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179.ナノ粒子の存在は信じてもらえないよ!

「それで、今回の多術式耐性淋菌ですが、アデレー王国のワーブルギーの方は?」



 こう聞いてきたのはアトルバ院長。

 これにマナミが答えた。



「これからです。あと、感染源である旧ノーソラム王国でも患者を探して治療する必要があると思います。多分、今後もそこで感染する人が出てくるでしょうし」


「たしかに。あと、たった今、ウンカ公国の町エレクタの医院で、多術式耐性淋菌感染患者が確認されたとの連絡が治癒術士ギルド経由でありまして」


「では、今回の二人と一緒にパーティをやったと言う?」


「患者から色々聞いた限りでは、そのようです。発症直前にランゲルハンス島にも行ったようなのですが」


「もしかして、そこでばら撒いたとかですか?」



 マリカ教信者は、既に五桁に達している。

 それを不眠不休でマリカは毎日(且つ同時進行で)信者達を相手にしているわけだけど、そこに今回の淋菌がばら撒かれたら……。


 一応、マリカには体内殺菌機能が付いているけど、殺菌不十分なまま、次の信者が挿れることが十分有り得るからね、あのハイペースさからすると。

 そうすると、一気に感染者が増えるのは必至だろう。


 でも、マリカ教ではマリカ以外と交渉したらアウトなんだよね。

 なので、仮に(カリにじゃないよ)ばら撒かれたとしても、ランゲルハンス島から多術式耐性菌が流出することはないか。多分……。



「いえ。教祖に感染を見破られてナニもせずに島から追い出されたそうです」


「アソコの教祖が味見もせずに……ですか?」


「そのようです」



 これを聞いて、私もマナミも驚いたよ。

 Hの経験値(男性の数:延べ人数ではない)を上げたがっているマリカが、新規の男性を門前払いするなんてね。


 でも、考えてみりゃ当たり前のことか。

 一応、マリカも私と同じでステータス覗き見スキルがあるからね。


 多分、それで、その患者が多術式耐性淋菌に感染していることや、治癒魔法では治せないことを知って門前払いしたんだろう。

 万が一、自分の信者達……特にタイシに感染したらマリカだって困るもんね。

 それに、マリカじゃ薬での治療にまで頭が回らないだろうし。



 この後、私とマナミは、淋菌の咽頭感染と直腸感染……特に直腸感染に気をつけるべきじゃないかって考えをアトルバ院長とスタチンさんに話した。


 直腸感染の場合、腸内細菌と淋菌との接触機会が出来てしまうだろうからね。

 なので、腸内細菌の中に、何らかの術式耐性遺伝子を持っている菌がいると、そこから水平伝播で淋菌が術式耐性を獲得する可能性があると思うんだ。


 でも、この世界には腸内細菌って概念がなくてね。

 だから、赤青黄桃緑白黒達が、ナノ粒子(ナノハのウンコ)がこの世界の生物の祖だって布教しても、誰も聞き入れちゃくれなかったわけだけどね。

 いや、腸内細菌の概念があっても受け入れ難いか、あの事実は。



 その後、私とマナミとスタチンさんは、医院の受付前でニコラスと合流。

 アトルバ院長も、本当は私達に同行したかったみたいだけど、こっちの医院の仕事があるからね。

 ワーブルギー行きはイヤイヤだけど辞退された。


 あと、イチロー達を看護していた男性看護師を呼んでもらった。

 彼は私とマナミがやった治療を一応見ているからね。

 戦力になるとの判断だ。



 そして、医院を出たところで、マナミはシリバスの転移ゲートまで単独転移移動した。

 今回の件……私の家の買い取りのことと、多術式耐性淋菌の件の両方ね……をケイコに報告しなくちゃいけないからね。


 一方、私とスタチンさんと男性看護師とニコラスの四人は、ニコラスの転移魔法で私の家まで転移。

 ワーブルギーの患者数が十人ってことだったので、私は十人分のセフトリアキソンを物質創製魔法で出してスタチンさんに渡した。

 勿論、男性看護師には見えないように店の奥に入って薬を出した。

 なので、多分、作り置きしていた分を持ってきたと勝手に勘違いしてくれている……と思う。


 後はスタチンさんと男性看護師に任せるよ。

 医師達が診断魔法を発動しているところに、私は余り行きたくないからね。


 なので、悪いけどニコラスとスタチンさん、それと男性看護師の三人で、ワーブルギーに行ってもらった。


 まあ、ニコラスはスタチンさんと男性看護師を運ぶ係なんだけどね。

 ただ、ニコラスの正規の仕事じゃないと思うんだけど……。

 ()()じゃなくても、()()に関する仕事ではあるけどさ。



 …

 …

 …



 その日の夜のことだ。

 時刻としては、まだ午後八時くらいだったけど……。


 既に店は閉めていたけど、店の扉を叩く音がした。

 一体誰?



