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71.医師に診られていたよ?

 転移終了。

 すると、何故か店の前には町の人達が屯していて、その真ん中には、私にそっくりの姿をした女性が縄で身体を縛られた状態で座っていた。

 ただ、私が縛ったんじゃないから亀甲縛りじゃなかったけどね。


「おお、アキちゃん。お帰り」

「ただいま……。で、この女性は?」

「この女が、アキちゃんがいない間に、アキちゃんに成り代わって、この町に住もうとしていたんだよ」

「ええと、私に成り代わったところで、何のメリットがあるんだろう?」

「アキちゃんの居場所を奪うってことだよ」

「それは、そうなるだろうけど……。でも、その女性が私じゃないって、良く分かったわね?」

「そりゃあ、臨時休業してヴァナディスちゃんやパラスちゃんと出かけたはずなのに、いること自体、おかしいだろ?」

「まあね」

「それに、いつもの薬を頂戴って言っても分からなかったしよ。そうしたらコイツが、その女を見てアキちゃんの偽物だって言い出したんだ」

「コイツ?」


 そこにいたのは、小柄な男性だった。

 たしか、この男性って、一年前くらいから数日に一回来る客だけど、存在感が無いし、余り目立たない人なんだよね。



 でも、見ただけで分かったって?

 もしかして!


 なんかイヤな予感がするんだけど、私は、恐る恐る、その男性のステータス画面を覗き見した。



 以前は、お客さんがどんな人かを知る意味もあって、色々な人のステータス画面を覗き見していたけど、最近では、滅多なことではしていなかったんだよね。


 それで、その男性の職業欄だけど……医師って書かれていたよ!

 ってことは、もしかして?


「以前、コイツがアキちゃんは普通の人間とは構造が違うって言っていてな。医療に関することは個人情報だから教えられないって言うんで、俺達は詳細を知らねえけど。ただ、この女はアキちゃんとは構造が違うって俺達に教えてくれたんだ」

「そ……そうだったんですか?」



 取扱説明書:アキ-108号が性なる魔玩具であることを見抜けるのは診断魔法使用時の医師と、ランクがレベル10に達した魔玩具発明家くらいです。



 取扱説明書:他のいかなる生物も、アキ-108号が性なる魔玩具であることに気付きません。人間だと勘違いします。ドラゴンほどの魔力があっても例外ではありません。



 脚注:この世界ではレベル10に達した魔玩具発明家はエロスくらいです。



 ってことは、今のところ町の連中で私の正体を知っているのは、この小柄の男性だけってことか。

 勿論、ヴァナディスとかパラスとかミチルさんは別だけどね。


 それにしてもさぁ。私の居場所を奪うって、どう言うこと?

 私は、その女性の前に座って目線を合わせた。


「アナタは、何に目的でこんなことを?」

「ラフレシアに頼まれたんでね」


 そう言うことか。

 もしかして、転生者とか転移者かな?


 取りあえず私は、その女性のステータス画面を覗き見した。

 少なくとも敵なのは間違いないからね。

 情報は取っておくべきって思ったんだ。

 それで、この女性のステータス画面に書かれた内容なんだけど……。



 名前:セツ(高遠セツ)

 職業:転移者

 元世界での職業:元SM嬢、詐欺師

 年齢:八十八歳

 特典:若返り&アキ-108号と同じ容姿

 魔法:物質創製魔法


 なんだこれ?

 中身は元SM嬢で、詐欺師で米寿の老人女性かい!

