52.百聞は一見に如かず!
その夜、私とヴァナディスは、海岸近くのログハウスに泊まった。
ヴァナディスのリクエストで、
「出ろ!」
私は天体望遠鏡を出した。
何故出せるかって言うと、
『若い女性の着替えを覗くための天体望遠鏡!』
って唱えたら出せたんだよ。
本当に『Hに関するモノ』の定義が緩々で助かるよ。
そして、私はヴァナディスに木星みたいな外惑星や土星みたいな外惑星、それからアンドロメダ銀河みたいな渦巻き型銀河を見せてあげた。
ヴァナディスは、
「これって、何なの?」
って言いながらマジで驚いていたよ。
こんなモノが夜空に存在しているなんて想像もしていなかっただろうしね。
その後、私は毎度の如くヴァナディスと楽しい夜を過ごさせてもらった。
勿論、ベッドの上の話だよ。
他のログハウスには誰も泊まっていなかったんで、聞かれる心配はない。
なので、いつも以上に声のボリュームが上がっていたかも知れないけど!
それと、今回パラスは実家に泊まったっぽい。
ミチルさんがいなくて残念だね。
でも、たまには、そう言う日があってもイイよね?
翌日、私達はマナミ達に連れられて、転移魔法で山頂に設置された展望台に移動した。
まだ、ログハウス付近から山頂まで直行できる特殊ゲートは設置されていないからね。
山頂から一望した景色は素晴らしかった。
前回の魔王退治の時にも、この場所には来ていたけど、その時は、景色を楽しむなんて余裕は無かったからね。
「マナミ」
「何?」
「ふと思ったんだけど、ルテチア島とディスプロシ島の両方を巡るツアーとか組むことってできないのかな?」
「それね。実は、ルテチア島とディスプロシ島を繋ぐ特殊ゲートの設置をルテチア島に提案したことはあるんだけどさ」
「それなら、両方を巡ることが出来るね」
「うん。でも、丁重に断られたよ。向こうにとっては全然、利が無いって言われてね」
うーん。完全に舐められてるな。
だったら、ルテチア島に勝てなくても、無視できないくらいの力は見せてやりたい。
「向こうが長期滞在のリゾート地、こっちが短期滞在の観光地で住み分けするって話もしたんだけど」
「したんだ」
「うん。でも、全然相手にしてもらえなかったのよね。だから、先ずは、こっちの実力を向こうに認めさせるのが先なのよ」
でもさ。認めさせるためには、そもそも論として、ディスプロシ島までの移動手段をどうするかが大きな問題なんだよね。
ルテチア島は、既に知名度がある。
だから、リゾート客達は、転移魔法使いを雇って遊びに来るけど、ディスプロシ島に来るためだけに転移魔法使いを雇うかって言うと、ハードルが高い。
「今、この島の人の魔法で作れる特殊ゲートの最長距離ってどれくらい?」
「二百キロくらいかな?」
「じゃあダメか」
「大陸と繋ごうって思ったんでしょ?」
「まあ、ビナタとね」
ビナタとディスプロシ島をゲートで繋げれば、ヴァナディスもパラスも自分の家に簡単に行き来できる。
それに、アデレー王国からご近所感覚で、この島に来る人も出て来るかも知れない。
それで、一石二鳥って思ったんだけどね。
でも、現実は、そんなに甘くはなかったか。
「それが出来たら有難いんだけどね。正直、中継地点を何十か所も作らないとムリね」
「しかも、海上にも必要になるってことか」
「まあ、その辺は、ケイコが画策中だけど」
「そうなんだ」
「オルキス共和国本土から、オルキス共和国内の島を経由して、ここまで来るルートをね。いくつもの島を経由するけど」
「たしかに、そっち経由なら出来るかも知れないね」
「距離的にはね。でも、ディスプロシ島はラージェスト王国領だからさ」
「まあ、その辺はケイコが巧く丸め込んでくれるんじゃない?」
「それで画策中。それに、今、一番の問題は交通手段じゃなくて、どうやってディスプロシ島のCMを打つかなのよね」
「そっか。地球にいた頃の感覚で考えていたよ。旅行代理店も無いし、ネット上で紹介って訳にも行かないんだっけ」
これは、いくらケイコがやり手でも、さすがに難しいんじゃないかな?
