40.マイペース!
この日の夜。
マナミがラフレシアの手によって転生したことを知って、アキが落ち込んでいた頃、当のマナミは、
「あー、極楽極楽!」
ウンコ……ではなく、ウンカ公国の宿に泊まって、ゆっくりと温泉に浸かりながらリラックスしていた。
取扱説明書:アキ-108号は、耐酸性にも対塩基性にも優れております。そのため、温泉に入っても腐食することはありません。
取扱説明所:マナミ-365号も、耐酸性にも対塩基性にも優れております。そのため、アキ-108号と同様、温泉に入っても腐食することはありません。
彼女は、既に旧ノーソラム共和国(現ラージェスト王国内)のさらに西側まで移動していた。
これは、敢えてエロスと距離を取るためでもあった。
それから、金貨の出し方まで、すっかり学習できていた。
要領の良い娘である。
なので、支払いの方は全くもって問題なし。
むしろ、これなら働かなくても、しばらくは豪遊三昧出来そうだ。
加えて、既に彼女はHPのコントロールについても理解していた。
HPが初期値である二百万のままでは、逆に生活し難い。むしろ下限値である50くらいにしておく方が無難である。
と言うわけで、マナミは、アキとは反対方向に連続転移し、少しの間、この地で羽を伸ばすことに決めた。
アキから遠ざかっていたのは、偶然ではない。わざと遠回りしてビナタに行こうとしていたのだ。
勿論、ラフレシアとの約束なので、ビナタに向かわないわけではない。
先延ばしにするだけである。
マナミは、自分が性なる魔玩具であることを積極的には受け入れたくなかったが、別に見た目は人間と変わらないし、通常は人間として認識してもらえる。
そもそも、自分を人間ではないと認識できるのは、診断魔法を発動した医師と、レベル10の魔玩具発明家である魔導士エロスだけ。
別に病気にもかからないし、怪我もしない身体なのだから医者とは縁が無いはず。故障することはあっても、それは基本的に自分で直せる。
変な伝染病に怯える心配もない。
それに、物質創製魔法で金貨が出せるし超美人。
仮にH遊びしても性病感染しないし、妊娠の心配もない。逆に子供が産めないデメリットはあるが……。
ただ、考えようによっては、ムチャクチャ最高の身体ではなかろうか?
「そもそも不老不死の段階で人間じゃないもんね。だったら、いっそのこと今の自分を受け入れて楽しんじゃった方が勝ちじゃん!」
彼女は、結構ポジティブで、しかも頭の切り替えが早かったのだ。
…
…
…
翌朝。
私、アキは、一晩明けてもが気が優れずにいた。
マナミのことが気になっていたからだ。
とは言っても、一先ず今は様子見かな?
マナミが動き出すまでは、ムリにこっちから動く必要はないだろう。
多分、マナミのことだから、エロスにヤラれる前にさっさと逃げ出しているはず。私と同じようにね。
それどころか、私と同じで恐らく、もうカリセン王国内にはいないだろう。だとすると、こっちから探す手立てが無い。
それに、ラフレシアが、私のことをマナミに言っている可能性がある。
だとすれば、そのうちマナミの方からこっちに来るはずだ。
「おはよう」
開店と同時にケイコが私の店にやってきた。
「おはようございます」
受け答えしたのはヴァナディス。私は店の奥に引っ込んでいたからね。
ヴァナディスは、一見、口調は穏やかだし、機嫌が悪くても、極力それを表には出さないようにしてくれている。
笑顔を絶やさないイイ娘だよ!
本当、私にはもったいないって気がしてきた。
だけど、本当はケイコに対してヴァナディスは敵意バリバリだからね。
客相手ってことで、営業スマイルを維持して何とか頑張ってくれている状態だ。
「ラフレシアの手下から連絡があってさ。昨日、カリセン王国にラフレシアが召還した転生者が現れたって?」
「らしいですね」
「知ってたんだ?」
「昨日、アキと前世で大学の同期だったって方がいらして話してくれました」
「情報早いね」
「セクロピアに召喚された人らしいですね」
「ああ、あの働かない人」
「情報提供代って言って、勝手に高級メロンを二つ、持って行きましたけどね」
「なにそれ?」
「半年前にも同じことがあったんですけどね。アナタが召還された時」
「そうなんだ」
「それで、今日は何をお買い上げで?」
「このお店で一番高価なもの!」
「ええと、高級スパークリングワインか何かでしょうか?」
「違う違う。アキちゃん自身をお買い上げに……」
「ええと、お帰りください!」
「だって、自立式の等身大美少女フィギュアなんて私の理想そのものなんだもん。既に使用者がいても諦め切れなくて」
「だったら、昨日、新たに転生してきた等身大フィギュアに乗り換えたらイイじゃないですか? それ、グッドアイデアですよ!」
「うーん、それもアリなんだけどね。まあ、現物を見てからかな?」
なんか、勝手に話を進めている気がするけど?
マナミは私の友人なんだから勝手に決めないでほしいな。
もっとも、もしマナミがケイコのことをイイってなったら別だけどね。
でも、『ケイコとマナミ』か……。
これって、あれと一文字違いじゃん?
