118.何で年末にはベートーベンの交響曲第九番『合唱』が演奏されるんだろ?
「そう言えば、年末って言うとベートーベンの交響曲第九番『合唱』が定番だったね」
こう言ったのはケイコ。
「たしかに、そうだね。何でだろ?」
「あれって、日本だけなんだよね」
「そうなんだ」
「でも、私は同じ合唱付きの交響曲なら、マーラーの『千人の交響曲』の方が好きだけどな」
「マ〇のセンズ〇の交響曲?」
「〇ラじゃなくてマーラー。あと、セン〇リじゃなくて千人ね!」
「あっ! ゴメン」
また、例のエロ聞き違い機能が発動してしまった。
しかも、随分と強引だな、千人がセ〇ズリになるなんて。
毎回思うけど、マジで要らないよ、この機能。
スケベオヤジは、こういう機能が好きなのかも知れないけどさ……。
そして、
『そうか、そんなに欲しいのか!』
みたいな感じで襲ってくるとかね。
もっとも、それ専用に作られたわけだから、そう言う展開を狙って、こんな変な機能を敢えて持たされているんだろうけど。
「でも、アキが言うように、何で第九なんだろうね。同じベートーベンの交響曲なら第三番『エロイカ』の方が好きだけどな」
「何その『エロいか?』って。エロいか? エロいよ! みたいな曲なの?」
「ええとね……。エロイカはイタリア語の形容詞で『英雄的な』とか『勇敢な』の意味ね。ただ、交響曲を意味する『シンフォニア』が女性名詞なので、形容詞も女性形になるんだって」
そう言えば、言語によっては女性形男性形ってのがあるんだよね。
例えばドイツ語だと、男性名詞、女性名詞、中性名詞ってのがあるって、大学の授業で習ったし。
「そうなんだ。ちなみにエロイカの男性形は?」
「エロイコって言うらしい」
「エロイ……」
「言っとくけど、『エロい子』じゃないからね!」
なんだか、先を読まれてしまった。
多分、同じことを言った輩が、過去に他にもいたんだろう。
マナミかも知れないし、地球時代のことかも知れないけど。
「でもさ。外国ではヤバイ日本語とか、逆に日本ではヤバイ外国語ってあるよね?」
こう言ってきたのはマナミ。
「どう言うこと?」
「例えば、イタリアでは男性器のことをcazzoって言うのよね。だから、カツオって言うと男性器と聞き間違えられるって」
「マジで?」
「あと、英語で言う『I am』が、イタリア語では『Io sono』なんだよね。だから、磯野って言うと『I am』っぽく聞こえるらしい」
「じゃあ、日本の国民的アニメの登場人物が、イタリアでは『俺はチ〇コ』って言ってるようなモノなんだ!」
「そう聞こえちゃうらしいよ。あと、イタリア語では不足とか欠陥のことを『manco』って言うって」
「えっ?」
「ドイツ語では、赤字とか欠損のことを『manko』って言うし」
知らなかった……。
一応、これでも大学時代に、第二外国語でドイツ語を取っていたんだけど。
多分、この時の私は、目が点になっていたと思う。
ただ、こんなオイシイネタを私の機能がフォローしていなかったのは珍しいな。
「そ……そうなんだ。ええと、話を戻すけど、ケイコってクラシック派?」
「私? 別に、そう言うつもりは無いんだけど、自然にね。父が交響楽団に入っていて。それで」
「でも、ケイコって整体師だったんでしょ?」
「まあ、一応ね」
「音楽の方には行かなかったの?」
「父は行って欲しかったらしいけど」
「乳でイッて、(ナニを)欲しがったの?」
今度は、ケイコの目が点になっていた。
どうやら、また、私のアホな機能が働いたようだ。
「あのね……。まあ、例の機能のことは分かっているけど、こう話を途中で折られるとムカつくわ」
「ゴメンゴメン」
「父親は、私に音楽の道に進んで欲しかったみたいだけど、私は楽器の演奏に興味が無くてね」
「そうなんだ」
「それより女性の身体の方に興味が湧いてね。それで、合法的に触れるってことで整体師になったのよ」
ええとね……。
先ずは全国の整体師の先生方に謝った方がイイと思う。
マジで。
それと、女性の身体に興味を持ったことから、等身大性処理機能付きフィギュアを、疑似男性器付けて犯す方に趣味がシフトして行ったってことか。
どうねじ曲がったら、そうなるのかは分からないけど。
「なんつう理由よ?」
「でも、女性客の中には男性整体師を避けて女性整体師にお願いしたいって人も少なからずいるから需要はあったよ」
まあ、ケイコが本性を隠していれば、ケイコを指名する女性客は当然いるか。
これも一応、Win-Winな関係と言えなくもないかも?
「で、ケイコは、他にはどう言った曲を聞くの?」
「何でも聞くけど?」
「じゃあ、クラシックだとベートーベンとマーラー以外には?」
「そうだな。プッチーニとか、ショスタコーヴィッチとかかな」
「プッ〇ーに、ショタコンでビッチ?」
「あのね……。プ・ッ・チ・ー・ニ! と、ショ・ス・タ・コ・ー・ヴィ・ッ・チ! ね! なんか、そんな感じのことを言って来るとは思ったけどさ」
「ゴメンゴメン。どうしても、例の機能が優先的に働いちゃって」
なんか、私の方が全世界的に謝らなきゃいけないような気がしてきたよ。
さすがに、人名でエロ聞き間違いはマズいよね?
しかも、相手は偉大な作曲家だし。
「ところで、ケイコは大学進学とかって考えなかったの?」
「一応、行ったよ、大学。ちなみに、ここでの『行った』は『イッた』じゃないからね」
ケイコが先手を打って来たよ。
この手の聞き間違いは、私もマナミも日常茶飯事だからね。
向こうも、それなりに警戒しているんだろう。
「ええと、了解。じゃあ、整体師の専門学校は大学卒業してから?」
「大学に通いながらだよ」
「マジ? 大変だったんじゃない?」
「まあね。でも、お陰で充実した学生生活を送れたから。在学中に整体師の資格を取って、大学に通いながら整体師のバイトもしてたし」
「サークルとかは?」
「入らなかった。それより、女性の身体が触りたかったし」
まあ、そう言うヤツだよね。
やっていることは凄いんだけど、動機が何と言うか、やっぱり……。
「ちなみに、大学ってドコ?」
「アキには言ってなかったね。〇大だよ」
「えっ? もしかして私やマナミと一緒?」
「そうらしいね。マナミにも、そう言われた」
「ちなみに、ユキもだけど」
「らしいね」
「何年卒?」
「20✕✕年卒だけど?」
「学年も一緒?」
「そうみたいだね」
知らなかった。
でも、同じ大学から私にマナミ、ケイコ、ユキ、それから宇井武司に小松照代の六人がこの世界に来ていたのかよ!
さらに言ってしまえば、私やマナミと同じ町からマリカとマイも来ていたわけだし。
随分と転移者、転生者の調達先が偏っている気がするよ!




