144.沈降!
「キアって、日本の何処に住んでたの?」
こう聞いたのはナノハ。
唐突に場の流れを切り替える感じの質問だ。
と言うか、正直、場の雰囲気を変えようとしてくれたんだろう。
「○○市にいました」
「そうなんだ。私も○○市に住んでたのよ。○✕駅の辺りでね」
○○市には私も住んでいたし、それをナノハも知っている。
でも、それを敢えて口に出さずに、自分の話だけで済ませてくれている感じだった。
言ったら最後、ヴァナディスから、
『やっぱり狙ってたんじゃない?』
とか言われそうだからね。
「私は▼◇駅の近くでした」
それって、私が一人暮らししていたところにマジ近いんじゃ?
私も▼◇駅の近くだったし。
取り敢えず黙っておこう。
言ったら話がこじれる。
ナノハは勿論、マナミも多分、言わないでいてくれると思うし。
「そ……そう。私は独り暮らしだったけど、キアは自宅?」
「私も独り暮らしでした」
「実家は?」
「御前崎市です」
「そうなんだ。そう言えば、御前崎市って、掛川と比較して沈降する長期的な傾向が続いているって……」
このナノハの言葉に私とマナミが同時に反応した。
何故って、多分、いつものパターンだ。
「ちょっと、それをいきなり言う?」
二人の声がハモった。
ただ、ナノハは、何故こう言われたのか分からない感じだった。
「いきなりって何を?」
「ケイコが前出しでチ〇コするのが長期的に続いているって」
こう言ったのはマナミ。
当然、私も同じことを言いたかった。
ナノハは、唖然としていたけど。
「へっ?」
「たしかに、クリ〇リスペシャル魔法が使えるようになって、私と持続的に(射○が無いから)チ〇コしてるけど、いきなりケイコの性癖をばらさなくても」
「ええと、チ〇コじゃなくて沈降ね。地盤が下がってるってこと」
「えっ?」
「あと、前出しじゃなくて御前崎市だし、ケイコじゃなくて傾向」
「そ……そう言うこと?」
結果的に、マナミがキアにケイコの性癖をばらしちゃったってことだ。
でも、私が言わなくて良かった。
この時、キアは脳内が処理し切れないのか、ややパニック状態だったけど。
「ええと、ク〇ト〇スペシャル魔法って何ですか? あと、マナミさんとケイコさんでチ〇コしてるって」
「マナミはケイコの嫁だから」
こう答えたのはナノハ。
取り敢えず、私は下手なことを言わずに、黙って聞いている側に徹することにした。
「嫁って……。ケイコさんって男性なんですか?(ケイコなのに)」
「いや、ケイコは女性だよ」
「えっ?」
「つまり、ここもアキとヴァナディスと同じってこと」
「同じ穴のムジナですか」
「穴は違うけどね。さすがに同じじゃマズいでしょ。まあ、種族としては似たようなもんだけど。でも、どう言った恋愛をするかは個人の自由だから」
「それはそうですけど……」
これって、キアには刺激が強かったってことか。
この世界に来て、いきなりだもんね。
だとすると、この国……アデレー王国の王様と御后様も同性愛者だってことは、ここでは言わない方がイイな。
同性愛者ばかりの異世界に来たと勘違いしちゃいそうだからね。
「ただ、ノーマルな人が多数派だから。今日は、たまたま少数派が多いところに来ただけってことで」
「は……はい……」
なんか、キアは今一つ信じ切れていないっぽいけど……。
でも、ナノハの言っていることが正しいわけだし、同性愛者ばかりの世界じゃないってことは数日で理解できるだろう。
「それはそうと、話は飛ぶけどアキとヴァナディスとパラスの三人でタタ温泉郷に行って来たんだって?」
こう私に聞いて来たのはマナミ。
多分、ナオから聞いたんだろう。
「一応ね」
「どんな感じだった?」
「魚料理は、私は美味しいと思ったけどヴァナディスとパラスには不評。他の料理は、マナミ達のとこの料理を真似た感じだったけど、マナミ達の方が美味しいかな」
「じゃあ、料理では、うちが勝ってそうね。他は?」
「浴衣があった。取り入れたのは、アッチの方が先みたい」
「転生者か転移者が先にアッチに行ったのかな?」
「多分。あと、青いイチゴがあってね。自然に実っているらしいんだけど」
「マジ?」
これには、マナミも驚いたっぽい。
地球じゃ自然界には存在しないからね。
「ただ、あの辺じゃ赤いのは生らないみたいで、イチゴパフェ頼んだんだけど、青いイチゴだけたくさん乗ってて」
「なんか、食欲下がりそう」
「うん。下がったよ。味は普通のイチゴと同じだったけどね」
「ふーん」
「目を瞑れば普通に食べられるよ。まあ、マナミ達も一回行ってみたら? 敵情視察ってことで」
