!」
爆発が起きた。
私が後方を振り返ると、見事に壁に大穴が開いていたよ。
こんなのをマトモに食らったら、身体がバラバラになりそう。
って言うか、この魔法を見るのも初めてなんですけど!
こんな魔法も隠し持っていたんだ、ミチルさん。レッドドラゴンだけあって、ムチャクチャチート過ぎるよ。
逃げるのが精いっぱいな状態の私の姿を見ながら、リサは、
「さすがのアキも、レッドドラゴンが相手では防戦一方ね。これで、ようやくラフレシアの念願が叶うのかしら?」
なんて言いながら余裕の顔で高みの見物を決めていたよ。
ムカつくな。
でも、ミチルさんは、国境の壁のところでは軍隊に向けて超巨大な火炎球を撃ち放っていたよね?
それに比べると、一応、これでもカワイイ攻撃な気がするけど、気のせいかな?
すると、この時だった。
「火の槍!」
ミチルさんが、御馴染みファイヤーランスを撃ち放って来た。
ただ、私の方を目掛けて猛スピードで飛び出したファイヤーランスが、途中で弧を描くように軌道を変えると、一気に加速してリサに命中!
そのまま彼女の左胸を貫いた。
いきなりの状況変化に、リサも対応できかったようだ。
さすがに当たった場所が場所だからね。
リサ自身は治癒魔法を持っていないみたいだし、これは助からないよ。
残念だけど、私も助けられない。
取扱説明書:アキ-108号は、女性同性愛者あるいは男性に懇願されない限り、一般女性には癒しの能力を発動できません。
もっとも、私には助けるつもりも義理もないけどね。
この時、リサは驚きつつも納得できないような表情をしていた。
まさか、自分にファイヤーランスが飛んで来るなんて夢にも思っていなかっただろう。
「な……なんで?」
「最初から催眠術には、かかっていなかったんだよ。とっさに魔力でバリヤーを張ったからね」
「そ……そんな……」
「敵を騙すには先ず味方からって言うでしょ? だからアキちゃんに攻撃した。でも、アキちゃんは僕の魔法の威力に途中から疑問を持っていたようだけどね」
つまり、ミチルさんは、まともに催眠術にかかった振りをして、その実、リサが油断するのを待っていたってことか。
でも、ハッキリ言って人が悪いよ!
私は殺されるかって思っちゃったんだからね!
さらにミチルさんは、
「火炎球!」
大きいのを一発、リサに撃ち込んだ。
一応、Hな意味じゃないからね。
Hなのを撃ち込んだらパラスに怒られちゃうからね!
これを受けて、リサの身体は一瞬で消し飛んだ。
相変わらずの威力だね。
あとは、ワロス書記長を治して、交換条件でホハハ国の武装解除をさせればイイ!
……はずだったんだけど、
「まだ終わっちゃいないよ!」
聞き覚えのある声が聞こえて来たのと同時に、私もミチルさんも、淫靡な雰囲気を伴う独特な魔力を感じ取った。
しかも、その声が聞こえ始めたのと同じタイミングで、何処からともなく二本の長い鞭が、ムチャクチャ超スピードで私とミチルさんに襲い掛かってきた。
そして、それらは、そのまま私達の首に巻き付いたよ。
突然のことで反応し切れなかったんだ。
完全に不意打ちだよ。
「もしかしてセツ?」
「そうだよ。年寄りは敬いな」
「なんで? さっきまで全然気配を感じなかったのに」
「そりゃあ、たった今、ラフレシアに転移させてもらったばかりだからねぇ」
セツの姿は、完全に私に瓜二つ。
だけど、中身は元SM嬢の老婆って、ラフレシアもムチャクチャな設定をよく考えるよ。
しかも今の私と同じで、布面積が非常に小さい白のビキニを着用しているし……。
って言うか完全に私と同じデザインの水着だよ。
これは容姿だけじゃなくて、身に着けたものまで完全に同じだ!
