62.空気摩擦?
「形態変形!」
カナコが、そう唱えると、ロックゴーレムは人型から巨大な戦車の形に変わった。
こんなの聞いていないんですけど?
そして、
「撃てぇ!」
その戦車が砲弾を放って来た。
ただ、弾は球形の石だったけどね。
でも、凄い発射速度だよ。
こんなのモノの直撃を受けたら一溜りも無いだろう。
私は、
「超高速稼働!」
この砲弾を避けたけど、戦車は主砲を私の方に向けて連射してきた。
私は、それを次々に避けて行ったんだけど、ちょっとミスった。
町の人々が見学に来ていたわけじゃない?
なのに、私は戦車と町の人達の間に入ってしまったんだ。
ここで私が避けたら、町の人達に当たる。
絶体絶命状態だよ!
そして、容赦なく戦車は主砲を撃ち放って来た。
迫り来る石の砲弾。
「(終わった……)」
そう私が思った時だった。
私の右方向から強大なパワーの衝撃波が放たれ、石の砲弾を粉々に砕いた。
こんなことが出来るのは一人しかいない。
来てくれたんだ。マジで助かったよ。
「大丈夫かい? アキちゃん」
「ありがとうございます。ミチルさん!」
「それより、あの戦車って?」
「ロックゴーレムが変身した姿です」
「えっ?」
「あのロックゴーレムは、『根源』となる石に、周りの石や岩を引き寄せてできています」
「じゃあ、その『根源』を壊さない限り、いくらでも再生するパターンってこと?」
「そのようです。だから、戦車にも変形できるんだと思います」
「じゃあ、あの戦車を僕が衝撃波で砕くよ。だからアキちゃんは、『根源』を探し出して壊してくれるかな?」
「分かりました」
「では、行くよ!」
ミチルさんが、戦車に向けて強大な衝撃波を放った。
さすがレッドドラゴンだね。
みるみるうちに戦車の機体にヒビが入って行ったよ。
さらに衝撃波の出力アップ!
そのまま、戦車は粉々に崩れた。
私は、
「超高速稼働!」
最速で戦車に近づいて、気の流れを確認した。
取扱説明書:アキ-108号は、どのレベルのプレイができるのかを予め把握するため、相手のエネルギー状態や気の流れを確認できます。
相手が人間じゃなくて石の『根源』だけど、前に王都でロックゴーレムと戦った時には、それが見えたもんね。
見つけた。
私は、その『根源』を拾い上げると、それを右手で持って高々と天に向けて掲げながら、
「超高速稼働!」
超音速で縦横無尽に走りまくった。
取扱説明書:アキ-108号が超高速稼動装置を使う際は、全身が空気摩擦に耐え得るように強化魔法が自動発動します。
私の身体は、超高速稼動の際にデフォルトで強化魔法が自動発動することになっているけど、ミチルさんの血を浴びて、一層強化されている。
なので、空気摩擦に負けることは百パーセント無い。
でも、『根源』の石は別だからね。石や岩を引き付けるよりも先に、空気摩擦でドンドン削られて行き、そのまま完全に消滅した。
小さな隕石が大気摩擦で燃え尽きるのと同じだ。
地道な作業だったけど、これでロックゴーレムが復活することは無いだろう。
大元となる『根源』が消滅しちゃったわけだからね。
そして、私はカナコの目の前まで移動したところで超高速稼働を解除した。
ただ、私が突然、目の前に現れても、カナコは特段、攻撃的な表情は見せていなかった。
どちらかと言うと、愕然とした顔を見せていたよ。
ロックゴーレムの気配が完全に消えていたからね。
多分、ショックの方が大きかったんだと思う。
カナコは、ラフレシアが送り込んで来た刺客。
本当は、ここで私はカナコを葬らなければならない……はずなんだけど……。
残念だけど、私は、トドメの刺し方を知らない。
性欲処理用の等身大美少女フィギュアに過ぎないからね。
戦いに勝利しても、相手を殺すことは出来ないんだ。
でも、性に関する病気を治す力は持っているはず!
だから、カナコを救うことも出来るんじゃないかなぁ……。
取扱説明書:例外的に性病の場合は女性でも治します。これは、飽くまでも男性に感染するのを防ぐためです。
取扱説明書:ただし、精神性疾患は治せません。これは、精神的に病むことで様々な性癖が生み出される可能性があるためです。むしろ、アキ-108号は性癖の多様性を守ります。
……でも、今回のは感染するような疾患じゃないからね。
どちらかと言えば精神疾患だし。
うーん、どうしよう?
私が、そんな感じで、どうしようか考えていたんだけど、その間にカナコは我を取り戻したようだ。
そして、
「転移!」
そのまま、瞬間移動で、その場から消え去った。
ロックゴーレムが倒されて、戦う術を失ったので逃げたってとこだろう。
その次の瞬間だった。
「やったぁ!」
「凄いぞ、アキちゃん!」
「さすがだね!」
「その水着姿、最高!」
「脱げ脱げ!」
「やらせろ!」
町の人達が、歓喜の声を上げた。
ただ、途中からドンドン内容が下品になっているんだけど……。まあ、それは何時ものことだけどね。
それは置いといて、一先ず、ビナタの人達の危害が及ばなくて良かったよ。
それにしても、カナコのことを何とか助けられないかなぁ。
単なる性病とかだったら、私にとっては楽チンだったんだけど、今回のは、そうも行かなそうだもんね。
後で取扱説明書とにらめっこして、何か方策を考えてみよう。
お人好しって言われるかもしれないけど。
…
…
…
その数日後のことだった。
「ヤッホー!」
私のお店にマナミが来た。
ニコラスとニオベが同伴していたので、ニコラスの転移魔法で来たんだと思うけどね。
ただ、ニオベも一緒だったのは、多分、ニオベがニコラスとマナミを二人きりにしたくなかったからだと思う。
絶対に!
