38.宣戦布告!
ケイコは、私達がいるのに気付いたようだ。
彼女が私達の方を振り返った。
「あら、あの時の?」
「はい。先日は有難うございました。それで、さっきのは、いったい?」
「あれは整体魔法です」
「へっ?」
「結構、姿勢が悪くて骨が歪んでいる人が多くて、それで魔法で整体をやっているんですよ。一応、前世では整体師でしたから。アナタがアキさんね?」
「へっ?」
「一週間くらい前から私のことを色々探っている人達がいるって聞いてね。今更、自己紹介するのもなんだけど、私はケイコ。いわゆるサタン側の救世主として堕天使ラフレシアに地球から召還された者。そしてアキさんは、地球の神ラメラータによって、この世界に送り込まれた転生者。しかも、人間じゃなくて魔導士エロスによって造り出された等身大フィギュアになったのよね?」
コイツ……。
もしかして全部知ってる?
「私の趣味ってさあ、男性になりきって等身大フィギュアを犯すことなのよね!」
急にケイコの表情が変わった。
今までは明るく真面目な感じだったのが、今では邪悪……と言うよりもエロ丸出しのスケベオヤジのように見えた。
間違いない。これって、私を狙っている!
私とケイコの間にヴァナディスが割り込んできた。
それは、まるでケイコが私に近づけないように通せん坊しているかのようだった。
しかも、ヴァナディスがケイコを思い切り睨んでいる。
美女が睨んだ顔って迫力あるんだよねぇ。
すると、
「今は、アナタがアキさんの使用者ってことね。こんな美人が相手じゃ敵わないわね。でも、いずれアキさんは私のモノになる」
と言うと、ケイコは、さっきまで老人女性が使っていたベンチに座った。
しかも表情に余裕がある。
今までのヤツら……ラヤとか魔王よりも手強そうだね。
体力とか魔力とかじゃなくて、精神的にね。
「座ったら?」
「では……」
ヴァナディスがケイコの隣に座った。
そして、ヴァナディスは、私にケイコとは反対側に座るように合図を送ってきた。ヴァナディスは私への防波堤になるつもりなのだろう。
まあ、今日はヴァナディスがいてくれて助かったかも。
そうでなかったら、今頃、ケイコに手籠めにされていそうだもんね。
「多分、アキさんは私のステータスのこと、ある程度知っているんでしょう?」
「ええ、まあ」
「私は不老不死の能力を授かった。一応、この世界を征服するつもりだけど、不老不死ってことはさ、ムリして今すぐ征服しなくてもイイわけよね?」
「えっ?」
「よくあるじゃない? 悪役が暴力で支配するっての。でも、結局は人心掌握できていないと、いずれは反乱が起こるでしょ? それに、人々が気持ちよく仕事ができて、経済が回っているのが世の中には必須って思っているの。それが出来ていなかったら、世界を支配したって、すぐに破綻するよね?」
「まあ、それはそうだけど……」
「永遠の命を授かった以上、どうせ支配するんだったら永遠に続く世界を構築しなきゃ意味が無いでしょ? しかも、人々に支持されてなきゃね。なので、今は、その基盤作りの第一歩。人心を集めることに注力しているの」
ええと……。
コイツってマジメ過ぎない?
短絡的じゃないからイイけどさ。
「つまり、私の野望その1は、永遠に続く世界を構築して支配することよ!」
「ええと……、その1ってことは、その2があるの?」
すると、ケイコの視線は、私からヴァナディスに移った。
しかも、その目力は何気にキツイ。
「野望その2はアキさんを手に入れること。アナタ、名前は?」
「ヴァナディスです」
「そう。なので、私にとって敵はアキさんじゃなくて、ヴァナディス、アナタね。アナタに宣戦布告するわ!」
「こっちも負けませんから」
「でもね。アナタは普通の人間。いずれ老いて死ぬ。でも、私は不老不死の人間。それとアキさんも人間じゃない。壊滅的な破壊を受けない限り永遠に生き続ける存在」
「!!!」
「分かったようね。つまり私は、アナタからムリにアキさんを奪わなくても、待っていればイイの。勿論、できれば早く欲しいから奪いに行くつもりだけどね」
おいおいおい……。
なんか、変な方に話が進んでいるような気がする。
これって、私のために献花……じゃなかった喧嘩するとか奪い合うとかって言う、あれだよね?
そんな境遇に恵まれるなんて!
ちょっと嬉しい。
……なんて喜んじゃいられないか。
ヴァナディスが、相当お怒りモードだよ。
こんなヴァナディスを見るのは初めて……じゃあないか。以前は、私の超高HPを受けた時に、あんな顔をしていたような気がする。
でも、久し振りだよ、ヴァナディスの超怒り顔って。
「ラフレシアも、またハズレを引いたって思っているかも知れないわね。私なんかを召還して」
「まあ、少なくともサタン的な発想じゃないね。人心を集めるとか経済をキチンと回すとか。暴力的じゃないところとかね」
こう答えたのは私。
「まあね。なので、想定外かも知れないけど、私が世界征服を予定しているのは五百年後かな? キチンと人民の支持を得てトップに立つつもり。そのために、信用を得るために一生延命働くし、人々に尽くす。今は、それで精一杯だから」
そう言うとケイコはベンチから立ち上がり、転移魔法で、その場から消えてしまった。
多分、相当、頭が切れる娘なんだろうな。
もしかすると、こっちに転移してくる時に、色々とラフレシアに要求を出したんじゃないかな?
