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42.欲求肥満!

「もしかして、アキも金貨出せるの?」

 こう聞いてきたのはケイコ。

 相当興奮している。


「出せるけど」

「そのこと、ヴァナディスは知ってたの?」

「知ってました」

「だったら、何で八百屋なんかやってるの?」

「私もヴァナディスも、一応、労働はしたくて、それでね。まあ、ヴァナディスの老後の面倒を見る時には金貨を出すかもしれないけど」

「うぅぅ。アキもマナミさんもズルい。なんで私は金貨が出せないんだぁ」

「でも、ケイコは、そんな魔法で出したお金に頼らずに頑張って行ける人って思っていたんだけど? 世界征服するんでしょ、五百年後に」

「もう、三千年先に伸ばそうかなぁって思って」

「えっ?」

「今から二千五百年ほど、マナミさんを使って楽しんで、そこから五百年計画で世界支配するのに切り替えようかなぁって」

「どうかしたの?」

「男尊女卑が激しい人っているじゃない?」

「いるねえ、地球にも、こっちの世界にも」

「それから年功序列の考えが激しい人もいるじゃない?」

「たしかに、そう言うのもいるねえ。若い人の意見は、どんなに正しくても絶対に否定することから入る人」

「で、それをダブルで持っているのもいるじゃない?」

「まあ、いる」

「今回、そう言うのに当たってさぁ。それでも、こっちもメゲずに頑張って明るく振舞ったんだけどね、そうしたら、

『あれだけ言われて明るくいられるって、よほど能天気なんだな』

 なんて馬鹿にした口調で言われてね。殺意を覚えたけど、この世界で人心を得るのが今の目標だから、絶対に殺人なんかしちゃダメだしさあ。そもそも、人を殺すなんて、絶対にしたくないし……」

「相当、溜まってるねぇ」

「そうなの。もう、欲求不満が溜まり過ぎて、()()()()になっているくらい!」


 スイッチが入ってしまった。

 その後、数十分間、私達は延々とケイコの愚痴を聞く羽目になった。


 …

 …

 …


 一先ずケイコも、全部吐き出してスッキリしたようだ。

 少し落ち着いた。


「ところでアキ」

 急にマナミが真面目な顔になった。今度こそ、これからが本題だ。


「何?」

「アキのことだから、私がこれから聞く内容を予め予想していたと思うけどね。単刀直入に言うわ。アキの周りには火炎魔法か雷魔法を使える輩がどれだけいるの?」

 やっぱり来たか。



 取扱説明書:アキ-108号が超高速稼動装置を使う際は、全身が空気摩擦に耐え得るように強化魔法が自動発動します。ただし、摩擦に耐え得るのはアキ-108号の身体だけです。服は空気摩擦で瞬時に燃え尽きる場合があります。



 取扱説明書:アキ-108号の強化魔法は、火炎魔法には耐えられません。



 取扱説明書:雷魔法にも耐えられません。落雷を受けて一気に燃え上がります。



 取扱説明書:以上のことは、マナミ-365号も同様です。



 私もマナミも、首を刎ねられようと胴体を真っ二つにされようと、手足をもがれようと修復魔法で元に戻せる。

 でも、焼かれるとヤバい。

 もしかすると焼かれても身体のパーツが少しでも残っていれば何とかなるのかも知れないけど、全身が完全に炭とか灰になってしまったら修復できない。

 つまり、そうなったら私もマナミも、この世界で死を迎えることになる。



 逆に、そうならない限り、永遠に生き続けられてしまうんだけどね。

 だから、マナミも火炎魔法と雷魔法を恐れているんだ。

 ただ、素直に全部言って良いモノかどうか、判断しにくいな……。


 すると、マナミは、私の目をジッと見詰めながら右手の中指でテーブルをトントンと軽く叩いていた。

 これって!?


「ねえ、マナミ。それ……」

「覚えていてくれたんだ」


 間違いない。中学の時から、何人かで話し合いになった席で、私に送っていた合図だ。

 私もマナミもWin-Winになれるような案を可能な限り考えるから、私が知る限り、多くの情報を出して欲しいってね。


 厳密にはモールス信号らしいんだけど、私には、ただ、軽く叩いているようにしか見えない。だって、モールス信号なんて知らないもんね!


