73.下僕?
長い壁の向こう側では、軍隊が既にスタンバっている状態だった。
ユキが言うには、ホハハ国では出軍準備をしているってことだったけど、多分、この軍勢は私達が来ることを予想して別に配備されたんだろう。
ラフレシアの手の者がいるのなら、その程度の読みは当然、出来ると思うからね。
そして、
「撃て!」
発声と共に壁の向こう側から、私達に向けて一斉に矢が放たれた。
軍隊と私達の距離は数キロ。
なので、常識で言ったら矢が届くはずが無い。
でも、ここには魔法を使う輩がいるからね。
矢を放つ人達の目の前に沢山の転移ゲートの入り口を作り出し、同時に私達を取り囲むようにゲートの出口を発生させたよ。
これだと前後左右、さらに頭上から無数の矢が一斉に私達向けて飛んで来ることになる。
「ガード!」
ミチルさんが、とっさに魔法でバリヤーを張った。
半球形の透明かつ強固なヤツだ。
この直後、出口ゲートから大量の矢が飛んで来たけど、私達に矢が直撃するのは完全に防がれた。
ミチルさんのバリヤー、サマサマだ。
でも……、お陰で全員無傷でいられるけど、このままじゃ何も出来ない。
「ミチルさん。一瞬バリヤーを解除してください」
「でも、解除したら矢が当たるよ」
「なので、ニコラスはヴァナディスとパラスを連れて後方に移動して。あと、ミチルさんは火炎魔法を敵のゲートに放って。私は超高速稼働で壁の向こうに攻め入るから」
「分かった。じゃあ行くよ。解除!」
この声と共にバリヤーが解除された。
その直後、
「転移!」
ニコラスがヴァナディスとパラスを連れて遠方に瞬間移動。
そして、私は、
「超高速稼働!」
最大速度で国境に聳え立つ巨大な壁に向かって移動した。
毎度の如く、激しい空気摩擦で服は一瞬にして燃え尽きて、いつもの白の水着……ビナタの町の連中からもらった戦闘服姿になったけどね。
それから、ミチルさんだけど、
「……」
完全に口を閉じたまま、一切の声を発さずに彼を取り囲む魔法ゲートに向かって火炎球を連発した。
当然、それらは反対側のゲートから噴出……つまり、ゲートを通して矢を撃ち放って来た敵軍の兵士達に直撃したわけだけどね。
「ぎゃあ!」
「あちゃぁ!」
「うがぁ!」
弓兵達は、声を上げたのも束の間、業火に焼き尽くされた。
可哀そうだけど、そっちから先に手を出して来たんだからね!
さらに私は、超高速稼働からのジャンプで壁の上に降り立つと、そこから壁の向こう側に飛び降りながら、その辺りにウジャウジャいた敵剣士達に向けて、
「性感マッサージ魔法連射!」
気持ちのイイ魔法を無差別に放ちまくった。
弓兵のすぐ後ろに、剣士達が控えていたんだ。
当然、剣士達は、
「うっ!」
「うわっ!」
「ううっ!」
声を上げた直後、急に賢者のような顔つきに変わったよ。
突然、空から、
「火炎球!」
強大な炎の塊が私達を目掛けて襲ってきた。
直径、何百メートルよ、これ?
ミチルさんが空中浮遊して一気に上空まで飛んできて、思いっ切り大きな火の塊を作って、それを放って来たんだ。
あのぅ……、ここに私もいるんですけど……。
なので、私は、
「転移!」
瞬間移動で、火炎球の暴発圏外に飛び出した。
火炎球が地面に直撃。
当然、その場にいた剣士達も、その後方にいた魔導士達や雑兵達も、一瞬にして灰になったよ。
多分、大量に矢を放って来たことに、ミチルさんも相当腹を立てたんだろうね。パラスが居たからさ。
『俺の嫁に当たったら、どうすんだ! この野郎!』
てな感じで。
それで怒りの一撃ってところなんだろう。
でも、剣士達だけは、一瞬だけでも剣士から賢者に進化できたんだから、イイ思い出になったよね?
意味が違うって?
