49.裏切者?
マリカとの戦いから一か月が過ぎた。
最近になって、ようやくヴァナディスは、私がマリカに性感マッサージ魔法を使ったことについて余りとやかく言わなくなった。
一応、マリカに勝つためには他に方法が思い浮かばなかったからね。
飽くまでも、あれは、ラージェスト王国のことは勿論、このブルバレン世界を救うためにやったことだからね。
ヴァナディスは、そのことをパラスにも色々と言われたっぽい。
それに、私が直接マリカと浮気したわけじゃないしね。
…
…
…
それから、さらに一年近くが過ぎた。
ある日のことだ。
「お久しぶりです」
私の店にニオベが訪問してきた。
隣には男性の姿がある。
多分、ニオベが好きだって言っていた男性が彼なのだろう。
ニオベのHP……ハレンチパワーね……は50のままだった。
まあ、普通は、そんな派手に数値が変わるものでもないよね?
48から一気に72まで上がったパラスの方が異常だと思うよ。
いや、あれからさらに上がって、今、パラスのHPは78になってたんだっけ。
「あら、ニオベ。久しぶり。隣の男性は?」
「はい。彼が、私の婚約者のニコラスです。彼は、アキさんに助けられた後、転移魔法の力が開花しまして、今日は彼の魔法でここまで一気に飛んできたんです」
そうなんだ!
私のコマギレ連続転移魔法とは違うってことだね。
だから、ニオベがゲロゲロになっていないんだね?
「ニコラスです。以前は、私共ディスプロシ島民のために色々有難うございました。あの状態から復帰できるなんて、まさに奇跡としか言いようがありません」
「もう、お礼なんてイイですよ」
「これ、お土産です。最近、ディスプロシ島で作るようになったんです。是非、ご賞味ください」
それは、アジの干物みたいなモノだった。
以前、ディスプロシ島に行った時には、干物なんて作っていなかった気がしたけど?
「わざわざ有難うございます」
「昔は、作られていたみたいなんですけど、僕達が生まれた頃には作られなくなっていまして……。でも、それを最近、僕達の手で復活させたんです」
「そうでしたか。まあ、ここでは何ですので、中にお上がりください。じゃあ、ニオベ、控室に」
「はい」
ニオベは、勝手が知っているからね。
ニコラスを連れて、まるで自分の家のように、迷わず控室へと一直線に進んで行ったよ。
そこには既に、休憩中のパラスがいたんだけど、パラスを見たニオベの第一声は、
「嘘……さらに進化して……裏切者!」
だったよ。
一方のパラスだけど、自分のHPの具体的数値は知らないと思う。
でも、少なくとも自分の数値が上がっていることだけは認識している……はず。
「ふふん」
このパラスの態度。これは完全に認識しているわ。
それに、意外とパラスって性格悪いかも。
ニオベに向けて勝者ならではの余裕の笑みを浮かべていたよ。
「前に会った時よりも、さらにHP上がってない? どうして?」
「まあ、まだまだ私も成長するってこと」
「ええぇ! なんでぇ?」
まあ、普通は納得できないだろうね。
まさか、ドラゴンパワーを毎晩搾取してHPが進化したなんて想像できないだろう。
「これが、私の真の実力ってことで」
「前は、私と大差なかったのにぃ!」
ニオベは相当悔しそうだね。
以前は、僅差とは言えニオベの方が上だったから、尚更だろう。
それにしても、ニコラスは、私やパラスを見ても全然反応してこないなぁ。
余程、ニオベ・ラブなんだろうね。
普通だったら、もっとエロい視線を送ってくるはずだからさ。
少しして、ヴァナディスが人数分のコップとジュースを持って控室に入ってきた。
完全に私の嫁をしている。
「ニオベ、久しぶり」
「ひ……久しぶり」
この時のニオベの視線は、何気に怖かったよ。
ヴァナディスはHP98だもんね。
一般的には完全に女性の敵だもん。
以前のニオベは、ヴァナディスをまともに敵視するようなことは無かったけど、パラスとの差が出来て、ちょっと変わったみたいだね。
やっぱり、自分よりもHPが高い女性は敵って考えが心の中で芽生えたんだろう。まあ、それって普通だとは思うけどね。
ただ、ヴァナディスの顔を見ても、ニコラスは完全無反応だったけどね。
もう、完全にニオベしか目に入っていないんだろう。
私はヴァナディスしか目に入っていないけど。
