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緋の軌跡は途切れない  作者: にょいはい
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第2幕 FellowS(8)

「買い取ったときはガラクタだと思っていたけれど…なるほど、使用者を選ぶらしいな。」

あれからアンドレイクさんがいろいろと調べてくれた。

私の代わりにラローシュが床板を修理してくれている中で、私はその説明を聞いていた。

このリボルバーはどうやら私以外が引き金を引いても何も起こらないようだった。

ためしに、とアンドレイクさんが引き金を引いたがシリンダーが回転するだけだった。

もう一度私が床に向かって撃つと、先ほどと同じく床に穴が開いた。

(同じ場所に撃ってよかったというべきかなんというべきか…。)

カウンターの上にコトン、とリボルバーを置く。

「まあ、僕が持っていたままでは仕方のないものだ。あの箱に入っていたものは近々捨てようと思っていたしね。お代はいただかないよ。むしろあの箱の中のもので使えそうな物があるか試してほしいくらいだ。」

アンドレイクさんはそう言った。そのあとで、

「ただ、試すのは裏庭でしてくれると彼の仕事も減ると思う。」

と付け加えた。

「重ね重ね申し訳ありませんでした…。」

しばらくしてラローシュが立ち上がり、床板は修理できたようだった。

そのあとも、ユフィアは色々と魔法具の説明を聞くことになり、私とラローシュは箱を持って裏庭にやってきた。

しかし、そのほかには使えそうなものはなさそうだった。

こういっては失礼だが、ほとんどがガラクタだった。

手に持ってみても、特に先ほどのような反応もあるわけではなく。

「収穫はないようだな。」

「みたいだね…。」

散らかしたものを箱に片付けながら私たちはそんな話をしていた。


箱を持って店内に戻ると、ユフィアは自分の魔法具を決めたようだった。

「私、これにします…!」

持っていたのは指揮棒のような小さな杖と、同じ飾りがついた指輪だった。

「何ができるのかは2人はお楽しみに、といったところだな。」

と、アンドレイクさんは笑った。

ユフィアはそれを気に入ったようで、にこにこと笑っていた。

「それで、他に使えるものはあったかね?」

「あー…残念ながら、なかったです…。」

そうか、と言って、ラローシュが持っていた箱をアンドレイクさんが受け取り、そのまま元あった場所に戻す。

そこが低位置なんだ。

「他にもガラクタはいっぱいあるんだがね…使えそうなもの…。」

近くの箱をがさがさと探し始めるアンドレイクさん。

そのあたりにある箱はだいたいがガラクタのようだった。

そして、2つほどその中から取り出す。

箱を元の位置に戻すと、その2つを私に差し出してくる。

「これは確か、それを仕舞う入れ物だ。」

別々の箱に入っていたということは本当に必要なかったのだろう。

革のようなものでできた入れ物を受け取り、早速リボルバーを仕舞う。

それはベルトになっているようで、そのまま私は腰に装着する。

外套も相まって、さながらガンマンのようである。

そう思うと照れくさい気がしたが、近接でも使える武器があるに越したことはない。

「もう1つは何ですか?」

「投げナイフを持っているようだったから、もしかしたらと思ってね。」

もう1つは、鎖のようなもので先端に重りがついたものだった。

ただもう片方の先端は千切れていて、もともと何があったのかはわからなかった。

「もしかして、鎖鎌ですか?」

と、ラローシュが言った。

ああ、なるほど、鎌の部分がなくなってしまったのか。

「そう、これを修理して使う人はいなかったようでね。」

最悪使い捨てになってしまうかもしれないが、あってもいいかもしれない。

投げナイフは今のところ回収しているが、基本は使い捨てだ。

これなら鞭のようにも使える長さもあるし、私の能力も考えると使い勝手は案外いいのかも。

「必要なかったらいいんだけどね。もし使うことがあれば。」

「ありがとうございます、いただきます。」

お言葉に甘えて、いただくことにした。

私の道具は、本当にお代はいいから、と言われ、ユフィアの魔法具だけ購入して店をあとにする。

アンドレイクさんが仲間になれば心強いのになあ…とも考えていたが。

店を持っている人ならここから動くことも難しいだろう。

「じゃあ宿屋に戻るか。」

フィリルと合流して、荷物を整理して昼過ぎの船に乗る予定だ。

いよいよこの国を離れ、違う国へと向かう。


***


宿屋に戻ると、フィリルがいすに座って待っていた。

「おかえりなさい、いいものはありましたか?」

その服装はもうウェイトレスの姿ではなく、冒険者らしい服装に変わっていた。