「はい、どちら様でしょう?」



 私は、扉越しにノックの主に聞いた。



「夜分に済みません。スタチンです。多術式耐性淋菌感染症の治療薬を一人分いただきたいのと、これまで頂いた薬の代金を相談したいと思いまして」



 薬の代金は……全然考えていなかったけど、確かに無償って訳には行かないか。

 少なくとも患者達からは取るべきだよね。

 最初の一人は女性を買ってうつされて、他の人達はイチローも含めて例のパーティでうつされたわけだし。

 自業自得ってことで。


 あと、追加で一人分ってことは、恐らく、ワーブルギーからマリカのところに行って門前払いを食らった男性の治療に使う分ってことだろう。



「少々お待ちください」



 そう言うと、私は、その場でセフトリアキソンを一人分、物質創製魔法で出した。

 そして、その直後、私が扉を開けると、そこにはスタチンさんと男性看護師、ニコラス、それと見知らぬ若い男性二人の姿があった。


 私のステータス画面覗き見スキルによると、見知らぬ男性のうちの一人は医師で、もう一人は例の患者だった。

 この医師のところに、この患者は駆け込んだってことだろう。


 ただ、その男性医師は、私のことを見るなり驚いた表情をしていたよ。

 多分、私が魔導師に作られた存在ってことを知られたな。

 この医師が、キチンと個人情報を保護してくれるって信じるしかないね。


 それよりも、マジで気になったのは、むしろ患者の方だった。

 なんか、私のことを見る目が怪しい。



「美し過ぎる!」



 そう言ってくれるのは嬉しいけどさ。多分だけど、ロックオンされたね、これは。

 後で面倒なことにならなければイイケド。



「それでスタチンさん。一人分の薬です」


「有り難うございます、アキちゃん」



 スタチンさんは、私から薬を受け取ると、患者をその場……路上に座らせ、私が日中にやったように薬を静脈内に転送した。


 その隣では、若い男性医師が患者の様子を見ながら驚いていた。

 診断魔法を発動して、菌数の減少をモニターしていたんだ。



「これはスゴイ。確かに少しずつだけど病原体が減少している」



 これで、この患者も治ることだろう。

 ただ、今回の一件で不特定多数とのHを卒業するか、それとも、ヤバい病原体に感染してもなんとかなるって楽観視してしまうかは微妙な気がするけどね。



 スタチンさんがセフトリアキソンの静注を終えた。

 ただ、かなり疲れているようだった。

 ワーブルギーで治療してきたんだもんね。

 お疲れ様です。



「それで、早速だけどアキちゃん。薬の値段だけど、金貨三枚でどうかな?」



 私としては、そんなに要らないんだけど……。

 でも、今回のような患者達に、安易に感染しても大丈夫だなんて思われても困る。

 そう言った意味では、無償とか、低価格とかは避けるべきなんだろうね。

 まあ、スタチンさんからの提案が妥当ってとこかな。



「分かりました。では、一回分金貨三枚でお願いします」



 金貨一枚は、日本の価値で約十万円ってとこ。

 キチンと真面目に働いている人達だって、金貨三枚じゃ結構支払うのはキツい。

 これに医師に支払う診察代や治療代が足されるわけだし、かなりの出費だ。


 ましてや、今回の患者……シトルにとっては、簡単に支払える額ではないだろう。

 勿論、イチロー達もね。

 ろくに働かずに遊んで暮らしている連中みたいだからね。


 スタチンさんの隣では、シトルは支払える金額じゃないって、青い顔……をしているかと思ったんだけど、なんかイヤらしい笑みを浮かべていたよ。



「お姉さん。身体で払うんじゃダメ?」



 こう言ったのはシトル。

 まあ、その気持ち悪い笑みを見た時点で、何となく読めていたよ、こう言い出すのは!



「そんなものは要るか、このブタ野郎! そんな病気をうつされたくせに、全然反省の色がないみたいだな!」



 いきなりだけど、私は女王様モードを発動して、こうシトルに言い放った。

 そうしたら、


「ははー!」


 ニコラス以外、全員がその場に正座したかと思ったら、額を地にこすりつけるが如く土下座したよ。

 男性看護師なんか、特に喜んでいるっぽいし。

 そう言えば、コイツ、素で女王様プレイが好きなんだっけ?

次回は1月1日にアップする予定です。

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― 新着の感想 ―
>「いえ。教祖に感染を見破られてナニもせずに島から追い出されたそうです」 >「アソコの教祖が味見もせずに……ですか?」 >「そのようです」  ふたりのアレ発言をサラッとスルーできる漢よ……。  ナニ…
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