30.跪いて足をお舐め!
「そんな恰好で、余程怪我をしたいらしいな!」
まあ、魔王が言いたいことも分かるよ。
布面積がほとんどない水着だからね。
ハッキリ言って紐部分しかないに等しいもん!
少なくとも水着としての機能は皆無だね。
でも、こんな格好をするのに、最近は抵抗が無くなっている気がするんだけど……。
それはそれで、私も感性がマズい方向に行っていないかな?
魔王が物質創製魔法で薄い円盤を作り出した。
昨日、私の胴体を真っ二つにしたのと同じヤツだ。
それを、ヤツは私目掛けて投げつけてきた。
「死ね!」
「超高速稼働!」
私は、高速で魔王の背後に移動した。
そして、物質創製魔法で一本鞭を作り出すと、それを手にして私は思い切り魔王に打ち込んだ。
「ペシッ!」
痛烈な音が響き渡った。
魔王にヒットしたんだ。
一本鞭だから痛いはず!
でも魔王は、
「ハエでも止まったか?」
全然苦痛を感じていない様子。
経緯はどうあれ、魔王を名乗るようになって肉体自体も強靭に変わったのかな?
少なくとも一本鞭ですら効果が無い。これだと、私が魔王を倒せる術って無くないか?
魔王が剣を手にした。
勿論、物質創製魔法で作り出したものだ。魔王は、これを大きく振りかぶると、私目掛けて突進して来た。
そして、それを大きく振り下ろした。
これを私は超高速稼働で回避。
再び魔王が剣を振るう。
またもや回避。
さらに魔王が三振り目、四振り目と、容赦なく私に斬りかかって来た。それを超高速稼働で私は何とか避けていた。
でもさあ。コイツ、こんなに強かったっけ?
それ以前に、こんなに機敏に動けたっけ?
地球にいた時は、口ばかりの単なる三流社員だったダメ野郎。
そんな人間が、ここに来て魔王と呼ばれ、しかも、異世界転移したことでチートな能力を授かった。
さらにシンボルの方もコンプレックスから解放された。
さすがに地球に戻りたいなんて思わないか。
ここにいること自体が天国だもんね、きっと。
剣が当たらなくてイラついたのか、
「これならどうだ!」
魔王が私に向けて衝撃波を放って来た。こんな芸当もできるのかよ!
それを私は超高速稼働で避けた。
でも、ギリギリだ。
この攻撃も、マジでヤバい。
正直言って攻撃力は、明らかに……いや、圧倒的に私よりも魔王の方が上だ。一発でもまともに当たったら大破しそうだよ。
大破したら、さすがに私も、自分で自分を直せる自信が無い。
さらに二発、三発、四発と衝撃波を撃ち放つ魔王。
もはや、昔、何かのアニメで見た超能力バトルみたいな感じだよ。
これらも、私は何とか回避した。
防戦一方と言うよりも、完全に逃げ一方な状態だ。
これ、マジで私、勝てる要素ってあるのかなぁ?
続いて魔王は、
「逃げてばかりで小癪な。これでどうだ!」
剣を天に向けて突き出した。
すると、急激に暗雲が立ち込めて、激しい落雷が生じた。
これは今まで以上にマズい!
取扱説明書:アキ-108号が超高速稼動装置を使う際は、全身が空気摩擦に耐え得るように強化魔法が自動発動します。ただし、摩擦に耐え得るのはアキ-108号の身体だけです。服は空気摩擦で瞬時に燃え尽きる場合があります。
取扱説明書:アキ-108号の強化魔法は、火炎魔法には耐えられません。
取扱説明書:雷魔法にも耐えられません。落雷を受けて一気に燃え上がります。
胴体を真っ二つにされようと、首ちょんぱされようと私は死なない。
でも、火炎魔法や雷魔法なら私を焼き殺せる。
そうしたら、間違いなく修復魔法は使えない。なので、絶対に落雷を受けちゃダメだ。
ここに来て私は、
「転移!」
確証は無いけど、転移魔法を使って魔王の背後へと回った。雷は、私が転移直前にいたところを目掛けて落ちてくると思ったからだ。
その直後、激しい落雷が生じたけど、ビンゴだね!
やっぱり、思った通りだった。
私が(転移直前に)いたところを狙って魔王は雷を落として来たよ。
一先ず一発目は回避性交……じゃなくて成功!
こんなヤツとは性交したくないからね!
落雷二発目投下!
今度は、魔王を中心に右120度に転移魔法で移動。これもセーフ。
さらに三発目。
私は、魔王を中心に左90度に移動。これもセーフ。
なんとかの一つ覚えで、魔王は私がいたところに雷を落としていた。なので、今のところは逃げられている。
多分、そのうちコイツも、私がいない場所に、敢えて雷魔法を打ち込むようになるだろう。勿論、そうなったところで簡単に当たるものでもないけどさ。
でも、まぐれで一発でも当たったら私は死ぬ。
たとえ確率は1%以下でも、何百回何千回と続ければ、そのうち一回くらいはヒットしてしまうだろう。
その前に何とかしないと。
趣味がディープなコイツに効くかどうか分からないけど、もうこれしかない。
「女王様モード!」
私は、HP最高状態でSPを最大値の200、MPは0の完全攻撃型女王様スタイルで勝負に出ることにした。
でも……。
あぁ……、やっぱり……。
ニオベとパラスとユリが、ムチャクチャ私に向けてヘイトな空気を放っているよ。もの凄く汚らわしいモノを見るような視線を送ってくる。
もう、この島のために戦うの、やめようかな?