いや、だから、死ぬ直前に気持ち良く出来て良かったねってことで……。
ミチルさんが私の近くに降りて来たんだけど、やっぱり、ここは言っておきたい。
「もう、ミチルさん。私がいるんだから!」
当然だよね、この一言は。
「でも、アキちゃんは強化魔法で、これくらいの火は大丈夫だろうって思ったから」
「……」
まあ、たしかに私はミチルさんの血を浴びて、強化魔法がパワーアップしているんだけどさ。
でも、あんな炎の塊を見せ付けられたら、さすがに強化魔法のことなんて頭からすっ飛んじゃうよ!
マジで怖かったんだから。
一先ず、気を取り直して、この世界の大掃除をするよ!
「一気に攻め込みましょう」
「そうだね。行き先はノエでイイんだよね?」
「はい。ここから東に二百キロくらいです」
「それでさ。どうもね、この国の国家主席……書記長はノエにいるっぽい。ノエに行政機関が集中しているみたいなんだ」
「そうだったんですか! この国のこと、私、全然知らなくて」
「僕も昨日まで知らなかったよ。昨日、気になって調べて、初めて知ったんだ。じゃあ、アキちゃん。転移魔法をお願い」
「分かりました。転移!」
そのまま魔法で瞬間移動。
私達は、一気にノエの外れの方の市街地……ちょっとスラム街っぽいところに入った。
移動と言う意味では、ホント、魔法って便利って思ったけど、出る場所は予め知識が無いとマズイね。
怪しい場所に出ちゃったよ。
その辺にいたガラの悪そうなヤロウ共の目が、完全に私をロックオンしていた。
普通にしていたら回されそうだね、これ。
そもそも、布面積が非常に少ない白のビキニしか着用していないし、まるで、
『ヤッてください!』
って言っているようなものだよ。
ヴァナディスとパラスを、この地に連れて来なくて良かったぁ。
あの二人じゃ、絶対にターゲットにされるもん。
一先ず、私は、
「性感マッサージ魔法連射!」
気持ちのイイ魔法をコイツ等に撃ち放った。
当然、
「うっ!」
「うわっ!」
「ううっ!」
次の瞬間、ガラ悪低能男子達が賢者に大変身したよ。
多分、これで性欲も一気に減退したことだろう。
私の身も安全だね!
ただ、この街のどの辺に国家主席のいるところがあるのか全然見当もつかない……なんて思っていたら、ミチルさんが、
「レーダー魔法で邪悪な気を見つけたよ。前方約十キロの地点だね」
って報告をくれた。
うん。やっぱり魔法って便利だ!
てな訳で、再び私は、
「転移!」
ミチルさんを連れて瞬間移動を行った。
そして、出たところは大きな建物の前。
王国じゃないので、お城じゃないけど……、でも、これって、どう考えても宮殿レベルだよ!
どうやら、この中に国家主席がいるっぽい。
ここで私はユキと同じことをやらせてもらうよ。
何かって?
決まってるじゃん。
転移魔法で勝手に建物の中に入っちゃうってことだよ。
アイツ、私の家の中に勝手に入っていたからね。
と言うことで、
「転移!」
私はミチルさんを連れて、転移魔法で、その建物の中の中央辺りに移動した。
そこは、まるで大きな体育館のような広い空間だった。
しかも奥の方は数段高くなっていて、その上には趣味悪い大きな椅子が置かれていた。
その椅子にデカい態度で座っている男が一人。
多分、コイツが書記長だ。
「書記長様ですか?」
「如何にも私がワロス書記長だ」
ええと、悪そうというよりも笑われてそうな名前だけど?
まあ、イイか!
「出軍の準備をしているみたいだけど、戦争でも仕掛ける気?」
「そうだ。この世界の全てを掌握するためにな。手始めにインジーゴ共和国を叩き潰そうと思っていたところだ。ところで女。勝手に入ってきて、お前の名は何と言う?」
「私はアキ」
「そうか。では、アキとやら。私の愛人にならんか? 許可なしに入ってきたのは気に入らんが、その美しい容姿は気に入った。殺すのはもったいないのでな。ベッドの上で死ぬほどかわいがってやろう」
「お断りします。と言いますか、殺されるのはアナタの方です」
「なんだと?」
ワロスの視線が、急にキツイと言うか冷たく変わった。
いや、むしろ感情が無い状態とでも言うべきか?
