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緋の軌跡は途切れない  作者: にょいはい
4/25

第1幕 ReLoad(4/9)

(今の言葉って…。()()()()()()()()()()()()?それって…。)

考えすぎだろうか。宿屋に来る前の私の感想を代弁したかのようだった。

夢だから私の記憶がそうさせてる?

もしかして、これが夢じゃないのなら、あの人もゲームの世界にやってきた、ってこと?

情報収集に来たが予想外のことで頭の中がこんがらがってきた。考えがまとまらない。

うーん、とうなっていると、目の前においしそうなパスタ(のようなもの)が差し出された。

「なにやら考え事?食べたら案外解決するかもね。」

マルクはにっこり笑いながら、フォークも差し出してくれた。

そうだ、腹が減っては戦はできぬ、と言うじゃないか。

まずは食べて落ち着いてから考えよう。

「ありがとう。いただきます。」

召し上がれ、といいながら、マルクは竜狩りの人が残していったグラスを持ってカウンターの奥へ入っていった。


材料もなにもわかったものじゃないが、おそらく私が嫌いなものが入っているのではないのだろう。

マルクも私を認識しているということは、何度かはここに食べに来ているだろうし、なによりもおいしそうな匂いが忘れていた空腹感を思い出させてくれるから間違いない。

改めて、いただきます、と口にしてからフォークで巻き取って口に運ぶ。

「…お、おいしい…。」

本当に、おいしかった。カルボナーラのようなものだろうか。

絶妙な塩加減と、クリームの甘さがほどよいバランスで、添えられている肉もそれを邪魔しない脂の肉だった。

空腹だったこともあってか、つい人目も気にせずがつがつと食べてしまった。

「本当、おいしそうに食べるね。」

だからお兄さんが私の前で食べているところを見ていることにもまったく気がつかなかった。

口いっぱいにしていたものだから何も言えず、照れて顔が熱くなることだけがわかった。

口の中のものを全部飲み込んで、いつの間にか隣に置かれていた水も飲んで、一呼吸おいて。

「だって、本当においしいから…。」

とだけ、言ってはみたもののやっぱり恥ずかしくなって、目線も合わせずにまたくるくるとフォークを回し始める。

…回しながら、考える。


(味覚もまるで本当に食べているみたいだ…。それこそ、()()()()()()…。)

さっきの竜狩りの男の言葉を頭の中で反芻しながら、巻き取った分だけ口に入れる。

マルクの言ったとおり、食べると少し頭の中が整理されたようだった。すこし確信が持てた。

(夢じゃない。私は、何故かこのゲームの世界に迷い込んだんだ。)

理由もわからないし、いつの間に、とか、どうやって、とか、わからないことだらけだ。

だけれども、パニックにはならなかった。自分でも驚くほど冷静だった。

(覚えているのは、昨日の夜にデータが消えて、またデータを作り直したこと。それで、いつの間にか寝てしまって、目覚めたらここだった。)

寝ている間に何かがあったんだろう。

その部分はいくら考えてもわからないだろうから、深く考えないようにした。

とにかく、確信を得られたのは、作り直したデータの状態で、私はこのゲームの世界に来た。

キャラメイキングに時間をかけたこともなんとなく思い出してきた。

そういえば、自分とそっくりにしたのだったと。

鏡を見て違和感を覚えなかったことは、自分が現実でしばらく鏡を見ていなかったこともあるだろうが…。

食べ終わって空っぽになった皿を見つめながら、水を飲む。


飲み干して、グラスを置くと自然と笑みがこぼれる。

(これって、第二の人生、って考えるのはポジティブすぎるかな?でも、正直もといた世界に何か未練があるわけじゃない。このままゲームの世界で生き続けることができるのなら…。)

そうだ。現実はあまりにも非情だった。

あんな世界で引きこもりを続けているよりも、この世界で生きていくほうが何倍もマシだ。

むしろゼロには何をかけてもゼロだよ、と自分に言い聞かせる。

「ごちそうさまでした。」

お腹もいっぱいになったと同時に、自分が置かれている状況もなんとなく整理できた。

宿屋に来て誰かと話せば情報が得られるという、ゲームでは古典的な考えだったかもしれないが、ありがとうマルク、ありがとうおいしいご飯。結果的に、間違いではなかった。

「お粗末さまでした。考え事も解決したのかな?なら、これは持ってこなくてもよかったかな…。」

そう言うマルクが持っているものに視線を移すと、抱えていたのは大きな丸い水晶のような石だった。それは、ゲームの中で自分のステータスを確認したり、冒険中のヒントが出てくることもある、だいたいの町や村に存在するアイテム、魔晶石だった。

「見たいですっ!」

自分でも驚くほど大きな声が出てしまった。

お兄さんもびっくりした様子で、でもすぐに笑みに変わり、じゃあ、と、皿と交換する形で私の目の前に置いてくれた。


そうだ、情報収集よりもまずはこれがあったんだった。

ゲーム内では当たり前すぎて忘れてしまっていた。

(確か、手を当てて念じる、だったよね?)