また、この世界特有のオヤジギャグかよ!
それから二か月が過ぎた。
もう、夏真っ盛りだ。
だけど、未だにマナミからのコンタクトは無い。
ケイコの召喚以来、私は夜中にうなされることは無くなった。身内が敵じゃないってことが分かったからだろう。
あと、マナミが来たって知らされた時は、最初は気分が優れなかったけど、特にうなされるまでは行っていない。
勿論、マナミが姿を現さないのは気になる。
だけど、もし、マナミが私のことをラフレシアから知らされていてコンタクトを取ってこないのなら、私との戦いを避けてくれているんだろう。
多分、ラフレシアに対しては、色々と理由をつけて戦いを先延ばしにしているんだ。ケイコみたいにね。
逆に敵が私だってことを知らされていなくて姿を現さないんだったら、むしろ開き直って能力を使って豪遊三昧している可能性がある。
『上玉性奴隷を買うお金!』
って言えば金貨五百枚が出てくるからね。それだけで前世での私の給料の何年分だろ?
しかも税抜きでしょ?
私は、金貨を出さずに商売屋をやろうって決めたけど、能力で商品を出しているんだから、結局はお金を能力で出しているのとベクトルは変わらないんだろうなぁ。
一応、まともにお金を出しちゃったら、私自身、何もしなくなっちゃうって思ったんだけどね。
でも、その辺、マナミは開き直れるからね。
きっと、今頃、楽しんでいる可能性があるな。
だとすると、しばらくここには来ないかな?
まあ、いずれにしても、今の生活が壊されなければ、それでイイか!
ヴァナディスも、ビナタの街のみんなも平和に暮らせていれば、それが一番だもんね。
…
…
…
その頃、マナミは、ビナタから西方、遥か一万キロも離れたルディシア王国の首都テレスにいた。
完全に観光気分であった。
その夜、マナミが宿でのんびりしていると、突然辺りが真っ暗になった。
「どうかしたのかしら?」
すると、彼女の前にラフレシアが姿を現した。
「いったい、何時になったら戦いを始めるんだ?」
案の定、お説教タイムであった。
ただ、これに怯むマナミではなかった。ある程度、想定の範囲内だったし、言い返すつもりで回答を準備していた。
「別に戦わないわけじゃないわよ。でも、相手に強烈な火炎魔法の使い手がいたら、私は死んじゃうでしょ?」
「では、勝てるって保証が無いから戦わないということか?」
「そうじゃないわよ。せっかく不老不死の美女に生まれ変わって、しかもお金も出し放題なんだから、万が一、火炎魔法で焼き殺されたらもったいないでしょ!
だから先に、この生活を謳歌したいのよ!
勿論、戦いはするわよ。でも、基本的に焼かれない限り不老不死なんだったら、いつ宣戦布告したって同じじゃない?
それに、時間が経てば敵は死ぬんじゃないの?」
「お前の敵はお前の先行機と言ったはずだ。性なる魔玩具だ。寿命で死ぬことはない」
「えっ?」
「相手はアキ-108号。三年前に、この世界に転生した女性だ」
これは、マナミにとっては想定外の展開だった。
ただ、その名前。
しかも三年前。
もしかして?
「アキ-108号の前世の名前は分かりますか?」
「篠原亜紀」
「やっぱり!」
「お前の中学から大学までの友人だ」
「そうだったんだ。まさか、アキが、この世界に……。分かりました。では、明日、チェックアウトしたらビナタに向かいます!」
「今すぐ出るんじゃないのか?」
「私もアキも、基本的に不老不死でしょ?」
「まあ、そうだが」
「永遠の時間を持つ私達にとって、数時間なんて誤差の範囲でしかないでしょう」
とことん、マナミはマイペースであった。
一方のラフレシアは、
「(こいつと言いケイコと言い、永遠の命を与えたのがマズかったようだ。次からは永遠の命を授けないようにしないといけないな)」
召喚された者に与える能力にも制限が必要と、ここに来て、ようやく心底思うようになった。
その一か月後。
日本で言えば夏休みがそろそろ終わる季節。とても暑い日が続く時期。
マナミは、オルキス共和国に入っていた。
オルキス共和国はアキが暮らすアデレー王国の東南に隣接する国だ。
実は、マナミは、ルディシア王国から最短距離でアデレー王国に向かったのではなく、ケイコが降臨したコルダタ連邦を経由していた。
つまり、世界一周である。
それで、アキのところに来るのに一か月を要した。
勿論、不休で転移魔法を使えば、仮に世界一周の旅をしても、こんなに時間はかからないだろう。
何のことは無い。
マナミは、なんだかんだで、このブルバレンと呼ばれる世界を観光して回っていたのだ。一応、元のスケジュールよりも数段速めていたが……。
「アキのところに着くのは明後日かな?」
ただ、特段、焦ってはいなかった。
むしろ、このマイペースさに、ラフレシアはヤキモキしていたことであろう。




