58.ロックゴーレム!
「クソッ! あの女!」
カナコは、薄暗い部屋に戻ってくると、テーブルの上に置いてあった皿を、力いっぱい床に叩き付けた。相当、怒り心頭している様子だ。
ルテチア島でクレイゴーレムを失ったことで、カナコの胸中では、アキに対して尋常ではないレベルの殺意が湧いていた。
それこそ、彼女の全身からダークマターのようなモノが噴き出るほどであった。
それだけ、負の感情エネルギーを生産していると言うことだ。
元々、彼女は、性なる魔玩具として誕生したアキのことを良く思っていなかった。
Hなこと自体を嫌悪しているためだ。
それ故に、クレイゴーレムを倒されたことによるアキへの復讐心は、加速度的に殺意へと置き換わったのだろう。
嫌いに嫌いをかけたら超嫌いになるが故である。
…
…
…
時は、カナコが小学校高学年の頃まで遡る。
カナコは、学年でも背が高い方で、この時、既に身長が160センチを少し超えていた。
しかも痩身で、手足がスラリとしていて長く、顔立ちも非常に整っていた。
HP82なのだから当然と言える。
勿論、痩身と言ってもガリガリではなく、引き締まった感じだった。
運動が得意で、走ることにかけては短距離も中距離も学年上位のレベルだった。
頭の出来は、中の上くらい。
胸は、特段、巨乳とか爆乳とか言う類のものではなく、顔の雰囲気や身長から考えて普通レベルと思えるモノを搭載していた。
中身は小学生だけど、見た目はスラリ美人な女子高生。
同じクラスの女生徒達は、彼女の容姿を羨んだ。
しかし、その優れた容姿が不幸を産んだ。
カナコは、性的暴行を受けたのだ。
完全に狙われたと言って良い。
相手は地元の高校生男子達だった。
彼らは、カナコが小学生とは思っておらず、女子高生と思っていたようだ。
勿論、相手がJSだから不可でJKならOKと言うことは無い。
そもそも被害者側の年齢に関係なく、ヤッてはイケナイことである。
取扱説明書:アキ-108号は人間ではありませんので、アキ-108号の同意無しに性行為に及んでも性犯罪になりません。
取扱説明書:しかし、持ち主(現:ヴァナディス)の許可なしに勝手に使うのはご遠慮ください。
取扱説明書:特に、勝手に使い回すのは言語道断です。
カナコの人生を大きく狂わせた最悪の事件だったが、そのうちの一人が議員の息子だったこともあって、事件としては、もみ消された。
言うまでもない。
圧力がかかったのだ。
このような過去を持つ場合、何人もの男性と交わるように変貌するケースがある。
被害者の状態によって理由は様々だろうが、いずれにしても正常な精神状態で、そうなっているとは言い難い。
また、その一方でPTSD……心的外傷性ストレス障害を発症するケースもある。
この場合、男性と対面することが出来なかったり、学校や職場に行けなくなったりすることも少なくない。
結果的に、カナコは家から出られない……、ある種の引き籠り状態になった。
部屋から出て来られないわけではなかったが、家からは一歩も外に出られなくなってしまったのだ。
でも、何で自分だけ……。
自分を害したヤツ等は、罰されることもなく、何事も無かったかのようにノウノウと生きている。
いや、違う!
何事も無かったことにされたのだ!
