6.売り上げ協力有難う!
くどいようですが、ここではHPはハレンチパワーです。ヒットポイントではありません。
いよいよ、私の店がオープンした。
場所は街外れだし、いきなりは期待していなかったんだけど、初日から思っていた以上に客足が多くて驚いた。
なので、売り上げは結構順調!
ただ、客は九割以上が男性。まあ、これは想定の範囲内だけどね。
とは言え、男性客だって、ここまで沢山来てくれるとは思わなかったよ。
一応、野菜と果物以外にビン入りの飲料も売ることにした。
ジュース系と炭酸系ね。
お酒を出すのは少し様子を見てからにする。
それにしても、飲料が思っていた以上に売れているなぁ。やっぱり珍しいのかな?
女性客の半分は、私が売る野菜とか果物が新鮮で安くて形がイイ(?)から割り切って買いに来ているって感じかな。
でも、やっぱり彼女達からの私への視線がキツイよ。HPが50以上あると、やっぱり睨まれる。
もう半分の女性客は、私に対する視線が怪しい。
同性愛者じゃないかな、多分。
テラさんの奥さんも店に来た。
相変わらず、HPは8/32か。くどいようだけど、HPはハレンチパワーね。
「ふーん。ここがアナタのお店ね。うちの亭主は来ていないわよね?」
「来ていませんけど」
「来たらタダじゃおかないからね」
「ええと、むしろ来させないでください」
「例の薬いただけるかしら? 30回分」
「10錠入りのビン3本で、6,000Wenですけど」
「一回200Wenね。まあ、仕方ないわね」
やっぱり態度が冷たい。
これでも最初に会った時よりはマシだけどね。彼女は、ダポキセチン錠と果物をいくつか買って帰って行った。
宿のウエイターも来た。
「シェイバーある?」
「はい、こちらに」
「仕事仲間にも欲しいって言われてさ、20個あるかな?」
「少々お待ちください」
店には、髭剃りは5個しか出していなかった。どの程度売れるか分からなかったしね。
それで私は、テナントの裏に行くと魔法で髭剃りを出して、あたかも在庫品を取ってきた振りをして彼に渡した。
ただ、髭剃りは、刃以外がプラスチックなんだよね。この世界には無いもの。
なので、街のゴミの収集に乗せるわけには行かない。
「何回か使うと、どうしても刃が劣化します。使えなくなったシェイバーは、私の方で新品の3割値で買い取りますので、次に買う時にご持参ください」
「分かりました」
回収したゴミは、連続転移魔法で地下100キロのところ……マントル層に移動させる。私の転移魔法は目的物だけを転移させることも可能なんだよ。
昨日知ったんだけどね。
地上から消しただけで、地中奥深くに隠すだけだけど、下手に燃やすよりはイイよね?
やっぱりダメかな?
まあ、イイか。
今度は男性二人連れが来た。
「昨日は有難う!」
昨日、私が大怪我を治した男性と、その兄だ。
「ご無事で何よりです」
「自己紹介がまだだったな。俺はダイ・スーシー。それから、こいつが弟のショーだ」
ええと、ダイ・スーシーにショー・スーシーね。麻雀みたいな名前だな。
「この高級メロンを20個いただけるか?」
「えっ?」
「別に、ムリして買うわけじゃない。仲間と一緒に食うからさ」
「でも、一つ5,000Wenですよ」
「分かってる。大怪我が治ったお祝いだからさ。あと、ここの開店祝い」
「有難うございます。でも、持ち帰れますか?」
「大丈夫。木箱に入れて二人で背負って行くからさ。それから、このビン入りの飲料も50本頼む!」
そう言いながらも、多分、本当は結構ムリして買っているんだろうな。
でも、男の意地ってモノがあるだろうからね。一応、止めないでおくことにするよ。
そんなこんなで数日が過ぎた。
ある日のこと、オバサン三人連れが店に来た。
やっぱり私のこと睨んでいるよ。私って、やっぱり女性からの支持率が低いなぁ。
三人とも、HPはテラさんの奥さんと大同小異か。
彼女達の最大値よりも私の下限値の方が高いもんね。
「テラさんとこの奥さんから聞いたんだけどさ。うつ状態を治す薬ってある?」
「ええと、どなたかがうつ状態なのですか?」
「別に、そう言うわけじゃないけどさ」
そう言いながら、オバサンが何気に目をそらした。
理由は分かったよ。ダポキセチンの、うつじゃない方の使い方をしたいってことだね?
