第2幕 FellowS(7)
「まあ、色々ありまして。」
朝、ご飯を食べながら3人でテーブルを囲む。
そばにフィリルが立っている。
そんな状況で、ラローシュが立ち直ったこととか、フィリルが仲間になるとか、そういうことを話した。
「改めてパーティの結成ということになりました!」
大事な部分はフィリルに持っていかれる。
それ、私が言いたかったのになあ…。
…それはともかくとして。
「治療できる人がいれば百人力だな、頼もしい限りだ!」
「ますます楽しくなりそうでうれしいです…。」
この2人が喜んでいるからよしとしておこう。
ラローシュの言うとおり、冒険をこれからも続けるにあたっては治療できる人が共に行動できるに越したことはない。
改めて、ドラペリアに向かう前に準備をしておこうという話に変わる。
「まず、ラローシュの剣を買いに行こう。」
昨晩話していたとおり、これは確定事項だ。
のんびりと買い物をしている暇はあまりないが、私たちも最低限の準備はしておかなければ。
そうは言っても、何を準備しておけばいいのか。
「そのほかの準備もしておきたいとは思うんだけど…。」
と、私が言った後にユフィアが挙手する。
「冒険に必要なものはフィリルさんが詳しそうだと思いますけど…。」
そうか、確かにこの中で経験が一番あるのは間違いなくフィリルだ。
どういうものが必要になるのか、かなり参考になるはずだ。
「んー、ここからドラペリアに行くだけなら特に必要ないんじゃないかな?」
返答は意外にも何も必要ないということだった。そのまま話は続く。
「定期連絡船に乗れば食料も確保されてるし、行く前に準備するより着いてから揃えるほうが荷物も少なくて済むと思うし。」
なるほど、そういうことか。
確かに何もない荒野をただ歩くのとはわけが違う。
(ゲームの中だと、どこを移動しようが回復できるアイテムと装備さえあればよかったからなあ…。)
実際の移動手段やその間必要なものは、ゲーム内での知識はあまり役に立ちそうになかった。
「ただ、剣だとか防具だとか、そういうものは準備しておくに越したことはないですよ!」
要するに海でモンスターが現れることもありえる。
それこそ海賊船がやってくる可能性もある。
そうなったときに何も持っていないというリスクは避けるべきだ。
「自分に合ったものを探してみるのが一番ですね。手に持ってしっくり来たものが使いやすいですからね。」
ごもっともだ。
そういう意味では、私やユフィアは近接戦となるとあまりに不利だ。
そうなると頼れるのはラローシュだけということになってしまう。
私たち2人ができることはどうしてもサポートだけになる。
「私とユフィアにも何か武器があればなあ…。」
そう言って腕組みをする。
言ってみたものの、ユフィアのような少女に武器を持たせるというのも…。
重たい武器は弱点になりかねないし…。
「ユフィアさんには魔法具なんてどうですか?」
「魔法具?」
聞きなれない言葉だったのか、ラローシュが聞き返す。
フィリルは自分の腕輪を指しながら話し始める。
「たとえば私はこの腕輪で魔力の補強とかしてるんですけど、他にも色々種類があって。」
「つまり武器になるような魔法具もあるから、そっちのほうがいいわけか。」
私も納得する。
ゲーム内では使い捨てのアイテムが多いが、投げナイフの件もあるので実際どうなのかはわからない。
「ユリエさんも、どちらかと言うと魔法具のほうがいいのでは?」
と、フィリルに話しかけられる。
私の場合、魔法ではなく悪魔の力だから魔法具が使えるか定かではないが…。
けれど、やっぱり私も自分が武器を持つ姿を再度想像してみるが、イメージがわかない。
「おーい、フィリル、運んでくれー。」
「はーい、今行きまーす!」
それじゃまたあとで、とフィリルはウェイトレスに戻る。
準備するために見に行く場所も決まったので、私たちは出かける準備をすることにした。
***
「ありがとうございましたー。」
私たちは早速向かった武器屋を後にする。
ラローシュの剣はすぐに買うことができた。
何本か手に持って確かめていたが、結局前に持っていたものとほとんど同じものだった。
「なんだかんだ言って、この大きさが一番使いやすい気がするんだよなあ。」
前の剣が折られたこともあってか、少し太くなったものになった。
その分重くなったようではあるが、日ごろから鍛錬をしているからかそこまで気にならないようだった。
私たち2人に合うような武器も一応探してみたが、特にはなかった。
(というか、私は投げナイフがあればとりあえず…って感じなんだよね。)