でも、CMは、ラージェスト王国とアデレー王国の王族貴族を招待すれば何とかなりそうな気がする。
それなら、私の方でも多少は動けるよ。
帰ったらリンドラー公爵夫人に相談してみよう。
あと、ラージェスト王国の方はスティンギー国王陛下か。
その日の夕方、私達はニコラスの転移魔法でビナタの町に戻った。
せっかくなので、明日から町の人達にもCMしとこう。
その翌日、朝から店にイヤなヤツが来たよ。
ハッキリ言って、私からすれば招かれざる客だ。
誰って、ユキが来たんだよ。
ユキが誰だか分からないって?
私の大学の同期で、こっちの世界に私よりも半年前に大天使セクロ……なんとかに召喚された働かない女ね。
毎回、何かを勝手に万引きして行くヤツ。
「来たよー」
「久しぶり。もしかしてマリカのこと?」
「もう、知らされてたんだー」
「ケイコとマナミからね」
「ふーん」
「カリセン王国の森にいるんでしょ?」
「それが、今朝、魔導士エロスを置いて、一人で森を出たってー。連続転移魔法でー」
「えっ?」
「カリセン王国の王都で、HPを全開にして楽しんでいるみたいだよー、現在進行形でー。放っておいても男が寄ってくるからってー。今のところ、世界を支配することよりも、男達を性的に支配する方に走っているっぽいよー」
「マリカらしいな」
「なので、しばらく戦うことは無さそうってセクロピアが言ってたよー」
「ふーん」
そうだった。
セクロなんとかって、セクロピアだったけ。
なんか、全然覚えられないんだよね。そのセクロなんとかって。
だって、『セクロ』まで行ったら、次に来る文字って『ス』しか思いつかないもん!
普通、誰だってそうだよね?
「ラフレシアは、マリカをエロエロ宗教の教祖にして、世界をドピンク色に染めてメチャメチャにしようって考えているみたいだけどねー」
「また、アホみたいなことを……」
「でも、セクロピアに言わせると、多分、それは失敗するからってー」
「そうなんだ。でも、なんで?」
「入信するのは男性だけだからって。女性はマリカからHP二百万のオーラを浴びた瞬間、完全に入信拒否状態になるからー」
あー、それは容易に想像できるわ。
この世界に来て、私自身もずっと女性支持率底辺だったからね。
「なので、女性はマリカ一人だけ。そこに男性信者が増えすぎると、男性達はマリカとヤル順番待ちが長くなるじゃない? だから、男性入信者がある程度の数に達したら、新規入信者を拒否し出すだろうってー。なので、せいぜい町や村をいくつか支配するだけにとどまるって予想しているらしいよー」
「そう言うことね」
「だから、ラフレシアは、また別の誰かを召喚することになるんじゃないかって思われているっぽいよー」
「また変なのを召喚しなければイイけど」
「じゃあ、また何か動きがあったら連絡に来るねー」
そう言いながら、ユキは勝手に高級メロンを二つ持って、その場から転移魔法を使って逃げるように一瞬で消えたよ。
しかも、今回は『持って行く』の一言も無しかよ?
もう、どうでもイイや。
その数日後、リンドラー公爵夫人が私の店に例の如く大人買いしにお来しくださった。
早速、ディスプロシ島のことを話すチャンスだ。
「また来たわよー」
「いらっしゃい」
「今日も、いつものお野菜にフルーツにスパークリングワインを」
「いつもありがとうございます。それで、今日はちょっと公爵夫人にご相談したいことがありまして」
「何かしら?」
「ヴァナディスの実家があるディスプロシ島を、今、観光開発しているんです」
「あら、それは面白そうね」
「できれば、ご招待したいと思いまして」
「是非、行かせていただくわ」
やった!
これで広告塔を一人ゲットできたよ。
「早速、先方には連絡を入れておきますね」
「でも、このことをラージェスト王国の国王陛下は御存じなのかしら?」
「スティンギー国王陛下ですか?」
「ええ。アキちゃんは、たしかスティンギー国王陛下とも面識があるでしょ?」
「はい」
「だったら、先にスティンギー国王陛下をご招待なさい。ディスプロシ島はラージェスト王国領内だし、彼の立場もあるでしょうから」
それは失念していたよ。
言われてみれば、まさにその通りだ。
「たしかに、そうですね」
「その後に、是非、行かせていただくわ。勿論、その時はビスカス国王陛下にもお声がけするから」
ビスカス国王陛下は、私達が住んでいるビナタ町のある国、アデレー王国の国王陛下ね。
ちなみにアデレー王国では、国王も御后様も共に同性愛者だったりする。
「ありがとうございます」
「でも、あの辺りだとルテチア島があるから、後からリゾート地として入って行くのは結構大変じゃない」
「まあ、ゆっくりリゾート気分を味わうのではなく、観光していただく場所として、ルテチア島とは住み分けをするようです。宿泊もログハウスで短期宿泊型を考えています」
「そう。でも、観光って何があるの?」
まあ、これが普通の反応だよね?
