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緋の軌跡は途切れない  作者: にょいはい
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第2幕 FellowS(6)

結局、ドラペリアに行くという方針が決まっただけで、とりあえず今日は一休みすることとした。

今日一日だけでばたばたとしていたこともあって、ようやくゆっくり休憩できそうであった。

ただひとつ気になるとすれば…。

「ラローシュ、大丈夫かな…。」

月明かりだけが照らし出している部屋で、私はそう呟いた。

ユフィアもまだ起きていたようで、少しして返事が返ってきた。

「…、あの日から、あそこまで暗い顔は見たことがないです…。」

心底心配しているような、か細い声だった。

晩御飯もそこそこに、彼はすぐ1人で部屋に戻ってしまった。

フィリルはいつも通りウェイトレスの仕事をこなしてから話しかけにきてくれた。

その場に彼がいないことに気が付いて、「変な方向に落ち込まないといいんですけどねー。」と言った。

1人で考え込みすぎて人を拒絶してしまったり、1人で行動してしまったり。

人それぞれ、無力さを知った瞬間に取る行動は千差万別だ。

過去の私は、何もかも閉ざしてゲームだけに熱中していたが。

彼の場合、正義感もあいまって葛藤しているのだろう。

「少し、話したほうがいいかな。」

なんだか昔の私と向き合うような気分になって、ユフィアに尋ねる。

「…よくわからないです。でも、ユリエさんも無理しないでくださいね…。」

わからないのも当たり前か、と思った。

私よりもはるかに、妹のほうが兄のことをよく知っているのだ。

その分どういった言葉をかけるのが正解なのか、どういう状態なのか、わかりかねているのだろうか。

「気になるし、ちょっと行ってみるよ。」

私は今じゃないとだめな気がして、ベッドから立ち上がって部屋を出た。

ラローシュの部屋は隣だ。軽くノックをして、返事を待つ。

返事よりも先に、そのドアが開いた。

「こんばんは、少し話してもいいかな。」

まだ起きていたのだろう。少しびっくりした表情だったが、ラローシュはいやな顔をせずに、

「どうぞ。俺も、誰かに聞いてもらいたかったんだ。」

と言って、私を部屋に招きいれた。


彼の荷物に、短くなってしまった剣が乗せられていた。

「ここまで自分が何もできないと思わなかった。」

彼は話を切り出した。

私は部屋に備え付けられたいすに座り、ラローシュはベッドに腰掛ける。

「何かはできる、そう思っていた。けれど、あそこまで歯が立たないなんて、思いもしなかったよ…。」

今にも泣き出しそうな表情だった。

手を組んで、そのまま額に当てて話し続ける。

私はまだ黙ったままでいようと思った。

「このままじゃ、黒い騎士を倒すどころか、妹すら守れない…もっと強くならないと、って思った。」

フィリルが言っていたように、変な方向に落ち込んでいるわけではなさそうだった。

そこは少し安心した。

「助けられてばっかりで、自分1人じゃ何もできないのかな…なんて思っていたところだよ。」

はあ、とため息をついて、少しの間沈黙になる。

私は話を切り出した。

「…そうだね、自分が無力なんだって、私も思ったよ。」

彼からすれば私も助けた側の人間だということを理解しながら、同じ目線に立つように意識しながら。

こういうときに、わかった風に色々言われるのが、何も言われないよりもつらいことだってある。

「自分がいれば、誰でも助けることができる、何でもできる、なんて思ってたよ。」

事実、目の前で命が失われるのも、誰かが傷付くところは見たくない。

そのためなら私にできることは何でもしたい。

けれど、それは何でもできることとは違っていた。

「…でも実際は、全然違った。あんなに複数人に囲まれたら何もできないことを知ったし、周りの人も巻き込んでしまうことも、改めて実感した。」

だからこそ、自分の思ったことを正直に、そのまま話した。

ラローシュは黙ってそれを聞いていた。

「自分の行動がどれだけ危険を伴っているのか、そんなこと考えもせずにいた。そんな立派な行動ができるほどの力がないなんて、全然わかっていなかった。」

「俺も、同じように思う。けれど、俺は助けてもらった側だし…。」

ラローシュは顔を上げた。

私はその目を見て、しっかりと伝えるように話した。


「ううん、私が言いたいのは、助けることができるとか助けられたとかじゃなくて。

 自分を知ることが大事なんだな、って思ったってこと。

 もちろん危険なことは最初から避けるべきだけれど、危険ってわからなかったら避けようがないし。

 だからこそ、やってみなきゃわからない。一歩進んで確かめないとわからない。

 一歩進んでみないと、その次がどうなっているのかなんてわからない。

