64.またまたTS転移?
カナコが消滅してから一か月が過ぎた。
実を言うと、私は戦いが終わればカナコと仲良くなれるんじゃないか、なんて勝手に期待していたんだよね。
よく漫画とかで、戦った者同士が友情に芽生えるのってあるから、そんな展開が普通にあるって信じていたんだ。
本当に残念なことをしたよ。
ある日のことだ。
男性客達が店の前に屯して何やら噂話をしていた。
どうせ、ロクでもない話なんだろうけど……。
「なんか、オキシラン共和国のネトリって村に凄い新興宗教団体が誕生したらしいぞ!」
「聞いた聞いた! なんでも、スタイル抜群の美女が教祖で、教祖とただヤリまくるだけの宗教って話じゃないか?」
「そうそう。美人教祖一人に男が何人も群がって」
「そんな都合のイイ宗教があるんか?」
「それがあるから驚きなんだってば!」
「しかも、色気は本気を出したアキちゃんレベルらしいぞ!」
「あの、巨大な魔獣を倒した時のアキちゃんくらい?」
「そうそう。あの最高レベル」
「それで、妻子を捨てて入信したヤツも結構いるって話だな」
「ネトリ村だけに」
「それから、教祖の方は、何日も不眠不休でするらしいぞ。しかも連続で」
「ひたすらアレを?」
「そうらしい!」
「人間業じゃねえ!」
これって、どう考えてもマリカのことだよね?
まあ、人間業じゃなくて当たり前なんだけどね。人間じゃないから。
そもそも、その行為を専門とする大人のための性なる魔玩具だもんね。
私は飽くまでも等身大美少女フィギュアって言い張るけど。
だけど、ヤロウ共は、やっぱり、そう言うのに興味があるのかな?
ただ、本気を出した私の最高レベルって?
コイツ等、もしかして私の色気(HP)が変動することに気付いているんじゃない?
ってことは、私が普通の人間じゃないってことも感づいていそう。
なんか、嫌な予感。
正体がバレたりは、していないと思うんだけど?
「なあ、アキちゃんもH教の教祖にならない?」
「アキちゃんなら下僕が沢山出来るんじゃない?」
「絶対才能あるよ」
「俺一番!」
「じゃあ、俺二番!」
「さあ、脱いで脱いで!」
結局、いつもの展開か。
なので、
「って、やめんかい!」
そう言ってコイツ等の頭をハリセンで叩いたわけだけど……。
でも、まあ話だけで、彼らが、そこから本気で私にH本番を強制することは無いけどね。
Hな恰好はさせるけど。
押し倒したりはしないしね。
彼らは、既にカナコのことを気にしていない。
と言うか、むしろ記憶から敢えて抹消しているっぽい。
この町の人達にとっては、カナコは私に戦いを挑んで来た破壊者でしかないからね。
一歩間違えば、町の建物も町民達も被害に遭ったわけだし。
なので、むしろ居なくなって助かったって考えでしかないんだろうなぁ。
いつもの日常が戻っただけ。
再び平和な日々が訪れただけ。
私は、そう思っていたんだけど、その平穏を打ち破るが如く、またアイツが来たよ。
誰って、モノは何でも貢いでもらうことが前提の性悪女、ユキだ。
「来たよー」
私的には、全然来なくてイイんだけど。
でも、一応、ラフレシア関係の話だろうから聞いておかないとイケナイかな?