 カッコ書きされた名前から察するに日本人だね。



 ただ、私に正体がバレた直後、その女性……セツの身体は次第に薄く透けて行き、その場から消えてしまった。


 少なくとも物質創製魔法以外の魔法は持っていなかったはずだからね。

 自分の魔法で逃げたってわけじゃないだろう。



 もし、自前の魔法で逃げられるのなら、もっと早い段階で逃げていたはずだからね。

 多分、ラフレシアに転移させられたって考える方が普通な気がする。

 行き先は、この世界のどこかなのか、元の世界なのかは分からないけど。



 一先ず私は、

「皆様、大変お騒がせしました。また、明日から営業再開しますので、よろしくお願いします!」

 とだけ言って深々と頭を下げると、スカーレットを連れて店の中……さらにその奥の控室へと入って行った。


 勿論、ヴァナディスもパラスもミチルさんも一緒ね。

 多分、ミチルさんは、いても空気だろうけど。



 控室に入ると、

「はーい」

 何故か、そこにはユキの姿があった。

 他人の家に勝手に入ったのかよ、コイツ。


 でも、コイツが来たってことは、さっきの米寿の女性のこと以外にも、ラフレシアが動きを見せているってことなんだろう。



 それにしても、急にこの部屋が狭く感じるようになったな。

 普段は、もっと広く感じるんだけど。

 さすがに大人が六人だもんね。


 ただ、ユキのヤツ、うちの商品棚に置いてあったであろうスパークリングワインを勝手に開けて飲んでいたよ。

 まったくもう。


「ユキ、何かあったの?」

「まあラフレシアの件で色々と。順に言うと、先ず魔導士を使ってゲリラ豪雨を発生させたって言われてー。この町でも降ったでしょ?」

「ええ。それで、この女性魔導士が、そのラフレシアの手先」

「もう捕まえて来たんだー。さすがアキ、仕事速いわねー。私と違って」


 いやいや、アンタが遅いんだよ。

 と思ったけど、敢えて口には出さなかった。

 言うだけヤボな気がしたからね。


「それから二つ目がアキの偽物を送り込んでアキの居場所を奪いに出たってことー。これは、店の前でアキそっくりの老婆が捕まっていたから問題クリアねー」

「まあね。町のみんなには感謝しているわ」

「それで三つ目なんだけどー、ゲリラ豪雨と老婆は、飽くまでも陽動みたい」

「えっ?」

「ゲリラ豪雨は目立つじゃない?」

「まあね」

「それとー。老婆を異世界召喚した際にねー、途中で死んじゃいけないからだと思うけどー、身体の負担を軽くするために太いパスを使って召喚しているのよー。召喚したのは最初にゲリラ豪雨が起こった時なんだけどねー。それで、天界の方でも太いパスだったんでキャッチできていたのー。若返らせたのは、こっちの世界に連れて来てからみたいねー」

「なるほどね。この二つの目立つ行動の裏で、何かをやっていたってことね」

「当たりー!」


 どうせ、また面倒なヤツを召喚したってことなんだろうけど……。

 でも、たしかラフレシアは、マリカやシルヴィアには私とは関わらないようにって言っていたんじゃなかったっけ?

 それなのに何故、老婆を使って私にちょっかい出して来たんだろ?

 まあ、その理由は追々分かるだろう。


「で、ラフレシアの真の目的って何なの?」

「細いパスを使って誰かを召喚した形跡があるってセクロピアが言ってたよー。転移場所は、恐らくホハハ社会主義共和国じゃないかって聞いたけど?」

「東の方の国ね」

「今のところ、それ以上のことは分からないんだけどねー。性別も年齢も。それから、ホハハ国では、今、戦争の準備をしているみたいよー。じゃあ、今日は、もう情報料は頂いたから、私は、これで帰るねー。またねー」


 そう言うと、ユキは転移魔法で控室から消えた。

 ただ、転移魔法で勝手に人様の家の中に出入りするとはね。

 戸締りもへったくれもないや!

 それにしても情報料が何気に高い気がするよ。



 気を取り直して、これからスカーレットの事情聴取だ。

 私は、スカーレットの真向かいに座った。


「座って」

「はい」


 それからヴァナディスとパラスは、スカーレットを両脇から挟むように陣取ってくれた。

 ミチルさんは、一先ず私の隣ね。

 威嚇役ってとこ。


「ラフレシアから何を依頼されたの?」

「別に、ただゲリラ豪雨を行く先々で発生させろと言われただけです」

「半日で五十キロくらい移動していたっぽいけど?」

「一応、詠唱は必要ですが、転移魔法が使えますので」

「何処に行くつもりだったの?」

「ホハハ社会主義共和国の東の果ての町、ノエまで行くように指示を受けていました」


 ノエか。

 やっぱり、ユキの言う通り、ラフレシアに召喚された人がいるのかも知れない。


「他にラフレシアに言われたことは?」

「私が住むモシコリからビナタに出て、そこからノエに向かえと」


 モシコリって、なんか字で書くとニアミスな名前だよね。

 別にどうでもイイけど。


 たしか、モシコリはラージェスト王国の端の方の町で、アデレー王国との国境に位置しているんじゃなかったかな?