「ディスプロシ島の方は、どう?」
こうヴァナディスに言われて、ニオベは、
「実は、その件で、ちょっとね」
と言いながら能面のような表情を見せていた。
余程、ヴァナディスの顔を視界に入れたくないのか……徹底しているなぁ。
「ちょっとって、何があったの?」
「まあ、ちょっと」
こう、ヴァナディスに言われたわけだけど、ニオベはヴァナディスじゃなくて、私の方に視線を向けてきた。
もう、他は完全シャットアウトって感じだ。
それだけ彼女は、ヴァナディスとパラスを視界から外したいってことか。
気持ちは分からなくも無いけどね。
大学時代に、私がユキに対して抱いていた感情と同じだからさ。
「アキさんもラージェスト王国が民主制になっていることは知ってますよね?」
「ええ」
そりゃあ、そう仕向けた張本人だからね。
知らないはずは無いよ。
表には私の名前もミチルさんの名前も出ていないけどね。
でも、マリカの侵攻を止めたのが私達だってことをニオベは知っているだろうから、もしかすると民主制への移行に私達が関与している可能性は考えているだろうね。
あの時、ヴァナディスとパラスには、ディスプロシ島に避難してもらっていたからね。
当然、二人から状況を聞いているはずだもん。
「それで、島の若者達が、国が変わったのなら自分達も変わって行きたいって、新たな産業として観光業を立ち上げようとしているんです」
「リゾート開発ってこと?」
「さすがにリゾートって言えるレベルではないんですけど。まあ、観光地化ってとこです。その干物も、観光客へのお土産用に復活させたものなんです」
「そうなんだ!」
でも、一旦途切れた文化を、よく再現できたね。
その努力は凄いと思うよ。
「まだ島の設備とか、完全に出来上がったわけではないのですが、現状をアキさんに是非ご覧いただきたいと言うことになったんです」
「えっ? それで、わざわざここまで?」
「まあ、来るのは一瞬ですから。彼の転移魔法で」
「私のはコマギレの連続で悪かったわね」
「嫌みではありませんってば。一泊二日を考えていますけど、何時なら来れます?」
「別に何時でも大丈夫だよ」
まあ、野菜を売っているだけだし。
今のところ、特に出かける予定もないし。
マリカ討伐が済んで、それなりに平和な状態だからね。
「じゃあ、アキさんの方でも店のお客さんに臨時休業のアナウンスが必要でしょうから、来週にしましょうか?」
「そうだね」
「では、七日後の朝に迎えに来ます」
「うん。了解」
「それにしても、相変わらず男性客で繁盛していますね」
「まあ、スタッフが美人揃いだからね」
「リンドラー公爵夫人は、最近もいらしているんですか?」
「昨日来たよ。相変わらず、超値切られたけどね」
「元手がタダって知っていますからね」
「まあね」
そんなこんなで、私は暫くニオベと話し込むことになった。
と言うか、ニオベのトークが止まらなかったと言うべきかな。
隣で待たされるニコラスには、少し申し訳ない気がしたけど……。
「では、私とニコラスは、この辺で御暇させていただきます」
「もう少しゆっくりして行けばイイのに」
「まだ、島での作業がありますので、済みませんが、これで失礼します」
「ちょ……ちょっと待ってて」
私は急いで、
「出ろ!」
物質創製魔法で、ホストクラブで頼むスパークリングワインのロゼを十本ほど出した。
毎度、こればっかりで芸が無いけどね。
そして、私は、これらを近くの木の箱に入れてニオベに渡した。
「これを持って行って」
「うわぁ。久しぶりです。有難くいただきます」
これ、ニオベも好きだったからね。
それに、いくらでもタダで出せるって知っているから、遠慮なく喜んで受け取ってくれたよ。
勿論、運ぶのはニコラスだけどね。
私の隣では、ヴァナディスが、
『今夜、私の分も出してよね』
って目で訴えている気がするけどね。
もっともヴァナディスは、これが好きで私について来たって言っているくらいだもんね。
まあ、安心して。ちゃんと出してあげるから。
ニオベとニコラスは、私達に会釈すると控室を出た。
そして、店の外に出ようと、店の中を通って行ったんだけど、そこでニオベは常連の男性客に話しかけられた。
それも、前にニオベに、
『結婚して!』
とか言っていたヤツだ。
奥さんいるのに。
一夫多妻制のつもりなのかな?