実際の使い方は知らないが、触れたときにゲーム内で出るメッセージはそのはずだった。

両手を石に当て、目を閉じて意識を集中する。

一瞬、耳鳴りのような音がした感覚があり、目を開けると魔晶石の中にはぼうっと文字が浮かび上がっていた。

『名前 : ユリエ

 性別 : 女

 年齢 : 17

 職業 : 引きこもり→農村の娘』

「…。」

引きこもりは職業なのだろうか、とか一瞬思ったが、そういえば前職まではステータスとして表示されるのだったと思い出す。

しかし、ここにその表示があるということは、やっぱりこの世界にやってきた、という認識でいいのだろう。

パソコンの画面をスクロールするような感覚で、目線を下に移動させると、詳細なステータスも表示されていた。

『レベル: 1

 状態 : ―

 装備 : 村人の服』

レベルが1ということを見ただけでなんとなくの現在のステータスがわかったので、これ以降の詳細は見ないこととした。

状態も今は健康ということだろう。装備が村人の服なのは…初期装備だから、ということか。

改めていろいろと整理ができた。


(ここで気になるのは…考えないようにしても、やっぱりどうしてこの世界にやってきたのか、だよね…。)

もちろんそのことまで魔晶石が答えてくれるわけではなかった。

だが逆に、もうひとつ確信が持てた。

先ほどの竜狩りの冒険者…あの男も、あの口ぶりからして、私と同じようにこの世界にやってきた、ということだ。

それも、昨日ドラゴンの討伐をしていたということは、少なくとも私より早い段階で。

(あの人から話を聞かないと。元の世界に戻る方法…は、今はともかくとして、どうやってこの世界に来たのか。)

今日宿屋に宿泊するということは、明日の朝にでもまた話を聞く機会があるだろうか。

さすがに、今あの男の部屋に殴りこみに近い形で話を聞くわけにはいかない。

もともとの私のステータスならまだしも、今はただの村の娘なのだから。

よし、明日するべきことも決まった、と思った矢先、マルクがまた近くまでやってきた。

「どう?解決した?」

「はい、ありがとうございます。」

それはよかった、とマルクは微笑んでくれた。本当に優しいなこの人…。

「あ、ご飯のお金、払います!」

忘れないうちにと、かごの中の布袋を取ろうとする私だったが、マルクが、ああ、と遮る。

「別に今じゃなくていいよ、お使い中だったんでしょう?」

「…、それは、商売としてどうなんですか?」

「払いに来ない人にはそもそも言ってないから大丈夫だよ、それに、そんな悪い子じゃないっていうのは知ってるから。」

なんだか優しすぎて不安になる。なったが、布袋の中のお金は確かに少ないのも事実だった。

ここはお言葉に甘えておくことにしておこう。

「じゃあ、忘れないように明日来ます。」

これで明日もここに来る口実ができた、と内心思いつつ、本当においしかったもので、また食べに来たいという思いもあり。

別の料理もきっとおいしいだろうから、違うものも食べたいとか思ったり。

結局のところ、今までの時間を通して私は久しぶりに感じた人とのふれあいに安堵したのであった。

かごを持って、レストランを後にする。


宿屋を出ようとドアノブに手をかけようとした際に、おばさんが、ちょっとちょっと、と手招きをしていたので近寄った。

「あの冒険者と話したの?何も危ないこと言われなかったかい?」

「大丈夫ですよ、どんなことをしてるのか聞いただけですから。」

注意したのに近づいたからだろうか、おばさんが心配していたのが伝わってきた。

心配されるのって、罪悪感もあるけどちょっと安心するんだよなあ。

おばさんは、ならいいんだけどね、と言って、

「気をつけて帰るんだよ。と言ってもすぐ近くだから何もないとは思うけれどもね。」

とドアを開けて、見送ってくれた。

現状の確認と、そもそもの用事だったお使いも済ませたので、とりあえず家に帰ることにした。

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