「また何かあったの?」
「うん。なんか、ラフレシアが一人召還したって、セクロピアが言ってたよー」
そうそう。セクロピアだっけ。
良く忘れるんだよね、その名前。
どうしても、セクロ……なんとか、としか思い出せないもんね。
「やっぱり……」
「しかも、女装趣味だって。ラヤみたいなのー」
「性同一性障害ってこと?」
「詳細は分からないけど、ただ、中年オヤジだってー。性転換の上にムダに若返り処置を施して、この世界に入って来たらしいよー」
なんか、ところどころ棘がある言い方にしか聞こえないんだけど。
まあ、ユキだから仕方ないか。
ただ、中年ってことは、社会経験もそれ相当に豊富だし、ラヤとかカナコよりも手強いかもしれないね。
覚悟しておかないと。
「降り立った場所は?」
「オルキス共和国だってー」
「隣国?」
「だねー」
「物理的距離が結構近いから、割と早く戦うことになりそうな気がする」
「多分ねー」
「元は会社員か何か?」
「そこまでは分からないみたい。まあ、普通に考えれば働いていたとは思うけどー」
「そう……」
「あと、セクロピアから、アキが気にしているっぽいからって、アキと戦って、この世界から消えた人の情報提供があったよー」
「ホント?」
これは、正直興味ある。
と言ってもカナコのことのみだけどね。
「うん。先ずラヤだけど、彼? 彼女? まあ、どっちでもイイか。ラヤの場合はレッドドラゴンの火炎球で消滅したからホントに死んじゃったじゃない?」
「まあね」
「だけど、この世界の女神リニフローラが治癒魔法を与えて、地球でもなく、この世界でもなく、全く別の世界に、あの姿のまま転生させたらしいよー」
「そうなんだ」
「たしかトモティって世界だったかなー。勿論、治癒魔法を貰っているわけだから人を救うのが仕事ねー。ただ、もうトモティ世界での課題はクリアしたんで、そこから、さらに別の世界に移動したって話だよー」
「へー」
ラヤは大量殺人を犯したからね。
こっちとしてもムカついた相手だったけど、破壊神を卒業して人を救う仕事をしているんだったら結果オーライだよね、きっと。
「それから魔王とカナコだけど、二人共ラフレシアが地球に強制送還させたっぽい」
「死んでなかったんだ。でも、ラフレシアは、魔王は死んだって言ってたけど?」
「それは口から出まかせみたいよー。そもそもサタンだから正しいことを言うとは限らないでしょ?」
「そりゃそうか」
「ただ、記憶とか感覚の一部は元の世界に持って帰れるけど、物質は持って帰れないんだってー。なので、魔王は、こっちでアキと戦った記憶とか、デブス三人組との性生活のことは覚えているはずだけど、ナニのサイズは元に戻ったみたい。こっちで得た物質って解釈されたらしいよー」
「ふーん」
この時、私は、ついつい、
『ざまぁ!』
って思っちゃったよ。
アイツのことだけは許せないからね。
一応、サイズのことは、ちょっとだけ同情するけどさ。
それだけは、アイツのせいじゃないからね。
「じゃあ、カナコは?」
「あの娘は、アキの手で、せっかく性的な気持ち良さを取り返せたけど、地球の女神ラメラータの手で元に戻されちゃったらしいよー」
「そうなんだ。ちょっと残念だね」
「それから、あの後、再び家から外に出られない状態に戻っちゃって。こっちにいた時には、ラフレシアから外出する勇気を与えられていたけどー」
「なるほど、そう言うことだったんだ! それで、一応、こっちにいた時には外に出られたんだね! でも、地球に戻ったら、その勇気もリセットされちゃったってことか」
「そうみたい。それで、引き籠って麻雀ゲームばっかりやっていたらしいんだけどー」
「麻雀?」
「そう。彼女は、元々引き籠っていたじゃない? それで、こっちに転移してくる前にネットサーフィンしたりテレビを見たり本を読んだりしていたわけだけどー、たまたま見た麻雀女子プロの対決を見て麻雀に興味を持って、それで覚えたらしいのよー」
「ふーん」
まさか麻雀なんて単語が出て来るとはね。
私は興味なかったけど、マナミが喜びそうだな。
「それで話は飛ぶけどー、麻雀の勝敗で何でも決める、言ってみれば麻雀が法律みたいな異世界があるってラメラータから教えられてね」
「そんな世界あるんだ!」
「うん。それで、そこに転移するのを勧められたらしいのよー。カナコ自身も興味を持ったみたいでね。それで、彼女は昨日、ソッコーでその世界に転移したみたい」