一先ず、二本の鞭はミチルさんが無詠唱の火魔法で焼き切ってくれたけど、その直後、
「死にな!」
私に向けて、さらに一本、鞭が振り下ろされて来た。すぐさま、セツが新しい鞭を出して攻撃してきたんだ。
後方に飛んで、私はそれを避けると、
「出ろ!」
セツと同じような鞭を物質創製魔法で出してセツに向けて振り下ろした。
でも、セツは身体が若返っているからね。
これを当たる直前で右に避けた。
もう、老婆の動きじゃなくて完全に若者の動きだよ。
「ペシッ!」
私の鞭が、床に強く打ち付けられた。
セツが、その場から移動しちゃったからね。
床に当たったんだよ。
ただ、この音を聞いて、
「イイ音出すじゃない?」
ってセツに言われた。
彼女は、前世で若い頃には女王様が本職だったわけだけど、その彼女の視点でも、私の鞭技術は中々のモノのようだ。
取扱説明書:アキ-108号は、Hに必要なモノなら何でも魔法で作り出せます。また、Hの道具を何でもそつなく使いこなすことが可能です。その道具に関する知識も豊富です。
まあ、そう言う仕様だけどね。
この時だった。
セツがアイテムボックスから野球の球くらいの大きさの球体を取り出すと、それを床に投げ付けた。
すると、
「ボン!」
って音を立てたかと思うと、辺り一面が真っ黒な煙で覆われた。
コイツ、煙幕を使ったのか。
私は、慌ててその煙幕の中から脱出した。
これに一歩遅れてセツも煙幕の中から飛び出して来たんだけど、それと同時に何故か、
「ラフレシアの思う通りにはさせないからね!」
ってセツが私に言ってきた。
それって、セツの台詞じゃなくて、私の台詞でしょ!
しかも、私にそっくりな声を作っていて、なんかムカつく!
「それを言うのは私でしょ!」
「何、言ってんのよ、このニセモノ!」
ちょっと待て。
ニセモノはアンタだろ!
私の中で、怒りの度合いがマックスを超えた。
そして、私は思い切りセツに向けて鞭を振り下ろしたんだけど、それをセツは巧みに避けた。
今度はセツが私に鞭を打ち込んで来た。
それを私が避ける。
再び私がセツに鞭を放つ。
それをセツが避ける。
そんな攻防がしばらく続いた。
ただ、ミチルさんは、何故か私達の戦いを見ているだけで、セツに攻撃を仕掛けようとはしなかった。
ミチルさんが一発かましてやれば、それで終了する相手だと思うんだけど。
そんな中でセツが、
「ミチルさん。どうしてニセモノを攻撃しないの!」
ってミチルさんに言いやがった。
マジでムカつくな。
それも私の台詞だろうが!
すると、ミチルさんは、
「僕の魔力でも、どっちがアキちゃんか分からないんだ。多分、ニセモノは正体がバレないようにする特殊魔法をかけているんだと思う」
と言いながらオロオロした様子だった。
おかしいな?
前にセツのステータス画面を見た時には、そんな情報なかったけど?
それで私も慌ててセツのステータス画面を覗き見した。
私には、他人のステータス画面を勝手に閲覧できるスキルがあるんだ。
取扱説明書:アキ-108号は相手のステータス画面を覗き見することが出来ます。これは相手の性的嗜好を理解するためです。
前にセツのステータス画面を見た時には、
名前:セツ(高遠セツ)
職業:転移者
元世界での職業:元SM嬢、詐欺師
年齢:八十八歳
特典:若返り&アキ-108号と同じ容姿
魔法:物質創製魔法
って記載だった。
ところが、今は魔法欄が、
魔法:物質創製魔法、超高速稼働、声コピー、完全擬態
ってなっていたよ。
つまり、私の声も完全にコピーできるし、魔力で正体を暴こうとしても完全擬態が発動して私にしか見えないってことだ。
ミチルさんも他人のステータス画面が見られれば、私か私じゃないかくらいの判別はできるだろう。
でも、通常は他人のステータス画面を覗き見することは出来ないからね。
それに、人間か人間じゃないかで分かるんじゃないかって思う人もいるかも知れないけど、私の正体に気付ける人は、診断魔法を発動した医者くらいってことになっている。
つまり、私が一般に人間と認識される機能が仇になっているってことだ。
故にミチルさんには、魔力を使って判別しようとしても、私とセツを見分けることができない。
だとすると、私が単独でセツに打ち勝たなければならないってことか。
結構、厳しいな。




