33.次の転移者って誰?
「ゴメンね、アキちゃん」
そう言うと、ミチルさんは私に向けて巨大な火炎球を放って来た。レッドドラゴンが誇る強烈な火炎魔法だ。
私は、この直撃を受けて業火に身を包まれ、呆気ない最期を遂げた……。
ここで私は目が覚めた。
「(夢?)」
うーん。夢を見る人形ってのも、なんだかなって思うけど。
隣ではヴァナディスが身体を起こして私を心配そうな目で見つめていた。
今、ヴァナディスは私と同居している。魔王との戦いの後、彼女は私についてきちゃったからね。
しかも、その理由が、
「美味しいお酒が飲みたい!」
だもんね。
ホストと遊ぶ時の飲むお酒が相当気に入ったみたいで、三日に一本くらいのペースで与えているよ。
見返りに、
「気持ちのイイことしてあげます!」
って言って、私の服を脱がすと…………、普通に全身マッサージしてくれる。
Hなマッサージじゃないからね?
等身大美少女フィギュアにマッサージをしたところで、余り意味は無い気がするんだけど……。
でも、実際のところは、島での生活から離れたかったってのも、あるのかも知れないけどね。
別に、そう言うことを彼女が口にしたわけじゃないけどさ。
彼女と私は、それぞれクイーンサイズのベッドで寝ているけど、二つのベッドをピッタリとくっつけている。
なので、非常に幅が広い一つのベッドで二人が寝ているのに近い状態だ。
別に、こうなったのは私とヴァナディスがHな関係になったからじゃないよ!
魔王との戦いの後、私が、この悪夢で定期的にうなされるようになったからなんだ。
そもそも、最初は別の部屋で寝ていたんだ。
夜が明けると、私はHPが最大値に戻るからね。それを受けたらヴァナディスだって朝っぱっから嫌悪感が走る。
でも、私がうなされているのを知って心配になって、私に付き添うようになったんだ。
最初は、毎朝、高HPに晒されて機嫌が悪かったけど、今では慣れたみたい。
多分、慣れたんだと思う。
そうでなかったら困る。
だって、もしそうでなかったら、ヴァナディスは同性愛に目覚めたとしか言いようが無いからね。
この国の御后様みたいにさ。
実を言うと、私は、ラフレシアが言っていた、
『面白い転移者』
が気になっていたんだ。
ラヤは恐ろしい相手だったけど、それは生物が相手をした場合の話。
私は修復魔法を持つ自立型の人形。
その私には、ラヤの首ちょんぱ魔法は意味を成さない。首を刎ねられたところで修復できちゃうからね。
だから、ラヤの意識が私に向いている時を狙って、ミチルさんが彼女の息の根を止めることで勝利出来た。
魔王も面倒な相手だったけど、雄性ゆえだよね。
私の女王様モードで屈服させることが出来た。
それに、私にHPの下限設定があったから、私はHPをゼロにされなかったし、そもそも私は人形だから植物の姿に変えられたかどうかも分からない。
多分、大丈夫だったんじゃないかな?
それにHPが寝て起きると復活するしね。
少なくとも、私が生物じゃなかったことは、ラヤとの戦いでも魔王との戦いでも大きな勝因な気がする。
とは言え、魔王との戦いでは、雷魔法が私に一発でもヒットしていたらアウトだったけどね。
ミチルさんは、この世界に転移じゃなくて、既に転生しているから、ラフレシアが言っていた、
『面白い転移者』
の定義からは外れるんだけどね。
でも、万が一、次の刺客がミチルさんだったら……。
私は間違いなく簡単に焼き殺される。
取扱説明書:アキ-108号が超高速稼動装置を使う際は、全身が空気摩擦に耐え得るように強化魔法が自動発動します。ただし、摩擦に耐え得るのはアキ-108号の身体だけです。服は空気摩擦で瞬時に燃え尽きる場合があります。
取扱説明書:アキ-108号の強化魔法は、火炎魔法には耐えられません。
私は、超高速稼動装置で動いても身体が摩擦で燃え上がることは無い。
でも、火炎魔法を受けたら燃え尽きてしまう。
それに、今まで味方だったのが実は最初から敵でした……なんてのも一応、定番な気もしてさ。
それで勝手に恐怖心が湧いてきて、こんな夢を見ているんだと思う。
「大丈夫?」
「うん」
「また、焼き殺される夢?」
「うん……」
「凄いうなされ方だったよ」
そう言うと、ヴァナディスは私をそっと抱き締めた。
多分、今の様子を第三者が見たら百合に見えるかもしれないね。
まあ、美女同士だから絵になるね、きっと。
なんか、最近、自分で自分のことを美女っているのが普通になっているなぁ。
前世では、ここまで自己評価は高くなかったんだけど……。
それはさて置き、私とミチルさんは、少し前に、ヴァナディスとパラスに自分達の正体を大凡話した。
私とミチルさんは、異世界から転生してきたこと。
共に同僚だったこと。
でも、二人は別に付き合ってもいないし、突き合ってもいないこと。これは、パラスにとっては重要だったらしい。
それから、異世界転生者ゆえに、二人とも魔法が使えること。
まあ、二人とも私の転移魔法とか物質創製魔法を見ているし、パラスはミチルさんの反重力魔法も見ているから今更だけどね。
あと、ミチルさんの正体が七首のレッドドラゴンであること。
そして、私は修復魔法と高HPを有する等身大美少女フィギュアであること!