至近距離ではあまり役に立たないが、これまで通り投擲には適している。
それに、ポタリアに至るまでの道中で相当な回数を投げていたからか、自分自身の投擲の正確さも上がった気がする。
それも含めると、やはり投げて使えるようなものが合っているのだろう。
考えながら、次に向かうのは魔法具屋だった。
現代で言えば、アンティークショップのような店構え。
看板もあまり派手ではなく、知らなければそのまま通り過ぎてしまいそうになる。
私たちは向かう前にフィリルから、見つけにくいと思いますから、と簡単な地図を手渡されていた。
なので特に迷うこともなく、到着した。
それに、行けばわかりますよ、となにやら意味深な言葉も同時に添えられたのだった。
その理由は店に入るとすぐにわかった。
少し重たいドアを開けて、カウンターに座っていたのは、アンドレイクさんだった。
「いらっしゃいませ―って、おや、昨日のお三方ですか。いらっしゃい。」
「あ、どうも。改めて昨日はありがとうございました。」
私がそう言ってお礼をすると、後ろの兄妹もそろって礼をした。
アンドレイクさんは読んでいた本を閉じて、いやいや、と言った。
「本当に気にしないでおくれ。まあここは僕が趣味でしているような場所さ。ゆっくり見ていってくれるとありがたく思う。」
どうぞ、と手を差し伸べられる。
趣味でしている、というだけあってか、あまり丁寧に整理されているわけではなかった。
本棚は整理されているようだったが、乱雑に床にただ置かれているものもある。
これは自分たちで探すよりも聞いたほうが早そうだ。
「あの、私、火の魔法を使えるんですけど、そういう人にお勧めの魔法具ってありますか…?」
私が聞く前にユフィアが尋ねていた。
「ふむ、なら確かこのあたりに…。」
そう言ってアンドレイクさんは1つの棚を開けて、いろいろなものを手にとってはユフィアに説明しているようだった。
(これは私が聞けるのはもうちょっとあとになりそうだな…。)
そう思って、乱雑に置かれている床の上のものを物色する。
ラローシュはすべてを物珍しそうに眺めながら、ほー、とかふーん、と言いながら物色しているようだった。
そもそも私が魔法具を使えるのかどうかが定かではない。
そこから聞かなければ…だが、そうなると悪魔憑きのことも説明しなくちゃいけないわけで…。
前提からして難しいことであったが、1つの箱の中のものを触っているときに、あるものに気が付く。
「これは…。」
現代でいうところの、拳銃。確か、回転式拳銃だったか。
ただこのゲームの世界ではそういった、いわば文明の利器的な要素は登場しない。
ある国では近いものは存在するが、それはいいとして。
ある種のお楽しみアイテムというか、嗜好品のようなものである。
ただこういったアイテムを収集すること自体には意味はある。
ゲームを進める中でそれを高値で譲ってほしいというコレクターが存在したり、わらしべ長者的な別のアイテムと交換してくれるような人もいる。
もちろん、アイテムコンプリートには欠かせないし、収集するプレイヤーも存在する。
そういうアイテムは先史遺産と呼ばれることもある。
持ってみたところ、案外しっくりくる。
少し錆びている部分もあるが、古いものという印象を受けない程度だった。
かちゃかちゃといじっていると、本体の先の部分が真ん中で折り曲がるようだった。
(トップブレイク、だったっけ。こういう形のリボルバーは…。)
かすかに覚えている記憶をたどり、そういう種類だということを思い出す。
もちろん弾は入っていなかった。
ああ、使えないものとしてこの雑多な箱の中に入れられているのか。
そう思いながら銃身を元に戻すと、カララン、と音がして勝手にシリンダーが回る。
「えっ??」
その音と光景に驚いて再度見ると、さっきまで錆びていた部分も綺麗になっている。
それどころか、さっきまで真っ黒だった銃身にまっすぐ一本の緋色の線が入っていた。
まさか私の悪魔の能力と反応した?
そう思いながらも、そんなまさか…と床に向かって引き金を引くと、
パァンッ
と、乾いた音が部屋中に響き、床には硬貨よりも小さいくらいの穴が開いていた。
私は目を丸くした。
しかし、それは他の3人も同じだったようで。
3つの視線が私に集中する。
「あ、あの、すいません…。」
思わず謝る。
「しょ、商品のお試しはご遠慮いただきたいなあ…。」
アンドレイクさんは小声でつぶやいた。ごもっともだ。
しかし私の手に握られているものの正体がわかったのか、銃に視線がいき、また私に視線が戻る。
「それ、どうやって?」
「さあ…。」
不毛な会話が成立したところで、再び沈黙が部屋を支配した。