 でも、そう言うことなら情報を隠す必要はない。

 むしろ、より多く提供すべきだろう。


「ええとね。雷魔法を使う人は知らない。でも、火炎魔法なら、ミチルさんに、ショー・スーシー」

「何それ、麻雀?」

「私もそう思ったよ。ショーは冒険者だね」

「ふーん」

「ちなみにショーの兄はダイ・スーシー」

「なにそれ、マジなの?」

「マジなんだよね。ダイは火炎魔法じゃなくて転移魔法を使うけどね」

「そうなんだ」

「それから、ハク」

「それ、麻雀牌?」

「言いたくなるのは分かる。ハクとアオとチュンのトリオだし!」

「大三元じゃん!」


 そう言えば、マナミって麻雀漫画が好きだったっけ。

 実際に麻雀牌を使って打ったことは無いみたいだけど、麻雀ゲームなら高校、大学でやっていた気がする。


「私もそう思った」

「そのハクって人も冒険者?」

「そう。それから国王陛下直属の魔法剣士フロギス」

「へー。国王陛下直属って凄い」

「ちょっと、国王陛下にも顔が利くんで」

「そうなんだ」

「あと、人外だけど、このビナタの町の隣にある森に棲むティラノ君」

「はっ?」


 これには、さすがにマナミも驚いたようだ。

 口元まで運んだお菓子を落としていたくらいだから、想定の範囲を超えた回答だったのだろう。


 ケイコも同様だったっぽい。

 目が点になっていた。


「ティラノサウルスね。こっちの定義では恐竜じゃなくて魔獣らしいけどね。一応、火を吹くんだよ!」

「どうやってティラノサウルスを手懐けたのよ!」

「オスだったから、女王様モードで調教できた」

「なるほどね。あとは?」

「今のところ、そんなとこかな」

「で、最初に言ったミチルさんって、冒険者?」

「今では冒険者ギルドに登録しているけど、前世で私の会社の先輩だった方でさぁ」

「転生者!?」

「そう。しかも、今は人間の姿に化けているけど、こっちでの正体は七首のレッドドラゴンなんだ」

「えっ?」


 再びマナミは、口元まで運んでいたお菓子を落とした。

 これも想定外の回答だったんだろうなぁ。


「ねえ、レッドドラゴンって雷魔法も使えそうだけど?」

「私は見たことが無いから分からない」

「それに何年くらい生きるの?」

「さぁ……」


 すると、これにヴァナディスが答えてくれた。

「だいたい三千年くらいですかね」

「そうなんだ……。さすがアキね。凄い人脈だわ」

「別に人脈ってほどじゃ……」

「とんでもない伝手よ。レッドドラゴンの火炎魔法じゃ、私達、一瞬で灰になっちゃうでしょうから」

「たしかにそうだけど……」

「私だって、この身体で誘惑すれば火炎魔法使いをゲットできると思うけど、私もアキも両方が灰になったんじゃ私が勝ったことにならないしね。それに、そもそも、レッドドラゴンが相手じゃ、こっちが一方的にヤラれて終わると思う。やっぱりアキには敵わないか。少なくとも、そのレッドドラゴンが亡くなるまで、三千年は休戦ね」

「えっ?」

「もっとも、その後もアキが優れた火炎魔法使いとか雷魔法使いの伝手を新たに作るようだと、休戦期間は()()()()()()()()()かも知れないけどね」


 なるほど。

 マナミのヤツ、考えたな!



 もし、火炎魔法使いか雷魔法使いが私のバックにいたら、マナミはラフレシアの要求に応えられない。

 相打ちだとマナミが勝利したことにならないから、勝てる状況になるまで休戦する。


 もしかすると、ラフレシアは、相打ちでもイイって言うかもしれないけどね。

 でも、それくらいはマナミも考えているだろう。


「じゃあ、私も休戦でOK」

「もっとも、レッドドラゴンが亡くなる頃には、とっくにケイコさんが世界を支配しているんだろうけどね」

「たしかに……」


 そう言うことか。

 私とマナミの休戦が解けた時に、既にラフレシアが召還したケイコの手によって、世界が統治されていたら、その段階でラフレシアがマナミに戦闘を要求する意義が無くなるから、私とマナミは戦うことは無い。


 それに、ケイコは支配って言っても、暴力支配とかを目指しているわけじゃない。

 人心を集め、しかも人々が気持ちよく仕事ができて、経済が回って破綻しない世界の構築を願っている。

 これなら、私もマナミもWin-Winだろう。


「じゃあ、私は一旦御暇するね。今日からケイコさんの家の泊めてもらうから」

「マジで?」

「だって、面白そうじゃない?」


 まあ、その辺はマナミの自由だ。

 ここから先は、私が口を出すべきものではないだろう。

 それに私だって相手が男性じゃなくてヴァナディスだしね。



 これでマナミとケイコは私の家から引き揚げていった。

 その夜、この二人が、どのようなHバトルを楽しんだかは、今のところ私には分からないけど……。



 取扱説明書:アキ-108号は、その気になれば他人の性的背景を全て把握することが可能です。



 取扱説明書:どんなプレイをしたかも分かります。



 ただ、マナミが帰った後、

「あの合図って何なの?」

 ヴァナディスがしつこく私に聞いて来た。


「あれは、私もマナミもWin-Winになる方策を考えるから、知っていること全部教えてって合図なんだけど」

「本当にそれだけ?」

「それだけだけど」

「絶対?」

「うん」


 なんか、怪しいサインじゃないかって疑っているよ。逢い引きとか……。

 もう、この後、誤解を解くのが大変だったよ。本当にヴァナディスはヤキモチ焼きなんだから!



 その翌朝、私は元気ハツラツとした顔で仕事に向かうケイコの姿を見た。

 昨日の愚痴っていた彼女とはまるで別人のようだ。


「おはよう」

 突然、私の背後から声が聞こえてきた。


 振り返ると、そこにはマナミの姿があった。

 コイツ、転移魔法を使って来たな。


「おはよう」

「ケイコ、すっかり元気でしょ?」

「そうだね」

「これが私達の力よ。使用者の身も心も癒せる存在なんだから」

「ホントだね。これなら、ケイコの世界支配は、三千年後じゃなくて、当初の予定通り五百年後かな?」

「それがね、もっとペースを速めるって。すっかりヤル気を出しちゃって」

「まあ、ケイコが目指す世界が実現できるんだったら、私は反対しないけどね」

「そうね。それにしても、サタンの手先が掲げる本来の目標とは、大きくかけ離れている気はするんだどね」

「同感」

「それと、少ししたら私とケイコは引っ越すかもしれない」

「えっ?」

「だって、ケイコはアキを追いかける意義が無くなったし、それに、今後、ケイコは政治の世界にも入って行くつもりだから、ここよりも中心都市に居た方が良いかなってことになってね」


 ケイコのヤツ、たった一晩で、相当な活力をマナミからもらったみたいだ。

 まあ、私の方は、変な戦いの無い平和な毎日が過ごせれば、それだけでイイけどね。

 張りのある楽しい日常。

 それが一番!

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