2.一応、魔法は使えるんだね!
ここでは、HPはヒットポイントではなくハレンチパワーです。
MPはマジックポイントではなくマゾポイントです。
そして、MPと対をなす数値としてSPと言うものが存在します。SPはステータスポイントでもスキルポイントでもありません。
ここは、ブルバレンと呼ばれる世界。
その中のカリセンと言う国に、今、私はいるらしい。
ステータスを見て行くと、取扱説明書と書かれているところがあった。
そこを開くと、私の仕様とか機能に関して色々記載されていた。
私の正式名称は、エロスが言っていたとおりアキ-108号。通称アキ。魔導師が作り上げた超高性能な大人の玩具だ。
つまり、地球で『ダッチなんとか』とか、『なんとかワイフ』と呼ばれるヤツだ。それが自律型になっていると言う超優れモノだ。
私にとっては超最悪だけど。
エロスの言っていた『最強の癒し』って、そう言う意味かよ!
前世で最悪な目に遭って、さらにここで追い討ちをかけられた気分だよ。
それに、108って煩悩の数だよね?
その数字を敢えて付けるって、非常に悪意を感じるよ!
それから、どうやら普通の人間は、HPもMPもSPも個人差はあるけど、全て最大値が100にも満たないらしい。
と言うか、最高に高い人で最大値が100に達するかどうかってことのようだ。
ただ、男性の場合は、最高潮に達した時にHPが最大値の1.2倍になることがあるらしいけど……。
もしかして、エネルギー充填120%で発射するってことかよ!
まあ、それは置いといて。
それにしても、私はHPがムチャクチャ高いってことか。これって存在自体がHの権化みたいに感じる。
異世界転生者はチートな力を持つのが相場だけど、Hでチートってなにそれ?
なんだか、いきなりここでも死にたくなったよ。
シーシアから異世界に転生って聞いて、一瞬、それなりに期待したけど、やっぱり最悪な人生のループからは抜け出せないってことなのかなぁ?
ふと、背後に何者かの気配を感じた。
振り返ると、私と同じくらいの背の高さの恐竜が一頭、ゆっくりと私の方に近づいてくる姿が……。
てか、恐竜がいるんかい、この世界は!
シーシアって天使は中世ヨーロッパレベルって言っていたよね?
マジこれ?
頭から尻尾の先までの長さは結構ある。
この恐竜に、私は見覚えがあった。
そうだ。たしか、元彼と前に映画で見たヤツだ。なんとかラプトルって。
あと、ラプトルって肉食だった気がする。
ってことは、私は食べられちゃうってこと?
でも、私は作り物だし、食べるところは無いはずだよね?
死にたくなったって言ったけど前言撤回。転生初日で食い殺されたくない。
ただ、その恐竜は、妙に大人しくしていた。そして、怯える私の目の前まで来ると、急に私の身体に頬擦りを始めた。
少なくとも私を食い殺そうとしている雰囲気じゃないなぁ。
これってなんで?
私がそう思った時、取扱説明書の別のページが自動で開いた。
取扱説明書:アキ-108号は全身から超フェロモン魔法を放っています。そのため、全ての雄性動物(人間を含む)から愛されます。
取扱説明書:その分、全ての雌性動物(人間を含む)からは基本的に敵視されます。
うーん。
つまり、このなんとかラプトルに私は愛されているってことか。って言うことは、このラプトル君はオスってことだね。
ただ、このラプトル君、何気に股間を擦り付けようとしていない?
そっか。私がフェロモン魔法を強烈に放っているからだ。
やだよ、私。異種間での行為なんて!
取扱説明書:アキ-108号は、女王様モードに入ることで雄性動物(人間を含む)を完全に服従させることができます。
取扱説明書:女王様モードへの切り替えは、本人が希望すれば自動で切り替わります。
そんな機能も付いているんだ!
「(じゃあ、女王様モード!)」
私が心の中でそう唱えると、急にラプトル君は一歩下がって、その場に座り込んだ。そして、頭を地に付けて微動だにしなくなった。
もしかして、これが絶対服従のポーズってところかな?
でも、恐竜すら従えるってことは、女王様モードを使えば、世の中の男子を全て私の配下に収めることができるかも?
文字通り女王様になれるよね?
それなら、少なくとも前世のように男に責任を擦り付けられたり、振られたりすることは無いってことだよね?
これは、イイ能力をもらったかもしれない。私の中で、ちょっとこの世界に対する考え方が変わった。
「グルルルルル……」
今度は、背後から強烈な負の気配を感じた。
振り返ると、そこには、もう一頭のなんとかラプトルが……。
しかも、私の方を見ながら殺気立っているよ。これって絶対にメスだよね?
私に服従したラプトル君……ここではラプ男と呼ぼう。
ラプ男が、まるでメスのラプトル……ここではラプ子と呼ぶか、ラプ子から私を庇うような感じで私の目の前に立った。
「グゲェ……」
「アギャァ……」
「グゲェ……」
「アギャァ……」
何か会話しているけど、私には、まるっきり分からない。
多分、
「何よ、そのメスは?」
「新しい女王様だよ!」
「ふざけないでよ!」
「僕は至ってマジメさ!」
こんな感じかな?