「そうする。コッチに来たばかりの時に、世界一周したけど、今一つ流行って無さそうだったから優先順位を下げたんだよね」
あの時、マナミは、早く私のところに行くようにってラフレシアに急かされたんだよね。
それでタタ温泉郷に寄るのを見送ったとか。
一応、ラフレシアとしては、マナミを私と戦わせるつもりだったから。
「でも、変な温泉があるってことで話題性はあるらしいよ」
「笑い性だと思うけど」
マナミも、私と同じことを考えたか。
イタタ泉みたいに、絶対に入りたくないのもあるし。
お笑いの人なら入るかも知れないけどさ。
チャレンジ精神で。
「そうなんだけどさ……」
「じゃあ、そろそろ戻るね。キアと今後のことを話したいし」
「分かった」
「じゃあ、ナノハ。ディスプロシ島までお願いできる?」
「ええ。了解」
「それじゃ、アキ。また、そのうち」
マナミ達は、ナノハの転移魔法でディスプロシ島に向かって転移に入った。
ただ、今夜が怖いな。
ヴァナディスが勝手にキアに対抗心を燃やしているみたいだから。
それこそ、ヴァナディスが前出しでチ〇コするのが長時間続くんだろうな。
…
…
…
予想通り、その日の夜は、もの凄い求めようだった。
それ専用の魔玩具だから、あれくらいじゃ壊れないけどさ……。
随分激しかったよ。
…
…
…
翌朝。
ヴァナディスは、体が怠くて起き上がれないらしい。
正直、頑張り過ぎだよ、アレは。
なので、店を開ける準備は、私一人でやった。
店を開けて少しした時のことだった。
如何にもセバスチャンって名前が似合いそうな男性が私の店に来た。
どこかの貴族の執事っぽい。
「あのう、済みませんが、コチラにうつの薬が置いてあると聞きまして」
「ありますけど?」
「私はクローマ伯爵家の執事をしておりますアイザックと申します」
セバスチャンじゃなかったか。
ただ、執事が買いに来たってことは、クローマ伯爵は、早速使って……って言うか、もう使い切っちゃったのかも?
余り使い過ぎるのはどうかって気がするけど。
「ええと、どれくらい必要でしょうか?」
「一か月分、30錠ほどですが」
「分かりました」
多分、毎日使うつもりなんだろう。
でも、そう言えば王族貴族には、この薬の存在って余り知られていないかも?
これでクローマ伯爵が社交界で宣伝したら、王族貴族からも注文が来るかもしれないな。
貴族にも色々なのがいるから、面倒にさえならなければイイケドね。
私は、店の奥の方に取りに行く振りをして、物質創製魔法(エロ限定)を使ってダポキセチン10錠入りのビンを三つ出した。
「では、こちらになります」
「おいくらでしょう?」
「6,000Wenになります」
「そんなに安いんですか?」
効果の割に値段が安いって思われたのかな?
でも、町の人達には1錠200Wenで売ってるし。
逆に値段が高いと、町の人達が買えなくなっちゃうし。
と言うか、他の薬の相場を知らないから、適当に町のみんなが買える程度の値段に設定しているんだけどね。
たしかに貴族価格を設定するってのもアリなんだろうけど、売る相手によって価格が変動するんだと、自分の中で混乱しそうなんだよね。
なので、この店では、価格は平民も貴族も同じにしたい。
それに、貴族に高額をふっかけると、それこそ後が面倒そうだし。
それ以前に、リンドラー公爵夫人なんか、ムチャクチャ値切って買って行くからね。
平民価格よりも公爵夫人価格の方が、ずっと単価が安いよ!
「身分に関係無く1錠200Wenですので」
「では、もう60錠いただけますでしょうか?」
「分かりました。少々お待ちください」
私は、再び店の奥に引っ込むと、ダポキセチン10錠入りのビンを6つ出した。
飽くまでも、奥から在庫を取ってきた振りをしてね。
「では、これでよろしいでしょうか?」
「はい」
「合計18,000Wenになります」
「では、これで……」
セバスチャン……じゃなかった。
アイザックは金貨一枚を私に手渡した。
多分、金貨数枚を持たされたってとこなんだろうな。
クローマ伯爵の方でも、まさか三か月分でも金貨一枚(10万Wen)にすら満たないとは思っていなかっただろうからね。
「お釣り、82,000Wenになります」
「たしかに。では、また無くなったら来ます」
そう言うと、アイザックは転移魔法で店の前から消えた。
ただ、次に来る時は、ダポキセチン以外の品も買って欲しいな。
今回は、伯爵からダポキセチンのことしか言われていなかったから、勝手に買って帰るわけにも行かなかったんだろうけど。