そもそも誰のために戦っていると思っているんだよ!
でも、この島のことだけじゃなくて、私自身のためにも、この魔王をこの世界から追い出さないといけないんだっけ。
それには勝つしかない。
ならば、メゲずに女王様を貫くしかないね!
私は一言、
「そこに跪いて足をお舐め!」
と魔王に言い放った。
これを聞いて魔王は、
「なんだ、それは?」
と言いながら私を指さして馬鹿笑いしていた。相当、ウケたみたいだ。
ってことは効いていないってこと?
ところが、
「あれっ? どうしたことだ? 身体が勝手に……」
魔王の意思とは無関係に、魔王の身体は剣を捨てて静かに私に近づいてくると、私の目の前で跪いた。
そして、私の右足の手に取ると、親指と人差し指の間を舐め始めたんだ。
取扱説明書:アキ-108号は、女王様モードに入ることで雄性動物(人間を含む)を完全に服従させることができます。
言っとくけど、『足の親指と親指の間』じゃないからね!
さすがに、そこは、コイツにだけは舐められたくない!
それで、魔王だけど、
「イヤだ! なんで俺が、こんな奴の足を舐めなきゃならねえんだ!」
コイツの意思は、完全に自分の行動を否定していた。でも、身体が勝手に私の下僕に成り下がったみたいだ。
いずれにせよ、これで、コイツは私に屈服したわけだ。
ってことは私の勝利だよ!
一先ず、こいつに私の女王様モードが効いて良かった。
転移者だし、チートだし、おまけに魔王だし、例外的に効かない可能性はゼロじゃないって思っていたんだよ。
もしかすると、私のHPを吸収したから、私の言うことを聞くようになったのかも知れないね。
さすがに、そんなことは取扱説明書にも書いていなかったけどさ。
それにしても、こいつは私の足を本当に一生懸命舐めているなぁ。
悔し涙を流しながら、美味しそうに舐めているよ。心は否定していても身体は要求しているって感じ。
まあ、足を舐めて喜ぶなんて感性を、私は一生理解したいとは思わないけどね。
とにかく、私の勝ちなんだから、コイツには、この世界から元の世界に戻ってもらう。
でも、その前にやっておきたいことがある。
「舐めるのをお止め!」
「はい……」
「それから、そこにお座り! それと、魔法禁止!」
「はい……」
魔王は、一歩下がると正座した。
当然、女王様命令で魔法は使わせない。
こいつが魔法を使い出したら逆転サヨナラホームランを打たれてしまう可能性があるからだ。
コイツには、やらせなければならないことがある。
何って、それはミチルさんへの謝罪だ。
もしくは、コイツがミチルさんからの復讐を受け入れるか。
「ミチルさん。今ならHPを抜き取られる心配はありません」
「そのようだね。僕のために機会をくれて有難う」
ただ、魔王は、ミチルさんのことを見ても、誰だか分からない感じだった。まあ、ミチルさん自身、前世とは顔も体型も違うからね。
声は同じなんだけどね。
「誰だ、お前?」
「僕は宇都宮満。前世でお前の教育係をやっていた男だよ」
「ああ、あの自殺した弱いヤツね?」
「なんだと?」
ミチルさんは、前世でコイツに逆パワハラを受けていたし、上司も、それを知っていながら対処せずにいた。
仕事をしないでミチルさんに、あれこれ仕事を押し付けてもいた。
それでミチルさんは、心も身体も追い詰められて行ったんだ。
ミチルさんが死んだ後は、テメエのミスを、私がやったことにすり替えたしさ、このクソ野郎は。
さすがにミチルさんも、コイツの一言にイラっと来たみたいだ。反重力魔法を使って魔王の身体を空高く上昇させた。
ただ、そこでミチルさんも、次なる魔法を出せずに動きが止まってしまった。
ノーソラム共和国との戦いでは、ミチルさんは反重力魔法に続いて火炎魔法を放ってラヤを仕留めた。
ラヤは沢山の人達を一方的に首ちょんぱ魔法で殺していたからね。この世界から存在を抹消すべきって判断ができたんだと思う。
でも、この魔王は好き勝手やっていたけどさ。一応、他人を殺していないんだよね。
魔法でHP吸収はしていたけどさ。
結果的にコイツに殺されたのはミチルさんだけってこと。
ただ、直接物理攻撃したんじゃなくて、精神攻撃で自殺に追い込んだんだ。
なので、コイツは、自分がミチルさんを殺したって自覚すら無いだろうけどね。