ヤツ等には、被害者側からすれば信じられないレベルの御膳立てがされていた訳だ。
だから、ヤツ等が罰されることなどあり得ない。
カナコとしては、当然、許し難いことだった。
同時に、彼女は性的なことを嫌悪し、避けるようにもなっていたし、これに連動して彼女は不感症になった。
胸や股間に触れても気持ち良いとは思えない。
性的なことに全く喜びが感じられない状態に変わってしまったのだ。
これもPTSDを発症した際に起こり得るケースであろう。
そして、彼女からは笑顔が消え、暗い少女となってしまった。
これによって、最大HPを放出できない体質へと変わってしまったのだ。
学校に通えない状態だったが、カナコは形式的に小学校を卒業し、中学校に入学。中学校でも形式的に進級は出来ていた。
勿論、そう言った配慮は義務教育期間だけであろうが……。
一応、この世界に来て、カナコは時間制限こそあるが、外に出られるようになっていた。
しかし、これは、サタン側の人間として召喚される条件として、ラフレシアから外出する勇気を与えられたからに過ぎない。
それが無ければ、今でも一歩も外に出ることは出来ないだろう。
こんな背景を持っているのだ。
当然、カナコにしてみれば、魔法で動く性処理機能付き等身大美少女フィギュア……、地球で言えばAI搭載の性処理機能付き等身大美少女型ロボットに相当するであろう存在を許せるはずが無かった。
存在自体がエロ以外の何モノでもない。
カナコにとっては、アキは完全なる悪の根源でしかないのだ。
しかも、そんなヤツにクレイゴーレムを葬られた。
それ故に、カナコの中でのアキへの憎悪は、既に臨界点を遥かに超え、殺意へと変換されていたのだろう。
…
…
…
数日後、
「アキさん!」
大慌てで私の店にフロギスが飛び込んで来た。
忘れているかも知れないけど、国王陛下側近の兵士で転移魔法使いの同性愛者ね。
「どうしたの?」
「王都にロックゴーレムが現れました!」
「王都軍は?」
「それが、今は停戦状態です。ロックゴーレムを操る女性が、アキさんを出せと。十分以内に連れて来なければ破壊活動を始めると言いまして」
「それで呼びに来たわけね」
「はい」
「分かったわ。じゃあ、ヴァナディス、パラス。お店の方をお願い!」
さすがに店は閉められないし、ヴァナディス達を連れて行くのは危険だからね。二人には店番をさせることにした。
と言うわけで、私はフロギスの転移魔法で王都へと急いだ。
フロギスの転移魔法なら、一回の転移で目的地に行けるから便利だよね~。
私の連続転移と違ってコマギレな移動じゃないし。
それに、連れてってもらう方が楽だしさ。
私が王都に着くと、そこには巨大なロックゴーレムの姿があった。
岩でできているだけあって、随分とゴツイ姿だなぁ。
しかも、体高は五十メートル以上になるかも。
この間、私が倒したクレイゴーレムと比べると、とんでもなく大きいんですけど?
なので、ついつい私は、
「すっごい、大きい! こんなの初めて!」
って言ってしまったよ。
近くにいた王都軍の男性兵士達の何人かが反応して前屈みになっていたけど?
なんでだろ?
ロックゴーレムの右肩にはカナコが座っていた。
私の声が聞こえたのか、カナコはムチャクチャヘイトな表情をしていたけどね。
まるで、黒かったり茶色かったりしていて、私としては絶対に視界に入れたくない超嫌われモノの昆虫でも見ているような目付きだったよ。
でもさあ。もしかして、かよわい女性に、こんな巨大なのと戦えって言うわけ?
マジで厳しいんですけど!
カナコが、ロックゴーレムの上から、近くの建物の屋上に転移した。
彼女も転移魔法が使えるからね。
そして、
「死ね!」
カナコが、少女らしからぬ台詞を私に言い放ってきた。
この言葉が、そのままロックゴーレムに出した指令になっているんだろう。
ロックゴーレムは、右足を大きく前に踏み出して、私を踏み潰そうとした。
「超高速稼働!」
私は、その場から超音速で移動した。
毎度の如く、空気摩擦で服は一瞬で燃え尽きたんだけどね。
なので、私は例の如く、非常に布面積の少ない白のビキニ……、ビナタの町の男共が選んでくれた戦闘服姿に変わった。
なんだかんだ言って、いつも、この戦闘服を下に身に着けているんだよね、私。
そして、ロックゴーレムの背後に回ったんだけど……。
さて、これからどうしよう?
これだけの巨体を、鞭で叩いたって全くもって無意味だろうし。
ロックゴーレムが、私の方を振り向くと、再び私を踏み付けようと足を一歩踏み出して来た。
これを再び超高速稼働で避けて、ロックゴーレムの背後に回ったんだけど……。
もしかして、こうやって逃げることしかできないのかな?
それもしゃくだ!
っというわけで、私は空高く飛び上がり、ロックゴーレムの背中に触れると、特殊魔法を発動した。
「機械音痴魔法!」
取扱説明書:機械音痴魔法を発動することで、アキ-108号は、触れた機械類の誤作動や機能停止を意図的に起こせます。これにより、アキ-108号は男性の前で機械音痴の女性を演じることが可能です。
これがカラクリの類なら、これで機能が停止するはず……。
なんだけどね。
でも、ロックゴーレムの動きは止まらない。
やっぱり、機械じゃないってことだね。
飽くまでも魔力で動く岩の塊ってことだよ。
考えが甘かった。
宙を浮いた私に、ロックゴーレムのパンチが繰り出された。
これを、
「超高速稼働!」
なんとか私は避けようとしたんだけど、魔法発動が一瞬だけ遅れた。
ロックゴーレムのパンチを、私はまともに受けてしまった。
もの凄いパワーだ。
私の身体は、大きく弾き飛ばされ、近くの建物の壁に打ち付けられて、
「ガン!」
その衝撃で派手な音が辺り一面に鳴り響いた。
取扱説明書:アキ-108号は、使用者からDVを受けても大丈夫なように、かなり頑丈に作られております。
一応、これくらいじゃ私の身体は壊れないみたいだけどね。
でも困ったな。倒す手立てが見つからないよ。
どうしよう?