 私たちは、冒険を始めてから数えるくらいの経験しかない。…けれど、同時に思ったの。

 一歩進む勇気は絶対に必要なんだって。だから、もうラローシュはそれを持ってるんだよ。

 行動できる勇気を持ってる。それは私も、一応、持っているつもりではいるんだけど…。

 あ、ともかく、これから強くならなきゃ、って思えたならそれでいいんじゃないかなって。

 あのままアンドレイクさんが来なかったら、なんて考えるだけで怖いよ。

 でも、助かったうえで今がある。今があるから、必要なこともわかる。

 これからすべきことが見えているなら、それに進んでいけばいい。

 もし一歩進んだ先が落とし穴だったとしても、誰かに引き上げてもらえばいい。

 そのためには、仲間が必要なんだなって思ったんだ。

 時には背中を押してもらって、手を差し伸べてもらえるような仲間が。

 危険なことだと思ったら、1人で考えずに一緒に考えて行動できる仲間がいればいい。

 私たちが出会ったのも、フィリルと出会ったのも、偶然だったのかもしれない。

 たとえ偶然の積み重ねだったとしても、それを積み重ねて今がある。

 人との出会いなんて、ほんの些細な選択の違いで、偶然なんだって思う。

 出会っても関わらないこともあるし、関わることもある。

 その上で仲良くなったり、一緒に行動できる人なんだったら、仲間になればいい。

 助けてもらいながら、時には助けながら、強くなっていけばいい。

 誰も1人で強くなれるわけじゃないんだ、って思ったの。

 誰かに助けてもらうなんて当たり前のことなんだと改めて思ったんだ。

 だから、自分が無力だって知ることができたのなら、誰かを頼ればいいんだって―」


と、ここまで長々と話してはっとする。

(い、いけない、話し過ぎた…!しかもこれ支離滅裂になってるやつだよきっと!)

自分がさっきまで喋っていたことを何も思い出せなかった。

えーっと、と繰り返しながら、腕を組む。

すると、突然ラローシュが笑い出した。

「え、何、なんでしょうか…。」

「いや、なんていうか、いつも冷静だと思ってたんだけど、そこまでいろんなこと考えてたんだなって。」

そういわれて途端に恥ずかしくなる。

つま先から頭のてっぺんまで熱くなるのを感じる。

「そうか、そうだよな。弱いのなんて当たり前なんだよな。」

けれど、彼はどこか納得したようだった。

さっきまでとは違う顔つきで、うん、とうなずいた。

「とりあえず、明日剣を新しく買いに行くよ。」

でも口から出たのはそんな言葉で、思わず私はふふっと笑ってしまい、

「お金、ないんじゃなかった?」

と、突っ込んだ。

あ…と、ラローシュはうつむいた。

「大丈夫、仲間なんだから。明日ユフィアも連れて買い物に行こう。」

そう言って、自分でもなんだか考えが整理できたのか、すっきりした気分になったことに気が付いた。

そうだな、とラローシュが言って、あくびをしながら伸びをした。

「ごめんなさい、長々と。部屋に戻るね。」

「こちらこそ。ありがとう、色々すっきりしたよ。」

私はいすから立ち上がり、おやすみなさい、と部屋を後にする。

出口まで見送ってくれたラローシュは、うん、おやすみ、と言ってドアを閉めた。


部屋に戻ろうと向きを変えると。

「なんだ、話はまとまったみたいですね。」

フィリルがそこに立っていた。

「うひゃあっ!?」

びっくりして思わず素っ頓狂な声を出してしまう。

「あああ、ごめんなさい、驚かせて!私です、フィリルです、フィリル!」

「大丈夫です、びっくりしただけです、誰かはわかります…。」

ばくばく跳ねる心臓を落ち着かせながら私はかろうじてそう言った。

「心配する必要はなかったみたいですね。よかったです。」

仕事が終わったのだろうか、ウェイトレス姿ではなかった。

心配してここまで来てくれたのだろうか。

「あ、わざわざありがとうございます…。」

「いえいえ、私もここで寝泊りしてるんで全然平気ですよ!」

そうか、ここで住み込みのような形で働いているのか。

フィリルが指差す方向は、廊下の奥の部屋の扉だった。

「申し訳ないと思いつつ立ち聞きしちゃってたんですが…、いいですね、やっぱり仲間って響きは。」

立ち聞きされていたのか。

思い出してまた体が熱くなる。

「あの、できれば喋ってたこと思い出したくないので…。」

うつむきながら右手を差し出して私はそう言った。

しかし、予想に反して、フィリルにその手を握られる。

「ここで出会ったのも何かの縁!私も、仲間にして一緒に旅してもいいですか!?」

そこから飛び出てきた言葉も予想外で。

私は、ぽかんとしたまま、

「はい?」

と、自分でも予期しない返事をしてしまっていた。

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