この国では、同性愛は認められたけど、一夫多妻制は王族・貴族以外は認められていなかった気がするけど……。
「あれっ? 久しぶりじゃん。元気?」
「はい。お陰様で」
「こっちに戻って来たの?」
「いいえ。今日はアキさんに会いに島から来ました」
「こっちに戻って来ないの?」
「島で、彼と暮らす約束をしておりますので」
「彼?」
「はい。私の婚約者です」
「うわぁ。何時の間に! 俺、ニオベちゃん、狙ってたんだけどな!」
「その言葉、奥さんの前で言ってください」
「冗談だって」
「では、これで失礼します」
このやり取りを聞いて、ニコラスは苦笑いしていたよ。
さすがに婚約者の前で、
『狙ってた』
とか言うんじゃないよ、まったく。
店を出ると、再びニオベとニコラスは、再び私達に会釈した。
そして、
「転移!」
ニコラスの転移魔法で、二人は、その場から姿を消した。
多分、次の瞬間にはディスプロシ島に着いているんだろうね。
本当に便利な能力だよ、転移魔法って。
翌日、私の店にミチルさんが来た。
ただ、なんか少し、ふらついているように見えるんだけど気のせいかな?
「おはよう」
「おはようございます」
「パラスから聞いたよ。昨日、ニオベが来たんだって?」
「はい。島を観光地化するって言っていました」
「らしいね」
「ミチルさんもいらっしゃいますか?」
「今、ハンターギルドの方が立て込んでいてね。僕は、今回は見送ることにするよ」
「そうですか」
「パラスは行くから、その時はよろしく頼むね」
「こちらこそ」
「それと、いつもの薬をお願いできるかな?」
「勃たせる方ですか? それとも長く持たせる方ですか?」
「セットで」
「分かりました」
最近、ミチルさんは両方買って行くんだよね。
完全にダブルドーピング状態。
悪いと思ったけど、私はミチルさんのステータス画面を覗き見した。
取扱説明書:アキ-108号は、精神を集中すると、見ただけで相手のHの履歴を霊視できます。いつ頃に何人とやっているかを全て見抜きます。
どうやら、昨日もパラスと長時間お楽しみしたみたいだよ。
それにしても、レッドドラゴンが足腰絶たなくなるまでヤルって……。
パラスってHに関しては超人の域に達しているよね?
しかも、オードブルメニューも凄いや。
良い子は絶対にマネできないレベルだよ。
まあ、それはさて置き。
私は、
「出ろ!」
所望の薬を出すと、
「使い過ぎには気を付けてくださいね」
と言いながらミチルさんに渡した。
「ありがとう」
彼は、それを受け取ると空中浮遊で、その場を去ったんだけど……。
ムリに魔力を使わなくてもイイのに。
ご自愛ください。
それから六日が過ぎた。
今日から少し店を休業する。
既に、パラスも来ているし、私もヴァナディスも準備OKだ。
突然、私の店の前に眩いばかりの光の球体が現れた。
その球体は、一瞬、さらに強烈に輝いたかと思うと、一気に発光が治まって行った。
そして、その光が完全に消えると、その場にはニオベとニコラスの姿があった。転移魔法で、ここまで一気に来たんだね。
彼の周辺から、もの凄いエネルギーを感じる。
相当強力な転移魔法を使うってことが見て分かるよ。
「お迎えに来ました」
こう私に言ってきたのはニオベ。
「わざわざありがとう」
「こっちこそ、お越しいただけるってことで光栄です。じゃあ、ニコラス」
「了解。転移!」
そして、私達……私とヴァナディスとパラスは、ニコラスの転移魔法でディスプロシ島に向けて移動した。
やっぱり、自分で転移魔法を使わないで済むって楽チンでイイね!




