5.癒しの存在?
くどいようですが、ここでは、HPはヒットポイントではなくハレンチパワーです。
結局、私は街の外れの方のテナント付き住居物件を借りることにした。
立地は今一つだけど、やっぱり安さと広さに惹かれた。あと、街中央の物件は住居部分が少しカビ臭かったしね。
身体がカビたら嫌だもん。
先ずは、このお店でチャレンジ!
私は、その日のうちに商品を並べる台とか棚を手に入れた。これも、不動産屋さんが協力してくれた。
もっとも、私が若くて綺麗な女性……正しくは女性型魔玩具……だから手伝ってくれたに過ぎないんだろうけどさ。
でも、本気で助かった。
なんせ私は、魔導師エロス曰く、
『この世界の全ての男性の夢と希望、そして理想の容姿を兼ね備えたハイパーな存在』
だからね。
前世では男から仕事の責任を擦り付けられたり、彼に振られたりしたけど、この世界では今のところ男から不遇を受けることは無い。
むしろ、男共がとても優しくしてくれるよ。
でも、男受けが良い分、女性からの視線は痛いけどね。
それから、人間に転生できなかったのは残念って思っていたけど、周りが私のことを人間と認識……と言うか勘違いしているから、今のところ人間でないことに不便を感じていない。
これなら、普通に人間として暮らして行けそうだ。
開店するのは明後日から。
この日、私は一旦、宿に戻った。
二泊分を先払いしちゃったからね。泊まらないと食事代が勿体ないもん。
ムチャクチャ高い宿だし。
次の日、私は宿をチェックアウトすると、その足でギルドに向かった。お店の登録を行うためだ。
ちなみに、ここは田舎の町で規模が余り大きくないからだと思うけど、商業ギルドも冒険者ギルドも、全部ここが兼ねているっぽい。
総合ギルドってヤツだ……と思う。
受付は女性だった。
ここでも視線が痛いよ。
HPは13/33か。やっぱり、これくらいが普通なんだね。
だとすると、人間でHP最大値が100って、相当なエロってことか。
もう、敵認定オーラがバリバリに飛んでくるよ。前世では、ここまで女性に嫌われることは無かったんだけどなぁ。
「取扱う商品は?」
「青果が中心ですが、生活用品や薬、飲料も少し取り扱います」
「八百屋をベースとした『何でも屋』と言ったところでしょうか?」
「そうなります」
「わかりました」
かなり事務的に対応された。笑顔一つ見せてくれないよ。
これはこれで悲しい。この世界で女性の友達ができる自信が無いよ。
「ただ、人身販売だけは行わないでくださいね」
これは、定型的な注意ね。
一応、この世界には奴隷制度があるけど、奴隷の販売には国からの特別な許可が必要らしい。
これは、私だから嫌がらせで言われたってわけじゃないよ。誰に対しても言っておくってヤツだからね。
まあ、そんな商売をするつもりは無いけどね。
私が手続きを終えてギルドを出ようとした時だ。
「退け退け退けぇー!」
屈強な男性が、別の男性を背負いながらギルドの中に飛び込んできた。ムチャクチャ慌てた感じだ。
背負われている方の男性は、背中から血を流していた。結構、出血が激しいし、このまま放置していたら、もう三十分も持たないだろう。
「弟が森でデカイ魔獣にやられたんだ! 医者を早く!」
「今、医者は出払っています」
「早く呼んできてくれ!」
一応、この世界には治癒魔法が存在する。治癒魔法に頼った分、医学と言う学問自体は進歩していないみたいだけど……。
なので、ここでは地球のように医学で治療する人間ではなく、魔法で治療する人間を医者と呼んでいる。
でも、大抵は、ちょっとした怪我を治す程度の魔法しか使えない。これほどの大怪我を治せるだけの治癒魔法を使える者は、この世界では数が限られる。
王都とか帝都とか首都と呼ばれる中心都市ならともかく、さすがに、こんな地方の町にいるとは思えない。
怪我をした男は腹這いにベッドの上に寝かされた。
背中からは激しい出血が、なおも続いていた。このまま命の炎が尽きるのを待つことしかできないのか?
それにしても魔獣って、ラプ男とラプ子じゃないよね?
デカイって言っていたから違うよね?
私は、この者達のステータスを覗いた。
「(怪我をした男性は魔法剣士。火の魔法を使うみたいね。その彼を背負っていたのは剣を使うけど専門は転移魔法か)」
二人で森に入ったところ、偶然、魔獣に出くわしたってところだろう。そして、相方が怪我をしたんで、急いで転移魔法で街に来た。
ちなみに、彼の転移魔法も、私と同じで一回に2キロが限界みたいだ。
連続使用可能回数は3回まで。さすがに100キロの移動はムリなようだ。
ラプ男とラプ子がいた森は、ここから100キロは離れている。
少なくとも、この男達を襲った魔獣とラプ男達は別物だね。
私は、無意識に両手で怪我をした男性の手を取った。相手は全然知らない人間だし、何故、自分でもそうしたのか分からない。
すると、その男性の身体が強烈な光に包まれた。私の身体から、この男性にエネルギーが流れ込んだんだ。
ええと、Hなエネルギーじゃないよ!