ただ、性なる魔玩具であることだけは未だに伏せているんだ。
って言うか、その設定は無しにしたいんだよ!
そもそも大人のオモチャとして生まれてきたなんて。そんなことを知られたら、町中の男共の餌食にされてしまう気がするもんね。
まあ、ヴァナディスもパラスも口が堅いみたいでね。
私とミチルさんの正体を一切他言していないようだ。
それから、私の夢の中で私を焼き殺すのがミチルさんだってことは、まだ誰にも話していない。
下手に口にしたら、ミチルさんやパラスとの友情にヒビが入るだろう。
なので、ヴァナディスには、正体不明の黒い影に焼き殺されるってことにしている。
あと、私が定期的にうなされていることは、ヴァナディスしか知らない。このことはミチルさんやパラスには言っていないんだ。
下手に心配をかけたくなかったからね。
季節は初冬。
魔王との戦いから半年くらいが過ぎた。
私がこっちの世界に転生して、だいたい二年半が経ったってことか。
あの後、私とヴァナディスは再び眠りについた。
うなされて起こしちゃってゴメンね。
ビナタの町は温暖な地域だけど、やっぱりこの時期は、朝はそれなりに冷え込む。
丁度、今は日の出の時間帯かな?
晴れの日は、日の出の頃が一番冷え込むからね。
そう言えば、中学の頃かな?
理科のテストで、晴れの日の一日の温度変化がグラフに示されていてさ、
『この日の天気は次のどれでしょう?
1.一日中晴れだった
2.朝は雪で午後晴れた
3.一日中雨だった
4.朝は雪で午後はみぞれに変わった』
ってのがあったっけ。
正解は1なんだけどさ。テストが終わると、みんなで答え合わせするじゃん?
そうしたら、案の定、成績の悪いヤツが、
『あれって2が正解だよね!』
とか言ってきたから、
『1だよ!』
って私とか、マナミ……私よりももっと成績のイイ娘が答えたら、
『何でよ!』
ってムキになって突っかかってきたっけ。
アイツもマナミも、今頃どうしているかな?
「寒い!」
そう言うと、ヴァナディスが私の身体にピッタリくっついてきた。
いつの間にか彼女は、私の毛布に入ってきていたんだ。
やっぱり人間だと寒さを感じるってことだね。私は人間じゃないから寒さを感じていないんだけどさ。
だから毛布を剥がれても平気だよ!
ただ、ヴァナディスの様子が変だ。私を背後から抱き締めると、私の両胸を両手で鷲掴みにして……。
なんだか手つきが凄くイヤラシイんですけど?
もしかして、ヴァナディスは目覚めちゃった?
ええと、この場合の『目覚めた』は、『朝、目が覚めた』の意味じゃなくて、『変な方に開眼した』の意味ね。
じゃあ、私の高HPに嫌悪感を示さなくなったのって、もしかして、そう言う意味だったってこと?
まあ、ヴァナディス級の美女なら、私もやぶさかじゃないけどさ……。
取扱説明書:アキ-108号の身体は、胸を揉まれると興奮状態を演じます。そのため、仮にアキ-108号の心は冷えていても、揉み方次第で身体は勝手に興奮して暖かくなります。
なんだ、この機能?
ヴァナディスは、
「あったかーい」
案の定、私を湯たんぽ代わりにしていたみたい。
もしかして、今の私って暖を取れる便利な抱き枕状態?
それでヴァナディスが胸を触って来たってこと?
まあ、どうせそんなオチだよね。
それから少しして、
「あぁー、温まった」
と言ってヴァナディスはベッドから出た。そして、
「じゃあ、今日の売り物を出してもらえるかな?」
既に活動モードに入っていた。
明るく綺麗な笑顔を私に見せてくれるよ。
元気な娘だ。
と言うわけで、私も起きて今日の準備に取り掛かる。
野菜に果物、雑貨、飲料を物質創製魔法で出して店に並べて行く。
朝食は、ヴァナディスが作ってくれる。
意外と彼女は料理が上手だったりするんだよね。
ムチャクチャ美人で料理上手だからね。
それに結構働き者だし。
これだけ美人なら、なんでもかんでも男にやらせて、男に色々貢がせて、それでいて自分は何もしないで生きていられるくらいなのにね。
大学の頃にいたなぁ、そんな女……。名前は忘れたけど。
でも、ヴァナディスは、そんな生き方を選択する気はないみたい。
これは、イイ物件だよ!
今日も美味しい朝食を有難う!
余は満足じゃ!




