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1.私は性なる魔玩具?

「もう連絡しないでくれ!」

 そう私に言うと、彼は喫茶店を後にした。

『他に好きな人ができたから別れてくれ!』

『もう連絡してくるな!』

 これが彼の言い分。聞きたくなかったよ、そんな言葉。



 私、篠原亜紀は社会人1年生。彼とは大学の時にサークルで知り合い、意気投合して付き合い始めた。

 ともに今年の春に就職。

 そして、社会人になって初めて迎えたクリスマスイブの今日、二人は元の他人に戻った。

 ちくしょう。

 でも、これでオタク野郎と縁が切れてセイセイしたと思えばイイか!

 見た目はカッコ良かったけど、美少女フィギュアオタクだったからな、あいつ。



 このところ、私の運気は超低空飛行を続けている。

 私はアパートに一人暮らしだけど、先週、空き巣に入られた。

 まあ、取って行かれるだけのお金は無かったけど、大事にしていたDVDやBDコレクションが全て消えていた(私はVOD派じゃなくてディスク派なんだよ!)。


 今週初めには、会社で受注ミスがあったのを、何故か私のせいにされた。

 私はノータッチの仕事だったのに、いつの間にか私がやったことにされていたんだ。やったのは自称帰国子女の男性社員なのに。

 わざとらしく自己紹介の時に名前、苗字の順に言うヤツでさ。その割に英語は大して話せないみたいだけどね。

 何でか分からないけど、そいつのせいで私は始末書を書かされた挙句、減俸処分。

 そして今日、一方的に告げられた彼からの別れ。


 人生最悪。

 もう、やっていられない。生きるのが面倒。

 気が付くと私は、あるビルの屋上にいた。

 そう言えば、先月、うちの会社でうつ病を発症して自殺した社員がいたっけ。今の私も傍から見たら似たようなもんだろうね?

 そして、衝動的だったけど、私は頭から飛び降りた。もう何もかも嫌になったんだ。



 地面にぶつかったはず。

 でも、何故か私には生きている感覚しかなかった。

「なんで?」

 私はビルの屋上まで飛んでいった。この時、私は、空を飛んでいる不自然さに気付いていなかった。

「ちゃんと死ななきゃ」

 私は、そう呟くと再び地面に向かって飛び降りた。


 そして、地面に激突。

 でも、それでも私には生きている感覚しかない。

 再び私はビルの屋上まで飛んで行き、三度目の飛び降り自殺を図った。さらに四度目、五度目……私は、ひたすら飛び降り自殺を繰り返した。

 無限ループに入ったんだ。

 これが自殺者に与えられた業ってことだ。



 もう何十回目だろう?

「今度こそ最期にしなきゃ」

 そう思って飛び降りようとした時、

「もう、お止めなさい」

 私を呼び止める声が聞こえてきた。


「アナタは、もう死んでいます」

 昔のアニメにあった台詞と似たような言葉……。

 そう言えば、そのアニメのDVDボックスも空き巣に盗まれたんだ。

 あと、南側の拳法の中で最強の人が主人公になったパロディ作のBDも持っていたんだよね。あれも盗まれていたけどさ。


 声の主は、何故か宙に浮いていた。しかも、神々しいオーラを放っていた。

 ただ、その者は屈強な(おとこ)ではなく、背中に白い翼を生やしていて、パッと見た感じ華奢で女性っぽく見えたけど、それにしては胸が無かった。

 ちなみに、胸に七つの傷は無い……と思う……。

 さて、男性なのか女性なのか?


「アナタは?」

「私はシーシア。この世の者達が御使いと呼ぶ者の一人です。ちなみに私には性別と言うものが存在しません」

「はぁ……」

「篠原亜紀さんですね?」

「はい」

「もう、飛び降りるのはお止めなさい」

「でも、私は……」

「下を良く見なさい。死体が二つあるでしょう。片方はアナタ。頭が粉々に四散している方です。そして、もう一人の、頭にフードを被っている方は、アナタの自殺に巻き込まれて死んだ青年の遺体です」

「えっ?」


 たしかにシーシアが言う通り、歩道には二つの死体が転がっていた。

 しかも、一つは頭が大破している。

 それが私だ。


「彼は、そこを歩いていて飛び降りてきたアナタと頭と頭がぶつかって死んだのです」

「そんな……」

「ただ、彼には、このタイミングで異世界に飛んでいただき、やってもらうべきことがあります。それで、せっかくなら、アナタに殺してもらうことにしました」

「えぇっ!? な……なんで私に人を殺させるなんてことをしたんですか!?」


 いくら、この男性に異世界転生の予定があったとしても、私が人生最期にやったことは人殺しでしかない。

 正直、後味が悪いし、私自身、気持ちの良いことではない。


 ただ、シーシアが言うには、

「これを理由に、アナタに救済の機会を与えるためです。本来、自殺者には、自殺したことに対する罪を自覚するまで無限ループに入っていただきます。さっき、アナタがしていた様に。ただ、アナタが自殺を図った背景について、我らが神ラメラータ様もかなり同情されておりました。それで、せめて無限ループからだけでも開放しようとご判断されたとお考えください。それで記録上、アナタは自殺したのではなく、身を捨ててまでして彼の異世界転生のために協力したと言うことに書き換えられました。それから、実はアナタにも、これから異世界に転生していただきます」

 とのこと。


 なるほど。

 人を巻き添えにしてしまったことは嬉しいことではないけど、でも、視点を変えれば、たしかに、シーシアが言うように、これは私への救済企画だ。

 それが無ければ、私は業のサイクルから抜け出せずに、何十年何百年と飛び降り自殺をひたすら繰り返すだけの状態になっていただろう。


 それにしても、私の聞き違いでなければ面白いことを言っていたよね?