「でもさあ、その世界って、危なくない? 性暴力的に。それに、彼女は外出できないんでしょ?」
「その辺は大丈夫みたい。性暴力撃退魔法を与えられたし。あと、一応、ラメラータから外出する勇気も改めて与えられたってー」
「何でもありだね?」
でも、私だったら絶対に行きたくないね。
麻雀が法律って、きっと、ろくでもない世界だよ。
多分、この世界のヤロウ共の方が、そっちの世界のヤツラよりも、ずっと堅実だしマトモだよ。うん。
「行った先は、たしか、オルドビスって世界だったかな?」
「オールドm……」
「オ・ル・ド・ビ・ス!」
取扱説明書:アキ-108号は、女性ヘイトな聞き間違いをすることが多々あります。
「オルドビスね。さすがに私も、それはマズイって思ったよ」
「もう、難聴なんだから……。で、以上情報提供ってことで、情報代としてカップラーメンを二箱もらえるかしら?」
「二箱は高くない?」
「でも、どうせ出すなら一個も二箱も大差ないんでしょ?」
「そりゃあ、そうだけど」
「この間は遠慮したけど、よくよく考えたら魔法で簡単に出しているわけだし。別にイイじゃない?」
「……」
うーん。そこに気付いたか。
たしかに百箱出せとか言われたら、一箱出すのとは労力が大きく違うけど、二個出すのと二箱出すのは天と地程の差があるってわけじゃないんだよね。
ただ単に、コイツのために二箱出すのが気に入らないだけでさ……。
でも、ここで議論しても終わらないし、ゴネるだけなんだよね、この女は。
もう仕方ないか。
話すだけ時間のムダだし。
と言うことで、
「出ろ!」
私は、カップラーメンを二箱出してあげたよ。
気に入らないけど。
ユキは、その箱を重ねて両手で持つと、
「ありがとね。じゃあ、また来るねー。転移!」
珍しく礼を言ってから消えたよ。
コイツが礼を言う姿って、初めて見た気がする。
数日後のことだ。
店の男性客達が、この日も妙に盛り上がっていた。
ちなみに盛り上がっていたのは話の方ね。
股間じゃないからね。
「今度は、オルキス共和国の海岸線の町に、凄い美女が教祖の新興宗教団体が誕生したって話だな!」
「たしかスプマって町じゃなかったっけ?」
「そうそう!」
「もしかして、オキシラン共和国のと同じようにHな宗教かなぁ?」
「いや、それが逆らしい。教祖はスタイル抜群の超美女で、オキシラン共和国の新興宗教の教祖よりも綺麗だって話だけどよ」
「マジで?」
「色気も本気のアキちゃんレベルを僅かだけど越えるって噂だね」
「それは人間業じゃねえ!」
「ただ、完全に教祖の教えに従って完全な禁欲状態らしい」
これって、もしかしてTS転移してきた中年男性のことかも?
ただ、聞き捨てならない言葉が聞こえて来たよ。もし、その話が本当なら、ソイツは本気の私よりもHPが高いってことだよね?
なんか、良く分からないけど許せないなぁ。
腹が立って来たよ。
だけど、腹立たしく感じる直前に、珍しく私も一瞬だけ動揺したのかな?
手に持っていたビンを落としたよ。
「ガシャン!」
大きな音が店中に鳴り響いた。
しかも中身が入っていて、店の中にドリンクで出来た泉が形成された。
「大丈夫、アキ?」
こう言ってきたのはヴァナディス。
私に怪我がないか心配してくれている様子だ。
「うん。問題ない」
「でも、アキがそんな反応をするってことは、さっきのお客さん達の話って、もしかしてマズい何かがあるってこと?」
「後で話すよ。多分、ラフレシア絡みだと思う」
「えぇ? じゃあ!」
「面倒ごとになるかも。それに、たしかスプマって町だけど」
「それって、ディスプロシ島行きの大陸側ゲートを設置したところだったはずよね?」
「だよね。なので、パラスにも話しておくべきだって思う。店が終わったら」
「分かった」
その後も男性客達の話は続いていた。
それで、スプマ町の情報が取れるかも知れないなって思って、私もヴァナディスも知らない振りをしながらも、耳をダンボにして聞き耳を立てていた。
でも、
「やっぱり、ここはアキちゃんが教祖になるしかねえな!」
「どうせなら、アキちゃんとヴァナディスちゃんのダブル美女教祖ってのはどうだ!」
「最近、パラスもイイカラダになってるじゃん!」
「じゃあ、この店をそのまま宗教団体に変えてしまえばイイってことか!」
毎度の如く、話が変な方向に変わっていたよ。
それで、私は、
「いい加減、やめんかい!」
そう言ってコイツ等の頭をハリセンで叩いた。
なんか、数日前にも、こんなことがあったような気がするよ。