どんな魔法が欲しいとか、どんなアイテムが欲しいとかね。
全部、世界征服に必要なモノだって言ってね。
私とヴァナディスは、宿に戻った。
そして、ミチルさんとパラスにケイコのことを話した。
パラスは、
「五百年後ぉ!?」
って言って驚いていたよ。
でも、同時に喜んでもいたけどね。それなら、自分が生きている間に世界征服されることは、絶対に有り得ないからね。
一方、不満顔なのはヴァナディスだった。
そして、ミチルさん達が自室に戻ってから、ヴァナディスが私に、
「あの、お願いがあるんだけど……」
と言って、そっと耳打ちした。
この部屋には私とヴァナディスしかいないんだけど、それでも普通に声に出して言うのが恥ずかしいらしい。
ただ、それを聞いて私は、
「今はダメ!」
と即答した。
ヴァナディスが私にお願いしたのは、物質創製魔法で疑似男性器を出して欲しいってことだった。それを装着してヴァナディスが私を犯したいって。
ケイコの登場で焦ったんだろうね。
でも、さすがに、いきなりそれは……。私も覚悟ができていない。
その夜も、私とヴァナディスは大バトルを展開した。
ミチルさんとパラスも凄いことになっているみたいだし、他の部屋に泊まっている人達からは盛りがついているように見えるだろうね、私達。
多分、凄い声が漏れているよ。
…
…
…
翌朝、私達は宿をチェックアウトすると、ビナタの町に戻ることにした。
ケイコが、今のところ悪いことをする人じゃないと分かったわけだし、ムリにこの辺りに居続ける意味もない。
それに、私の貞操の危機だ。逃げたい。
と言うわけで、
「転移!」
再び十日かけての移動を開始した。
…
…
…
ようやく我が家に到着。
ヴァナディスは連続転移酔いでゲロゲロ状態。普通の人間は、なかなか慣れるモノじゃないってことなんだろうね。
店の方は、一か月近くも休業していたけど、再開後には、割と早く客足も戻ってきてくれた。有難いよ。
相変わらずの日常が戻った感じだ。
「ヴァナディスちゃんデートしよう!」
「パラスちゃん、食事に行こう!」
「アキは、戦闘服に着替えろ!」
うーん。本当に相変わらずだ。
戦闘服って、あの布面積が極めて少ない紐みたいな白の水着だよね?
どう考えても鎧としての機能は皆無だよ!
ミチルさんの魔力で私の超高速稼働に耐えられるようにされているけどさ。
でも、こんなからかい方をされるのも、多分、周りから受け入れられている証拠なんだろうな。
私もヴァナディスもパラスも、もう、この町の一員なんだなって思う。
ミチルさんは、今日も魔物とか魔獣の討伐に出かけたらしい。
実は、ビナタの町には、魔物類は滅多に出ない。
でも、数十キロ離れた街では頻繁に出るところもあるらしい。
それで、ビナタの冒険者ギルドには、他の街からの魔物・魔獣討伐の依頼が回ってくるんだって。
ミチルさん自身は転移魔法が使えないけど空中浮遊が使えるからね。数十キロくらい軽く飛んで行けるらしい。
しかも、正体がレッドドラゴンだからね。いちいち誰かとパーティを組む必要が無いんだよね。
単独で巨大な魔獣を倒しちゃう。
なので、冒険者ギルド内では、結構リスペクトされているみたい。
…
…
…
私達が戻ってきてから三か月後、
「ごめんください」
もう店が閉まっている時間なんだけど、来客があった。
「はい?」
私が扉を開けると、そこには見たことのある人の姿があった。
それも、私が単独で会うのはマズイ相手。
「こんばんは」
「えっ?」
「今日、転移魔法で、ここから五十メートルくらい離れたところに引っ越してきちゃった。色々よろしくお願いしますね」
「えぇっ!? だって、ハウトゥイニアで人心を掴むんじゃ?」
「まあ、何処を出発地点にしてもイイって思って、だったらアキがいるところの方がイイかなって思ってね」
まさか、ケイコがビナタに来るとは……。
一波乱ありそうだ。
その頃、堕天使ラフレシアは、
「最近の転移者は使えねえな。ミルメコディアんとこのセクロピアが召還した女も全然働かないらしいし。まあ、あれは俺の敵側だからどっちでもイイけどな。
それにしても、まさかケイコが、あんな出方をするとは……。定義上は、まだ裏切ったことにはなっていないし、敵に骨抜きにされたわけでもない。
契約違反していないから消滅させることもできない。
急いで、アキの天敵になり得て、短絡的でイイから破壊活動をしてくれるヤツを他に探さないとな。
それから、やり方も考える必要があるな。なら、次は、あの手で行くか」
と、まあ、ブツブツ言いながら次の召還相手を探していた。