「マナミ。どうしたの?」
「オルキス共和国本土とディスプロシ島を繋ぐ特殊ゲートが完成したんで、報告にと思ってね」
「そうだったんだ。おめでとう!」
「ありがとう」
「オルキス共和国の何処ゲートを設置したの?」
「スプマって町」
「でも、よくオルキス側もOKしたよね」
「それは、ケイコだから」
「たしかに弁が立つもんね。それで、フェルミ島の件は?」
「ソフィアの要求に従って、単なる中継地点のみね。スタッフ以外は外にも出られないようになってるわよ。ソフィアにも見てもらって了解を得てるし」
「そうなんだ」
まあ、ソフィアが納得しているなら問題無いだろう。
でも、キチンとソフィアとの約束を守り切れるよう、スタッフの教育はしておかないとイケナイだろうね。
何かあったら、マジで祟られる可能性がある訳だし。
「それから、他の中継点は全部、人が住んでいるところにしたのよ。勿論、島の人達が観光客の出入りを望めば、それを出来るようにしたし」
「ディスプロシ島に到着する前に途中でトラップされない?」
「まあ、有り得るけど。でも、途中の島は、今のところ宿泊施設を持たないからね」
「でも、今更だけど、オルキス島本土には宿泊施設はあるんじゃない?」
「まあね。でも、大陸に泊まるのと島に泊まるんじゃ雰囲気違うからね。そこは何とか頑張るよ」
「期待してるよ!」
「そうそう、それと、カナコが出たんだって?」
やっぱり情報早いな。
一応、ラフレシアサイドだもんね、マナミは。
「まあね。ロックゴーレムが相手で大変だった」
「でも、何とかなったんでしょ?」
「ミチルさんが来てくれたからね。私単独じゃムリだった」
「ただ、カナコは、もう一体のゴーレムを持っているからね」
「そうなんだよね……」
残っているのはメタルゴーレム。
カナコの持つゴーレムの中で、多分、最強だよね?
マジで参ったな。
それって、相当頑丈そうだよ。
倒し方ってあるんだろうか?
「何か分かったらアキに連絡するよ」
「お願い」
「じゃあ、また」
「うん」
本当に業務連絡のみって感じになっちゃったけど、これでマナミ達は島に戻って行った。
事業立ち上げだからね。
本当は色々忙しいところ、時間の合間を縫って、ワザワザここまで来てくれたんだろう。
ヴァナディスとパラスの故郷でもあるからね。
そのさらに数日後のことだった。
「来たわよー」
ユキが来やがった。
コイツが来たってことは、また何か変な奴が送り込まれたとか、そんなとこだろう。
「今回は何?」
「宇井武司って覚えてるー?」
「まあ、一応」
そいつは、私の元彼の友人だよ。
元彼の名前は槍田一朗。
ええと、別に『ヤリタイヤリタイ』連呼する人じゃなかったからね、一応。
それから、遅漏じゃなかったからね。
むしろ早かったから!
やりたいちろう……だけど。
別に、今更アイツのことなんかどうでもイイけどさ。
今の私には、誰もが羨む超美少女のヴァナディスちゃんが、常に隣にいてくれるし。
大抵、元彼の周りにいたのは、伊勢天馬、楠田賢治、唐桑俊樹、江夏雅也、丸茂京志郎、宇井武司、甲斐誠治の七人だったかな。
槍田、伊勢、楠田、唐桑、江夏、丸茂、宇井、甲斐で、『やりたいせ……くすだからくわえなつまりもうい……かい』って言われてたけど。
まあ、そんなことは、どうでもイイか。
「その宇井がどうかしたの?」
「転移して来たらしいよー。今、マリカのところに入信してるって」
「ラフレシアが召還したってこと?」
「それが、偶然、時空の狭間に入っちゃったらしくて。なので、望まれて召喚されたわけでもないし、特に異世界転移の特典は無いらしいよー」
「そうなんだ」
特典なしだと可哀そうだよね。
こっちの世界の言語を最初から理解できるようにセットしてくれているわけでも無いだろうし。
そうなると、日本語が通じるマリカから絶対に離れられないだろうな。
完全に虜になるね。
「まあ、マリカと宇井は、地球では会ったことは無いだろうけど、一応、アキの知り合いが来たってことで報告をと思ってねー」
「マリカと組んで何も起こさなければイイけどね」
「マリカとナニは、してるだろうけどー」
「あと、カナコのことで何か知らない?」
「特に何もー。じゃあ、情報料としてカップラーメンを貰って行くねー。まあ、今回は大した情報じゃないから二個でイイよー。箱じゃなくて」
本当にモノを貰うことしか考えていないな、コイツ。
一応、これでも今回はコイツなりに遠慮しているんだろうけど……。
箱で要求しないあたり。
でも、ダメって言うとゴネるからなぁ。
それこそ、営業妨害レベルで。
なので、
「出ろ!」
仕方なく私は、物質創製魔法でカップラーメンを二つ出した。
辛くないヤツね。
辛いヤツだと男性が使えないだろうからさ。
使うって何にだって?
そりゃあ、私が魔法で出せるってことは、そう言う使い方だよ。
興味のある人は自分で調べてみてね。
ユキは、カップラーメンを両手で持ち、
「それじゃ、また来るねー!」
と嬉しそうな顔で言うと、その場から消えた。
毎度の如く、転移魔法でね。
別に、もう来なくてもイイけどさ……。