 転生先のこと。


「異世界……ですか?」

「そうです。自殺者の異世界転生は通常認めないのですが、アナタの場合は特例です。宇宙の多重発生説は御存知ですか?」

「いいえ」

「ビッグバン宇宙は御存知でしょう?」

「はい。聞いたことがあります」


 そりゃあ、ビッグバン宇宙はムチャクチャ有名だもんね。

 学の無い私でも聞いたことくらいはあるよ。

 宇宙の多重発生機構なんて言葉は1ミリも聞いたこと無いけど。


「ビッグバン宇宙の誕生の際、連鎖的に沢山の宇宙が誕生しております。それらは平行世界、すなわちパラレルワールドと呼ばれますが、それぞれが異世界になっているとお考えください」

「では、私は別の宇宙に転生すると言うことですか?」

「そうです。なお、基本的な物理法則は、どの宇宙でも同じです。ただ、管理する神が異なりますので魔法の有無や強度、依存度は大きく異なります。アナタには魔法のある世界に転生していただきます」


 魔法世界への転生者?

 なんだか、カッコ良さそうだし、ちょっと興味ある!

 それに、今世よりは多分マシだろう。


「生活や科学の水準は中世ヨーロッパレベルになります。あと、言葉の読み書きはできるようにしておきます。では、新しい世界でのご活躍に期待します」

 こう言われた直後、私の視界は急に真っ暗になった。



 どのくらい時間が過ぎたのかは分からない。

 目が覚めると、何故か私は全裸でベッドの上に寝かされていた。

 部屋には私以外に誰もいない。


 どうやら前世と身体つきが違う。

 正直、前と比べてウエストは細いし胸は大きい。手足もスラッとしていて長い。どうやらスタイル抜群にしてくれたようだ。

 転生と言っても、赤ん坊からやり直すわけじゃないってことか。

 このスタイルなら、正直、すごく嬉しいよ。


 近くに鏡が置いてあったので、それを私は覗き込んだ。

「これが私!?」

 顔も綺麗に作られている。

 小顔で目が大きくて、ムチャクチャ美人!

 まるで二次元から飛び出して来たみたいだよ!


 と言うか、ここまでパーフェクトだと、むしろ作り物のように思えてくる。

 でも、これが前世の姿だったら、彼に捨てられることなんて無かったんだろうなぁ。むしろ、絶対に奪う側だよ。


 丁度この時だった。

「おお、目が覚めたか!」

 そう言いながらアラサー風の男の人が部屋に入ってきた。しかも、こっちは裸なのに、何の遠慮も無い顔をしていた。


「アナタは?」

「俺は魔導師エロス。性なる魔玩具の研究では世界の第一人者と呼ばれる男だ!」


 そう言いながら胸を張っているけど、なにそれ?

 性なる魔玩具って、要は魔法で動く大人のオモチャってこと?

 威張れるようなことしていないような気がするけど?


「お前の名前はアキ-108号!」

「えっ?」

「俺が精魂込めて作り上げた最高の性魔玩具だ!」

「はぁっ?」

「この世界の全ての男性の夢と希望、そして理想の容姿を兼ね備えたハイパーな存在だ。しかも最強の癒しの能力を持つ。誇りに思うべきだぞ!」


 もう、訳が分からない。

 なんなんだろう、この男。


「では、早速俺が試しに……」

 そう言うと、エロスが服を脱ぎ始めた。

 これは、絶対に私の貞操の危機だ。

「イヤー!」

 私はエロスに金的攻撃をぶちかますと、近くにあった服を手にしてその場から逃げた。



 家を飛び出すと、そこはどこかの森の中だった。って言うか、こんな森の中に建っていた一軒家だったんだ!

 私は、急いで服を着ると、とにかく走った。


 一応、私が身に付けた服は女性ものだった。エロスが私のために用意しておいてくれたものだったのだろう。

 ただ、何故、ボンテージファッション?

 完全に女王様スタイルじゃない?

 でも、全裸よりはマシと自分に言い聞かせた。今は、そうするしか無いよね?


 それにしても、私って作り物だったってことか。

 だから綺麗だったんだね?

 ある意味、等身大の生きた超絶美少女フィギュアってとこか。地球ならAI搭載型の自立式性処理用超絶美少女フィギュアってとこだね。

 前世の元彼だったら絶対に飛びつきそうな設定だな。それどころか、ムチャクチャ大事にしてくれそうだ。



 もう、ここまで来れば大丈夫かな?

 一応、シーシアは異世界転生って言っていたよね?

 だったらステータスとか見られるのかな?


 そう思った直後、私の目の前にモニターのようなものが現れた。ただ、光の映像で作られているのだろうか? 触れることはできなかった。

 多分、これは本人にしか見られないやつだ。


 そこには、LvとかHPとかMPとか、色々記載されていた。

 ちなみにLvは0。

 普通、レベルは1からじゃないのかな?


「ええと、HPは2,000,000/2,000,000? MPは0/200だって。これだと魔法は使えないか。それから、その下にSP:0/200ってあるけど……」

 ふと、私はモニターの下の方に注釈があるのに気付いた。


「ええと、HPはヒットポイントではなくハレンチパワーです……って、なにこれ? それからMPはマジックポイントではなくマゾポイン……。その下のSPは……もうイイや。読まなくても分かるよ」


 もしかして、私は自分の頭の中で思い描いていた異世界とは全く違う世界に送り込まれたんじゃなかろうか?

ここでは、同じビッグバンから誕生した宇宙での物理法則は同じになることにします。

物理法則が同じになるか違ってしまうのかは、誰も見て来ていないので、実のところ分からないのではないかと思っております。

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