 地理的にはレンチ町の真北に位置する。


 なので、モシコリからビナタに向かって一直線に南下して、その後、一直線にノエに向かって移動していたってことだ。

 つまり、敢えて私の住む町に寄ってね。

 恐らくだけど、私を誘い出すつもりだったってことだろう。


「他は?」

「別に何も」


 って言うか、スカラと同じで他言したらラフレシアに消されるって言われているのかも知れないね。

 だから、何も言えないってとこだろう。



 これ以上は情報が取れそうにないね。

 でも、ノエに行けば何か分かるかもしれない。

 それだけでも収穫ってことにしよう。

 もしかすると、これも私を誘い出すための演出かも知れないけどね。


「話は変わるけど、子供の頃、アナタをブスって言っていた男子がいたみたいだけど?」

「何で分かるんですか?」

「その手のことは霊視できるんでね」

「そうですか。実は、好きな男子だったんですけど」

「不幸にも、それを真に受けちゃったみたいね」

「えっ?」

「子供って、時として素直じゃないから、好きな人には嫌いって言ってみたりブスって言ったりするのよ」

「へっ?」

「まあ、両思いだったんじゃないかな。もったいないことしたね」

「……」

「で、この後どうする?」

「モシコリに帰って婚活します」

「婚活?」

「はい。人並みな幸せを手に入れられそうって思えるようになりましたから」


 多分、まだ自分が綺麗な部類って自覚は無いんだろうね。

 HP2の状態から卒業できて、人生に希望を持てたけど、自分の真の実力には気付いていないってことだ。


 この後、自分の真の魅力に気付いて、完全に人生観がひっくり返って男を騙す女に変貌しなければイイけど。


「一人で帰れる?」

「はい」

「じゃあ、これをお土産に持って行って」


 私は、スカーレットにスパークリングワインを渡した。

 この様子を見ながらヴァナディスは、

『私の分もあるよね!』

 って顔をしていたけど……。

 心配しなくても、いくらでも出せるから大丈夫だよ!


「では、私はこれで失礼します」

 こう言った後、スカーレットは、

「時と空間を司る偉大なる大精霊よ。このビナタの地と我が故郷モシコリの地を、我の存在するこの空間とは次元の異なる空間を以て繋ぎ、我の身体を目的とするモシコリ地まで瞬きをするまでもないうちに運び給うことを……」

 なんだか、良く訳の分からない詠唱を唱えたよ。ムチャクチャ冗長に感じるのは気のせいかなぁ?

 要は、『時空の大精霊にお願い! モシコリまで転移させて!』ってことだよね?


 こんな長ったらしい詠唱が必要だなんて、ムチャクチャ非効率な気がするよ。

 そう思うのって、私だけじゃないよね?


 私は『出ろ!』とか『転移!』とか言うだけで魔法が発動するから、簡単に済んで本当に良かったと思う。


 そして、ムダに長い詠唱が終わると、スカーレットは、その場から転移して消えた。

 彼女の無事を祈っているよ。



 それから、パラスとミチルさんは、この後、私が転移魔法で家まで送り届けた。

 ミチルさんは、私なんかよりもずっと魔力が強いんだけど、何故か転移魔法は使えないんだよね。

 ほぼ、戦闘用魔法に限られているって感じかな。

 ドラゴンだけに。


 二人を送り届けて家に戻ってくると、

「お帰り。今度はノエに行くのね?」

 ってヴァナディスに聞かれた。


 ただ、この時、彼女は、なんだかワクワク顔をしていたよ。

 ノエに旅行できるって思っているんだろうね。


「行くけど。その前にディスプロシ島に行ってからにする」

「どうして?」

「多分、ラフレシアに召喚された人はノエにいると思うけど、性別も年齢も全て不明だからね。でも、ケイコとかマナミだったら、一応、ラフレシアに召喚された側だから、何か知っているかも知れないって思ってさ」

「そうだけど……。でも、マナミさんなら、何か情報が取れた段階で、すぐにアキに会いに来ると思うけど……」

「たしかにね。なので、何も知らない可能性が高い気はするけど……」

「店の方はどうします?」

「ノエに行っている間は、ディスプロシ島から人を借りる。多分、ノエにはミチルさんにも同行を依頼すると思うからパラスも来るでしょ?」

「多分ね」

「だから、ナヴィアとかアイカを借りられないかなって」

「まあ、彼女達ならイイかも知れないわね。この町の人達も顔馴染みだし」

「私がいない間は、店の方は青果中心じゃなくて雑貨と飲料に絞るけどね。一日二日で終わればイイけど、長期戦になる可能性も考えて売り物は腐らないモノにしなきゃイケナイと思うから」


 と言うわけで、私とヴァナディスは、明日、早速ディスプロシ島に行くことにした。

 店の方は……明日一日くらいは、パラス一人で何とかしてもらおう。

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