もしかしたら、この二頭って、夫婦か恋人同士なのかも知れないね。だとすると、私がここに来たことで不幸を招いちゃったってことか。
なんとかしないと。
すると、再び取扱説明書の別のページが開いた。
取扱説明書:アキ-108号は、Hに必要なモノなら何でも魔法で作り出せます。また、Hの道具を何でもそつなく使いこなすことが可能です。その道具に関する知識も豊富です。
なにこれ?
でも、このページが開いたってことは、何らかの道具を使ってこの場を収めろってことだよね?
じゃあ、ええと……。
「適当な道具、出ろ!」
私がそう唱えると、何故か一本の鞭が現れた。
しかも、その鞭を手にすると、私のSPが一気に0から130まで跳ね上がった。
ただ、MPも0から40くらいまで上がったんだけど、これって、何故?
すると、今度はステータス画面の注釈のところが開いた。
注釈:SMとは単純にSがMをいじめる行為ではありません。SがMに愛情を持って叩く等の肉体労働、すなわち奉仕をします。そのため、Sを正しく行うためには奉仕の心、さらには精神的に多少なりともMな部分も必要になります。
うーん。そう言うものなんだろうか?
正しくMに奉仕する……と言うか、正しくMのリクエストに応えるためには、ある程度、Mの心を持っていないとダメってことかな?
Mの要求はMじゃないと分からないだろうし。
きっと、その手のプレイって奥が深いんだろうけどさ。でも、私は絶対に理解したくないよ、うん。
今は、それより、この鞭を使って場を収めることだね……って、どうやるの?
よく分からないけど、今は愛情を持って鞭でラプ子を叩くことにした。
鞭をラプ子に向けて振り下ろした。しかも、狙ったところにバッチリ!
そして、ラプ子に鞭が当たって大きな音が鳴った。
「パシッ!」
どうも私って、鞭の扱いに慣れている?
うーん。たしかに鞭を使うスキルが高いのだけは間違いないみたいね。いつの間に?
私は、さらに何回もラプ子に鞭を振り下ろす。
「パシッ! パシッ! パシッ!」
この攻撃を受けて、最初は痛かったんだろうね。凄く嫌がっていたよ。でも、何故か次第に殺気が消えるラプ子。
最終的に、むしろ喜んでいない?
これを見て、興奮しているラプ男。
そして……。
何故かラプ男とラプ子の営みが始まってしまった。二頭とも、随分、興奮していたんだね、きっと?
私は、一先ずここから離れることにした。
すると、取扱説明書の、さらに別のページが開いた。
取扱説明書:アキ-108号は、出張サービス(エロ)を効率よく行えるように転移魔法が使えます。最大移動距離は2キロメートルです。
マジッ?
だったら最初から教えて欲しかったよ。転移魔法が使える理由はともかくとしてさ。そうすれば、ラプ男とラプ子に出会わずに済んだんじゃない?
早速、私は転移魔法で出来るだけ遠くまで移動した。
と言うか、結果論なんだけど、どうやら、異世界モノでよくある、一度行ったところじゃないと転移できないって設定は、私の場合は無いみたいだ。
多分、初めて行く場所にも転移できないと出張サービスが効率的に出来ないからだと思うけど……。
出たところは森の外。
そこは、土が剥き出しの道路の上だった。
人影は無い。
遠方には町が見えるけど、一時間くらい歩きそうだな。
一先ず私は、道路の脇に座り込むと、改めて自分のステータス画面を色々確認することにした。さっきはラプ男達が出てきて中断されたもんね。
特に確認すべきところは、私自身の取扱説明書だ。
…
…
…
エネルギー補給に何か特別なものが必要かと思ったけど、どうやら私は、普通の人間と同じ食事で良いらしい。
使用者と楽しく食事が出来るようにってことみたいだけど。
あと、Hなプレイに必要とされるモノなら、ホンキで私は何でも魔法で作り出すことができるらしい。
なにそれ?
でも、考えようによっては凄いかも。
ちょっと試してみよう。
「ナース服!」
すると、たしかにHっぽい白衣が出てきた。こう言うのを使う人、いるもんね。
これでも、今着ているボンテージファッションよりはマシかな?
あとで着替えよう。
それから私は冗談半分で、
「上玉性奴隷を買うお金!」
と唱えてみた。出てきたら儲けもの程度の感覚だ。
すると、目の前に金貨五百枚が……。
マジですか、これ?
Hなプレイに関連するモノの定義が緩くないですか、これ?
ええと、日本で金貨といえば十万円金貨か。
仮にこれ一枚が十万円とすると、五千万円になる!
これなら前世よりも、楽に生きて行けるかも知れない!
今の自分に、随分と希望が持ててきたよ。
それにしても、上玉性奴隷を買うのに、これで足りるのかなぁ?
まあ、足りなければ『追加!』って言えばイイのか!
次回から人のいる街に舞台は移ります。