私にも何が起きているのか分からなかった。私の中にプレインストールされたプログラムが自動的に起動しているようだ。
男性の傷が、みるみるうちに消えていった。
どうやら、私は癒しの魔法を使っているらしい。こんな能力を持っているなんて、自分でも驚いているよ。
私のステータス画面が、取扱説明書に切り替わった。
取扱説明書:アキ-108号は、傷ついた男性を完全に癒す能力を有します(心身共に)。相手が男性の場合は、異性愛者でも同性愛者でも治します。
取扱説明書:女性でも同性愛者の場合は、癒しの能力が発動します。
取扱説明書:しかし、アキ-108号は、女性同性愛者あるいは男性に懇願されない限り、一般女性には癒しの能力を発動できません。
ええと……。
本当に私は、女性アンチヘイトなヤツなんだね。
女性の同性愛者は、私を愛する可能性があると言うことで例外なのか。でも、一般女性にはムチャクチャ嫌われる設定だよ。
あっ! まだ続きがある。
取扱説明書:例外的に性病の場合は女性でも治します。これは、飽くまでも男性に感染するのを防ぐためです。
取扱説明書:ただし、精神性疾患は治せません。これは、精神的に病むことで様々な性癖が生み出される可能性があるためです。むしろ、アキ-108号は性癖の多様性を守ります。
なんだこれ?
精神性疾患を治せない理由は理解したくないけど。
でも、マジでこんな能力が使えたんだ。
魔導師エロスが言っていた言葉。
『この世界の全ての男性の夢と希望、そして理想の容姿を兼ね備えたハイパーな存在だ。しかも最強の癒しの能力を持つ』
これって、Hだけの意味じゃなかったんだ。
余談だけど、この時、私は、この世界では性的マイノリティー(LGBT)の考え方がキチンと出来ていないことに気付いていなかった。
つまり、同性愛者と性同一性障害者の区別がついていなかったんだよ。
あと、両性愛者は異性を愛することから異性愛者に区分されていたし……。
なので、私の取扱説明書も、その辺の区別がキチンとされずに書かれていた。
このことに私が気付いたのは、少し後の話になる。
怪我をしていた男性が身体を起こした。
もう完全に傷は癒えていたし、すっかり元気になっていた。
「君が助けてくれたのか。有難う!」
そして、彼は涙を流しながら私に抱きついた。
ただ、何気に私の胸に顔を押し付けていないか?
それだけじゃない。顔を左右に振りながら、私の胸の感触を思い切り楽しんでいやがるよ、コイツ!
それから、この男性を背負ってきた屈強な男性が、
「弟を助けてくれて有難う!」
と言いながら、私を背後から抱きしめてきた。
しかも、私の身体をあちこち触って来ていやがる!
こいつら、ドサクサに紛れて何しやがる!
自分のステータスを確認する限り、HP(ハレンチパワー)は50のままだ。
別に暴走して2,000,000とかまで跳ね上がったわけじゃない。
そもそも、そこまでHPが跳ね上げていたら、多分、こんな大人しいレベルじゃ済まないよなぁ。
いや、ある意味、大人のレベルになるか。
私は、女王様モードに切り替えて、
「おやめ!」
と言ってあげた。
すると、二人は私から離れて直立不動となった。
やっぱり便利だね、この機能。
一先ず私は、
「怪我が治って何よりです。私はこれで」
とだけ言って、その場を立ち去ろうとした。その場に困っている人がいて、たまたま助けた程度の感覚だったんだ。
別に恩を売るつもりは無い。
ところが、
「治療代はおいくらでしょうか?」
と男達が私に聞いてきた。
うーん。別に私は、金儲けのために治療したわけじゃないんだけどなぁ。勝手にプログラムが作動したようなもんだし。
なので、無意識だったんだよ、うん。
すると、何を考えたのか、怪我をしていた男性が、
「宜しければ、身体で払います!」
と言って服を脱ぎ始めた。
すると、もう片方も、
「いや、身体で払うのは俺だ!」
と言って服を脱ぎ出した。
まったく、こいつら……。それしか頭にないのかよ。
ここは、まともに相手にしちゃダメだ。
私は、
「明日、街外れに店をオープンします。青果が中心ですが、ご贔屓に!」
とだけ言うと、転移魔法で逃げた。
この町は大都会ではないため、ギルドは色々なギルドが合わさった総合的なギルドをイメージしております。