「おかげさまで、色々といいものが。」

それはよかったです、とにっこり笑うフィリル。

そういえば、年はいくつなのだろうか。

だいたい同い年くらいだと思っていたが、聞いてはいなかったことを思い出す。

「私の準備はできているので、皆さんの準備が出来次第、港に向かいましょう!」

そういうことはあとで聞けばいいか、と思い、まずは荷物を取りに部屋に向かった。

といっても、今朝の時点でまとめておいたので本当に取りに行くだけだった。

私たちが再び1階に戻ると、ラローシュはすでにフィリルと同じテーブルに座っていた。

「お待たせしました…。」

ユフィアがぱたぱたとテーブルに向かう。

私は、宿屋のおじさんに話しかけた。

「色々とお世話になりました。そのうえ、フィリルまで連れて行くことになって…。」

深々と礼をしたが、おじさんは、いいんだよ、と言ってくれた。

「あの子も冒険者だからいつかはと思っていたよ。こちらこそよろしく頼むよ。」

寂しそうというよりは、送り出すうれしさがあるのか、その顔は笑顔だった。

私が立っていると、そこに3人もやってきた。

「お世話になりました。また帰ってきたらここに戻ってきますね!」

フィリルは元気よくそういった。

ラローシュとユフィアもお礼を言って別れを済ませ、私たちは宿屋を後にする。


「定期連絡船でだいたい3日で着くはずです。何もなければですが。」

海賊たちといざこざのあった噴水を通り過ぎ、港へ向かう。

そういえばあの海賊たちはどうなったのだろうか。

気にはなるがその結末を知っているのはアンドレイクさんだけだろう。

「何もなければ、というのは、何かあるのでしょうか…。」

ユフィアが心配そうにフィリルに尋ねる。

「そんなに怖がることはないですよー。この季節嵐もないですし、海でモンスターが出る確率もぐんと減りましたからね。」

ただ、と歩きながら話を続ける。

「海賊船に狙われるのが一番多いですからねー。それも最近は聞かないですけれど。」

やはりそういった出来事はままあるらしい。

モンスターが出てきたときのほうが対処は楽そうだ。

「それもどちらかと言えばドラペリアに着く前のほうが多いみたいですよ。」

というと、この町で海賊がいるのも珍しいことなのだろうか。

アジトがある、なんてことを言っていたからてっきりポタリアを出てからのほうが襲われることがあるのかと考えていた。

もう彼らと関わりたくないのが本心だ。

できればそういったこともなく無事にドラペリアにたどり着きたい。

「さて、あっという間につきましたねー。」

噴水を通り過ぎてからすぐに船着場に到着した。

船が何隻も停泊しているようだったが、おそらくあの一番大きな船がそれなのだろう。

もうちょっとすれば出航なのか、人の出入りが多い。

「おおー、大きい船だなあ…。」

ラローシュが帆を見上げながらそう言った。

ユフィアも何も言わなかったが、同じ感想を持っているようで、見上げたまま口を開けていた。

「じゃあ、さくっと検問を通って船に乗っちゃいますか。」

「え?検問?」

嫌な予感がした。

検問というのはつまり船に乗る前にステータスを確認するのだろうか?

それともただ荷物をチェックするだけなのだろうか?

しかしその嫌な予感は悪いほうに的中した。

「一応王国の管轄ですからねー。手配とかされていないかをチェックするだけですよ。」

フィリルはそう言って歩き始めたが…。


正直、かなりまずいのではないだろうか。

もしここで悪魔憑きと露見するようなことがあっては…。

私はもちろんだが、共に行動している3人にまで迷惑がかかるかもしれない。

(どうすれば…。)

流されるまま3人と共に船に乗る列に並ぶ。

その先を見ると、兵士が紙のようなものを持ってチェックしているだけのようだった。

おそらく、フィリルの言っていた手配書のようなものをチェックしているのだろう。

(もし私の情報がここまでたどり着いていたとしたら…。)

十分にありえる。

私が村を出てから今に至るまで、王都から情報がここまで届いている可能性はある。

どういうシステムになっているのかは定かではない。

しかし、今頃は村にもその情報が届いているだろう。

となるとポタリアにまで情報が流れてくるのも時間の問題だ。

ここで1人列から離脱しても怪しまれるだけだ。

かといってこのまま列の流れに従って進んでも…。

そうこうしているうちに、先頭のフィリルがチェックを受け、今にもその順番がやってくる。

私は4人の中で一番後ろだ。

最悪、3人に迷惑はかからないかもしれない。

(もし手配済みだったら…。…そのときに考えるか…。)

なるようになれ、と、平静を装う。

一歩一歩、自分の足取りをとても遅く感じた。

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