「1ビン10錠入りで2,000Wenですけど」
「じゃあ、1ビンお願いできるかしら」
「私も」
「私も!」
三人とも同じ理由ね。
分かっていたけどさ。
「お買い上げ有難うございます」
「それから、ここで売っているシェイバーが髭を剃るのに使いやすいって聞いて旦那が欲しがってね。でも、テラさんとこの奥さんから、絶対に旦那は行かせちゃダメだよって言われてさ」
うーん。
別に、
『寝取ったどー!』
なんてしないってば……。
もう、テラさんの奥さんは、いったい何を周りに吹き込んでいるんだか……。
「シェイバーは、こちらです。何回か使いますと刃が劣化して使えなくなります。使えなくなったシェイバーは、私の方で新品の3割値で買い取りますので、次に買う時にご持参ください」
「ふーん。意外と良心的ね」
「有難うございます」
「じゃあ、試しに一つ買わせてもらうわ。あと……」
オバサン達は、なんだかんだで野菜や果物も結構買っていってくれた。
売り上げにご協力いただき感謝します!
私の店は、一応、この世界では珍しい商品も売っているけど、ムチャクチャ高価なモノを扱っているわけじゃない。
それもあってだと思うんだよね。今のところ、金儲けに私を利用しようとか考える人はいないっぽい。
でも、口コミは伝達途中で情報が狂うことはある。
その被害には遭っていた。
ある日の昼のことだ。
ちょっと細身で疲れた顔をした男性が店に来た。
「ここに、男が元気になる薬があるって聞いたんだけど」
「持続する薬なら、こちらですが」
「そうじゃなくて勃たせる薬なんだけど……」
一応、私は能力でED治療薬を出せるけど、今まで私は、それを一度も出したことは無いし、当然、売ったことも無い。
それなのに、こう言った話が出ているってことは、多分、情報伝達の過程で早漏治療薬とED治療薬がゴチャ混ぜになっているんだろうな。
さて、どうしよう。
余りあの薬は出したくない。
あの薬を出すと、私がここにいることが、魔導師エロスに100%気付かれてしまうだろう。
ダポキセチンだって本当は危ない。
表向きは、うつ病治療薬として出しているけど、それだってHに使う薬として口コミされているわけだからね。
まあ、地球では、それで効能を取っているわけだけどさ。
「うちでは持続させる薬しか扱っておりません」
「そうですか。残念です」
そう言うと、その男性は諦めて帰ってくれた。
ちょっと可哀想だけどね。
その後も、ED治療薬の問い合わせが何回もあった。
勿論、全員に無いって言ってお引取りいただいたんだけど、やっぱりあれを店に出したら売れるのかな?
でも、その噂も半年もすると沈静化した。
やはり、その薬は売っていないと徐々に理解してもらえたようだ。
…
…
…
この地に来て一年が過ぎた。
店の方は順調だけど、人間関係は相変わらずだ。
女性からの支持率が底辺だよ。
まあ、存在自体が『性なる魔玩具』だから仕方が無いんだろうけどさ。
でも、いまだに誰もが私を人間と勘違いしてくれているのは有難いよ。
私自身も、もう普通に人間だと思っているよ。
「てえへんだ!」
男の人の声だ。
『どうせ、私は女性支持率底辺だよ!』
とか思ったけど、これって、ちょっと違うっぽい。
多分、男の人は、
『大変だ!』
って言いたいんだろうな。
でも、何が大変なんだろう?
その直後、
「ズシン!」
大きな音と共に地面が少し揺れた。