まるで蝋人形のような目だった。
私は、
「超高速稼働!」
ワロスの背後に移動すると、
「HP最大放出&女王様モード!」
忘れているかも知れないけど、ここでのHPはハレンチパワーね。ヒットポイントじゃないからね!
これで、私はワロスを下僕にできたと確信していた。
でも、ワロスは、
「なんだ? その女王様モードって言うのは?」
と言いながら椅子から立ち上がり、感情の無い表情のまま私の方を振り返った。全然、最強HPでの女王様モードが効いていなかった。
こんなの初めてだよ!
そして、ワロスが私を捕まえようと近づいて来た。
丁度この時だった。
「死ね!」
特大反重力魔法がワロスに向けて放たれた。
しかも、反重力が広がらないように一点に集中させて撃ち放たれたようだ。
ワロスの近くにいる私に余波が当たっちゃマズいからね。
勿論、魔法の主はミチルさんだ。
さすがに物理的衝撃を伴う魔法は効いたみたいだね。
ワロスは、反重力魔法を受けて、そのまま奥の壁に全身を強打した。
同時に、
「ボキバキ!」
ワロスの身体中の骨が砕けたっぽい。
まるで、最凶最悪の首ちょんぱ魔法を放つラヤを倒した時のようだ。
もはやワロスは瀕死状態だけど、まだ絶命したわけじゃない。
なので、ホハハ国の武装解除を交換条件に、私がワロスを治せばイイ。
多分、相手が男性なら、私の魔法で間違いなく治せるだろうからね。
取扱説明書:アキ-108号は、傷ついた男性を完全に癒す能力を有します(心身共に)。
……って思っていたんだけどね。
邪魔が入ったよ。
「折角の手駒を壊してくれちゃって。困ったヤツ等ね」
と言いながら、奥の部屋から一人の女性が姿を現したんだ。
この魔力。
多分、この女性がラフレシアに召喚されたヤツだね。
コイツを秘密裏に召喚させるために、ラフレシアはゲリラ豪雨を引き起こしたり米寿のSM嬢を目立つパスを使って召喚させたりしたってわけだ。
「アナタがアキね。それから、その男性はレッドドラゴンのミチルかしら?」
「ええ。そう言うアナタはラフレシアの手先ね」
「自己紹介するわ。私はリサ。この国を利用して世界を混乱に巻き込むのが仕事」
「そんなことさせないわよ!」
「さあ、どうかしら?」
私は、リサのステータス画面を覗き見した。
さすがに、敵を知らないとヤバそうだからね。
少なくとも国家主席を即日で配下にしたくらいだから何かある。
そして、見えたものは……。
名前:リサ
職業:超S級催眠術師
魔法装備:最強催眠魔法、転移魔法
これってマズくない?
リサに与えられた魔法はムチャクチャ強烈な催眠術だったんだ。
これでワロスを意のままに操っていたってことか。
たしかに、この魔法装備なら、いきなりワロスのところに転移して来て、そのままワロスを自分の配下に置くことくらい可能だ。
嫌なことをやってくれるね、ラフレシアのヤツ。
そして、リサは、
「私に跪きなさい!」
と言いながら強烈な催眠魔法を放って来た。
私は、この魔法をモロに受けたけど、全然大丈夫だったよ。
多分、人間じゃなくて人形だからだろうね。
催眠術が効かないみたいだ。
でも、この直後、
「火炎球!」
巨大な火の塊が、ものすごい勢いで私を襲ってきた。
魔法の主はミチルさん。
間一髪、私は、これを辛うじて避けた。
でも、何で?
すると、勝ち誇ったような顔でリサが声高々に言った。
「レッドドラゴンには、私の催眠魔法が有効だったようね。もう、その男は私の完全なる下僕。アキ。アナタを倒すための最終兵器に変身したと言ったところかしら?」
「えぇっ?」
まさか、ミチルさんが催眠術にかけられちゃったの?
自らの魔力で跳ね返せなかったの?
ちょっと予想していなかったんだけど……。
万物の頂上的存在のレッドドラゴンがリサの配下にされたって、最低最悪じゃない?
ええと、これって、状況としてマジでヤバいんですけど?