じゃあ、意味があるかどうか分からないけど、
「性的背景透視!」
取扱説明書:アキ-108号は、集中すると見ただけで相手の性癖を把握できます。
取扱説明書:アキ-108号は、その気になれば他人の性的背景を全て把握することが可能です。
うーん。やっぱり無意味だったか……。
ロックゴーレムだもんね。別に性的な何かがあるってわけじゃなかったよ。
ただ、良く分からないけど気の流れみたいなのが見えた。
取扱説明書:アキ-108号は、どのレベルのプレイができるのかを予め把握するため、相手のエネルギー状態や気の流れを確認できます。
なんとなくだけど、胸の辺りの一点からロックゴーレム全体に向けてエネルギーが放たれているって感じだ。
これが何かヒントになるかもしれない。
もうちょっと、透視してみよう。
ただ、誤解しないでよね!
別に私は、ロックゴーレムとHしようなんて考えていないんだからね!
私は、
「超高速稼働!」
ひたすらロックゴーレムの攻撃を避けながら、鞭を打ち込みながら、おまけに蝋燭を垂らしながら、ロックゴーレムに可能な限り接近しては、透視魔法を繰り出した。
鞭も蝋燭も、全然意味がない気がするけど……。
でも、確定した。
間違いない!
ロックゴーレムの胸に直径十センチくらいの丸い石の塊があって、そこからロックゴーレム全体にエネルギーが供給されていて、それが動力となっている。
多分、この丸い石が、このロックゴーレムの『根源』なんだ。
ロックゴーレムが、私に向けて拳を振り下ろして来た。
「ドスン!」
間一髪、私は避けたけど、激しい音を立てて、その拳が地面に打ち込まれた。
それと同時に、ロックゴーレムの拳が砕けたんだけど……、四散した破片が再び集まって、ロックゴーレムの手が元通りに戻ったよ。
つまり、『根源』に岩や石が引き寄せられてロックゴーレムを形作っているんだ。
ってことは、『根源』を破壊しない限り、ロックゴーレムは何度倒しても瞬時に復活するってことか。
それ以前に、ロックゴーレムの身体に傷つけることすら出来ないでいるんだけど。
状況としては、かなりマズイなぁ……。
なんて思ってたんだけど、
「タイムリミット。もう帰るから」
これだけ言うと、その直後、カナコはその場から転移魔法で姿を消した。
彼女を追うようにロックゴーレムの姿も消えてなくなったんだけど……。
あれっ?
なんで?
そうか!
カナコは、人間不信の人間嫌いで、引き籠り状態から完全には抜け出せていないんだ。
だから、人前に出るのは一時間が限界だったんだっけ。
ってことは、王都にカナコが来て、丁度一時間になるってことか。
それで、タイムオーバーになってカナコは逃げたってことだね。
それでも、一時間、人前にいることに、耐えられるようになったって言うのは、彼女にとっては大きな進歩なんだと思うけどね。
ロックゴーレムを残して行かないところを見ると、ロックゴーレムはカナコの半径何キロ以内でないと活動できないって制限があるのかも知れない。
でも、今日の戦いを通じて大事なことが分かったよ。
『根源』を破壊しない限り、ロックゴーレムは何回でも瞬時に再生する。
ただ、これは言い換えれば、あの『根源』を潰す方法さえあれば、何とかなるってことだよね。
ロックゴーレム全体を頑張って壊す必要は無いんだ。
とは言っても……。私の手持ちの能力で、それをどうやって成し遂げられるかってことが問題なんだけどね。
ムチャクチャ難問だけど、考えなきゃだね。
まあ、それはさて置き、一先ず、これで私も用無しだよね?
と言うわけで、
「では、今日のところは私も御暇致します!」
と言って軍のみんなに会釈すると、私は連続転移で自分の店へと戻った。