今まで、何も無い島ってイメージしかないから、観光する場所なんてあるんだろうかって思われていても不思議ではない。
「鍾乳洞とか温泉、展望台に夜には花火を」
「花火?」
「私が以前いた世界にあったモノです。火薬を使って、空に火で花のような模様を描くんです」
「ちょっと想像できないけど、でも、火薬を使うって、それって危険じゃないの?」
「勿論、扱いを間違えれば大変なことになります。でも、お客様には、花火から百メートル以上離れたところでご覧いただきます。もし、ご興味がおありでしたら、今夜、この店の裏で打ち上げてみますけど」
「百聞は一見に如かずってことね」
「はい」
「分かったわ。是非、見させてもらうわ」
「ありがとうございます。八時頃で大丈夫でしょうか?」
「勿論。じゃあ、一旦帰って、また、八時頃に、ここに来るわね」
「よろしくお願いします」
一先ず、リンドラー公爵夫人は、所望のモノをお買い上げされると、御屋敷に戻られた。
ただ、毎回そうだけど、馬車ごと転移魔法で移動するんだよね。
ふと思ったんだけど、転移魔法での移動だったら、わざわざ馬車を出す必要ってあるのかな?
そりゃあ、馬車に乗ることがステータスってのもあるんだろうけど……。
まあ、イイか。
深く考えるのはやめよう。
その日の夜、改めてリンドラー公爵夫人が私の店に来てくださった。
こんな平民(?)との約束をワザワザ守ってくださって、本当に有り難いよ。
「また来たわよー」
「わざわざお時間をいただいてありがとうございます」
出迎え係は私とミチルさん。
早速、私達は店の裏にリンドラー公爵夫人を案内した。
そこは、家も田畑もなく、荒れ地が延々と広がっている場所。私の店があるとこって、実は街外れだからね。
その荒れ地に、私は既に沢山の打ち上げ花火を用意しておいた。
町の人々にも日中に花火打ち上げのことを宣伝しておいた。
なので、
『また何かアキが面白いことをヤル!』
って言って、町中の人々がこの荒れ地に集まってきていた。
もっとも、彼らは具体的に私が何をやるのかを理解できていないし、まあ、これを機会にまた飲んで騒げる程度の感覚だ。
毎度の如く、野郎共はバーベキューの用意をしているよ。
私も例のスパークリングワインをはじめ、いくつかのアルコール類を用意しておいたけどね。
みんなに飲んでもらうように。
それから、私は、予め店の裏にテーブルと椅子を用意しておいた。
「こちらにお掛けください」
「ありがとう」
リンドラー公爵夫人は、VIPだからね。
早速、その椅子に腰掛けていただいた。
「それと、こちらもご賞味ください」
「また、前のとは違うワインね。早速、いただくとするわ」
まあ、折角なので、今日は今までのとは、またちょっと違うワインを用意しておいた。
喜んでいただけるとイイな。
そして、私は転移魔法で打ち上げセットの元にGO。
公爵夫人への説明は、ミチルさんにお任せした。
で……、早速、着火。
先ずは、3号玉を連射。
続いて4号玉を発射!
次々に真っ暗な空に火で描かれた沢山の巨大な華が咲き乱れた。
これには、町の人々も、
「おおぉ!」
「すげー!」
「キレイ!」
歓喜の声を上げてくれた。
私はその場にいなかったから、後からヴァナディスに聞いたんだけど、みんな、飲んで騒ぐのを忘れて花火に見入ってくれていたらしい。
それなりの数を用意しておいたつもりだったんだけど、いざ始めると、結構消費するのって早いんだね。
三十分程度で、全てを打ち上げ終わった。
それで、私はみんなのところに戻ったんだけど、そうしたら、
「もう終わりなの?」
「まだ見たい!」
「次は、いつやるの?」
「明日もやって!」
早速リクエストの嵐が来た。
生まれて初めての打ち上げ花火だもんね。
相当、みんな興奮していたよ。
リンドラー公爵夫人も、
「次は何時かしら? ビスカス陛下も連れてきたいんだけど」
続きを見る気マンマンだったし、しかも話が大きくなっているよ。
それからしばらく、私は毎週、リンドラー公爵夫人がお越しくださる日の夜に花火を打ち上げることが義務化されてしまった。
リンドラー公爵夫人も、狙ったように夜になってから買い物に来られるし……。
別にイイけど!




